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第9話: 命との別れ

もう、限界だった。 限界って、そう簡単に訪れるわけじゃないんだろうけど、私にはそう簡単じゃないことだったんだと思う。


青あざを顔中、体中に、そして、首には絞められた手の跡をつけたまま、子供も連れて実家に戻った。



「離婚したい・・・」

母に言った。

母は、

「お父さんのお仏壇の前で、言ってきな。」


心の中で聞いた。


『お父さん、別れてもいい?』


お父さんだったら・・・


『一度決めて家を出たんなら、一生添い遂げろ。 子供にだけは哀しい思いをさせんな!』


そう言うだろう、って思った。


父は、厳しい人だったから。

子供を一番に考えろ、って人だと思うから。


「お母さん、あたし、帰るわ。」

「そう・・・」


母は、目に涙を溜めていた。 

あたしは・・・親不孝だ。 母は一人でがんばっているのに、娘のあたしがこんなだったら、安心して暮らせないだろう。


そして、実家の門を出た。



「歩こうー歩こうー私は元気〜♪」

懸命に、テンションを上げようと、娘の手を繋いで、その手をブンブン振りながら歌って歩いた。 目からは、後から後から涙が流れていた。


ちゃんと、自分の足で歩こう。

それから、考えよう。



家に帰ると、仕事から夫が帰ってきていた。


「昨日はすまなかった。」

「うん・・・ あたしも、帰りが遅かったし、悪かったから。」


そう言って、普段の生活をなんとかこなした。



数日はそれで過ごせたけど、でもやっぱり夫の暴力は止まなかった。


もう、真剣に考えようって決めた。 このままじゃ、誰にとっても良くない。 夫だって、まだ若い。 あたしじゃなかったら、幸せな結婚を送れるかもしれない。 だったら、あたしは、子供と二人で生きて行こう。

実家に頼るでもなく、父はきっと反対するだろうけど、でも、あたしはあたしの頭で考えて、責任を取らなければいけない。 もう、母親なんだから。



その矢先だった。

タキが心配して私の家の傍まで来て、外で話しているときに夫が帰宅したのだ。 

それを見た夫は、あたしだけではなく、タキにまで暴力を振るい、事件にまで発展してしまった。 


タキは、あたしを最後まで守ってくれて、でも、夫はあたしを引きずり出して、靴のまま顔を蹴られて、お腹を蹴られて、そして、最後には刃物を出して殺そうとした。

隙を見つけて警察を呼び、なんとか2時間に及ぶ修羅場は終わりを告げた。


あたしもタキも、原型を留めないような顔になったまま、救急車で運ばれた。


夫は・・・

警察署に連れて行かれた。


訴えれば刑務所に入ったのだろうけど、あたしたちは訴えなかった。


そして、絶対に子供だけは離さないと決めていたあたしは、子供を失った。


何を言っても言い訳になってしまう。 夫側の親族はあらゆる手を使って、子供を連れ去って行った。

まだ小さかったけど、娘はしっかりしていて、

「ママは強いから大丈夫でしょう? でもね、パパは弱いからいっしょにいてあげないとだめなの。」


あたしに・・・そう言った。

言わされたのだろうか? それとも、自分の言葉なの? 言葉に詰まったけど、あたしには、元々言える言葉なんてなかったから、笑顔で娘に、

「そっか。 守ってあげてね。」

って、精一杯の言葉を吐き出したよ。


どうか、あたしたちにしたようなこと、他人にはしませんように。 どうか、娘にとって、後ろめたいようなことだけはしませんように。

そう祈って、あたしは、命である娘と別れた。



それからのあたしは、もう、生きてる感覚すら失ってしまったよ。

タキにも、悪かったし、タキの両親にも、タキをこんな目に遭わせてしまって、申し訳なかったし、あたしの親にも、哀しませて、苦しめてしまった。


わかっているのに、感情が、哀しみしか無くなっているようだった。 あたしが、真っ二つにわかれて、その片方がないような、喩えようがないけど、とにかく、息だけしていた。

その息も、深く呼吸することなく、時には忘れてしまうんじゃないか?と思うぐらい、歯を食いしばって、生きてた。


誰か、助けて。

ううん、助けなくていい。 殺して。 

いや、自分でこの命を絶とうか・・・


そんな日々がどれだけ続いたんだろう。




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