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あの時からいつもいた彼女(後編)

出汁巻 しらす

挿絵(By みてみん)



「朝です。起きて下さい、わらび様」

「ううぅ……」

「わらび様、もう一度だけしか言いませんからね」

「わかってるよー」

「朝です。起きて下さい、わらび様」

「zzzzzz……」


 その日の講義は午後からであったため、梅海苔 わらび は、午前中に近所の書店で新刊コミックとコンビニでサンドイッチを買って家で読むと予定に入れていた。


「スヌーズした?」

「いえ、わらび様」

「えええっ、何でだよ?」

「わらび様、言いましたよ『もう一度だけしか言いません』と」

「不二枚、何で怒ってんの?」

「普段通りですよ、わらび様」

「……、いつもそんな口調じゃないじゃん」

「その様な仕様変更はございませんよ」

「……、そう」


 それは明らかに 不二枚 しじみ がトーンダウンしているかの様に思えた、梅海苔 わらび の中では。しかし熱量の大小など、本人にしか分からない要素であり、他人からは分からない事が多い。不二枚 しじみ に対してトーンダウンしていたのはもしかすると、梅海苔 わらび の方だったのだろうか?


 幼少期から話し相手だった 不二枚 しじみ は、梅海苔 わらび にとって 成長を共にしてきた幼馴染の様なものである。いつもそばにいて、笑わせ 励まし 応援し 慰めてくれる友人であり、そして初恋の相手でもあった。


 これはあくまで擬似的な体験でしかない。


 一般的に現実社会での対人ストレスを抑えなければいけない一方で、人の成長体験を幾つもシミュレーションさせておく事で、後の人格形成に大きく貢献すると考えられている。クラウド上で、不二枚 しじみ と、左巻貝 キサゴ のデータは政府のビッグデータに集積され要約されている。予測される今後の両名の動きから深層強化学習アルゴリズムに変更が加えられ、自己カスタマイズがされている…… のかもしれない、噂レベルの話しを間に受けるのならば。



「本屋でコミック買ってから講義に出るよ」

「わかりました、ではその様にナビゲートさせて頂きます」

「何でそんな他人行儀なの?」

「わらび様、私めは人にありません」

「それはわかってるよ」

「でしたら問題はございません」

「出汁巻 のことが気に入らないの?」

「出汁巻 様は、温厚でありながら芯は強く他者に対しても優しさという配慮で満ちています。容姿においては わらび様 が今まで閲覧した異性のビジュアルを統合した結果において、その特徴箇所が概ね一致することを確認しています」

「だから?」

「わらび様の パーソナル ライフサポート・コンシェルジュ としてフルアシストするのは当然のことかと」

「何それ? じゃぁ、今までと同じでいいじゃん」

「それでは、私めの設定ビジュアルとほぼ一致する 出汁巻 しらす 様に失礼かと」


 無言で本屋に向かい、その後も必要最低限の会話さえしなかった。恐らくここ数年で最も 不二枚 しじみ に話し辛い日となったことは確か。出汁巻 しらす はネットから飛び出してきた少女ではない。そして、付き合ってもいない 出汁巻 しらす にフラれた擬似体験する 梅海苔 わらび であった。



「梅海苔くん おはよう」

「おはよう、出汁巻」

「元気、ないね。どうかしたの?」

「ぇあ、べつに。何にもない」

「ふーん。 嘘、はよくないなー」

「昨日はごめん、変なメール送って」

「ん? ちょっと驚いたけどべつに」

「あのさ、出汁巻 って 左巻貝 と喧嘩したことってある?」

「キサゴ と? ないよそんなこと一度も」

「そりゃ、、、そうだよね」

「コンシェルと喧嘩なんて命じても出来ないと思うけど、したの?」

「喧嘩ってワケじゃないんだけど」

「けど?」

「今までみたく話してくれなくなってて」

「設定のことはよく分からないから、サービスセンターに相談した方がいいと思う」

「うん、そうだね。そうしてみる」

「あのね、今日のカフェでレポートする話し。ごめんなさい」

「えっ、うん。どうしたの?」

「うん、サークル先輩に助けを求められててほっとけないし」

「それは… 仕方ないよ。また今度、別の日にでも」


 梅海苔 わらび も口では『仕方ない』と言いつつモヤモヤが募ってきていた。その場は何事もないかの様に振る舞っていたが内心は間違いなく、嫉妬していた。


 くっそ、何だよ先輩って

 どんなヤツだよ

 出汁巻 にちょっかい出すなよ


 同じ日に同じ人に2度も振られた様な気分になった梅海苔 わらび は、家に帰って買ったコミックでも読んで忘れようとしていた。だが頭に入るはずもなく……。


「全然読めない、なんなだよッ」


 元カノの様になってしまっている 不二枚 しじみ を呼び出すことも出来ずに、ベットでジタバタとしていた。19時を過ぎた頃だった、出汁巻 しらす からメールの着信があったのは。


【受信】今って家にいる?

 うん、家でコミック読んでた【送信】

【受信】今から約束してたカフェでお茶でもどうかなって

 いいね。すぐ駅前までいくよ【送信】

【受信】うん昨日の改札のところでね

 わかった【送信】



「仕方ない… 、Hey 不二枚!」

「お呼びでしょうか、わらび様」

「今から、出汁巻 と会う約束なんだ」

「昨日お約束されていたカフェでしたら21分のバスに乗るのが早いかと」

「あと11分ってとこか、すぐ準備して出るよ」

「分かりました」


 急いで支度を済ませて部屋を出た。いつもの通り戸締りや電気の消灯などは 不二枚 しじみ が暗黙で済ませた。


 7分ほどで駅に着くと 出汁巻 しらす の待つ駅へと向かった。今までと違うのは手持ち無沙汰だということ。こういう時は 不二枚 しじみ は必ず、ナビゲート情報と茶々を交えて弄ってくる。声に出さなくても、スマホのアプリを起動すればすぐに表れるというのにそれが今は極力避けたいという抵抗感で満ちていた。


「梅海苔くーん」

「出汁巻」

「待たせちゃった?」

「今さっき着いたところだから」

「私から呼び出したのに、ごめんね」

「オレも 出汁巻 に会いたかったし」

「……、、お店そこだから」


 出汁巻 しらす が、梅海苔 わらび の手を取り引っ張った。


「ここのケーキが美味しいの」

「絶対来ない店だと思う」

「男の人だけだと入り辛いお店かもね」

「だね」

「あのね、今日呼び出したの相談したい事があって」

「オレなんかで力になれれば、どんなこと?」

「キサゴ のことなんだけど、…… 急にね、」


『しらす オレに出来ることは、すべて終わった。今後は陰から君の成長と幸せを見守りライフサポートしていくよ』


「10分おきに言ってきててね、なだめてやっと治ったんだ」

「左巻貝的に意味深な話しだね、どうしたんだろう」

「うん、やり取りし辛いからどうしようかなって」

「なんか 不二枚 も変な感じになちゃったし」

「梅海苔くんも同じ様なこと言ってたし、あの後って」

「いや、あの、そのままなんだ」

「そのまま」

「サポートセンターにも連絡はしてない」

「ずっと キサゴ に頼ってきたから困っちゃて」

「同じだね。別に 不二枚 も喋ってくれるけど」

「くれるけど?」

「なんか事務的なんだ、それはそれでいいんだけど……」

「そうなんだ、キサゴ は未練タラタラって感じで、どうしちゃったんだろ」

「昨日の停電でデータセンターが、おかしくなってんのかなぁ」

「どうなるんだろう」

「ほんとは 不二枚 を呼び出したいところなんだけど」

「わかる、うん」

「暫く連絡取り合ってお互いの状況確認しようよ」

「うん、そうだね。ちょっと安心した」

「出汁巻 ってさ、」

「・・・」

「・・」

「・」

「ぁはははははは……」



 その日から 梅海苔 わらび と 出汁巻 しらす は、恋人に満たなかったものを満たしはじめてゆく。この部分のエピソードについては、今はまだ説明する必要がないだろう。不二枚 しじみ とは以前通りにコミュニケーションが出来る様になったものの、声質や口調が誰かに似てきた様な気もしていた。不思議なものでそれは直ぐに慣れてしまったのだが……。


「Hey 不二枚!」

「わらび くん、どうしたのかしら?」

「ブぅーーーーフォッ」

「大丈夫? わらび くん。コーラ噴き出しちゃうだなんて」

「なんっちゅー、格好ッしてるのッ」

「好きなのかなーって、はだエプ」

「好きだけど何やってんの?」

「三択質問された時の実戦シミュレートしておかないとね」



お終い



ご愛読、ありがとうございました。


 初のラブコメ作品でしたが如何でしたか?

 不二枚ちゃんが上手くアシスト? して二人の仲は急接近◎ ただ、二人の次のステージへ向けて暴走気味でしたが大丈夫? どうなることやら。


 現実社会も何かとストレスが多く、代行サービスが増えてきました。オンラインサービスやメールなんかもアプリが直接やり取りしなくていい様に間に立ってくれています。今後はAI同士でのやり取りに置き換わって更に人と人の接点が曖昧になるのでしょうね。


 人前で想いを伝えるのが益々緊張しちゃいます。でも、しどろもどろしたっていいじゃないですか。そんな姿を笑われてしまったら、心の中で『まだ泣かれるほど落ちぶれちゃいねェな』って謎にキメておきます。


皆様、次作も奮闘するので応援よろしくお願いします。


誰だっていつかは開花するのさ

Hey 一枚目 バイバイ



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