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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第2章:新しい時代

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78.王太子妃の在り方

「――ふぅ。終わったー!」


 瑞希の前には、決裁済みの書類のタワーが出来上がっていた。

 エーベルヴァイン男爵が苦笑を浮かべて手を叩いている。


「あれを三日で終わらせるとは思いませんでした。

 途中からの加速には目をみはりました。

 無理はされてませんか?」


「いやー言われた通り、慣れて来ればこんなもんじゃない?

 それにラニエロ公爵と直接話して、大きな問題がないことも分かってたし。

 私はそれを確認するだけで済んでたことも大きいよ」


「だとしても、驚異的な処理速度です。

 殿下には文官の才能がおありですよ」


「ありがと。多分、ガイザー先生の講義を何回か受けてたのが大きいんだろうね。

 『あれに比べたら~』って思えるし。

 ああそうだ。施設の慰安って、どのくらいになりそう?」


「候補を見繕みつくろっている最中ですが、先方の予定と殿下の警護の手配を合わせる必要があります。

 おそらく、月末に王立孤児院の慰安を行うことになると思いますよ」


「孤児院かー。

 王都に居ながら、王宮と魔導学院しか知らなかったし、そっちも楽しみだね。

 じゃあそれまでは、エステルの育児に専念しておくかな。

 何かあったら、エーベルヴァイン男爵も気兼ねなく相談に来てよ」





****


 ――夕食の席。


 静かに眠るエステルのベッドを傍に置きつつ、変わらずなごやかな食卓が続いていた。


 アルベルトが微笑みながら告げる。


「エーベルヴァイン男爵から聞いたが、ミズキは文官の才能があるんだって?」


「エーベルヴァイン男爵ったら、アルベルトにまでそんなこと言ってたの?

 あれはガイザー先生の講義と比べたらまだ楽な方だったから、慣れちゃえば早く終わったってだけだよ。

 まだまだ練習の公務だし、事前にエーベルヴァイン男爵だってチェックは済ませてた。

 問題がないことがわかってる書類なんだから、あとは署名しておわりだよ」


 アルベルトがニヤリと笑った。


「エーベルヴァイン男爵の目は節穴じゃない。

 読み流しているのか、そうでないかの判別くらいは付く男だ。

 ミズキは問題がない書類だろうと、きちんと目を通していた、ということだ」


「え? だってそれが仕事だって言われたら、そりゃそうするよ。当たり前じゃない」


「それができない上位貴族がそれだけ多い、ということだ。

 その分は下位貴族の文官たちが多重チェックでフォローしているし、上位貴族も責任だけは持つがな。

 我が国ほど大きくなれば、監視の目をくぐる悪党も出る。

 その全てをつぶすことなどできはしないが、より多くの人間がチェックをしていくに越したことはない」


 瑞希が眉をひそめた。


「その言い方……内政の方で問題があるの?」


「……ああ。最近、王都で子供がさらわる事件が数件起きている。

 ならば人買い商人が活動をしている可能性がある。

 活動が大きくなる前に叩いておきたい話だな」


「それと公務の話に、繋がりがあるの?

 ――あ、役人がそれに関係してるってことか」


「単純に言えば、そういう話だ。

 もちろん、無関係に人さらいの集団が活動しているだけの可能性もある。

 だが人がさらわれれば、大抵はどこかで売られ、金が動くからな。

 買い手にしろ売り手にしろ、それが貴族であれば収支報告に不整合が現れることがある。

 それを見逃さないように目を光らせる人間は、多いに越したことはないだろう?」


「そうだね。子供をさらうとか許せないし、なんとかして犯人を捕まえないと!」


 アルベルトが苦笑を浮かべた。


「まぁそう焦るな。現在調査を進めさせている。今はまだ父上の耳に入れていない事件だ。

 だが、被害が増えるようであれば父上が知り、対策を講じる。

 いつも通りなら、それで終わる」


 ソニアがやや暗い表情で告げる。


「こんな事件は起こらない方がいいんですけどね。

 治安が良いと言われる王都でも、珍しい話でもないんです」


 瑞希がソニアに告げる。


「あれ、そういえばソニアは、エステルの顔を見たらすぐに嫁入りするって話じゃなかったっけ?

 オリヴァー王子は今、どうしてるの?」


 ソニアが眉をひそめ、困ったように微笑んだ。


「王族同士の婚姻ともなれば、花嫁の両親が婚姻の儀に参加しない訳にも参りません。

 ですがお父様の予定が空かず、延び延びになっているところですわ。

 オリヴァーは先に帰国をして、準備を進めるそうです」


 ヴォルフガングが人の良い笑みを浮かべて告げる。


「その話なら安心するといい。

 来月にはなんとか時間を作れるだろう。

 既にそのように先方には伝えてある。

 あちらからは、『是非ミズキ殿下にも参列して欲しい』という要望があった。

 ミズキ殿下も都合が付けば、共にシュティラーヒューゲルに向かうといい。

 リーゼロッテ王女とミハエル殿下も参列する事になるだろう」


 瑞希がきょとんとして尋ねる。


「私? 私が何で?

 それに、私だけなの? アルベルトは?」


 アルベルトが瑞希に応える。


「父上と母上が不在の間、王都に王族が一人も居ない、という状態にする訳にもいかない。

 仕方なく、留守番だ。

 ミズキも留守番の予定だったんだが、シュティラーヒューゲル国王が一度、正式にミズキに礼を言いたいのだろう。

 もう忘れてるかもしれないが、お前はあの国を救った英雄だからな。

 本来ならば向こうがこちらに出向くべきだが、あちらも時間を作れないのだろう」


 瑞希がため息をついた。


「国王って忙しいんだねぇ……

 あんな忙しい仕事をたくさんこなしながら、プライベートの事も対応しないといけないし。

 早くその手助けができるようになると良いんだけどなぁ」


「なに、そう心配する必要はない。

 優秀な文官も多数居る。

 彼らが父上を支え、負担を軽減してくれている。

 それはエーベルヴァイン男爵を副官に付けたお前になら、身に染みてわかるだろう?」


「ああうん。エーベルヴァイン男爵が居てくれるだけで頼もしいって思えるね。

 そっか、ああいう人が大勢いるのか。

 ドライセン王国は本当に良い国なんだねぇ」


「ああ、良い国だ。

 そして私も、来年度からは王太子として父上を支えるようになる。

 普通なら頭が痛い戦争の脅威も、ミズキが居れば負担は大幅に減る。

 お前は自分が思ってるほど、無力な存在ではないさ」


「あはは……もう少し平和な方向でも力になりたいね。

 でもエーベルヴァイン男爵は『私の魔導を腐らせるのはもったいない』って言うんだ。

 私なりの王族としてのり方って、どんな姿なんだろうね」


 ヴォルフガングが微笑んで告げる。


「焦らずとも、自然とそれは見つかるだろう。

 今はエステル殿下を最優先に動くといい。

 その合間に、少しずつ公務を経験していけば、自分なりの答えも見えてくるはずだ」





****


 ――王太子の子供部屋。


 瑞希は公務の体験を思い出しながら、エステルの寝顔を眺めていた。

 お腹いっぱいになったエスエルは、すぐに眠ってしまう。

 だが魔力を探ると、寝てる間も元気に遊んでいるようだった。


「本当に創竜神はエステルに甘いんだから。

 こんなに好き勝手に魔力を動かしていたら、乱暴な癖が付いちゃう。

 きちんと丁寧な魔力制御を覚えさせないといけないなぁ」


(それに、私の魔導を生かしたり方、か)


 瑞希の魔導は因果を辿る魔術だ。

 情報戦では比類ない強みを見せるが、これをどう公務に活かすべきなのか。


 ――たとえば人さらい事件。

 手掛かりがあれば、そこから被害者や加害者の居場所を特定することはできるだろう。

 しかしそれが王太子妃の公務なのかと問われると、疑問が頭をもたげる。

 王都の治安を改善する事にはつながるだろうが、王太子妃としてやるべきことが他にあるような気がしてくるのだ。


 実際、事件の捜査は治安を守る兵士たちが行い、毎回解決してきているという話だった。

 それを王太子妃が率先して行うべきかは、判断が難しかった。


(でも、知ってしまった以上は放置もできないしなぁ。

 エーベルヴァイン男爵にお願いして、調査に協力してみるか)


 エステルは、のびのびと魔力で遊んで楽しそうではある。

 これはこれで、意味があるようにも思えた。

 あと数日くらいなら、創竜神に任せていてもいいだろう。


 目を部屋の隅に走らせると、従者用のベッドでアニカが仮眠をとっていた。

 授乳の時以外は、アニカがエステルに対応してくれている。

 今はそんな彼女の、わずかな休息の時間だ。


(そう言えば、街のごろつきに絡まれやすいとか言ってたっけ。

 治安の悪い地区の情報を教えてもらって、都市計画を見せてもらおうかなぁ)


 そちらの方が、王太子妃の公務としてはふさわしいだろう。

 だが簡単に対応できることなら、国王やアルベルト、そして優秀な文官が手を打っているはずだ。

 何か問題があって手を出せない事情があるのかもしれない。

 これからは、そういった事も勉強していく必要がありそうだった。


 王族の責務の大きさを改めて痛感しつつ、瑞希はソファに腰を下ろした。

 そのままアニカとの交代の時間が来るまで、エステルの寝顔を見つめたまま、今後に思いを馳せていた。





****


 ――翌朝、アルベルトたちが登校した後。

 瑞希はエーベルヴァイン男爵を呼び出していた。



「人さらい事件の協力、ですか?」


 瑞希が頷き、応える。


「私の魔術なら、被害者の肉親から辿って居場所を特定できるんだよ。

 少なくともそれで、被害者を奪い返すことが出来ると思うんだ」


「犯人はわかるんですか?」


「実行犯はすぐにわかるよ。

 首謀者も、多分追える」


 エーベルヴァイン男爵が顎に手を当てて思案していた。


「現行犯でもない限り、できれば証拠が欲しい所ですね。

 王族の強権を発動するのは、できれば避けた方が良い手です。

 証拠もなく捕縛をすれば、殿下が恐れられる原因となるでしょう。

 首謀者の確定を済ませた後、その周辺を調査するよう兵士たちに指示する、という方向で構いませんか」


「自白じゃだめなの?」


「いえ、当然自白させれば立派な証拠となりますが……そのようなことをすれば、相手は廃人となってしまいます。

 それもまた、避けた方が良いでしょう」


「ああ、大丈夫だよ。

 私が自白させた相手は廃人にならないから。

 その心配は要らないよ」


 エーベルヴァイン男爵がぽかんと口を開けた。


「……そのようなこと、ヴォルフガング様でもできないと伺った事がありますが」


 瑞希は眉をひそめ、肩をすくめて応える。


「ヴォルフガングさんは乱暴すぎるんだよ」


 エーベルヴァイン男爵がフッと笑った。


「魔導技術で比肩する者が居ないと言われたヴォルフガング様が『乱暴』ですか。

 噂通り、恐ろしい魔導をお使いのようだ。

 わかりました。早速手配を進めましょう。

 ――フェッツナー伯爵、あなたは警護の手配を頼む」


 ユリアンが微笑んで応える。


「オッケー、任せといて。

 今の王都内なら、すぐにでも出発できるわよ?」


 エーベルヴァイン男爵が頷いた。


「では一時間後、被害者宅に向けて出発しよう」


 部屋を出ていくエーベルヴァイン男爵の背中を見ながら、瑞希が呟く。


「今話したばかりなのに、一時間後には出発できるものなの?

 エーベルヴァイン男爵だって、今日の仕事があったはずなのに」


 ユリアンが部下に指示を飛ばした後、瑞希に応える。


「まずはミズキさんの力を知っておきたいのでしょうね。

 自分の仕事は後回しにするのよ。

 その程度はすぐにリカバーする自信もあるんじゃない?

 一時間っていうのも、多分捕縛させる兵士を準備する時間ね

 私たちが捕縛しても良いんだけど、あなたの警護より優先する事でもないし、できれば避けたいからね」


「ユリアンさんたちは、そんなに早く警備を揃えられるの?」


「いつでも動ける騎士が私を含めて十人、常時待機してるわ。

 半分はエステル殿下の警護に残すけど、王都内なら、それで充分よ。

 これからも似たようなことを繰り返すなら、常駐する人間を増やしてあげる。

 そうすれば王都の外でも、すぐに対応できるわよ?」


 シュワルツ公爵が壁際から瑞希に声をかける。


「エステルの事なら心配は要らない。

 ヴォルフガングと我々が見張って居れば、数名の近衛騎士で充分守り切れるだろう。

 お前はお前の思うように、やるべき最善を尽くすがいい」


 瑞希は満面の笑みで応える。


「うん、わかった! それじゃあエステルの事は任せるね!」





****


 被害者宅は王都内の平民区画にあった。

 近衛騎士に守られながら、瑞希は馬車から降り立つ。


 兵士が被害者宅を訪れ、事情を説明すると、両親らしき男女が表に出てきた。

 どちらも憔悴しょうすいしているようで、覇気がない。


 エーベルヴァイン男爵が瑞希に振り向いて告げる。


「では殿下、よろしくお願いします」


 瑞希は頷いて、懐から王都の地図を出した。

 その地図の上に小さな灯がともる。

 続けて手のひらの上に≪現在視≫の画面を映すと、暗い部屋に閉じ込められている子供たちの映像が映し出された。


「うわ、被害者ってこんなに居るのか。

 ――この地図の場所に子供たちが居るよ。

 見た感じ、子供たちはまだ無事だね。

 でもご飯はちゃんと食べてないみたい。少し弱ってるかな。

 すぐに対応してあげてくれる?

 ――エーベルヴァイン男爵? どうしたの?」


 呆気に取られていたエーベルヴァイン男爵が、ハッと我に返り瑞希に応える。


「いえ、到着したばかりで被害者から話も聞いていないうちに、一瞬でそこまで突き止めてしまわれたので、言葉を失っていました

 ――実行犯や首謀者はわかりますか?」


 瑞希が次々と画面を作り出すと、いかつく人相の悪い男たちの姿が映し出されて行く。


「これが実行犯。柄の悪い人たちだね。子供たちと同じ場所に居るみたい。

 首謀者は――」


 新しい画面にふくよかな中年男性が現れた。


「この人だね。これが人買い商人かー。同じ位置にいるね。

 ……ん? 競売? 子供たちを競売にかけるの?」


 エーベルヴァイン男爵が瑞希に応える。


「『商品』を客に競り落とさせるんですよ。

 良い商品は、勝手に客が値を吊り上げていく。

 売値が時価になる闇市では、定番の形式です」


 瑞希が少し思案してから地図の上に別の火をともした。

 そして新しい画面が作られ、大きな家屋の姿が映った。


「ここがその競売が行われる場所。

 少し離れた場所にあるね。

 ――あれ? この建物の周りに子供がいる? なんで?」


 子供たちは元気に建物前の広場で遊びに興じているようだった。

 さらわれた子供の競売会場とはそぐわない景色、不自然極まりない話だろう。

 瑞希は思考が追い付かず、結論を出せないまま悩んでいた。


 エーベルヴァイン男爵の目がけわしくなった。

 瑞希に近寄り、小声で告げる。


「ここは王立孤児院の一つです。

 視察候補の一つでもありました。

 おそらく、この孤児院の中に競売をする場所が密かに作られているのでしょう」


 瑞希はその意味をすぐに理解し、頷いた。


「じゃあ今は、子供たちの確保と人買い商人の捕縛だけしよう。

 その孤児院の対応はどうするの?」


「自供の内容次第で対応を考えましょう。

 時間をかければ逃げられます。

 相手に、商人の捕縛が知られる前に動きます」


 瑞希は頷いて、子供の両親に微笑んで声をかける。


「今すぐ、お子さんを取り戻してまいります。

 安心して待っていてくださいね」





****


 その日、王立孤児院の運営を任されていた上位貴族が捕まった。

 同日中に、子供を買っていた貴族たちが次々と捕縛される大捕り物となっていった。


 王太子のリビングで紅茶を含みながら、エーベルヴァイン男爵が微笑んだ。


「まったく、噂を遥かに超える、恐ろしい魔導です。

 これで王都の掃除が一つ、片付きました。お礼を申し上げます」


 瑞希は疲れたようにため息をついた。


「被害に遭った子供たち、全員を家族の元に返せてよかったよ。

 それにしても、孤児院の運営者が子供の競売を主催するだなんて、とんでもない話だね。

 お金に困ってる感じでもなかったのに」


「子供に対して、強い執着心を持った人間だったのでしょう。

 それほど、珍しい話でもありません。

 ――今後も人さらいが発生したら、ご相談に伺ってもよろしいでしょうか」


「うん、これぐらいでよければ、いつでも協力するよ!」


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