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和やかな一時

 時はあっという間に過ぎてゆくものだ。そして、約束をした日になった。桜志たちは、午前10時に両者ワクワクした気分で公園まで行った。


 桜志はワイン色のスウェットにジーンズを履いて。澪川は茶色のモダンなパーカーにジーンズと、どちらも似たようなラフな格好をしていた。


 公園で合流するなり、2人は無言で景色の良いところへ行った。幸い、2人とも『景色の良いところ』の感性が同じだったため、てくてくトコトコと同じ方向へ着いたのだ。


「ここが良いね」


「そうだね。今日はどんな絵を描くの?」


「桜志君と木」


 澪川は端的に告げた。構成は至ってシンプルなものの、ちゃんと彼女の中ではビジョンがあるのだろう。

 言葉に何の迷いもなかった。桜志はそんな様子を見て、微笑ましく思っていた。



 絵を描き、バイオリンを弾くというのは、ほぼピクニックのようなものだった。

 そして、桜志たちは、昼を跨ぐことも想定していて、ちゃんとお弁当まで各自持ってきていた。



「じゃあ、始めよっか」


「わかった」

  桜志の声掛けによって、それぞれの作業が始まった。バイオリンは音の波を荒立てて大地にも響かせていた。それらは、人々の耳に良く聴こえるため、癒やされているのだ。


 公園に来ていた人たちは、耳を澄ませ音を拾う。そして、音の源の姿を一目見ようとやってくる。

 それにお構いなしに、澪川は筆を走らせる。それはもう壊れた玩具のように止まらずに、彼女の頭の中で繰り広げられる世界を描いていた。


 澪川があまりにも集中して勢いよく描いていくので、バイオリンに満足した人々は、色鮮やかになっていくキャンバスを感嘆しながら眺めていた。


 キャンバスの中には、男子高校生(桜志)が斜め下に俯きながら目を閉じて、気持ち良さそうに音楽を奏でている様子が描かれてた。無論、桜志はいつもそのポーズで弾けるわけではない。

 なので、ちょうど描いているポーズになった瞬間を切り取って想像の部分も交えながら製作していた。


 この絵図はとてもおもしろかった。寒色暖色がそれぞれ混じり合い、湖は冷たく感じさせるのに、桜志の音は柔らかな雰囲気を出している。

 そこは本当に澪川の努力の賜物だと言えよう。



気がつけば15時でお昼時はとっくに過ぎていた。桜志たちはお弁当を頬張り、適切なエネルギー補充をしていた。そして澪川が口を開いた。


「途中で沢山の人が来てたね」


「だね。そんなに珍しかったのかな?」


「そうじゃない?滅多に公園でバイオリン弾く人いないもん」


「そうか~。自分の演奏に満足してもらったなら幸いだな」


「私その時の周りの様子までは見れなかったけど、『凄い』った感嘆した様子を見せた人が大勢いたよ」


「耳は働いてるんだな」


「音もアイデアの一要素になるからね」


「どんどん関わっていく度に思うけど、澪川さんは根っからの画家だね」


「どうして?」


「日頃から何かアイデアを見つけては、それを絵で表現しようとする。それは絵を好きで絵が己の一部になっている人がすることだよ」


「そうなかな?みんな描くでしょ」


「それでもそれを自己満として収めるか芸術を追うか、それが決定打だと思うよ」


「ありがとう」



 とうとう褒められ続けた澪川は折れて、桜志の言う言葉に感謝を述べた。そして、午後もまた同じことを続けていた。


 不思議と落ち着いた和やかな雰囲気で、相互共に無言ながらも、2人だけの空間が形成されて、朗らかに笑うような風が吹いた。


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