応援してるよ
一連の出来事があってから、色々互いに相談し合うことが増えた。
そして、以前より気を使わなくなったというのも、1つの成長だろう。
「今日、疲れたからバイオリン聴きたい」
「いいよ。じゃあ放課後に湖で。僕のコンクールの課題曲でもいい?」
「いい。むしろ毎日聴いて成長を知りたい」
「澪川さんにわかるかな?」
「わかるよ」
最近は桜志や蓮夜の圧のお陰で、澪川はわかりやすい無視をされなくなった。
しかし、こういったものはあくまで一時的なものなので、一人でも信頼できる友達を作ってほしいと、切に願う桜志達であった。
放課後、2人はいつもの所に行き、夕焼けに照らされた湖面を眺めながらバイオリンを弾き、聴いた。
「当たり前なことだけど、うまいね」
「ありがとう。毎日欠かさずに練習してるからかな」
「まだ納得してない表情だね」
「まあ、まだ改善できる部分はたくさんあるから気を緩められないんだ」
「そうなんだ。桜志君って慎重なんだね」
「一度怠けて後悔したことがあるからさ」
誰しも失敗から学ぶことがある。桜志はそれを活かして今も練習している。
「そっか。バイオリンに関して?」
「うん。今回と同じコンクールの時。あれほど自分に怒りを感じたことはなかったよ」
笑いながらそう言うが、澪川は真剣な眼差しで彼を見た。
「コンクールはいつあるの?」
「1ヶ月後にある。次に進めるような大きなコンクールだから、今から緊張してる」
「体でやってきたことは、そう簡単に消え去るものじゃないから、毎日コツコツと積み重ねてる桜志君なら大丈夫だよ」
澪川にしては珍しく、桜志のことを褒めた。彼女は簡単に人に関しての話題を話さない。それが、友達関係を良好に進められるコツだと彼女は学んでいるからだ。
「とにかく、澪川さんに褒められたことを忘れないで頑張るよ。バイオリンに対しての嫌悪感は無くとも、練習していく上で辛いと感じるときは少なからずあるからさ」
「頑張れ」
桜志はその一言によってすべてが報われたような、そんな感覚を1人味わっていた。