第11話: 来てしまったね
タキとあたしは、傍から見たら、付き合ってるような二人になっていた。
付き合っている、恋人同士の定義とはなんだろうか?と、ふと考えてしまうけど、きっと、そう見えるのだろう。
あたしは、そういう定義を受け入れることが出来ずに、結婚に対してもそうで、その文字や定義にこだわって生きることのほうが、ものすごく息苦しいことではないだろうか?と思っていたんだ。
好きだから、一緒にいて、その延長線上にその結果がある。 結果とは、唇を重ねることだったり、体を重ねることだ。 自然にそうなったならば、それでいいと思う。
そして、ずっとその人と一緒にいたいと思う気持ちがお互い熟したならば、その先に結婚があるのかもしれないし、それが、紙上のものではなくて、心の上のものであればいいと思う。
あたしは、だから、今タキと一緒にいることに対して、紙上のことなんてどうでも良くて、これから先のことも、一生なんてことも考えずにいられることだけで良かったんだ。 ただ、ただ、タキがいればいい、そう思っていた。
結局、出会った頃の二人みたいになっていたんだね。
あの時みたいな、幼い気持ちよりも、10年も経って、結構感情も熟しちゃって、そんな二人だけど、あたしの気持ちは、あんまり変わりはなかったんだ。
ずっと、このまま、タキの顔を、横顔も、真正面の顔も、後ろ姿も、バカやってるとこも、怒ってるとこも、哀しそうな顔も、ずっとずっと見ていたかったんだ。 それだけで、良かった。今のあたしにとって、それで良かったんだ。
タキも、
「俺は、ミーとずっといるからな。 横目も振らねーし、誰がなんと言おうと、ミーといっからな。」
って、言ってた。
あたしは、なんだかわかんないけど、若干の不安を抱えてたけど、でも、タキを信じるとかそういうことじゃなくて、ただただ、今を生きてたよ。 それでいい、って思ってた。
そんな二人に、ストップをかけたのは、昔仲良くしてくれたタキのお母さんだった。
ちょっとだけびっくりしたけど、でも、当たり前だろうとも思った。 あたしは、バツイチの子持ちだもん。
タキは、何度も掛け合ったみたいだけど、お母さんは、
「明日美ちゃんは、大好きよ。 本当に、いい子だと思う。 何もなかったら、お母さん、すぐにも賛成するよ。 でも、子供がいる明日美ちゃんとの結婚は、お母さんは許せない。 いつか絶対にうまくいかなくなると思う。」
って、そう言ったこと、タキがあたしに言った。
で、そう言われたから、明日美とはいられない、って。
終わったんだ。
あたしも、普通の感覚でいったら、親はそう言うと思うし、それをタキがあたしに言った時点ですべてが終わったって思った。
親は大切だよ。 あたしも親は大事。 もう、今はいない父親に対しての思いも、多分・・・普通に愛されて育った人間よりも深いかもしれない。
母親も、表現しようもないぐらい大事。 だって、どんな人生だったとしても、母親がいなかったら、あたしは、この世の中に生まれてきていなくて、そして、幸せも苦しみも、所謂人生を知ることすらなかったのだから。
だから、タキがそう言ったら、ダメな親だけど、母親のあたしは、有無も言えないぐら理解できちゃうんだよ。
例えばあたしが、結婚をしていなくて、普通に育ってきた子だったとしたら、
「やだ!一緒にいて!!」
なんて、言えたんだろうな。
でも、あたしには無理なんだ。
それをできないあたしがいるんだもん。 そして、それで良いんだって、思ったの。
「タキは、今、どういう気持ちでその言葉を言ってる?」
「どういう気持ちってなんだよ?」
「うん・・・どう言って欲しいとか、あるかな?って。」
「いや、何もない。 事実を言ってる。」
「わかった。 それが聞けて良かったよ。 もう、これで別れよう。」
沈黙・・・
「それしかないのか?」
「それしかない、って、タキが一番わかってるでしょう?」
「そうかもな。」
やっぱり、別れるんだよね。
きっと、そうかもな・・・って、不安材料として、あたし、持ってたみたい。
あんまり、ビクついてなかった。
「じゃ、幸せになってね!」
手を差し出したよ、あたし。
「わかんねぇ。」
タキは手を握ってくれなかった。 だから、そのまま、その場を去ることにしたんだ。
タキ、本当に幸せになってよ。
じゃなかったら、やだよ。
あたし、タキの幸せを、心の底の底の底の奥底から、出来る限りのあたしで祈ってるからね。