悪魔の退屈
地獄。
そこは、常に灼熱の炎にまみれ、血に染まっている。
ぎらぎらとした鋭利で見えない何かで満ちた、おぞましき玩具箱―――
その地獄のはずれに、すさまじく場違いな、一軒の屋敷があった。
屋敷を囲う柵の中は青々とした草花に囲まれ、蝶や小鳥が飛んでいる。
のどかで、逆にそれが恐ろしい。
その、屋敷の一つの部屋に。悪魔はいた。
「う――――――あ――――――、ひまぁ」
ロココ調の豪華絢爛な部屋。
天蓋のついたベッドの上で、悪魔はいつもの古めかしい西洋貴族の衣服に身を包み、ごろりと横になっていた。
――――――あぁ、最後に召喚されたのいつだっけ?
――――――確か………そう、十年前だったなぁ。
地獄とはとても思えない空間で、悪魔はのんきに考える。
――――――そういえば、正しい悪魔の召喚方法が忘れられつつあると、レラージェ様が言っていたような……
――――――考えただけでも恐ろしい。
悪魔は不意に自分の淡雪色の綺麗な手を見つめ、そっと牙をあてる。
一気にこすると、手の皮膚が裂け、青い血がするりと出てくる。
そっと舐める。
きりきりとした辛味。
――――――人間の血は何色なんだろうか…………
――――――どんな味がするんだろうか………
悪魔はふと疑問に思った。