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ばつ★らば  作者: 柊鏡
1/23

 〇


 右手がぐんと引かれた。

 耳のようなかたちをした跳ねッ毛が特徴的な、やや青味がかったアッシュブロンドを揺らしつつ、氷柱(つらら)が言った。「渡さない!」

 すると、待っていましたとばかりに、今度は左手が引かれた。とても、強い力でぐいっと引かれ関節がペキっと鳴る。

 豊満な胸がぼくの二の腕を包む。ふたつのメロンが、柔らかなメロンドクッションがぼくの片腕をつつんで(はな)さない。「私も、氷柱さんには渡さない!」

「先輩……」

 ふたつのメロンの持ち主――黒紐(くろひも)先輩は見上げ調子で、潤ませた目をぼくに向けてくる。その瞳には、非難の色があった。「茂木くんは、吸盤もひっついちゃうようなぺったんこがいいのね!」

「えっと――その……」

「孔明くんは私のもの。これから、楽しい楽しい腑分けが待っているのだ! メスの準備は万端だ! オスはないが。とりあえず、押忍(おす)!」

「ふ、腑分け?」

 物騒な単語にぼくはたじろぐ。

 発現の後半は無視だ。なぜ体育会系的な掛け声をあげているのかも、このさいは捨て置く。氷柱の言動に関しては、深く考えてはいけないのだ。考えたら負けだ。却ってこっちが混迷するだけだ。

 氷柱は、そんなぼくの心情などまったく気にしない。彼女の手が蠢く触手の所作で、ぼくの頬へと伸びてきた。

 ひたりと冷たい感触。

 彼女の手を覆うアーマーリングのさきっぽが触れたのだ。掻き毟るように、金属がぼくの表皮をなぞって、

「こっちを向いて」と言う氷柱。顔立ちに尖ったナイフのような妖艶さがあった。ぼくはうっかりを目を逸らしてしまった。

 負けじと先輩も氷柱に倣う。

 感じられていた弾力が遠のく。膚の暖かさがなくなった。

 メロンから解放されたと思うのも束の間のこと。背後から接近する新たなる弾力。先輩は、美しくくびれた身体をぼくの背中におしつけたのだった。「こっちを向いて」

 ぼくと先輩はあまりにも密着しすぎたていた。

 ゆったりしたワンピースの布地越しなのにもかかわらず、彼女の筋肉の女性特有のなだらかさと、脂肪のふくよかさが感じられた。ぼくはドキマギを通り越して、愚息こもごも気を緩めれば昇天しそうだ。

 天を()きそうだ。

「この――バイタ!」氷柱が先輩を睨んだ。

 先輩の口撃。「この――ネクラ!」

「ネクラはあなた」

「じゃあ、バイタもあなた!」

「どっちでもいいわい!」ぼくは彼女たちを振り切ろうと、この一瞬のすきを見逃さず、走り出す。逃亡への挑戦は――むなしくも失敗に終わった。――同時に、両腕を引かれたのだ。弾性に富んだゴム鞠のようにぼくの身体は、うしろへと巻き戻されてしまう。

「ひゅがッ!」

 肺がつぶれた。

 きっとカエル的な音が、ぼくの口腔からひょっこり出たはずだ。

 むせかえる。

 ――どうして、こんな目に会っている?

 両天秤、両手に華……といえば聞こえはよい。がしかし、「女は魔性」と偉い偉い先人は言った!

 ぼくはたばかられないぞ!

 これは罠だ! ワーなんていわないぞ!

 けれど、ぼくの意思など彼女らのまえでは盲腸いじょうに意味がなかった。ギギギと両手を無理繰り伸ばされて、

 車裂きになった。

 暗黒時代のヨーロッパの処刑法。

 痛いです。

 とっても痛いです。

 脱臼しちゃった。甲子園にいけない身体になっちゃった。

 甲子園、いかないけど。丸坊主とかイヤだし。さわやかじゃないし。むしろ暑苦しいだけだし!!

 ――ところで、これはなんのバツゲーム?


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