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あの時からいつもいた彼女(中編)

梅海苔 わらび

挿絵(By みてみん)



「出汁巻、先に食べようか」

「うん、お腹空いてたんだ」

「コップとか皿とか準備するよ」

「私も手伝うね」

「あれここじゃないな、フォークはどこに隠してるの?」

「あははは、そこじゃないよ、こっちの引き出し」


 ここまでの流れヨシッ‼︎ 思わずそう言ってしまいたい。が、そうもいかない。不二枚 はともかく、この 左巻貝 もかなりのフリークである。もはや円熟した専属AIの宿命とでもいうべきかの動作不良ならぬ、過剰動作。


「あのさ 不二枚。バックグラウンドに回っててよ」

「私めにはバックグラウンドなどなく、すべては わらび様のフォアグランドに、」

「そういうのいいから」

「キサゴ もずっとモニターに映られると」

「ままままさか、しらす がこのオレに裏へ回れと」

「意外な展開なんですね、左巻貝のキサゴ殿」

「不二枚もだよ早く、映画見るんだからさ」

「二人とも、モニターを占領しないでください」



 家電機器を操作されるってどんな気持ち? そう思うのは早計である。最早、機器にボタンすら無いものもザラとなった。どんなに複雑な操作であっても説明書要らずで故障もし辛く、不使用部材の多さや再資源化のし易さなどコスパは非常に高い。モノというものはシンプルで ツルぅん としている程、洗練されて高度に見える。このことは古の幼少期より色んな場面で出くわし、刷り込まれてきているから確かなはずである。それならば何故に我々は、凹凸を求めるのだろうか。


「この映画の主人公とヒロインってあの後どうなったんだろう」

「うん、なんか途中で切なくなっちゃて」

「ッあ、これ使って 出汁巻」

「ありがとう」


『ごちそうさまー』

「シンクに突っ込んどいてよ」

「私が洗うから 梅海苔くんは座ってて」



 もう 二人が安全に行動できる範囲はかなり削られて、APF(※必ずお読み下さい 前編APFの項参照)はかなり狭い範囲に絞られたと言っていい。そしてこの状況は、出汁巻 しらす のターンのロールプレイ。その事を忘れてはいけない。そして、梅海苔 わらび もサイドバイサイドを意識するかの様に普段なら食洗機に皿やコップを入れっぱなして終えるが、今日に限ってそんな合理性を発揮しない、あと必要なのは……。


「あれ、停電かな?」

「うん、電気が消えたね」

「ブレーカーかな。見てくるよ」

「私も行く、おいていかないで」

「こっちこっち」

「真っ暗で見えない」


 ブレーカーの位置は、洗面所&風呂場という密室にある。前にブレーカーが落ちた時は高すぎるその場所に文句を言っていたものの、今に限って言えばこのギミックは、周回プレイヤーにしか分からない絶妙な位置にあると言って過言ではない。


「あれなんだけど、高いんだ」

「ほんとだ、どうしよう」

「オレ、しゃがむからさ。出汁巻 が上に乗ってよ」

「えーーっ」

「大丈夫だって」

「重いからイヤだよー」

「重くないって」

「うーっ」

「兎に角、ブレーカーを見て欲しい」

「…… わかった」

「気を付けてね、大丈夫」

「ぅうん、蓋、開けたけど全部 大丈夫そうだよ」

「ブレーカーじゃないのかな」

「あれっ、電気ついたよ」


 ガチャ


「うん? 洗面所のドアが閉まった」


 バチンッ ────


「また停電したッ」

「あれ、ドアのロック掛かっちゃってるよ、どうしよう」

「大丈夫、すぐつくよ」

「うん」


 この時、この地域一帯で事故による大規模な停電が発生いていた事を、外を巡回するパトカーのアナウンスで知った。地区毎に順次復旧する様だが、アナウンスではどれくらい時間がかかるのか見通しもつかない。やむを得ない状況に、梅海苔 わらび は、左手のスマートウォッチに呼びかけた。


「Hey 不二枚!」

「お呼びでしょうか、わらび様」

「今、停電中なんだ。状況がどうなってるか知りたい」

「二人でお風呂場? まさか、お父様のランチパックでご子息様への愛を、」

「違うの違うの、ブレーカーを上げにきたら、」

「不二枚‼︎ バッテリーが持たない。急いでるんだ今どうなってる」

「わらび様。地域一帯、大規模な停電で、」

「それは知ってる。復旧の見通しは?」

「地区毎に順次復旧する意外は情報が、」

「そうか。時計の通信が生きてるから基地局は大丈夫そうだな。不二枚、スマホからコンタクトしてくれ」

「分かりました」

「どうしようって思ったけど、梅海苔君って頼りになるね」


「聞こえていますか、わらび様」

「ああ、ちょっと音が遠いけど大丈夫だ。電池が切れたらマズイ、何かわかるまで省電力に切り替え待機してて」

「しらすーッ、聞こえてるいかーッ? オレだ キサゴ だッ」

「聞こえてるよー。私は大丈夫だからー」

「しらす、くっそ。こんな時にオレのライフゲージが、」

「待機にしてていいよー」


 それから2分もしないうちに 左巻貝 は星になった。


「くっ⁉︎ ここまでか…… しらす、最後に聞いて欲しい」

「今そういうのいらないからー」


「なんとなく 不二枚 に似てるな」

「そうだね」

『あははははははははは──── 』


「あっ、そうだコインがあれば内側からは手動で鍵回せるんだった」

「そうなの?」

「コインか、それくらいの厚みの硬い物があれば」

「いいよ、無理に開けなくても」

「出汁巻… 」

「梅海苔くん」


「わらび様、新着情報です」

「ぬっ、不二枚。バッテリーが無くなるからこっちには」

「わらび様、こちらの電源が落ちてからスマホに切り替えます」

「不二枚さん、スマホの充電は大丈夫なんですか?」

「ウオッチ共々、残量はほぼフルですから、ご安心を しらす様」

「どんな新着? 不二枚」

「都市熾天DLC ver 2.1.1 の配布が明日の23時に延期になった模様です」

「不二枚、、、、絶対に許さないからな」

「梅海苔くん、不二枚さんも元気づけるために言ってくれてるだけだし、ね」

「出汁巻 は呑気だな〜 ははは」


 この後、15分後にこの地区の停電は解消された。


「コーヒー入れたから、飲んだら送っていくよ」

「うん、ありがとう」

「スマホの充電も半分はいくんじゃないの?」

「そうだね、ありがと」

「なんかレポートどころじゃなかったな」

「明日、私の家の駅近くのカフェでしない」

「うん、いいね」


 出汁巻 しらす の住まう最寄り駅まで送っていくとトンボ返りで戻る様にして電車に乗り込んだ。


 【受信】今日はありがとう

 久しぶりにいっぱい喋ったよ【送信】

 【受信】私も

 まさか停電するとはね【送信】

 【受信】そうだね、でもちょと楽しかったかも

 一緒にいてくれてたから心強かったよ【送信】

 【受信】いつでも一緒だよっ

 【既読】

 【受信】ううん、私の方こそ

 駅からは遠いの? 疲れてない?【送信】

 【受信】いつも一緒だから距離なんて関係ないの

 【既読】

 【受信】今、バスに乗ったところ

 色々あったし今日はゆっくり休んで【送信】

 【受信】家に着いたらメールするね

 【受信】あなた側なら疲れなんて

 いい加減しろよ【送信】

 「やべッ、間違った」

 【受信】どうしたの? 梅海苔くん

 ごめん、別のメールとごっちゃになって【送信】

 【受信】この気持ちどう伝えたらいいのか

 【既読】

 オレの方が疲れてるみたいだからまた後で【送信】

 【受信】うん、いつでも

 【受信】うん、あとでね


「hej 不二枚、、、、っっ」

「お呼びでしょうか、…… わらび… 様」



 この日起きた停電は 梅海苔 わらび が家につく頃にはすっかり解消されて、いつもと変わらない夜を取り戻していた。部屋に戻った 梅海苔 わらび は、出汁巻 しらす が座っていたクッションの隣りに座って、いつもそこに居る人がちょっと席を立っているかの様な雰囲気に嬉しさを噛み締めていた。


「出汁巻 からメールも来たし、今日はもう寝るかな」

「わらび様、では室内環境を就寝モードにします」

「……、ふぅ。 歩いたし疲れたな」

「照明を落とします」

「同じ暗さでも、つけられると分かっていたら何とも思わないな」

「非常電源が設置された部屋にしておくべきでした」

「そういう意味じゃないよ、不二枚」

「わらび様が点けれない場所にいたのなら、私めが点けなければ、」

「不二枚 が居ても居なくてもって話しだよ」

「それでしたら尚更、非常電源が設置されていた方が、」

「いつ開くかも分からないのにドキドキしたんだ」

「通信により応援要請することは わらび様の不本意かと」

「閉まっちゃってたドアを開けてようとした時、出汁巻 が言ったんだ」


 いいよ、無理に開けなくても


「オレのしようとした事と まったくの反対のことをね」


 このまま開かなくてもいいな


「反対側を覗いてみたら、そっちも良いかなって気になった」

「反対側? 位置的には玄関側になるかと。そちらに何が、」

「おやすみ、不二枚」

「おやすみなさいませ、わらび様」



後編につづく



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