あの時からいつもいた彼女(DLC4)
NFT(非代替性トークン)によるユニーク性は 安価なものへも適用が進んでいる。原材料不使用性の観点から 国も補助金を出し易く 普及を加速させた。また コンシェルジュに対する NFTデジタルグッズの購入は、全額消費納税として取扱われるため 生涯納税額として累積加算されて 購入者へも還元された。
生涯納税額は個人に有益となるため、積極的に高額NFTグッズを購入して 社会的優位性や 公共優遇サービスを受ける人は多い。安価なグッズであっても累積するため 個人と国の両方にメリットを齎す社会システムとなっている。
何れ貨幣は全てデジタルへ移行し ブロックチェーン化されて 国民の消費価値も明らかにしてしまうだろう。
「確かここの一階フロアにあった様な気が、」
「はい、そこのスペースです」
店とは言っても 大量に設置されたスマホサイズのモニターに 自分のコンシェルジュを表示させて その中で試着させる仕組みだ。大画面で自分のコンシェルジュを表示させたい人向けに 幾つか大型モニターも設置されている。そこで歌などのパフォーマンスを披露するコンシェルジュも それなりにいる。
殆どのNTFグッズは 一点ものではなく、同様のアイテムに 限定個数のシリアルナンバーを付与する事で ユニーク性を担保している。NTFグッズであっても 在庫の有無は存在する。
「リングの試着表示 してみたら」
「はい、それでは 表示フィルターはお任せします」
不二枚 しじみ の目が開いて 猫の様に輝き反射せている。
「表示設定したから、この中に気に入ったのがあるといいね」
「では、はじめさせていただきます」
「ちょ、ちょっと何で左手の薬指限定で試着開始してるの」
「これは古の習慣では婚礼の儀の前に贈られるものだとか」
どこまで 冗談で言っているのか分からない状態だ。
「両手の指全部で試着した方が早く見つかると思うよ」
「突然、扱いが雑になりましたね、すること済んだから早く帰って欲しい的な」
「ちゃんと一緒に見てるからッ」
40分が経過した頃。
「わらび様、今のをもう一度」
「うん、これかな。どの指のが 気になったの?」
「どれが似合いそうですか?」
「何でここまできて 気になったのを言わないのさ」
「ネットワークを超えて繋がっているかは とても大切なのです」
完全にメンドクサ女子力の発揮である。10分の1で、不二枚 しじみ の好みが存在する。梅海苔 わらび は、親指の2つと、明らかに違う4つを外して再表示した。
「とっても似合うよ」
「はぁぁぁ♡ 愛されるというのはこういうことなのでしょうか」
「じゃぁ、それをプレゼントさせてよ」
「とっても嬉しい。この4つの内 どれでしょうか、わらび様」
「それ似合ってるよ!」
「どれ似合ってます?」
残る 4択を通して 不二枚 しじみ が 共有の仕方を分からずにいるもの…、それを説明するがための言葉が 偶然にでも見つかれば 幸いであろうと思う。
右手 人差し指 新しい一歩を踏したい
薬指 パートナーと絆を深めたい
左手 薬指 永続的な愛を示したい
小指 想いを伝えたい
梅海苔 わらび は、右手の薬指=恋人募集中、左手薬指=結婚している or 恋人がいる としか理解していない。
既にもう 直感的に選んではいた。不二枚 しじみ の好みや想いとは関係なく、ただ『似合っている』という 一点に絞って。
「小指のが一番似合ってて プレゼントしたいんだけど」
「ありがとうございます」
不二枚 しじみ は静かにお礼を言うと 受け取ったピンキーリングを密かに嵌めた。このリングはユニークアイテムの一点品だったが、その反応から 気に入ったものだったのかは 分からなかった。梅海苔 わらび も 聞き返すべきことはそれにはなく、『気に入ってくれたらいいな』と もうそれ以上の事は考えなかった。
「帰ろうか、不二枚」
「はい、わらび様」
口数少ないまま マンション近くまで戻ってきた二人は 不二枚 しじみ の提案でコンビニスイーツを買って帰って 玄関で靴を脱いだところで何しに出掛けたのか思い出した。
「G 対策品買ってくるの忘れた、、、」
「そうでした、再起動したから抜け落ちていました」
「いいや。目星と言ってたのネットで注文しておいてよ」
「わかりました」
今夜は G が出ない事を祈るのみ。しかし 祈りが G に届くというのは如何なものだろうか……。何も考えずに眠りについた。
「朝です。起きて下さい、わらび様」
「ぅんッん、おはよう」
「おはようございます」
「昨日、G は大丈夫だった?」
「ええ、出現しませんでした」
「今日は早めに行くよ」
「わかりました、それでは、」
いつもと変わらない朝だが、安心するだけの材料は揃っていない。こういう時は早めに家を出て 忘れるに限る。いつもと違う早めの時間帯だったためか 駅は混んでいた。
吊り革に掴まってスマホを弄っていると 電車の窓に映った左手のウォッチの画面にいる 不二枚 しじみ が左手を頬に当てているのに気がついた。
梅海苔 わらび はスマホのモニターを見ている振りをして、その姿を眺めていた。いつもそんな事してたかな? と考えていると、次は左手で頬杖をついている。明らかにピンキーリングの魅せ方の角度をシミュレートしている。
梅海苔 わらび は、『気に入ってくれたのかな』『角度とか気にしてカワイイとこあるなぁ』などと 甘い認識でいたのは言うまでもない。
出汁巻 しらす と学食をしている時に それは起こった。
「梅海苔くん、昨日の『令嬢参り新御三家』の一期3話無料公開見た?」
「ううん 昨日さ、物体G が出ちゃってさ、侵略阻止に全振りしてたから」
「そうなんだ、もしウチに出たら 梅海苔くん に連絡するから戦いにきてね」
「飛ぶんだよ」
「一人の時に飛んできたらどうしよう」
出汁巻 しらす の目線がテーブルに置いている 梅海苔 わらび スマホに向いている事に気がついた。不二枚 しじみ が何気に左手で 前髪を直している。しかし指輪は着けていなかった。梅海苔 わらび としては別にやましい つもりはなく 着けていても構わなかった。
気を使う必要なんてないのに、とその時は思っていた。だがそれは所詮、梅海苔 わらび 止まりでしかない鈍さである。もう既に 出汁巻 しらす は、不二枚 しらす の煽りに気がついていた。
「不二枚さん、願い事が叶ったのですか?」
「出汁巻 様 今日はチェーンに通してるだけですよ」
「そうなんですね。いいなぁ」
「いつもお守りにしています」
二人が 梅海苔 わらび の方を見ている。何の話しをし出したのか分からないのは この 左巻貝 も同じ。だが 左巻貝 キサゴ はコンシェルジュだけあって会話内容から検索をはじめている。
「何の話ししてるの二人とも?」
『女同士の話しです』(出汁巻 しらす & 不二枚 しじみ)
「うんっ…… 」
「しらす、不二枚さん。 神の手雲 のメールにある添付画像はウィルスが仕込まれて、」
『分からないなら黙ってて!』(出汁巻 しらす & 不二枚 しじみ)
「はいっ…… 」
そこでこの話しが終わって 女同士の会話はネットドラマの話しで 談笑をしはじめた。結局、何だったのか分からないままの 梅海苔 わらび だったが、左巻貝 キサゴ が同レベル以下である事だけは確信した。
帰宅途中に殺虫剤だけ 買って帰る事にして ドラッグストアに立ち寄った。
「やっぱ凍結系がいいの?」
「Gジェット撃即MX の方が接近戦をするなら良いかと」
「あれ 不二枚 指輪、」
「肌身離さず着けてますよ」
「そう」
「束縛系彼氏ですか? 私め構いませんけど」
「いや、そんなつもりじゃないけど… 」
梅海苔 わらび が殺虫剤の棚に目を逸らすと ────
「昼間はワザと外して お見せてしておきました」
「何か 出汁巻 が急に、」
不二枚 しじみ が、微笑みながら指輪を外して右手に乗せた。そして、外した指輪を眺める 梅海苔 わらび に向かって『うんうん』と頷いた。
「指輪を見せてもつまらないと思って、指輪跡をお見せしました」
「指輪跡? サイズが合ってなかったの?」
「(少し首を振って)私めの指にぴったりです」
「? そう」
「少し日焼けした風にファンデーションをしただけでしたが、侮れない事を改めて確認しました」
「はぁぁ… 、それ何の探り合い?」
「出汁巻 様は 感度高くて良好ですよ」
「何言ってるのッ」
「私めも いつにも増して敏感です、今夜は寝かしませんから」
「もぅ、ねッ(ふぅー)」
そんな話しをして マンションへ戻るとゴミステーションに G がいた。
「こいつが元凶なんじゃないの⁉︎」
試しに購入した Gジェット撃即MX を噴射すると G は走り回った挙句、3匹がこちらへ向かって飛んできた。
「ヤバッ!」
走って逃げる 梅海苔 わらび が、マンション 出入口で 宅配中のドライバーとすれ違った。『うぉおおー』と叫ぶ声が後方で聞こえたきた。
「ヤバ過ぎた、何なんだよ…… 」
「不運でしたね、あの方」
「完全にMPK(※MPK参考)野郎じゃないか」
「今は逃げてーッ わらび様(笑)」
※MPK= モンスター・プレイヤー・キラー とは、現実社会で例えると、野犬、カラス、スズメバチなどに襲われた際、大勢がいるところとへ逃げ込んで 二次被害を出してしまう行為のこと。助けを求める場合でも、故意に誘導する場合でも 招く結果は同じである。戦って勝てないのであれば、誰もいない場所で 逃げ切ることに掛けるか、その場で果てろ というのが正しい対処法とされる。
部屋のドアに鍵を差し込んだ瞬間、不二枚 しじみ の高まる感度が ────
F C B G B♭ (E F G E) x2 CCCCC CCCCC CGEC x2
「エンカウント音 ……、もう やめて」
「まだ果てないでーッ わらび様♡」
つづく
「カザリナの月」の気まぐれ投稿になりますのでご容赦下さいませ。