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第三話

 ここで一点お詫びがあります。

 第一話で、「直人が村瀬家の長男」と表記したにも関わらず、第二話では「正人が村瀬家の長男であり、直人は次男」と表記してしまいました。

 混乱されている読者の方もおられると思いますので、整理します。

【村瀬家の長男は、正人。次男は直人】

 です。


 紛らわしい表現をしてしまい、誠に申し訳御座いませんでした<m(__)m>

 二杯目のコーヒーを飲んでから何分かした頃、比留間はにわかな尿意を催した。静かに立ち上がってトイレへと向かう。その時、高橋は再び夢の中にいた。

 しばらくして、比留間がトイレから戻ると、廊下の最果てにある物置に恩田がいた。その時の恩田は、物置の中へ入ろうとしている所だった。

「恩田さん。何してるんですか?」

 比留間は気さくに声を掛けた。

「はいっ。ええと、旦那様が『明日、大切なお客様が来るから、今日の内に屋敷の掃除をしておけ』と申されたので、その通りに……」

 恩田はいきなり声を掛けられたせいか、僅かに驚いた。しかし、すぐに冷静を取り戻すと、物置の中の業務用の掃除機を示してみせる。

「そうなんですか。あ、でも、もう夜も遅いですし、大きな音を立てて大丈夫です?」

「そうですね。では、旦那様に確認を取ります」

 恩田はそう言うと、比留間とすれ違い権蔵のいる部屋の扉の前に立った。

「旦那様。これからお掃除を始めますがよろしいでしょうか?」

 二回ノックした後、恩田は扉越しにそう訊いた。しかし、返事は無かった。

「旦那様?」

 更にノックする。しかし、相変わらず返事はない。

 その時、宝刀の隣の部屋から直人が現れた。

「恩田さん。何してんの?」

「直人様。それが、旦那様にお掃除を頼まれまして…」

「へえ。あ、でも、今は部屋に入らない方が良いよ。今は経済ニュースの時間だからさ。この時間に部屋に入ると、凄く機嫌が悪くなるんだよ」

「そうなんですか?」

「恩田さんは新人だから知らないんだよね。次からは気をつけな」

 直人はそう言って、恩田の肩に手を乗せる。

「はい、でも一応お部屋に入って聞いてみます。後で何か言われるのは嫌なんで……」

 恩田は恐る恐るドアを開け、中の様子を伺いながら小さな声で聞いた。

「旦那様、お掃除をしてもよろしいでしょうか?」

 真っ暗でテレビの光だけがまばゆい室内に、ソファに座った権蔵がいた。テレビは直人の言った通り、その日の株価の変動と終値を報じていた。

「旦那様?」

 二度の恩田の問いかけに、権蔵は反応しなかった。聞こえていなかったというのが適切であろうか、テレビ画面に食い入り返事をしようとしない。恩田を背にしていたので表情は分からなかったが、恐らく強張っていたであろう。

 恩田が三回目を発しようとしたとき、恩田の背後にいた直人が彼女に話しかけた。

「な、言ったでしょ。掃除の事も忘れてるよ」

 直人は再び、恩田の肩に手を乗せた。

 恩田は観念したのか、静かにドアを閉めた。

「さて、俺も仕事に戻ろう……」

 直人は踵を返して自室に戻ろうとしたが、その時彼の視界に比留間が映った。それをきっかけに何か思い出したのか、直人は比留間に話しかけた。

「そういやさ、警備の方はどう?」

 直人はそう言って、広間のドアに手を掛けた。両開きのドアの片方を開き、全体の半分まで開けたところで広間に入る。比留間もそれに従った。

 しかし、このとき既に事件は起きていた。それを裏付けるかのように、広間の中の直人は歩みを止め、目前の光景に釘付けになる。

「……宝刀が……、無い……」

 広間の中央、ショーケースの中にあった筈の宝刀が、事もあろうに消えていた。ショーケースは壊れておらず、きれいさっぱり消え失せていたのである。

「……」

 直人に続いて広間に入った比留間も、その光景に圧倒された。

 二人ともそこから動こうとせず、その場に凍り付く。

 ややあって、二人の後方にいた恩田が、微動だにしない二人を不審に思ったのか、広間の中を覗き込んだ。

「どうかされましたか……。えっ! 宝刀が……」

 恩田は目を見開き、開いた口が塞がらない。塞ごうと唇を動かすが、閉じる寸前で再び開き、傍目からは口をぱくぱくさせてる様に見えた。

 宝刀に対し、他の二人に比べて思い入れの少ない比留間は、誰よりも早く我に返った。そして、我に返るなり部屋の中の部下の事を思い出した。

「高橋……。高橋は何やってんだ……」

 静かに視線を下げると、机に突っ伏している高橋の姿が目に映った。

 比留間は高橋に早足で歩み寄ると、高橋を強引に椅子から引き剥がし胸倉を掴む。

「高橋! てめえ何やってんだ!?」

 鬼気迫る形相と咆哮。それに反応した高橋は、直ぐさま目を覚ます。

「社長……。どうしたんですか……?」

 意識を取り戻した高橋は、一度大きなあくびを放つと、比留間の腕からするりと抜け、入り口で固まる恩田と直人を睥睨した。

「何か……、あったんすか……?」

 高橋は寝ぼけまなこで言った。

「チクショウ! 盗まれた!!」

 比留間は激しく狼狽し、思いきり机を叩く。その衝撃でコーヒーカップが一瞬宙に浮き、再び机に落ち着くと、部屋中に『ガチャッ』という音が響いた。

 それにより、後方の二人が我に返る。

「大変。早く旦那様に……」

 恩田は踵を返して権蔵の部屋へと向かう。

「旦那様。大変で御座います。宝刀が……、宝刀がありません」

 ドアを強く叩き、驚愕に声紋を支配されながらも声を張り上げる。

 しかし、権蔵は姿を現さなかった。

「どいて。おやじ、アンタの大事な宝刀が無くなってるぞ」

 恩田とドアの間に割って入った直人は、恩田と同じようにドアを叩きながら言う。

 直人の呼びかけにもかかわらず、権蔵は現れなかった。

「おやじ!!」

 金に貪欲で宝刀に目のない権蔵が現れないことに苛立ちを覚えた直人は、半ばドアを蹴破る形で部屋に入った。

「聞いてるのか!?」

 座ってテレビ画面に食い入る権蔵の顔を、直人は覗き込んだ。権蔵は押し黙ったままだ。

 その時、直人は想像を絶する光景を目にする。

「…………」

「!」

 やけに反応の無かった権蔵。しかし、それには理由があった。権蔵はただ一点を見詰め、口を異様な形に歪めたまま動かないのである。歪めた口からよだれを垂らし、見開かれた目は、焦点があっていない。そして、彼の首には細く鋭い一線。

 権蔵は、死んでいた。

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