第10話: 生きていかなければ
なんとか生きてた。
私が死んでしまったら、もし娘が戻ってきたときに帰る場所がなくなってしまうもの。
そう思って、生きてた。
でも、もう、この苦しみから逃れたい。 この存在を消してしまいたい。
交互に浮かんでくるこの気持ち。
どうにもならなかった。
ひとりぼっちになって、哀しみを超えるのは、そう簡単じゃなかったんだ。
時間が経ってから、タキから連絡が来た。
「ミー、悪かったな。 子供・・・取られちゃったんだよな。」
「うん。」
「俺が、行ったからだよな。」
「あたしのほうこそ、あんな目に遭わせてしまって、ごめんね。」
「俺は、いいよ。」
「訴えてくれたら良かったのに。」
あたしは、言った。
「俺・・・後ろめたかったんだろうな。 ミーのこと、旦那さんから奪おうと思ったのは事実だったから。 それで、ミーんちの近くに行ったからな。 旦那さんは、やり方っていうか、方法は間違ってるかもしれないけど、それほどミーのこと愛してたんじゃないかな。」
「間違ってるよ、タキ。 愛じゃないと思う。 愛があったら、愛してる人を殺そうとは思わないでしょう? 愛してる人に、ずっと幸せでいてほしいし、健康でいて欲しいんじゃないかな? ・・・もう、どっちでもいいんだけどね。」
「じゃぁ・・・好きだったのは確かだろ? どうでもいいヤツが、何しても、どうでもいいはずだろう?」
「そう・・・だね。 好き・・・か。 うん、自分の次に好きだったんだろうね。 でも、本当にもうどっちでもいいんだ。 あたしね、自分が一番悪いってわかってるから。」
「どういうことだよ。」
「あたしはさ、タキのことすんごく好きだったんだ。 タキがいてくれたら良かった。 だから、何されても良かったの。タキと、同じ時間を過ごすことができるんなら、それで良かったのね。 でもね、焦っちゃったんだ。 いつからだろう。 早く自立したかったし、家族が欲しかった。 それにはタキしかいなかったけど、タキはそうではなかったでしょう? あたしが何言っても、ダメだったでしょう? それに、疲れちゃったんだよね。 あの頃。 それって、あたしも、タキのこと好きと言いながら、自分を一番愛してたんだと思う。 それで、勝手に片っ端から電話してさ、受け止めてくれたのがあの人だったの。 もう、落ち着きたかったんだよね。 反面、どこか違うって気づいてた。 でも引き返せなかったの。 だから、あたしが一番酷い人なんだ。」
「もう、自分を責めんな。 俺も、旦那さんも、かなり酷いことミーにしたんだ。俺はさ、ミーは、何があってもずっと傍にいてくれると思ってたんだ。 勝手に思い込んで、好き勝手やってた。 いい女がいれば、そっちに行って、野郎どもの付き合いは、どこにでも顔出して。ミーは、俺がほっとしたいときに、呼び出して。 それが当たり前だと思ってたんだ。 まさか、ミーが俺の前からいなくなるなんて、考えもしなかったんだ。 バカだよな。」
「そっか・・・」
「でも、いなくなってしまったら、すんげー焦った。 恐怖って、すげぇのな。初めて味わったよ。 怖いんだよ。お前がいなくなるのが。 だから、恥とか度返しして、ミーのところに電話したんだ。 でも、ミーは、戻ってきてくれなかった。 ・・・当たり前だよな。 その後が子供だよ。 今だったら、どんなことしても、婚約を破棄させても、俺はミーを連れ戻しに行ったと思う。 でも、あの時は、『ミーがそうならもういいよ。』って、切れたんだよな。」
「・・・・」言葉が出るわけないよね。
「だから、ミーが酷いとか、悪いとか、言うなよ。俺なんだよ、結局。」
「じゃ、みんな悪いってことにしようか?」
少し、タキが心を軽くしてくれた。 ありがとう、って心底思ったよ。
「そうだな。そうしよう。 俺も、旦那さんも、ミーも、みんな3等分悪いんだ。」
久しぶりに、笑った。
タキ、ありがとう。
タキとあたしは、哀しいけど、フリーになって、なんとなく一緒にいるようになった。 もう、気がついたら、あたしたち10年になるんだね。
その間、あたしは他の人と結婚しちゃって、タキは、いろいろ他を見てきて。
今は、こうして、なんとなく一緒にいる。
結婚とかもう、前のことがあるから、考えないけど、あたしの傍にタキが居てくれることだけで、なんとか自分を保っていられたんだ。
もしかしたら、こんな歪んでるような人生が一番あたしには似合ってるのかな?なんて、思い始めていたのかもしれない。
それは、=幸せだったのかも・・・
ずっと続けばいいのに。
生きていかなければいけないのならば。