ポイ捨てされたあと元家族が救いを求めてきたから捨て返してみたら人でなしと言われたけど自己紹介だろうか
彼女は吠えた。
「だからさ、あんたみたいな出来損ない、うちにはいらないから。はやく出ていって」
「えっ」
いきなりなことを。
私、マリス・ナフ・ローヤルー侯爵令嬢、今日この場で実家から追放されました。理由はただ一つ。妹のリゼットが喚いたからです。
「お姉様なんて、お兄様のお邪魔なのよ!それに、いつもいつもお父様やお母様を困らせて!私のお洋服だって勝手に着るし!もう我慢できない!」
いやいや、ちょっと待て。お兄様の邪魔って何?
私、引きこもりなんですけど?
それに、リゼットの服なんて趣味悪すぎて一度も着たことないし。第一、困らせてるって具体的になにを?
「うるさい!とにかく出て行って!お兄様にはもっと素敵な婚約者が必要なの!お姉様みたいな地味な女じゃお兄様の格が下がるわ!」
……は?婚約者?
私、お兄様の婚約者じゃないし。っていうか、お兄様まだ婚約者決まってないよね?
リゼット、一体何を言ってるんだ?
まあ、いつものことか。うちの妹は筋金入りのワガママ星人。
欲しいものは全部。
「お姉様のせい!」
って叫べば手に入ると思ってる節がある。両親も両親でリゼットの言うことしか聞かないんだから手に負えない。
「出て行け」
って言われても行く当てなんてないんですけど?
ずっと屋敷に閉じこもってたんだよ?
外の世界のことなんてほとんど知らないし。
「そんなの私の知ったことじゃないわ!さっさと消えて!」
リゼットは言い放つと衛兵に私を屋敷から連れ出すよう命じた。え、本気なの?雨も降ってるのに?
せめて傘くらい。有無を言わさず屋敷を追い出されたポツンと雨の中に立っていた。
どうしよう。これから私、どこで何をすればいいの?
途方に暮れていると一台の馬車がそばに止まった。中から現れたのは見慣れないイケメン。黒髪に紫の瞳が吸い込まれそうなくらい綺麗だ。
「こんなところで、どうされましたか?お嬢さん」
そのイケメンは優しそうな声で問いかけた。警戒しながらも事情を説明。
実家を追い出されたこと、行く当てがないこと。
話を聞き終えたイケメンは少し困ったような表情を浮かべた後、ありがたい提案をしてきた。
「もしよろしければ、私の屋敷にいらっしゃいませんか?人手も足りませんし、雨の中、一人でいるのは危険です」
え、いいんですか?
見ず知らずの私を泊めてくれるなんて、なんて親切な人なんだろう。警戒心よりも好奇心が勝り、お言葉に甘えることにした。
馬車に揺られること数時間。連れてこられたのは広大で美しい屋敷だった。庭には見たこともないような花が咲き乱れ、建物はまるで絵本に出てくるお城みたいだ。
「ここは、私の領地にある屋敷です。私は、デイラー・フォウ・アルノートと申します」
デイラー。妹たちが侯爵家の嫡男だって言ってたかな?
まさか、こんなすごい人が私を拾ってくれるなんて、夢みたい。デイラー様の屋敷での生活は想像していたものとは全く違っていた。
今まで屋敷ではろくに仕事も与えられず、ただ部屋に閉じこもっているだけ。でも、ここでは色々なことを任される。書類整理、来客対応、庭の手入れ。
最初は戸惑うことばかりだったけど、デイラー様や使用人の方々が優しく教えてくれるので少しずつ慣れていった。
何よりも驚いたのはデイラー様が意見をきちんと聞いてくれることだ。
「マリスはどう思う?」
って、いつも問いかけてくれる。そんなの実家にいた頃には考えられなかった。忙しい毎日を送るうちに自分が少しずつ変わっていくのを実感。
今まで自信なんて全くなかったけれど、デイラー様の役に立てることが嬉しくて色々なことに積極的に取り組むようになった。
それに、美味しい食事と温かい寝床のおかげで健康になっていくのを感じる。そんなある日、デイラー様が言った。
「マリス、君には特別な力がある」
え?力なんてあったっけ?引きこもり令嬢だったのに?
「君は、植物の声を聞くことができる。その力を借りて、植物を凄い速さで成長させたり様々な効果を持つ植物を育てたりすることができる」
デイラー様の話を聞いて過去の出来事を思い出した。
子供の頃、枯れかけていた花にそっと触れたら元気になったことが何度かあったような。気のせいだと思っていた。あれは、その力だったんだ。デイラー様は力を領地の発展のために役立てたいと言ってくれた。
「結局、そういうのが目当てで拾ったのか。はぁ」
最初は不安もあったけれど、デイラー様の真剣な眼差しを見て自分の力を試してみることに決めた。やらないよりはあれば後から、別のところで働けるし。
それからというもの、デイラー様の指導のもと自分の力を磨いていく。植物と心を通わせ、野菜や薬草を育て、荒れた土地を豊かな農地に変えていった。
育てた作物は栄養が高く、領民たちの生活はみるみる豊かになっていく。活躍は当然のように噂となり、遠くの街や国まで広まっていった。そして、その噂はあの実家の耳にも届いたらしい。
数ヶ月後。父とリゼットが私のいる領地にやってきた。よくこれたものだな。
二人は憔悴しきった様子で前に跪いた。えー、どのツラ下げてるんだか。
「マリス……どうか、私たちを助けてくれ!」
父の口から語られたのは侯爵家の状況。リゼットがわがままを言い、取引を台無しにしてしまったらしい。
領地は傾きかけ、危機に陥っているという。然もありなん。
「お姉様さえいなければ、こんなことには……!」
リゼットはまだそんなことを言っている。いないからこんなことにと言うが、いなかったら大ダメージだけが残るのだ。全く懲りてないな。
ため息を盛大に吐く。冷たい目で二人を見下ろした。
「私が追い出された時、あなたたちはどうしましたか?私のことなど見向きもしませんでしたよね?自分の都合が悪くなったからって、今更助けてくれって、都合が良すぎませんか?」
他人行儀に敬語で説明。父は言葉を詰まらせる。ただ、ひたすら頭を下げているだけ。
「それに、今の私には大切な居場所と、守りたい人々がいるんです。あなたたちのために、私が築き上げてきたものをあなた達のために犠牲にするつもりはありません」
「そんなっ、ま、待ってください!」
「お姉様!許さないから!裏切り者!人手なし!」
「やめろリゼット!下手なことを言うのではないっ」
言い放ち、二人を追い返した。文句ダラダラだったね。
後日、デイラー様から聞いた話によると、侯爵家は没落したらしい。リゼットは仕事に身をやつし、父は病に倒れたという。
ざまあみろ、元家族。過去の汚点達。あなたたちが真っ先に切り捨て、突き放した報いだ。
今、デイラー様のおかげで充実した日々を送っている。力は領地の発展に大きく貢献し、領民たちからの信頼も厚い。
そして何よりもデイラー様の眼差しが満たしてくれる。恋愛だろうと、部下扱いだろうとどちらでもいいや。
あの時、実家を追い出されたことは、確かに辛かった。もう嫌になるほど。でも、そのおかげで私はデイラー様と出会い、自分の才能を開花させることができた。
今では、あの雨の日さえ私にとっては采配だったと思える。利用価値はあげておこう。
「デイラー様、仕事終わりました」
「お疲れ様です。アフターヌーンティーを用意してますから、休憩してくださいね」
元家族達に見せつけられた気がする。まあ、もう興味ないけどね。
デイラー様と安泰した生活が一番大事だから。
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