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二
これまでの人生でラブレターというものを書いたためしはない。
じっさいに好きな子に送るのならば、その文面に悶々とし、紙がひっきゃぶけるくらいに推敲を繰り返すのかもしれないけど、今回のはバツゲームである。深く考えるなど馬鹿馬鹿しいにもほどがある。テキトーな文面で済ますことにした。
『好きです。つきあってください 二年A組茂木孔明』
こんなもんでいい。
どうせノーだ。
高嶺の花に手が届くほど、ぼくの背は高くないし、イマイチなにものか解りがたい白面さんにしたところで、いっしょだ。
見ず知らずの男子からコクられてイエスなんて言うか? ふつう。
常識的に考えてありえない。ぼくだって、そうだ。
まあ、あいてが小野小町でもノーだ。だって、平安美人だし。
かりに、クレオパトラがシナをつくって求愛してきても、つっぱねる自信がある。だってそうじゃないか? あいてのひととなりも識らないのに付き合えるわけがない。そんなのはどこか、おかしい。と、正論で〆くくる。
一目惚れってのを、ぼくは信じちゃいない。まあ、ぎゃくに花子のように、あいてのことを識りすぎてしまったばあいも付き合えるわけがない状態になってしまうのだが。
ありえないと思ったら、なんだか気が楽になった。
肩の荷がおりて、すぅっと身体が軽くなった気さえする。
バツゲーム実行の日、ぼくは朝早くに登校した。
まだ部活の朝練も始まっていない時間帯で、スズメさんとカラスさんがチュンガラーチュンガラーとシンフォニーを奏でている。車どおりもほとんどなく、狭い住宅街の道を横切るのは新聞配達の兄ちゃんのバイクくらいだった。タクタクタクと軽妙なリズムを刻みつつ、ぼくのまえを過ぎ去った。
ぼくはだれもない前庭をつっきり、三年生の昇降口へ向かった。
ニンジャ的な挙動(変態的ともいうし、不審者的ともいう)でぼくはゲタ箱の林を泳いで、目的の靴箱に手紙をねじこんだ。
それから、すばやく二年生の昇降口へとってかえし、C組のゲタ箱のなかから白面とかかれた名札を探した。きょろきょろとあたりを見回し、見張りやストーカー、花子がいないことを確認して、二枚目となるラブレターも投入した。
ふぅ……。
こちらスネーク、任務完了――。