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あの時からいつもいた彼女(番外の前編)

番外編です

挿絵(By みてみん)



「Hey 不二枚!」

「お呼びでしょうか、わらび様」

「こんなにも不二枚の名を呼びたくなるだなんて……、自分でも」

「ええ、わかります」

「だからって、別に… 不二枚のこと… 都合がいいとかって……、」

「ええ、わかります」

「ちょっとだけ、また見せて欲しくて…、メタいかな?」

「メタいですわ、ネタ切れ… ですか?」


 この冒頭のやり取りで『いちヌケた』と 我 早々に その手を下し終えるのは 如何なものか。『読んで5秒で SEEスルー 』なら致し方ないのでは? そう勘ぐりそうだが、それは早計というものである。チェッカーフラグの その先にある光景を 目を見開きもせずに、ただ細めた薄目使いで見据えるだけの 中堅賢者 を今日も気取るというのか‼︎


 否、本当に見たかったのは その少し先にある シークエンス であろう。


『ええ、わかります』(梅海苔 & 不二枚)



 そんなこんなで あの大停電から2週間が過ぎていた。



「いや、そうじゃない」

「わかりません、具体的に指示して頂かないと」

「察してくれとは言わないけどさ… 」

「わらび様、そんな奥手では 大事なモノを掻っ(さら)われますよ」

「オレは いつだって、ちゃんとお互いを確認しあってから、」

「他の相手は わらび 様の準備を待ってはくれません」


 焦れったい。だからって、いつだって()()という訳じゃない。ただ自分の性質に任せて行動すれば結果的に()()()()事が多いってだけだ。昔から 好きな物を最後に食べようと残しておいたのに 誰かと半分こする。今更そんな事 不二枚 しじみ に 指摘されるまでもない。


「わらび様、このまま、」

「不二枚、待ってくれッ」


「──── ─ ─── ─ ─ 」


[オイ、梅男(バイオ)! また俺の勝ちだぞー]

「くっ、へこむ…め」

[しじみ殿、今日のプレイ時間は ここまでという事で]

「了解しました、とつる殿」

[しじみ ちゃん さー、今度 梅男 抜きでプレイしようよ]

「へこむ様が 私めを プレイアブルするには トンネル(VPN)の開通から はじめないと」


[ええ、わかります]


「お前も わかんのかよ‼︎」(梅海苔ソロ)



 ネッ友の通称:へこむ は、16歳の男の子。ネット社会は不思議なほど国籍や年齢を意識させない。AIコシェルジュと地声を使ったリアルタイム合成翻訳のおかげで、現実の社会よりも遥かに世界は地続きで、知識と地位を平坦にしてしまった。


 そう、だからこそ 人が人に求めるものは もっとシンプルなものになる。



「わらび様、出汁巻 様から言伝の件、如何なさいますか」

「うーん、ちょっと悩んでる」

「サークル活動に ご興味が無いのは聞くまでもありませんが、」

「よりによってオーランとかね」

「放っておくと他の男性に気移りしてしまいますよ」

「そのためだとしても 好きでもない事に時間を割くのは」

「好きな人と仲良く過ごすがために 差し出す時間ですよ」


 梅海苔 わらび が 渋るのは 案外当然なのかもしれない。別に皆んなの前で 出汁巻 しらす と公認の仲になりたい訳ではない。


 出汁巻 しらす とは、大学に入ってから知り合ったので 旧知という訳ではない。距離が縮まると 出汁巻 しらす の 外見や性格をなぞっていた針先は、無意識であったとしても 彼女を知らなかった時間を記録したレコードの溝へと差し込んで その音を聴いてしまう。


 意外でもなく受取り側 次第の事ではあるが、出汁巻 しらす は温厚で柔らかい口調なのは性格であり 性質ではない。彼女は本質的に 積極的に人が集まる所へ赴き、気が想う所へと動いて積極的に働きかけていく。言わずもがな モテる人 の典型であり、不二枚 しじみ と真逆の存在だと言える。


 梅海苔 わらび も消極的という訳ではなく 大勢でワイワイする事や、沢山の予定で埋めるのが好きではないだけである。特定の仲にある人か、二度と会うことのない人に対しては 至ってポジティブだ。


 他人に時間を消費される事を良しとはせず、単に個人的な時間が好きなだけ。ポジティブ民に言わせれば マイペース なネガティブ民として 一括りにされる類いの人である。



「良いのですか? 断って」

「入りたくなってからで良いよ」

「近くに居ないと 出汁巻 様も他の男性に気移りしますよ」

「そしたら慰めてよ」

「前売り券は御座いません。当日の私めを お求め下さい」


「不二枚、今日はもう寝たいから このアルバムのASMRしてよ」

[じゃぁ 聞 い て く れ る か な 最新アルバムから ・・・]


 梅海苔 わらび は好きなアーティストの曲の歌詞、映画や小説、ドラマなどを 不二枚 しじみ のASMRを聴きながら寝落ちするのが習慣化している。睡眠の質を完全コントロールされている事もあって 梅海苔 わらび は、モーツァルトを聴かせて育てる 音楽栽培 された『草食系女子にさえ食われてしまう植物系男子』の様なものである。


 仙人みたいにも聞こえるが そんなことはない、ただの良質な雑草だ。


「朝です。起きて下さい、わらび様」

「うん、(ふぁぁ〜ぁ)」

「今日の講義は出なくても支障はありません、如何なされますか?」

「そうだなぁ、久しぶりにセンター街の本屋でも行ってみるかな」


 相変わらず外の世界は 人と人が ぶつかる位に距離が近くても、挨拶すらしない 関わる必要もない人達だらけだ。彼女からのメッセージは ネットの中の混雑に どれ位ぶつかってから手元に届いているのだろう… 。


【受信】今日、講義に来ないの?

 うん、センター街の本屋に行くから【送信】

【受信】サークル 入らないんだね

 やっておきたい事があるから【送信】

【受信】どんなコト?

 自分だけで出来るコトを探してて【送信】

【受信】例えば?

 料理を作ってみるとか【送信】

【受信】今晩、梅海苔くんの家に集合していい?

 まだ食べさせられないよ【送信】

【受信】今日、夕飯食べれないよー

 ゴメン【送信】



 そなやり取りがあったものの、出汁巻 しらす の『今日、絶対行くからね』で締め括られた。


「Hey 不二枚!」

「お呼びでしょうか、わらび様」

「あのさ、料理作る事になっちゃってさ」

「早めに言って頂ければ、わらび様の心の隙間に蒸した私のレ、」

「出汁巻 が来るんだ、今夜食べに」

「ウブな仮面の下には、そんな食物連鎖の呪いが」

「ナニ作ろうか」

「わらび様、これは まさかの共同作業 導入編では… 」

「・・・、うーん、(ふー)」


 これは 適当に喋ったら 何故か()()に食いつかれたという謎体験の一つ。梅海苔 わらび はセンター街の本屋で購入した『図解 化石になるために』はお預けとなった。後に()()は歪曲された 不二枚ASMR の餌食となってしまう。


 不二枚 しじみ に言われるがまま 食材を購入した 梅海苔 わらび はマンションへと戻ってきた。


「Hey 不二枚!」

「お呼びでしょうか、わらび様」

「とっておきって何? 食材からして、カレー、肉じゃが、豚汁、ぽいけど」

「ロシアンジャーマン・♡ン・デッドポテト、ロシアとジャーマンの融合が独、」

「そうゆう、ヤバい のは いいから」

「絶対盛り上がって 二人の思い出になりますよ」


「不二枚、、、他のレシピは?」

「刺激はありませんが トルティージャ が良いかと」

「それはどんな料理なの?」

「情熱的なスペインのオムレツ料理です」

「分かった。やってみるよ」

「情熱は バリカタ、カタ、普通、ヤワ、ヘニャ からお選び下さい」

「どうせ普通ですよ、オレが選ぶのは」

「下ごしらえ だけ済ませておいて、お二人で焼けば それが隠し味になります」


 それから準備を済ませて 出汁巻 しらす が訪れるのを 今か今かとウロウロしながら 待ち惚ける 梅海苔 わらび だった。2回目以降は、このスキップ不可能な OPムービーとも言える待ち時間は 何とも言えない イライラさせる演出となる。


「キサゴ殿から『家を出た』と連絡があったばかりですよ」

「わかってるよ」

「お迎えは要らないと言われれば 待つより他に、」

「駅のホームで立つのと一緒、何にも出来ないんだけど」

「音楽でも聴きますか?」

「何かさ、残りの待ち時間が分かって面白いのない?」

「ありますよ」


 不二枚 しじみ が、コスプレ姿で登場しダンスをはじめた。


「ちょっと待ってね あと少しだよ  01%」

「ちょっと待ってね あと少しだよ  17%」

「ちょっと待ってね あと少しだよ  45%」

「ちょっと待ってね あと少しだよ  77%」

「ちょっと待ってね あと少しだよ  92%」

「ちょっと待ってね あと少しだよ  99%」

「ちょっと待ってね あと少しだよ  99%」

「ちょっと待ってね あと少しだよ  99%」

「ちょっと待ってね あと少しだよ  99%」

「・・・」

「・・」

「・」



 不二枚 しじみ が 99% から進まずに繰り返している。99%からが 待ち時間本番のアレである。



「ええ、わかります」



後編につづく


番外編として 前・後 に小さく纏めたストーリーを書いています。

後編も引き続き ご愛読下さいませ。


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