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「第一話 大勇者の誕生」-18

カレン 十五歳

黒髪ロングの清楚な美人系少女。身長は178cm。

[最近あったこと]:白髪交じりだった髪の毛が黒髪だけになった。

オイキャス 十五歳

黒髪、黒目の主人公。

[最近あったこと]:婚約していた彼女から急にノーを突き付けられた。

シオノ

カレンの推し。

[最近あったこと]:カレンちゃんの様子がおかしい……笑。

 さらに一週間が過ぎた。

 今日も粘土を採取していた。

「はぁはぁはぁ……」

 疲れは如実(にょじつ)に表れ、とうの昔に限界は迎えていた。

 朝は起きればすぐに準備をしなければならない時間になり、夜は帰ればすぐに意識を失うように寝る。食事は移動しているときにパンを軽く食べるのみだった。

「よしおまえらぁ!昼休憩だぁ!」

 三人はその声を聞いても作業を続けた。昼に休憩していては課せられた量の作業が終わらない。事件からもカレン達は何度も採掘ギルドの代表に訴えたが知らない顔をされた。この一週間で作業量はむしろ多くなっていた。一度指定された作業量をこなせなかったときシオノがまた暴力を振るわれた、反撃をしようとしたが駄目だった。カレン達の抵抗(ていこう)する気力はなくなっていた。ただ作業に没頭(ぼっとう)するしかできなかった。

「おい……あんたら大丈夫か?」

 作業で(よご)れた顔をして近寄ってきた男はどこか心配した様子だった。

「大丈夫だから話しかけない方がいいよ……」

 自分達の置かれている状況を見て拒絶するカレン。

「まぁそういうなって」

 面倒くさいと同時に能天気(のうてんき)な男だと思った。

「……そういえば見ない顔ね」

 話しかけてきた二十代後半ぐらいの茶色の短髪男をカレンは知らなかった。

「わりぃ、自己紹介が遅れた。俺はクゥチャラ。一昨日この採掘ギルドに登録をしたばかりの者だ」

 カレンほどではない長身の男は筋肉質ではなくむしろやせ型で頼りないぐらいの細さ。顔はサルのようなだった。

「そうだったのね、それなら見た事ないわ」

「よろしく」

 握手を求めてきた手を見る、周りを見て誰もいないことを確認し、もう一度求められた手を見た。カレンはしばらく考えたが男の目を見て首を振り拒絶した。

「さっきも言ったけど私達に話しかけない方がいい」

「どうしてだ?」

「私達もよくわからない。なぜか目の(かたき)にされている。初日から」

「誰から?」

「代表からかな……」

「あの代表から?」

「あの代表って……」

 二回ほど拒絶の意志を出したのに話を続けてくるクゥチャラに鬱陶(うっとう)しさを感じつつも会話をやめない自分の弱さに気付くカレン。

「あんたらいつもこの量やっているのか?」

「そうね、ここ一週間はずっと」

「おいおい、あんたらって冒険者ギルドだよな?」

「そうね」

「冒険者ギルドだとこの粘土採取のクエストは三日で終わるぞ……」

「そんなのもう知っている」

「じゃあなんで?」

「知らない。何度も聞いた、『どうして私達だけこんなに長いの』って、けど教えてもらえるどころか『俺に(たて)突くのか』って仲間がぼこぼこにやられたのよ……」

 カレン達はすでに自分たちがやっているクエストは三日で終わることを知っている。しかし三人は二週間過ぎても終わってない。

「あの代表に?」

「そう、あの代表に」

 どうやらカレンとクゥチャラの間には採掘ギルドの代表への印象が乖離(かいり)しているようだ。

「どうなってんだよ……」

「そんなの私達が聞きたい」

 クゥチャラは何か考えた様子で、

「……わかった。今日代表にそれとなく聞いてみるわ」

「……やめた方がいい、何をされるか分からない」

「まぁ心配すんなって。俺はこれでも人付き合いはうまい方だから!」

 クゥチャラは笑いながら「心配するな」と言った。

 カレンは迷う、三人のことにこの人を巻き込んでもいいのかと。しかしどうやっても停滞したこの状況を打開するためには何かの変化が必要なことは分かっていた。

 カレンは断腸の思いで、クゥチャラに頼る決断をする。

「……それなら頼りにしてもいいかしら?」

 お願いしますと頭を下げるカレン。頭を下げた時、少しだけよろけてしまう。

「おっとっと」と言いながら支えてくれたクゥチャラは、ニコッ、と笑いながら、

「おう!」と答えた。

「でも……、なんでそんな、初めて会った人達にそこまでできるの?」

「実は俺元々は冒険者やってたんだけどパーティーが解散して、一人でやっていくには実力がないと分かって、それで世話になった代表のいるこのギルドに来たんだ」

「そうだったの……」

「そう。けど久しぶりに来てみたら空気がどんよりしていて周りを見てみたらあんたらが居てな」

「……」

「実は昨日から気になってたんだ。これだけの作業を課せられてるあんたらが心配でな。それにあの人がここまでするのは気になって。だから、なんだ、自分のためだ」

「自分のため?」

「そう。俺が気になっていることを勝手に解決するため」

「そう……」

「そういう事だからあんたらは気負わなくていい」

「じゃあ、お願いするわ」

 カレンはクゥチャラの建前に(すが)った。申し訳なさを感じつつ自分達の弱さを(なげ)く。強ければ人に頼らずに済んだ。


 作業は終わり、帰りにクゥチャラと目が合うと親ゆびを立て大丈夫だとアピールされた。期待したい気持ちもある、ありがたみも感じている。だがどうしてもうまくいかないだろうと思っている自分もいたためカレンは過度に期待しすぎないで待つことにしようと自分に言い聞かせた。

 心身はすでに限界を超えていた。

 狭い宿の暗がりの部屋で三人は寝ながら、

「なぁ……」

「なぁに?」

「その……」

「思っていること当ててあげましょうか?」

 天井を見ながら久しぶりに雑談をするカレン達。

「……どうぞ」

「こんなの想像していたのと違う、でしょ?」

「……」

「違う?」

「あってる……」

「そんなのみんな思ってる」

 暗い部屋では、悔しそうな、二人を安心させるようなカレンの顔をオイキャスは見ることができなかったがそれを感じ取ったのかどこか安心したように心の内を吐露する。

「移動ばっかで、だと思えばずっと粘土を取るだけで、おかしいと訴えたらリンチはされ、胸(おど)る冒険っていつになったら始められるんだ……」

「そうね……」

「こんなの違う……。毎日おんなじこと、繰り返して、つらい、つらい、……つらい、二人とも、俺、つらいよ……悔しいよ……」

 暗闇の中カレンはオイキャスの顔を見ることはできなかったが、涙ぐんでいるだろうことが分かった。

「「……」」

 鼻をすする音が聞こえた。二人は何も言葉を返せなかった。

「ごめん、ごめんな……二人とも……。オレが守れなくて……」

 自分の責任と感じているオイキャスはダムが崩壊(ほうかい)したように泣き始めてしまった……。


「ドンッ!」


 隣から壁を殴る音がした。

 黙ってろの合図。

「寝ようか……」

 シオノも疲れた声で言った。

 静寂の中ため息が漏れる。

 カレンはこんな状況でタイミングが悪く胸に違和感を覚えたがすぐにそれは収まった……。

 この先にあるはずの光は……、まだ長いトンネルの最中(さなか)で全く見えなかった。

読了ありがとうございます!

次回のお話も楽しみ待っていただけると嬉しいです

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誤字や脱字がありましたら指摘をしていただき次第、修正いたしますのでご助力いただけると幸いです

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