7-2
ぼくが先輩によって連行されたのは、どこかの倉庫だった。いや、倉庫という表現は不適切かもしれない。作業場、工場と表現するべきかもしれない。
何十人ものメガネがなにやら作業をしていた。溶接の火花が飛んでいる。しゅうしゅうという音がする。一体、何をつくっているのだろうかと訝しんだが、答えはすぐに出た。
倉庫のどまんなかにはどうみてもロケットとしか思えないものが発射台に鎮座していたのだ。タンクに液体燃料を注入中らしく、ロケットの側面のソケットからケーブルがのびている。
「A社の誇る頭脳集団メガネーズ」ぼくは応えないが、ちっとも気にせず、先輩はつづける。「孔明くん。宇宙へいこう」
まるでコークの景品の宇宙旅行のように、かるがるしく先輩がいうのでぼくはかちんときた。
「いま、宇宙へいってなんになるっていうんですか?」
「じゃぁ、へもへもしててなんになるの?」ぼくは応えれない。「私はゆりかごから墓場までをつかさどるコングロマリットA社の令嬢」
「それが?」
「利用できるものは利用する」
「ヴォールピに勝てるっていうんですか?」
「ヴォールピ? そうなんだ。そういう名前なんだ。彼らは」
「う……」
口が滑ったようだった。世間的には、ヴォールピという名称は知られておらず、ただ単にインベーダーと呼ばれているのである。ぼくが関係者――つまり氷柱がどういった存在なのかバレてしまう。ぼくは、気が気じゃなかったが、平気の平左で先輩が訊ねてきた。
「氷柱さんはヴォールピなんでしょう?」
「なんで、解るの?」
「女の勘」笑う。「彼女は恩人だから。孔明くんもそうだけど――。ただ、私は恋がしたかったのかもしれない。政略結婚に愛なんてないってそう決め込んで、だから、孔明くんをダシにしてしまったのかもしれない。そのことはあやまらないといけない。
――ごめんなさい」
先輩が深くこうべを垂れた。ぼくはかけることばが見つからなくて、したをむいた。
「それに、氷柱さんは強いひとだよね。私はね、彼女に勝ちたいんだ。弱いままってのは、ちょっとイヤかな。うーん。凄くイヤかな?」
「うん」
「私に死ぬな。死ぬくらいなら、呪えといってくれた。私は彼女に勝って孔明くんをほんとうの意味で手にいれたい。だから、まだ氷柱さんにいなくなってほしくない。氷柱さんを助けよう」
先輩はもう、リストカッターなんていう弱い存在ではなくなっていた。
そう仕向けたのはぼくじゃなかったのか?
それなのに、ぼくがへたれていていいのか?
いいはずがない(反語)。
ぼくはかぶりを振った。
「いきましょう。宇宙へ」
いうがはやいか、メガネーズがぼくにむかって突進。あっとうまに、ぼくは宇宙服に着替えさせられた。先輩の前で下着姿にされて、だ!
タラップをつたい、ぼくはロケットの先端、――ノーズコーンにか護られたペイロードの宇宙船に乗り込んだ。もとい、詰め込まれた。ぼくもまるでペイロードといわんばかりで。
「いってらっしゃい」
「え?」
宇宙船のとびらがしめられた。
「発射」
「ぬわああああ」