第12話: ありがとう
いっそのこと、ずっと一人ぼっちだったほうが、良かったのかな?って思ったりしたけど、でも、やっと『二人』でいることができたから、それはそれで良かったんだ、って思う自分がいた。
正直、元々タキと一緒にいられるなんて、結婚してから思ったことなかったし、大部分が苦痛だった結婚生活を考えたら、それだけで幸せだったんだと思う。
でも、いざいなくなってしまったら、ちょっとずつ慣れてきた娘のいない生活も、寂しさが倍増してしまったような気もするし、簡単じゃなかったけど、それは自分で越えなければいけないことなんだ、って、やっとわかったような気もしていた。 それだけでも、感謝だよ。
時間が経ったことで、元夫との結婚生活や、彼の気持ちなどを冷静に考えるようにもなれて、そうなると、心底申し訳なかったな・・・って思うようになった。
彼だって、あたしと出会わずに、別の、もっと幸せになれる女性といつか出会って、幸せになれたかもしれない。 暴力なんて、振るわずに済んだのかもしれない。
きっと、彼だって、どうしようもなくてそうしてしまったんだろうから、それは、しなくて済んだならば、それが一番良かったんだろうな、って。
あたしだから、そうなってしまったのかもしれない。
『かもしれない』っていう、推測に過ぎないけど、『もしも』なんて、人生にないってわかってるけど、そう思った。
だから、尚のこと、彼の幸せを願うんだ。
娘のルーツである、あたしと元夫。
それが大きな理由ではあるのかもしれないけど、それだけじゃないよ。 あたしは、一時、一瞬、あなたを思ったんだよ、って、思い返すことができるようになったんだ。
あたしの勝手で一緒にいるようになったけど、タキのこと、ずっと思ってたのも事実かもしれないけど、その間の、あたしの空っぽの心を埋めてくれたのは、紛れもなく彼だったんだから。 だから、結婚し、命である娘が生まれたんだもの。
あたしと、彼がいなかったら、娘の命もなかったんだ。
その事実を、真正面から受け止めることができるようになったんだね。
誰のせいでもないの。
あたしが自分で選んだことなの。
だから、あたしを支えてくれたみんなに、感謝しかないんだよね。
これから、もう、タキはいない。
ちょくちょく、割り切れない気持ちのままのタキは電話をしてきたり、あたしの部屋に何度も何度もインターフォンを押したりするけど、決して応答しなかった。
そうしないことが、いいんだ、って思えるようになったから。
あたしは、ずっと、自分のことばっかりだったんだね。
タキに対して、『なんで?』ばっかりで、『タキがそうだから、あたしはこうなんだよ。』っていう理由付けをしてたんだね。
でも、そうじゃないってわかったよ。
あたしが決めたのならば、タキがどうでも、貫き通せばよかったんだ。 それが出来なかったあたしの責任だったんだよね。
やっとわかったの。
だから、もう、会わずに、話さずに、終わるのが一番いいって、そう思えるようになったんだよ。
苦しくて、哀しくて、どうしようもないけど、あたしの目一杯の愛なんだと思う。
あたしね、ほんとに、ほんとに愛してるんだと思う。
いつか、『ほんとに愛してたよ』って言える、過去形になれたらいいなって思ってるよ。
タキ、ありがとう。
出会えて、本当に良かった。
タキというスパイスが、あたしの人生に最高の味をくれたよ。