5-2
「じゃぁ、帰るかな」とうとつに話をぶったぎり、白面さんが言った。
「帰るの?」外を見た。いつのまにか、宵闇だ。
ぼくはもっと話を聞きたかった。
その旨、つげるまえに、
「一応。私もオンナノコなんだよ。外泊するわけにもいかないよ。じゃあ、……また、あした」
「また、あした……」と背中にサヨナラをなげると、
「玄関までおくらないのか?」と言って白面さんがふりかえる。
「宮沢賢治だな」
「私は客だぞ」
「よく注文が多いって意味だと解ったな!」
「褒めろ。褒めろ!」
「いいこ。いいこ」流されるままにあたまをなでた。ネコミミがそのままだった。白面さんはあわててネコミミをひっこめた。入れ替わりに人間ミミが生えた。「さよなら。またあした」
「うん」
「もっときかせてよ」
「興が乗ったら」
そういって彼女は街頭照らす夜道に消えた。
ぼくはわずかに後悔した。
白面氷柱(ヴォールピ名はなんというのだろう?)がどうしてぼくにつきまとうのか、その理由を知ってしまったことを。悔いた。
「私は変えたいんだ。ヴォールピの形骸化と、そして堕落していることにも気づかず、だれが記述したとも知れないバイブルに頼り、漫然と舵をきることも忘れて風のおもむくままに澪引く船に揺られる愚かな同胞たちを……。
反動ではないか。そんなのは。科学文明と高度な個人社会がタルティーンを滅ぼしたのかもしれないにせよ……反動だ。だってそうだろう? 私たちはもはや自作できない光子エンジンの恩恵で暮らし、旅路につけているのだから。
でも、私は感情論を否定しない。いま我らを支配しているのが単にネガティヴでペシミスティックなものだけだって話なのだから。その打開策に、私はぜひとも笑いを使いたいのだ。孔明くん。あなたは神を信じるか?」
だれでもこころに闇を飼っている。
そこに光をあててしまったら、
責任をもたなくちゃいけないんだろう。面倒なことになっていた。ぼくは面倒がだいきらいだ。
ハーレムもちの王様もきっと大変だったに違いない。