表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ばつ★らば  作者: 柊鏡
4/23

1-3

「確認する」高らかに冬町が宣言すると、石綿と波幌がじつに大仰な動作で首肯する。ぼくも倣う。

 ここは放送部室だ。

 うちの学校の放送部室は体育館にあって、防音がカンペキなのでセンセーたちに隠れてなにかをするのにとても適している。

 見渡せば、ゲーム機やAV(オーディオ=ビジュアルではない)がかんたんに目につくし、スナック菓子のふくろがそこいらに散乱している始末。

「血判状はもってきたか?」

「Yes,mom」「Yes,sir」「Heil Hitler!」

 なんかへんなのが混じっている気がするが、冬町はしかつめらしい態度で頷く。「よし……」

 ぼくは血判状を自動マージャン卓の天板のうえにのっけた。

 石綿と波幌、そして冬町もこれに続く。

 出揃った四枚の血判状。

 そこに書かれている文面はまったく同じだ。

『2009年7月15日。この日に行われる死合(デスマッチ)は命を賭すものである――』とかバカみたいに中二病まるだしの文言で始まる。

 内容はくだらなく引き伸ばされているので要約すると、負けたヤツは必ずバツゲームをすること。バックれたりして、履行しなかったばあい、恥ずかしい写真を校内に張り出すこと。となっている。

 恥ずかしい写真はまるで人質のごとく、各人から徴収された。ぼくのばあいはネションベンによる世界地図の写真。だれだってネションベンくらいする? おっと、これが中三のときってんだから、笑えないんだよね。

 撮影者は花子だ。いったいなにを企んでこんなものを撮影したのか、理解に苦しむ。冬町に写真提供したのも花子だ。もちろん、ぼくは自身の()えある未来のためにネガは焼却してやった。

 そして、なぜこんなことをする次第になったかというと、

「おもしろいことねぇ?」

 ただそれだけである。

 ふつうの賭けマージャンではおもしろくない。

 もともと、ぼくらはそんなにおおくの小遣いをもらっているわけじゃなく、エロ本を新品で買ったら五冊でうちどめ! くらいの小遣いしかもらっていない。マージャンは仲間内でやるゲームなので、パチンコやスロットのように胴元からお金がこっちがわにきたり、むこうがわにいったりせず、ほぼゼロサムゲームだ。

 いつも同じ、この四人でやっているので完璧にゼロサムゲームといっていい。

 延々と同じメンバーでは、賭けマージャンをする醍醐味というのは、あまりない気がする。マージャンでお金稼ぎしたいなら、雀荘なんかで見ず知らずのひととやるのがいいと思うし、もうちょっとメンバーが増えれば解決するのかもだが、とんと増える気配はないのである。うちの高校はキメジメくんとキマジメさんが跋扈している九竜(クーロン)城なんである。

 だから、即物的――つまり金銭ではなく精神的なエンターテインメントを求めた結果がこれだ。ベットするのはコインでも札束でもなくて、矜持――プライド。そういうことなのだ。

 逃亡者が出るかもしれない危惧があるため、血判状が用意された。逃げればチキンの汚名を被ることうけあいである。――とはいうものの、ほんとうに血で判なんかしてないけどね。ちゃんと朱肉を使用した。でも、朱肉って、なんかグロくね? (あか)い肉だよ!

「さぁ――死合の始まりだ!」冬町が告げた。

 すると、

 ――パァァン!

 なぜか石綿がクラッカーを鳴らした。

 紙ふぶきが舞う。カラーバンドがふわりとぼくのあたまの天辺に被さった。火薬の臭いがする。

 ――ちゅどーん!

 波幌が花火を打ち上げた。

 おい、ここ放送部部室だぞ。案の定、花火は天井にぶちあたり、火の粉を撒き散らしながら器具類のうらっかわへ消えた。火事になっても、しらねーぞ。ここには燃えそうなものが腐るほどあるんだ。ついでに放送機材は高い。ベンショーとかなったらぼく、識らないフリしますね。

 そして、

 いやな予感がした。第六感だった。キュピーンという音が聞こえた。

 ぼくは首を回し、冬町を見た。

 彼の手には、

「なぜ爆竹なんか持っている?」

 ぼくはソッコー、彼を取り押さえた。

 身を挺しての一撃により、冬町は持っていた着火マンを取り落とし、不満そうに顔をしかめた。

 ぼくは彼がまた、変な気をおこさないように着火マンを拾う。そしてズボンとベルトのはざまにノズル部分を突っ込んだ。

 伸びてくる冬町の手をはたき落とす。

「おまえはなにもしないのか?」

「しねーよ! 爆竹ならしていいのは旧正月の中国人だけだ!」

「まあ、始めようぜ」ケースから牌を取り出しつつ波幌。

 ぼくは占い師からもらったクスリを呷った。ふ――これだ勝つる!

 こうして死合が始まった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ