僕が君の助け舟
蓮夜と桜志は教室に行き、ただのほほんと過ごしていた。途中教室内の誰かが、新入生のことについて話していたので、桜志たちは耳を済ませていた。
「そういやさ、今年の1年の顔面偏差値鬼高いらしい」
「え?それまじ?」
「特に俺がマークしてるのは、澪川ってやつ。1年の間でも可愛いって評判らしい」
「うわっ。昼休みちょっと覗きに行こうぜ」
桜志は心の中で、澪川さんが可愛いということに対して否むことは出来なかった。
しかし、下心ありで関わるのはあまり良く思っていない。
ようやく春の季節へ移り変わり、心機一転も叶うと思えた矢先には、すぐにこういう話題が色んな人の耳に入る。
教室は新担任が入ってきた途端静まり返った。
「おはようございます。本日から2年6組の担任をする新原といいます」
こうして、新学期お決まりの一大イベント、自己紹介が始まる。
全員がやり終えると、休み時間になり教室、廊下諸々の場所は騒々しくなった。
1日が滝のように過ぎ、ようやくHRを行え、下校時間となった。
「にしても、今年の1年は本当に美男美女ばかりが集まってるな」
「確かにね」
桜志は決して否定はしない。多少悔しくても事実だからだ。それよりも、今は澪川さんの姿を一目見ることに神経を集中させていた。
「おっ、あれが噂の」
蓮夜の声がした方を振り向くと、そこには澪川さんの姿があった。
凛とした佇まいは、崖に立つ女王の様子を連想させる。
それ故か、生徒の大半は澪川さんを見ようとゾロゾロと集まっていた。
人は興味のあることにはひどく熱心になる。それは時に人を傷つけかねない。桜志はそれを痛いほど分かっていた。
だから彼女の下へ駆け寄り、ガヤガヤと澪川さんを取り囲んでいる集団たちの中に入って行った。
「おいっ、桜志!」
蓮夜は必死に僕のことを呼び止めるが、僕は気にしなかった。今は、澪川さんを野次馬たちから遠ざけることしか頭になかった。
何故なら彼女の頭の中にある世界というのは、人の多い場所ではなく、物静かで広大で長閑なものだから、邪魔をさせてはいけない。そんな思いがあった。
桜志は騒がしい所に飛び込み、彼女の手を引っ張る。突然のことに周りは困惑し、辺りは騒然とした。
「みんな、彼女が困ってるって見てわからないのか!わからなくて集まったならまだしも、わかっているのにここに居座る奴らを僕は軽蔑する」
桜志はそう言い残すと、澪川さんと共にその場を後にした。