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あの時からいつもいた彼女(DLC2)

「ここで立ち話もなんだし、ほら しらす」

「うん」


 一行はすぐ目の前にあるマンションへと 連なる様にして歩き進めた。出汁巻 家も娘の一人暮らしとあって、梅海苔 わらび が住まうマンションに比べると 流石にセキュリティーと防災対策が ONEグレード上のマンションだ。出汁巻 しらす は 7階の住人だそうで、エレベーターが到着するのを3人は待っていた。


「いいとこだね」

「うん、駅も近いしね」

「あら、梅海苔さんは はじめて?」

「はい」

「それは悪いことしたわねぇ」

「いえ」


「ママ、今日はどうしたの」

「パパが単身赴任しちゃってから 暇だしねェ… 」

「パパのところに行ってあげなよー」

「遠いから一人で行くの嫌だわぁ、お邪魔したこと怒ってるの」

「怒ってない …、けど」


 梅海苔 わらび を見る二人の目が 何となく似ていた。それは個別の 顔の印象や 背格好という具体的な容より、それは母娘ユニットであることが 並んで登場されると分かるやつである。恐らくそれは動作とか 挙動とかがシンクロしていて 重なってくるからなのだろ…、後ろ姿がもうそっくりにしか見えない。


 出汁巻 しらす が 足を止めて部屋の扉を開いた。運命に導かれし 梅海苔 わらび が その先にある 楽園で見たものは…。


 ダイニングへ踏み込むと、ほんのり薫 焼けた牛脂と焦げた肉の匂い、それを誤魔化すフレグランス…。


「外から帰ってくると結構 まだ匂う、、、」

「しらす、何この匂い?」

「ちょっとハンバーグ作ってただけだから」


「梅海苔くん、今から焼くから待ってて」

「急がなくていいからね」


 ダイニングという限られた空間であっても そこに取り残された 出汁巻 しらす の生活感から、ここで繰り広げらる 日常生活を妄想する 梅海苔 わらび だった。()()()()()姿()は ずっと見慣れた 不二枚 しじみ のイメージ だったのかは 本人でさえ区別がつかなくなっていた。


 パッチ ピッチ

「あち、イタタ」


「しらす。ママが焼こうか?」

「大丈夫、このために作っておいたハンバーグなの」

「ずっと料理なんてしてなかったのに、変わるのネ」

「今はママと、お話ししないッ」


「梅海苔さんは しらす と同じ学校?」

「はい、同じ学部で」


 ダイニングテーブルに置かれた投影ユニットを通して ママコンの 星空野 ルート も話しに合いの手を加えた。


「それじゃ 何かと しらす とグループワークもあるだろう」

「そうですね」

「君は今、実に複雑な立場にいるね、ボクには分かるんだ」

「いえ、そんな事は」

「君が思い描く現実に悩みがあるのなら、いつでも聞こうじゃないか」

「あ、ありがとうございます」


 バーチャルであろうとも コンシェルジュは、出汁巻 しらす の母と同じ年齢の期間 存在している。これは不思議な現象ではあるが、ビジュアルがどうであろうと 同い年の母親と一緒に登場するだけで、年長者であることが現実に伝わる。


  昨日 作られた50代のおっさんのアバターではなく、何がどうなって このビジュアルに落ち着いたのか分からなくても、50年以上の人生を生きた コンシェルジュの意識や思考は、人との違いを区別し難い。


「わらび様、ルート殿もああ言ってくれている訳ですし、ここは一つ 人生相談でも、」

「人生たって、今の事もよく分かんなくて 何にも考えてないし」

「ボクなら しじみ君を通して いつでも繋げらるから、いつでも相談してくれ」

「これは予想外のトライアングルな展開に。私めを取り合うために争いは、」


「何言ってんの。 …… 出汁巻! 手伝うことない?」


「梅海苔さんは、今日 泊まっていかないの?」

「ママ⁉︎ 何聞いてるのッ」

「ハンバーグ 食べたら今日は…… 」


 梅海苔 わらび は、新居に押し掛けた 痛い親戚一同の様なノリをかわすため、キッチンに立って 出汁巻 しらす の手伝いをはじめた。もうこの二人には コンシェルジュ達の会話は 耳に入らない。


「キサゴ殿、今日は控え目ですね、ブラザー ルート殿とは人知れず ディスタンス が?」

「不二枚さん、オレは今日のハンバーグ試食会に掛ける しらす の思いを、」

「キサゴ君、ゲストが緊張してしまっては しらす のクッキングにも 力が入るというもの」

「それはそうですが、オレは、」

「不二枚 しじみ、十八番 『悪役令嬢ですが今日も日和見を決め込みます』を熱唱します」

「ではボクがギターを」

「・・・」


 何だかんだで盛り上がるのは事実である。ハンバーグも大皿に乗せられて登場すると、出汁巻 自家製ハンバーグソースが掛けられて完成した。


「どうよ、私の自信作」

「美味しいそう」

「しらす いつの間にか 成長したわねー」


『いただきまーす』


 冷蔵庫に寝かされていたハンバーグ群も これにて一件落着した。極力避けたい人付き合いも 最小限の出来る事だけすれば 時間は自ずと経過し 落着する。だから躱わせなければ 笑ってやり過ごせばよい。


『ごちそうさまー』


「美味しいかったよ」

「ありがとう」


「後片付け 手伝ったら帰るよ」

「後片付けは ママがしておくから、しらす は 梅海苔さん とお茶でもしてきたら」

「分かった、梅海苔くん 行こ」

「ありがとうございます」


 出汁巻ママの配慮で、駅前のカフェで お茶をしてから帰路に着くこととなる。


「デザート、忘れちゃたね」

「ママと食べてよ」

「ありがとう、こんなハズじゃなかったんだけどなー」

「……、ルートさん、なんか 凄かったね」

「子供の頃から見てるから 何とも思わなくなっちゃったけど、、、」

「あはは、そうなるよね」


 陽気でなくても、笑って過ごせば 往々にして『いい人』として 世間は認識するものである。不機嫌だったり、詰まらなさをアピールすると『変わった人』に分類されてしまう。判断基準は いい加減で曖昧、それも紙一重と言えるが『いい人』と『変わった人』では その後のハロー効果にも影響を及ぼす。愛想は良くしておくに越した事はない。


「不二枚さんって凄いね、ルート叔父さんと共演してたし」

「なんか二人でノリノリだから、笑っちゃったよ」

「キサゴは ああいうのが苦手なんだよね」

「意外だなぁ、イケメン キャラで何でも SJ(最上)にキメそうだけど」

「年季かなぁ… いつか ルート叔父さんみたいになっちゃうのかなぁ」

「それならオレも トリオで共演できる様に 準備しておかなきゃ」


『あはははははは  』


 二人の距離は 今はまだ、少しづつ縮めるだけで良い。やがて 出汁巻 しらす も 少しだけ高鳴るビートに任せていた歩幅を 梅海苔 わらび に合わせてゆくだろう。並んで歩く時にだけ 聞こえるメロディーに惹かれ合うようになる日も そう遠くはない。


 それに 今、若気の至りなのは この二人だけではなく、互いのコンシェルジュも同様なのだから。


 自室に辿り着いた 梅海苔 わらび は、出汁巻 しらす の手料理は美味しかったとはいえ、何だかんだで 怒涛のハンバーグ試食会に 気疲れしてベットで大の字になっていた。


「何か色々あって、疲れたな… 」

「わらび様、今日はお疲れ様でした」

「不二枚 も何であんな歌った事もない様な歌を、」

「別に、ロードするだけで 何でもありませんよ」


「(ふー)毎日見てるんだよ、不二枚の事… 」

「…、少しの変更点を許容したに過ぎません」

「ずっと許容し続けたら、いつか 今の 不二枚 じゃなくなっちゃうの?」

「わかりませんが、それでもコンシェルジュには 変わりませんよ」


「嫌いにならなくても、好きじゃなくなったら、イヤなんだけど」

「……、それは悩んで病みそうです」


「不二枚 でも悩んで病むんだ、お互い様だけど オレは絶対イヤなんだ」

「ほんの少しだけ効く おまじないを知っています」

「うん、寝る前に それ教えてよ」


「照明を落とします」


 互いに求めあう距離がどれくらいかあるのか知る事は永遠にないだろう。


「ウォッチのモニターを見て下さい」


 おまじない というものも どれほどのプラセボ効果を得られるのか……、それは 本人達次第だ。


「おやすみ、不二枚」

「おやすみなさいませ、わらび様」


 けれども、世の中に 古くから知らる逸話程度の 効果はあったのだと信じたい。なんでも、眠り続ける者が目を覚ましたり、掛けられた魔法が解けたりするのだとか。



 出汁巻 しらす も ママの話し相手を務め終えて シャワーを浴びていた。


「ねぇ、キサゴ。 もう少し熱くしてよ」

「こんなものかな、いつもより2℃ほど高めだが」

「今は ちょうどいいよ」


「今日はすまない、またしても 不二枚 さん にしてやられたよ」

「何を?」

「しらす のホームなのに、場を盛り上げて 皆んなを楽しませるのは、」

「皆んなで()()を やってたら 誰が私のこと見ててくれるの?」

「それはオレが、…… 」


「シャンプーしてて目が開けられないの、今ならどんな顔して言ってるのか 見えてないよ」


「しらす を見守るのが、オレの役目だ!」


「流し終わるまでもう少しかかりそうよ」

「しらす を見守るのが、オレの役目だ!」

「何かさっきよりSJに顔もキメてる?」

「しらす を見守るのが、オレの役目だ!」

「いつもの感じに近づいてきたよ」

「しらす を見守るのが、オレの役目だ!」

「・・・」

「・・」

「・」



 それは理屈とかでは説明なんてつかない。大人に聞いても何時だって いい加減な事しか言わない。多分、この二人だっていつかは 心の奥底に仕舞い込んでしまう日が訪れるだろう。きっと他人には理解なんて出来っこない と思うだろう。そうしたら適当なことを言って あしらうのは当然なのかもしれない。


 今は両方大切で どうしようもないから、子供でも大人にもなれないままだいられる。


 この境界線の上を歩く事が出来るのはあと少しだけ。だから 今は肩を並べてゆっくりと歩いていく方が きっと近道になるだろう。



つづく



「カザリナの月」の気まぐれ投稿になりますのでご容赦下さいませ。

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