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第一章1話 「目醒め」

「ふわぁ……ん?」


 目が覚めた私は、真っ暗な場所にいた。


「ここは、どこ?」


 何も見えないので、とりあえず辺りに手を伸ばして周囲を探ってみる。


 すると、そこにはごつごつとした岩肌があった。どうやらここは洞窟のような場所みたいだ。


 さらに周囲の様子を確かめようとすると、ドレスのようなボロボロの布を身にまとっていることに気が付いた。ひらひらしたフリルが邪魔で歩きにくいと思ったので、スカートの裾を少しばかり破ってしまうことにする。


 力いっぱい引っ張り、ビリビリと千切っていく。ひとまず破ったものを懐に入れて、やっとの思いで一歩を踏み出す。


「いてっ」


 素足のため、砕けたような岩が散らばっている地面を歩くと少々痛い。


 耳を澄ますと、ピチャ、ピチャと水滴の落ちる音も聞こえてくる。


 暗闇の中だからか、足の先から頭のてっぺんまで冷えた空気がひんやりと肌を撫でてくる。


 それと、さっきからなんだか変だ。




 ―――――今の私には、何も無い。




 私が私であるという認識以外、何も分からないのだ。


 無意識のどこかでは、いつもと違う場所、いつもと違う目覚めを感じてはいるが、私がどこの誰で、今の今まで何をしてきたのか、なぜこんな洞窟で目が覚めたのか何も分からない。


 記憶を辿ろうとするたびに、頭の中に奇妙な痺れが走り思考を妨げる。


 何はともあれ、まずはここを出なければ話にならないだろう。手探りをしながら思い切って進んで行くことにした。


 進んでいく中で気づいたことがある。それは目が覚めた場所が一つの部屋だったということだ。ただ、そこが部屋だというには何も無さすぎるため、正確には部屋とは呼べたものでは無いのかもしれない。



 暗闇の中、さらに壁を伝いながらしばらく進むと、そこには先ほどとは違う大きな扉が聳え立っていた。私の身長では扉の半分にも満たないほど大きな扉だ。扉には特徴的な模様が描かれていて、どこかで見たことがある気がするが今気にしている余裕は無い。


「ふんっ! おりゃっ! ……ビクともしないわね」


 ひとまず何も考えずに押してみるも、重すぎて私の力ではとてもじゃないが開けられそうにない。そういえば少し引き返したところに別の道があったはずだ。一度そこまで引き返してみよう。


 もう一方の道まで戻り改めて進んで行く。先ほどの道とは違い、やけに空気が澄んでいるように感じる。若干ではあるが空気の流れもあるようだ。もしかすると外に繋がっている道なのか、と少し期待が膨らむ。



 さらに進んで行くと、岩肌の天井にある小さな割れ目から、わずかながらに日の光が漏れている少し開けた場所に出た。


 なんだか幻想的なその場所は少し生活感が残っており、ちょっと前まで誰かが住んでいたのではないかと思えるほど設備が整っていた。


 寝床にテーブル、イスに火起こし道具まで揃っている。寝床は藁で出来ていたり、テーブルなどは岩を掘って作られたようだが、使う分には問題ない程度の完成度だ。


「ちょっとだけ……ちょっとだけなんだから」


 藁の寝床へと導かれるように横になる。ごつごつとした地面で寝ていたせいか、実は身体の節々がちょっと痛かったのだ。


 ちょっと横になるだけだし何も問題ない、直ぐにまた外に向けて進んで行くんだから。


 そう思いながらも、目を閉じるとそこは夢の世界だった。





◇ ◇ ◇


 俺は今、とても困惑している。


 数日分蓄えていた食料が底をついたため、食料探しにしばらく拠点を空けていたのだが、その間にどこかから女の子の子供が紛れ込んで寝床で寝ているのだ。


「どうしたもんか……」


 女の子を見つめながら「ふむ……」と唸る。


 彼女の身長は百三十センチほどで、腰まで届くほどの銀髪はまるで白銀のように輝いている。服装を含め体はボロボロな様子、よほど疲れていたのかぐっすりと寝てしまっている。


 しばらく考えたが、まあ特に害があるわけでもあるまいし、そのままにしておいても問題無いだろうと判断した。起きた時にでも色々と話を聞いてみることにしよう。


 先ほど起きた()()も気になる事だし、先ずはその調査が先決であろう。



 ……()()。ここ最近頻発しているその地震は、十年ほど前から発生し始めてから年々発生間隔が短くなってきており、新聖都近郊で生活する上では少々不安材料となりつつある問題だ。


 聖都にある協会伝手に母親からの依頼もあり、どこかのタイミングでちゃんと調査したいと思ってはいたが、震源地だと予想された地点はとても頑丈な岩に覆われており調査が不可能だったため、揺れの発生時にその周囲を都度確認する形で調査を行っている。


 調査へと出立の朝、母は「最奥(さいおう)の部屋には十分に気を配るように」と言っていたが、そのことについては未だに進展が無いままだ。


 今日もいつもの周辺調査だ。地震が起きた日の昼には、ランタンを手に持ちながら、いつもの調査道具一式を背負って調査へと向かう。


 ただ今回の揺れは少しだけ大きかったような気がしているため、何かしら変化があることを少しばかり期待している。


----------


「こりゃあ想定外だぜ……」


 するとどうして、岩壁が崩れているではないか。


 口が開いたまま驚きに目が離せなくなっている中、不意に母親の書記にあった言葉の一部を思い出した。


『最奥の部屋が解放される刻、古き忘却姫が再び目覚めるだろう』


 この書記は、五十年ほど前に起きた事件【(つき)災禍(さいか)】と呼ばれる災害の日の夜以降から書き始めたものだそうだ。とても被害の大きかった悲惨な災害だと聞いているし、ページの所々が濡れて波打っているのを見ても、涙ながらにこの書記を綴ったことは想像に難くない。


 母に何度か実際に何が起っていたのか聞いたことがあるが、未だに教えてくれない。


 聞くたび、少し口を噤みながら「……今はどこから情報が漏れるか分からないの、ごめんね」と、逆に気になるような事を言ってくる始末だ。変わりといってはなんだが、この書記は自由に読ませてもらっていた。好奇心が勝り何度も読んでいる内にそのまま持ってきてしまったが、母は知らない……と俺は思っている。


 まだ都に住んでいた頃の母とのやりとりを思い出しながら、改めて鞄から書記を取り出して一文を読んだ。


「……忘却姫ってのは何を指してるんだ?」


 姫と言われても、ここは明らかに人の気配は皆無の小部屋だ。


 ひとまず辺りを調べ終えたので戻ることにしよう。



 拠点への帰り道、書記に記されていた『忘却姫』についてしばらく考えていたが、やはり先ほどの少女が気にかかっている。拠点へと着いたら、どこから来たのか、なぜこんな新聖都とは離れた辺境の地にいるのか、色々と聞かなければならないだろう。


 色々と聞くことを決めながら、しばらくして拠点まで着いた。


 ―――――だが、そこに寝ていた少女の姿は既に無かった。


◇ ◇ ◇


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