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【シリーズ】身売り寸前の私は皿洗いします。

【番外編・身売り寸前の私は皿洗いします】予言系神官の扱いに困る。

「身売り寸前の私は皿洗いします。」の番外編です。


「身売り寸前の私は皿洗いします。」がポイントが高く、たくさんの人に読んでいただきましたので、乙女ゲームの別ルートを書いてみました。


内容が被っている所もあるので神殿の冒頭が始まるまでは読み飛ばしても大丈夫だと思います。


「身売り寸前の私は皿洗いします。」を読んでくださった方、ありがとうございました。


感謝しています。

 大量の皿、次々運ばれてくる皿。

 私、なんでこんなに大量の皿を皿洗いしてるんだっけ??

 神殿の人、清貧を心掛けているはずだけれど、めっちゃ皿使うね??

 ----


 突然、成人まで後一年という15歳の時に剣と魔法の異世界に転生していると気づいた。


 多分、前世で私の死因って、これかなっていう最後の記憶は歩道にはみ出してきているトラックに轢かれた記憶だ。

 バイトに明け暮れていた私が、疲れてふらっとよろけたのも悪かったけど、歩道の範囲内だった。

 ウチの地元って車道も歩道も狭いんだけど、トラックが無理やり入ってくるんだよね。


 今世は異世界に転生していて、しかも男爵だけど貴族だった。

 名前はマリア・オランジェ。オランジェ男爵の長女だ。


 しかも、私だけは貴族の特性として風と水の魔法がそこそこ適性があった。

 更にピンクブロンドに濃い紫の目のなかなかの美人(自分で言ってしまう)。

 まあ、この国は下位貴族が雨後の筍のように多いのだけれども。


 貴族でラッキーと思ったのもつかの間、ウチは家族が浪費家で貧しい事に気づいた。


 色々と気づきが多い。


 どのくらい浪費家で貧しいかというと、お母様とお父様が、


「マリアが16歳になったら、お金を持っている貴族の後妻として売りましょうよ」

「そこそこ太らせて肉付き良くしとかないとな」

「あら、痩せてて華奢なのが好きなのもいるわよ。魔力もそこそこあるし、高く売れそう。早く新しいドレスが欲しいわ。アクセサリーも」


 という話をしているのを聞いてしまったぐらいには貧しい。

 もしかしたら、こういう会話を聞いたショックで前世を思い出したのかもしれない。


 ちなみに弟が跡継ぎとしているが、お父様とお母様にスムーズに同意していた。

 うーん、皆、浪費家で貧しく人でなし。


 私は焦った。


 このタイミングで前世を思い出したのは本格的に自分の身が危ないと思ったからだろうか。


 とにかく人売りみたいなのを一旦回避したい。

 そういう貴族子女が逃げ出す定番は神殿だ。

 しかし、神殿は一旦入るともう出てこれない。神の物になったという扱いだ。


 ……………………。

 でも、実の両親に売られてしまって悲しい思いをするよりは、思い切って自分で出ていく方がいいだろう。


 貴族子女が逃げ出す定番ならお友達もできるかもしれないし。

 ポジティブに考えてみようという話だ。


 ---


 で、やってきました。

 神殿に。


「お前の事は聞いていた。マリア・オランジェだな。入れ」


 神殿の立派な門の前まで行くと、何故か門番が分かっている様子で素早く門を開けた。


 意味が分からない。


 私だけ、そのまま門番が先導して神殿の中まで歩かされる。

 振り返ると、他にちらほらと来ていた人たちは他の門番が名簿などを見ながら案内していた。


 私だけ扱いが違って心細いまま廊下を歩く。


 全体的に薄く光沢のある白い石造りの建物で、前世でみたギリシャの神殿に似ている。

 建築様式とかは分からないけれど。


 そして、かなり神殿の奥に入った所に、立派な彫刻が入った木の扉があって、ノックもなしに別の人がサッと開いた。


 扉の向こうにはそこそこ広い部屋があって、テーブルと椅子が二つあって、その内の一つには、私が入ってきたことに全然驚かない男の人が座っていた。


「ようこそ、ヒロイン。今回はこのルートを選んだのですね」


 男の人がテーブルの向こうから私に話しかけてくる。

 男の人は腰まで長い銀髪で、肌が病的に白い。


 なんと、白い布で目隠しをしていた。

 目隠しをしているからよく分からないけど、多分イケメン。

 ギリシャ神殿の中にいる彫刻みたいなイケメンだ。


「ヒロインって何ですか?」


 いきなり前世の用語で呼ばれて驚いた。

 ヒロイン? ルート?

 この人も前世を覚えているだろうか。


「失礼しました。世界の主人公、聖なる乙女マリア・オランジェ。つまり私は、あなたが神殿にいらっしゃったのを歓迎するということです。私たち神殿はあなたを、そして神殿に避難してこられた皆さんを歓迎します。どうぞ、穏やかな日常を過ごしてください」


 目隠しで見えていなはずなのに、きちんと私が居る方向に顔が向けられている。

 やっぱり異世界って不思議な所だ。


 イケメンはおかしなことを言っているけれど、私はただ前世を覚えているだけの名もない下級貴族の女だ。

 世界の主人公が身売り寸前なんて大変な目に合ってるはずもないし、聖なる乙女なんて意味不明。


 けれども、穏やかで良い人そうだ。

 実際に行くところはないのだし、お言葉に甘えて、神殿で暮らさせてもらおう。


 ---


 次の日から、神殿で暮らす毎日が始まった。

 神殿は外から見ても結構大きかったけれど、中も結構大きい。

 神殿に逃げてきた子は主に女の子が多く、でも皆に個室が与えられている。

 だいぶ昔に、イグニス王国の神殿を訪れた勇者様が気まぐれに、神殿へ貴重な空間魔法をかけてくれて、見た目よりも中の空間が広いらしい。


 そこら辺は神殿の中で与えられた個室の隣の女の子キャサリン・アナナッサが教えてくれた。

 茶色の髪に明るい茶色の目の八重歯がかわいい子だ。


「未来視の大神官イゼル・ラグナ様とお話したんだって? ラッキーじゃん。イケメンだったでしょ?」

「う、うん。目隠ししてたけど」


 まあ、イケメンって言ったらイケメン。

 初日にいきなり名前も知らされずにお話した人は神殿の中でも偉い人だったらしい。

 キャサリンはどこから聞いたのか知っていた。


 食堂で、マッシュポテトと黒パンの朝食を食べながらキャサリンとお喋りする。


「そうそう、噂では目隠ししてるのって未来視の心の眼と自前の目で見るのが重なって混乱しちゃうかららしいよ」

「そうなんだー」

「神殿の毎日も悪くないよ。基本的に自分ができることをしながら、気が向いたら神様に祈りをささげるだけだし。実家の男爵家に毎日毎日フルで働かされた挙句に奴隷商人に売り飛ばされそうになった事を考えれば全然」


 キャサリンのハードすぎる身の上を聞きながら、私は何度も首を縦に振る。

 やっぱり、イグニス王国は人売りが多いのだろうか。

 どうなってるんだろう、この国。


「と・こ・ろ・でー。マリア。水と風の魔法を使えるんだよね?」


 キャサリンが、満面の笑顔で私の肩をガッとつかんだ。

 私はその勢いに目を白黒させる。

 ゴクン、とケチャップを大量にかけたマッシュポテトを呑み込んだ。


「……っ、使えるよ」

「じゃあ…………………」


 ---


 神殿の広い厨房の隣に位置するこれまた広い洗い場には、神殿で働く者たちが使う皿がどんどん運ばれてくる。

 基本的に白い皿や来客用のちょっと高い皿。

 そして神殿で働く者たちが使う大量の嵩張る大きな木皿だ。


「いやー、マリアが来てくれてよかったぁ!!」


 キャサリンは水魔法で、洗い場に大量に置かれた皿を洗剤を時々豪快にブシュー! と混ぜながら洗っていく。


「う、うん。お役に立てて良かった」


 私は恐る恐る目の前の皿の山を少しずつ洗っていくけれど、キャサリンにバンバンと背中を叩かれる。

 ちょ、瀬戸物の皿落としそうになったじゃん。


「もっと強く! 強く! 皿洗っちゃって!」

「え、お皿傷つかない?」

「だめだめ、すぐに次のお皿運ばれてくるから。魔法のようにドバドバと。いや、ほんと。ウチの神殿って人が何人いるんだろうね」


 キャサリンの言葉に、私は目がグルグル回るような感覚を覚えた。


 キャサリンの言葉通り、


「あいよー! 追加!」


 と言いながら筋骨隆々の数少ない男性が木皿を籠に入れて、洗い場に雑にドバドバと投入してく。

 皿がぶつかるすごい音がした。


 皿の投入の衝撃で、バシャッと水が跳ねる。


「皿洗いのコツはね! 強く洗う! だよ」


 洗い場にいた別の女の子が拳を握って私に力説する。

 その女の子の手から水がビームのように出る。

 すごい勢いでお皿が洗われていく。


「そっか、強く………」


 まるで、前世の居酒屋での皿洗いのバイトみたいだ。

 強く、素早く洗う。

 前世でバイト先にあった大きな食器洗い乾燥機があったらいいのに。

 家庭用のと違ってすごい早さで洗いあがるんだよね。

 1分以内ぐらい。


 私はチラッと洗い場の隣のスペースを見た。

 そこでは、水魔法使いより少ない数の風魔法使いが風魔法でびしゃびしゃになった皿を乾かしている。


 さすがに洗いあがった皿をびしゃびしゃになったまま使う訳にはいかない。

 テーブルも料理も何もかもびしゃびしゃになってしまう。


 風魔法も水魔法の勢いと同じく、水を飛ばすようにやっているけれど、風が重なっている皿の間に入り込まなかったり、皿の中にたまっている水を吹き飛ばしきれなかったりなどしているみたいだ。


 水魔法で洗うのは極論、洗剤入りの水でガッと洗って、ガッとすすげばいいみたいだしね。


 ---


 私は、洗い場で水魔法メインで皿を洗い、時々風魔法で皿を乾かす方に入っていたがうまくいかなかった。


 というか、前世であった大きい業務用食洗器があれば、風魔法や水魔法を使えない人にも手伝ってもらえるのに。


 2~3日、試行錯誤しながら洗い場を手伝っていて、私はどうしたものか頭を抱えていた。

 キャサリンは、


「マリアが来てくれてとても助かったよ」


 と言ってくれるけれども、押し寄せてくる皿の波は少しも勢いが収まらない。


 自分で食洗器のようなものを魔道具で作ろうかと思うけれども、何しろここは神殿だ。

 食洗器の魔道具を作る材料もないし、見かけたこともない。

 皆がお互い持っている能力で、助け合い、神に祈りをささげる場所だからだ。


 と、私はそんな風に思っていた。

 そんな折、


「イゼル・ラグナ様がお呼びです」


 と、初日に会った大神官様に呼び出された。


「あっ、欲しかったものだ」


 大神官様の前のテーブルには、大きな石の箱と大きな魔石が置いてあった。


「そうでしょう。そろそろ必要だと思ったのです」


 と、目隠しをしたイケメンことイゼル・ラグナ様が大きく頷いた。


「未来が見えてるんですか?」


 さすがに私は不思議だと思って、ラグナ様に聞いてみると、もう一回ラグナ様は頷いた。


「そうです。あなたが食器乾燥機? というものを作るのが見えました。それには神殿にない材料が必要だという事も。あなたは一生懸命食器乾燥機を作ります。私はそんなあなたが大好きです」

「え、あ、はい。ありがとうございます」


 ラグナ様がこちらに寸分狂いなく顔を向けて、頬を染めた。

 …………見えてるんじゃないんだろうか?


 貰った石の箱を開けてみると、中には思っていた通りに良い具合の仕切りが入っており、排水の為の水を流す穴と、魔石を装着するための蓋への窪みも細工されている。

 私がうっすらと思っていたことがもう大体揃っていた。

 多分、これは後で私が込める魔力を調整したり、仕切りを微妙に調整するだけでいけそうな気がする。


「本当にありがとうございました。神殿に受け入れてくださって嬉しかったので、神殿のお役に立てるように頑張ります!」


 私は嬉しくて、ラグナ様に見えても見えなくても満面の笑顔でもう一回お礼を言って頭を下げた。


 ーーー


 それから私は頑張って、キャサリンにも応援されながら食器乾燥機を半月ぐらいかけて完成させた。

 枠組みはできていても、食洗器のように箱の中に入っている皿を良い具合に乾燥させたり、皿が粉々にならないように魔石に込める魔力を工夫したりと、結構手こずった。

 だけれど、最終的に完成した食器乾燥機を何個か作れて、風魔法を使えない人にも機械(魔道具)にセットして食器洗いを手伝ってもらえるようになった。


 それから、たまにラグナ様とすれ違うと、目隠ししている顔をこちらに向けてきて、うんうんと何事か一人で頷いている。

 それに、頬を染めたりしている。


 何故に?


 キャサリンとはいえば、


「すごいじゃない! マリアのおかげで風魔法の人たちが手が空いたから、自給自足の畑とかにも人をもっと割けるようになったよ!」

「ということは?」

「マリアのおかげで早く実がなるストロベリアの実が夕飯にデザートとして時々つくようになったの! やったぁ」

「え、それって私のおかげ?」

「うんうん! ウチの実家から持ってきた種取っておいてよかったぁ」


 と、前世で言う所の苺の実を食べながら喜んでくれた。

 ちょっとの肉と野菜のスープ。マッシュポテトと黒パンに、ビタミンたっぷりであろう苺の実となれば、結構神殿の簡素なメニューも充実してきた気がする。

 私も頑張って食器乾燥機を作った甲斐があった。


 ということで、引き続き水魔法で皿洗いは続けるものの、だいぶ作業に余裕が出てきたので、何か神殿の為に私が他にできることはないか探し始めた。


 神殿の人たちは、皆優しくて親切で、自分の持ち分に私がうろついていても特に弾いたりしない。

 時々、


「あっ、食器乾燥機の魔道具を作ってくれたマリアね。ありがとう」


 という言葉さえかけてくれる。


 ーーー


 そして、私が次に目を付けたのは、神殿に救いを求めてきた人たちが集まる部屋だった。

 神殿には、治癒魔法を求めてくる人がいるのはもちろん、神に祈りをささげる人など、様々な外部の人の為に解放されている区画がある。


 しかし、人がたくさん集まる区画という事と、石造りの神殿という建物内という事もあって、風通しが悪くてたまに倒れる人が居た。

 そして、せめて集まっている外部の人は冷たいお水ぐらい飲めたら気分も違うんじゃないかと思ったのだ。


 そこまで考えがまとまった次の日。


「イゼル・ラグナ様がお呼びです」


 と、またもやラグナ様に呼び出された。


「あっ、欲しかったものだ」


 大神官様の前のテーブルには、前世でみた扇風機に近いものと大きなガラスの漏斗のようなもの(蓋つき)と大きな魔石が置いてあった。


「そうでしょう。そろそろ必要だと思ったのです」

「いつもありがとうございます」


 これで送風機とウオーターサーバーが作れる。


 …………あれ、でも?


「失礼ですが、神殿ってあまりお金がある方ではないのではないですか?」


 だって、逃げてきた貴族の子女とか結構受け入れているし。


「大丈夫です。私のへそくりを使っています。案ずる事はありません」

「でも」

「私には未来が見えます。聖なる乙女マリアの行いにより、神殿はさらに良くなるでしょう。それは皆の助けになりますから、ええ、もちろん…………マリアの心配している財政にも助けになりますから」


 ラグナ様がにっこりと笑う。

 私は、なんだか腑に落ちないものを感じながらも頷いたのだった。


 ---


「なーんか、外部の人が来る区画に行くとすごく気分が良くなるんだよね」


 キャサリンがそうきっぱりと言った。

 私が設置した送風機とウオーターサーバーを外部の人が来る区画に設置してから、そんな評判でいっぱいだった。

 神殿にきて、私が作った送風機の風に当たり、次々と魔法の水を作り出すウオーターサーバーの水を飲むと気分もよくなり救われた気持ちになり、ちょっとした風邪程度なら治ってしまうとの評判だ。

 この異世界、そういう休憩所もないし、涼しい風に当たってゆっくりしてから冷たい水を飲めばだいぶ気分もよくなると思うけど。

 風邪も治るは言いすぎだと思う。


「そうかな?」

「今、マリアの作った魔道具の水を汲むのに行列ができているらしいよ」

「そうなんだ。途中で水が切れちゃいそうだね」

「まあ、それはそう」


 キャサリンとそんな会話を繰り広げる。


「神殿の開門前から並んでて、お布施を多めに渡して早く入れてもらおうとする人もいるとか」

「えっ?!」

「神殿の歴史始まってから過去一でお布施が増えてるって」

「そ、そうなんだ。それは神殿に貢献できたかな」

「マリア様様だね」


 キャサリンの言葉に、


「もう、やめてよー」


 と顔の前で手を振る。



 ………しばらくは幸せだった。

 神殿の皆に感謝されるし、キャサリンとお皿を洗ったり、お喋りしたり、肉も野菜もデザートも揃った美味しいご飯を食べたり。

 神殿からは出られないけれど、親に売られるような悲しいことは起きなくて済むし。


 本当に幸せだった。


 ーーー


 それは、キャサリンの言葉から始まった。


「大変! マリアの噂を聞きつけた王家が、マリアを聖女として認定して王妃に迎えようってしてるって噂が!」

「……………………え?」


 王家が神殿に入ってもう出てこられない男爵令嬢を王妃にするなんてあるはずがない。


『この国では神殿に入ったからといって貴族令嬢だった事実は消えない。しかし、だからと言って実家に令嬢を戻すことはできないという決まりがある。神殿に入ったからといって安易に貴族から平民の身分にすると貴族や王家の命令が絶対的にまかり通ってしまうからという説があるとかないとか』


 だけれど、イグニス王国の王家の評判はだいぶ良くないとはいえ、腐っても王家だ。

 私は、無理を承知でラグナ様に面会を申し込もうと決意した。


 と、次の瞬間。


「イゼル・ラグナ様がお呼びです」


 と、ラグナ様に呼び出された。


 私は走って、もう神殿にだいぶ住んで覚えた神殿内の通路を走った。


「ラグナ様!」


 ラグナ様の部屋の扉を開いてもらうと、私はすぐに声を荒げた。

 甘えていた面もあるのかもしれない。

 今まで、私が何かしようとすると、未来視のラグナ様が先回りして用意していてくれたから。



 部屋に入ると、ラグナ様は何か魔法を発動しているのか体の周りが光っていた。

 そして、目隠しが取れていて赤く光る眼で虚空を眺めている。

 魔力の勢いでなのかその美しい銀髪がふわふわと浮き上がり、ラグナ様の初めて見る人外のような美貌と相まって、私は息をのんだ。


「何もかも大丈夫です。あなたは私のルートをようやく選んでくれた。私はマリアを手放しません。今回の件で男爵令嬢の聖女を迎えろと周りの貴族から無理を命令された王は、とうとうその玉座から逃げるでしょう。その弟は操りにくいので、貴族から暗殺されます。元々、今の王の暗殺を狙っていましたしね。じきに自分たちを救ってくれない王家や上位貴族たちに不満が溜まり…………」

「何を言っているんですか………?」


 私の頭には、ラグナ様が喋っていることが全然入ってこなかった。


「この聖女がいる神殿を残して、イグニス王国は一度滅び………。隣のアイステリア王国に吸収されます。そして、神殿は今よりもっと開かれたものとなり、あなたは真の意味で自由になる」


 ラグナ様の赤い目が未来ではなく、私をしっかりと正面から見た。

 私は得体のしれないものへの恐怖なのか、あるいはラグナ様の語る未来への不安なのか、あるいはその美貌になのか、胸が早鐘のように打っている。


「あなたの行動は未来が見える私にも実に興味深い。そのヒロインのような行動は何回あなたの未来を見ても飽きませんでした。マリア、好きです。私はあなたが居ないと少しも幸せになれない者たちの一人。どうか私を憐れんで、私の手を取っていただけないでしょうか?」


 ラグナ様の赤い目から、一筋の涙がこぼれる。

 そこで、私はーーーーーーーーー、



 →ラグナ様をかわいそうに思った



 私はあまり頭が良くないから、ほとんどラグナ様の未来視の話はよく分からなかった。

 だけれど、この国が一度滅びても神殿は残る事、ラグナ様が私の事を好きなことが分かった。


 ラグナ様は私の方に手を差し伸べ、泣きながらまるで迷子のような顔をしてこちらを見ている。


 かわいそう、という感情と好きという感情は残念ながら私の中では今は同じように感じられた。


 前世で見たあらゆる本の中で、ダメな男にはまる女の子というものが結構いた。

 友達にもいた。


 神殿で私をスムーズに自分の元に導いて保護してくれたラグナ様。

 私に親切にしてくれたラグナ様。

 私がいないとダメというラグナ様。


 私は、私がいないと幸せになれないラグナ様の手を、手を伸ばして握るのだった。

読んで下さってありがとうございました。

もし良かったら評価やいいねやブクマをよろしくお願いします。

また、私の他の小説も読んでいただけたら嬉しいです。

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