展示当日
澪川にとって緊張する日が幕を開けた。
初めて応募したコンテストにて見事銀賞を獲得し、作品は北海道にある展示場で飾られることとなった。
「雪は緊張してるの?」
「うん。私の作品を見て講評する人がその場にいるわけで、私はそれを聞く。自分の絵は、自己満で描いてたものだから、第三者の目線から指摘されることがたくさんあると思って今から緊張してる」
「雪の作品は、好評する人が大多数だと思うよ」
「そんなこと言って私の気を緩めないで。どうせなら、駄目だと思って良かったのメンタルで終わりたい」
「おっと、それは失礼。たくさん緊張してください!」
「ちょっと。少しは慰めて」
「どっちなのさ(笑)なら言わせてもらおう。雪、北海道に行くことを楽しもう!そして、色んな人の個性あふれる作品を一緒に見ようよ。雪の作品ももちろん大事。だけど、そこにあるのは雪の作品だけじゃないってこと。広い視野を持っていれば、少しは緊張も和らぐと思うよ」
「ありがとう」
「あ、もうそろそろ離陸するよ」
「あっ、そういえば私初めて飛行機乗るんだ」
「今更かいっ」
「怖くなってきた。少しだけ」
「手、握る?」
「今日は特別に」
桜志は、『いつもでもいいんだけど』というのを喉の奥でぐっとこらえて、優しく澪川の手を握った。澪川は雪のように白く、繊細で柔らかい手できゅっと握った。桜志は内心ドキッとしながらも、微笑ましくなって口元が緩んだ。
離陸後、2時間ほどすると札幌空港に着いた。季節は春ながらもまだ解け切れていない雪々が、2人を光の反射で輝かせていた。地面に足を着くと、ふわふわと粉のように柔らかい雪の感触が、向こうと大違いで無邪気に興奮していた。
「本場の雪って感じ」
「そうだな。まるで雪みたいだ」
「雪ってどっち?」
「雪だよ」
「雪って?」
「僕の大好きな1つ下の人のことですよ」
「っ!?そんなこと言っても何も出ませんよ」
「出なくて結構です。掴み取りに行くんで」
「いつからそんな台詞覚えたの?」
「付き合い始めてからかな」
気持ちの良い風に気持ち良い雪。そして、隣には恋人。最高のコンディションだった。桜志の手元にはいつも肩身離さず持っているバイオリン。
「ねえ雪。一曲だけ演奏させてくれない?」
「良いの?」
「勿論。それでは、冬極桜志によるチャイコフスキー、『くるみ割り人形』より「花のワルツ」」
明るく軽快な音色が澪川の耳を研ぎ澄ました。雪景色の北海道の中でポツンと楽曲を聴けるのは恐らく澪川だけだろう。
「この曲みたいに明るくいこう」
そうして実際に展示会場に入り、金賞、銀賞、銅賞が並んでいる場所へ行った。そこで澪川の作品は、金賞の作品と並んでいても、変わらず輝きを放っていた。
「美しいが似合う絵だね。雪の感性は恐らく他の誰も手に入れることができない唯一無二のものだと思うよ。こんなに生き生きと、上品に描ける人はいない」
「流石に買いかぶりすぎだよ。感性は確かに人それぞれ違うから、唯一無二なのはあながち間違ってないけど」
「雪こそ謙遜しすぎだよ。少なくとも、僕の絵に対する好みと雪の描く絵はぴったりマッチしてるから好きだよ」
「それはどうもありがとう」
そんな話をしていると、周りの人がぞろぞろとやってきて、みんなここに集中して絵を見ている。中では『流石金賞』『どれも中々凄い』『銀賞も審査員によっちゃ金賞になり得たんじゃないのか?』という声があがった。特に最後の言葉は、澪川の心を少し浮かせた。
「雪良かったじゃん」
「やっぱり、褒められると嬉しいものだね」
「だね」
その後も、銀賞の作品に対しての肯定的な言葉が口々に言われていたので、終いには澪川は少し微笑んでいた。
「想像以上だったでしょ」
「うん。嬉しかった凄く」
「ここに来てよかったね」
「本当にそう思う。一緒に来てくれてありがとう」
「全然!むしろ誘ってくれてありがと。僕の彼女が精いっぱい描いた絵が色んな人に見られて、帰りには笑顔になっているところが凄く感動した。なかなかそう言う刺激はないから嬉しいよ」
北海道1日目がこれで幕を閉じた。




