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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第2章:新しい時代

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75.手のかかる乳児

 ヴォルフガングが苦笑を浮かべて告げる。


「……無理だね。

 私の魔導では、この子と魔力同調をすることはできない。

 ミズキが魔力同調できているのが信じられないほど、強い魔力だ」


 瑞希がため息をついた。


「やっぱり無理かー……」


 話を聞いて様子を見に来たシュワルツ公爵が告げる。


「では、私がこの子の魔力を押さえよう。

 我が魔力であれば、なんとか魔力同調は可能だろう。

 ――しかし、リーゼロッテを超える魔力か。

 竜種どころではないな。

 魔力の源は魂だ。それが神の子の魂なのだから、魔力が強いのは仕方があるまい」


 瑞希が頷いて応える。


「じゃあ、私が休んでる間は黒龍さんに任せるね。

 ちょっと探ってみたけど、これでもまだまだ序の口みたい。

 成長すれば、もっと魔力が強くなる。

 危ないことになる前に、魔力制御をきちんと教えないとなぁ」


 シュワルツ公爵が微笑んだ。


「なに、お前の娘だ。

 すぐに自分の魔力ぐらい、呼吸をするように制御して見せるだろう」


 瑞希が苦笑を浮かべた。


「だといいんだけどねぇ……手間のかかる子だなぁ」





****


 ――三日目の夜。


 瑞希と交代しようとシュワルツ公爵がエステルと魔力同調を行っていた。


「……おい瑞希。エステルに何をした」


「何をって……魔力同調だよ?

 ――ああ、今朝から逃げるようになったから気を付けてね」


「ちょっと待て! エステルは生後三日目だぞ?!

 それでもう魔力制御をしてるとでも言うのか?!」


「まだ自在に制御できてるってほどでもないかな。

 多分、捕まる感覚から逃げてるだけだと思う。

 追いかけっこのつもりなんだろうね」


 シュワルツ公爵が顔を歪めて応える。


「……?! 非常識の塊が、とんでもない非常識の塊を産んだか。

 本当に人間なのか、疑わしくなってきたな」


 瑞希が苦笑を浮かべた。


「それを言わないでよ。

 母親の私が一番不安なんだからさー。

 ――じゃ、寝てる間は任せるね」





****


 ――七日目の昼。


「うわー、目が合った! ――私がお母さんだよー。覚えてねー」


 アニカがクスリと微笑んだ。


「乳児はまだ、そこまで理解できないものだと教わっております。

 ですがコミュニケーションは積極的に行っておいてください」


 瑞希はエステルに母乳を与えながら、アニカに尋ねる。


「王家に仕える乳母って、何をするの?

 今はまだ、エステルのおしめを変えたり、私の身の回りの雑用をしてくれてるだけだよね」


「乳離れをした頃合いから、教育係として日々のお世話をさせて頂くことになります。

 ですがいきなり目の前に現れても警戒されてしまう為、乳児の内からこうして目に入る位置に控えております」


「そっかー。

 この子がむやみに人を殺さないように教育してね。

 こんな強い力、簡単に人を殺せちゃうし。

 王族が殺人鬼とか、さすがに洒落しゃれにならない……」


 アニカが微笑んで応える。


「お任せください」


 瑞希がアニカをジト目で見た。


「そこだけは心配なんだよな……まぁ、ヴォルフガングさんも居てくれるから、多分大丈夫かな」



 扉がノックされ、ザビーネが入室してきた。


「クライン様とご友人がお見えになりました」


「ああ、もうそんな時間か!

 とりあえず女性陣だけ入ってもらって」


「かしこまりました」





 クラインが授乳中のエステルの顔をまじまじと覗き込んでいた。


「なんだか、ミズキによく似た女の子なのね」


「そう? そんなに似てる?」


「髪の色も、瞳の色もそっくりじゃない。

 顔つきは、なんとなくアルベルト殿下に似てる部分もあるわね」


 コルネリアが瑞希に告げる。


「何をするか分からない空気もそっくりよね……」


「どういう意味かな?」


 コルネリアの目が壁に向かった――そこには、複雑な文字のような模様が掘られている。


「これ、なんなの……どんな魔術なのよ……」


「ああ、エステルの魔力を抑え込む結界だよ。

 竜種の魔術らしいから、人間が読み解くのは普通は無理じゃないかな」


 アニエルカが遠い目をしてエステルを見つめた。


「久しぶりにお会いして『ああ、やっぱりミズキ殿下なんだな』って痛感しますわね。

 乳児の魔力を竜種の魔術で封じるとか、聞いた事がありませんわ……」


 瑞希が苦笑を浮かべた。


「しょうがないんだよー。

 エステルは魔力制御して魔力を抑えつけてあげないと、好き勝手に魔力を振り回しちゃうし。

 最初は黒龍さんや赤竜さんが魔力同調できてたんだけど、一昨日で二人とも降参しちゃったんだ。

 私もエステルに魔力同調するのが大変だし、寝てる間は相手をできないし……

 苦肉の策で、赤竜さんが魔力封じの結界を施したんだよ。

 おかげで今は、私も楽にエステルの魔力を抑えつけていられるよ」


 アリシアが微笑みながら応える。


「非常識のオンパレードですわね。

 それでこそミズキ殿下ですわ」


 扉の外からゲルトが「まだかー?」と声をかけてきた。

 ザビーネがそれに対応しているようだ。


 瑞希がまだ授乳中のエステルを見つめた。


「この子、本当によく飲むんだよねぇ……

 どんだけ飲むんだろう」



 ようやく授乳が終わり、ゲルトとロルフがアルベルトと共に入ってきた。


「やれやれ、ずいぶいんと待たされたな」


「仕方ありませんよ。授乳中の姿を我々に見せる訳にはいきませんから」


 アルベルトがエステルの顔を見て顔をとろけさせる。


「エステル~、お父さんだよ~」


 瑞希が思わず苦笑をしながらエステルをアルベルトに預ける。

 きちんと抱き方を指導されているアルベルトは、危なげなくエステルを抱き抱えた。


 ゲルトが感心して声を上げる。


「おお、さすが父親だ。きっちりしてるな」


「当然だろう、エステルに怪我をさせるわけにはいかないんだ」


 ロルフは部屋を見渡して感心していた。


「これが先ほど聞いた、魔力を抑える結界ですか……

 しかしこれは、どういう用途がある術式なのでしょうか」


 瑞希がロルフに応える。


「強い悪魔を弱体化させるときに使ったりするらしいよ?

 エステルの魔力は下手な悪魔より強いらしいから、丁度いいだろうって」


「それ、本当に人間なんですかね……」


 呆れるようにロルフが呟いた。

 アルベルトがとげのある声でロルフに告げる。


「私の娘をおとしめるかのような発言は、看過できないのだが」


 ロルフが慌てて応える。


「ああ、申し訳ありません、決してそのようなつもりではなく」


 瑞希が苦笑をしながらアルベルトに告げる。


「アルベルト。その程度の発言は許容してあげてよ。

 エステルの魔力が異常に高いのは事実だよ。

 友人の率直な感想を受け止める度量すら持てないようじゃ、、エステルの父親失格だよ?」


 アルベルトがむすっとして瑞希を見つめた。


「だからといって、言って良いことと悪いことが――」

「アルベルト? エステルの前で不機嫌な顔を見せるのはめて」

「はい」


 クラインが口元を隠してくすくすと笑いだした。


「もう尻に敷いてるの? 子供が生まれるとそうなりやすいとは聞いていたけど、母は強しね」


 瑞希が小さく息をついた。


「エステルは特別だよ。

 不機嫌な人が近付くと、魔力が不安定になって暴れやすいんだ。

 多分、怖がってるんだよ」


 クラインが深刻な顔で瑞希に尋ねる。


「そんな子、本当にきちんと育てられるの? あなたには公務もある。

 つきっきりという訳にはいかないのよ?」


「この部屋みたいに結界で魔力を縛っておけば、黒龍さんか赤竜さんが抑え込めるよ。

 ――今の内ならね。

 それでも無理になったら、公務を控えてでもエステルについていてあげないと、周囲の人間の命が危ないかな」


「……そこまで?」


「少なくとも今の時点で、創竜神の次に強い竜種上位四頭の黒龍さんや赤竜さんより強い魔力なのは確かだよ。

 私の予想だと、成長したら神に匹敵する魔力になるんじゃないかな。

 さっすが神の子の魂だよねぇ。まったく、この子のどこが普通の人間の子供なんだか。

 私の子供じゃなかったら、とっくに周囲の人間が破裂して死んでるよ」


「ミズキ殿下なら、抑え切る自信がある?」


「その程度なら魔力同調はできるから、なんとかなるよ」


 アリシアが微笑んで告げる。


「神の魔力に同調できると断言する非常識さ、やはりミズキ殿下は別格ですわね」


 瑞希が苦笑を浮かべた。


「褒め言葉として受け取っておくよ。ありがとね。

 ――でも多分、そこまでの心配は要らないとも思ってるけどね。

 エステルもかなり魔力制御を覚えてきてる。

 この調子なら、言葉を話すより先に自分の魔力を安定させられるよ」


 コルネリアが微笑んで告げる。


「そのでたらめな成長の仕方も、ミズキ殿下譲りね。

 ――ねぇ、エステルの言葉はどうなると思う?

 あなたがつきっきりなら、異世界の言葉を先に覚えてしまうんじゃない?」


「多分そうなるね。

 でもすぐにアニカが教育係になってくれるから、ドライセン語で話すように変わっていくと思うよ」


「アニカさん? ――ああ、そっちの人が乳母なのね」


 部屋の隅で控えていたアニカがうやうやしく頭を下げた。


「エステル殿下の乳母、アニカ・ドリー・オーバードルフと申します。お見知りおきください」


 クラインがアニカに微笑んで告げる。


「クライン・フォン・マイヤーよ。

 あなたも命懸けの育児は大変でしょうけれど、頑張って頂戴」


 アルベルトがエステルを瑞希に預けながら、クラインに告げる。


「この一週間、様子を見てきた。

 アニカなら問題なく乳母を務められるだろう。

 あとは魔力暴走の問題を解決できれば、何の心配もいらないのだがな。

 神に匹敵する魔力など、神でもなければ抑え込めまい」


 瑞希がぼそりと呟いた。


「――神なら抑え込める、か。

 それなら聞くだけ聞いてみようか」


 早速、瑞希は創竜神への回線を開いていく。


(創竜神、ちょっといいかな?)


『え? はい、なんでしょうか瑞希様』


(あなたならエステルの魔力を抑え込める?)


『今の内なら問題はありませんね。

 今後成長したらどうなるかはわかりませんが、数年は問題ないと思いますよ』


(じゃあそれを頼んでもいい?)


『では、リーゼロッテに私の加護を与えさせてください。

 瑞希様の願いでも、私が直接その世界に干渉することはできませんので』


(神のルールか。霧の神も、似たようなことを言ってたもんね。

 わかった、それでお願いね。

 問題が出そうだったら、早めにこちらに伝えて)


『はい、わかりました』


 瑞希が小さく息をついた。


「創竜神と話がついたよ。

 数年はエステルの魔力を、創竜神が抑え込んでくれるって」


 その場の全員の頬が引きつった。


 クラインが躊躇ためらいがちに瑞希に尋ねる。


「ねぇあなた今、創竜神と会話をしていたの?

 魔力がおかしくなっていたのは感じていたけど、でたらめ過ぎないかしら」


「どうも創竜神の神格は、霧の神の従属神に近いらしいんだよ。

 私が創竜神と会話できるのは、その影響もあるんじゃない?

 それに会話が出来るだけで、創竜神の加護はやっぱり竜の巫女の力を借りないと無理みたい。

 なんでもできる訳じゃないし、でたらめってほどじゃないはずだけど」


 アニエルカが瑞希に尋ねる。


「そういえば、エステル殿下の魔力も不思議な神々しさを感じますね。

 怖いとは感じませんが、とても神聖な印象を受けます」


「霧の神の気配に近い魔力なんだよ。

 黒龍さんの話では古い時代、『神の寵愛ちょうあい』を受けた人間がこんな魔力の気配をしていたらしいよ。

 今は私が気配を抑え込むように制御してるから、それで怖さを感じないんじゃない?

 ――エステルのためにも、古代史を勉強しないといけないなぁ」


 アルベルトが瑞希に告げる。


「ミズキの体調も順調に回復している。

 早いうちに古代遺跡を見学に行ってみるか」


「どんな遺跡なの?」


「国内にいくつかある、霧の神由来と伝わっている場所を回ってみよう。

 一番大きいのは『霧の神の神殿跡』と伝承されている遺跡だな。

 霧の教会で聖地と呼ばれている場所の一つだ。

 ブラント枢機卿に案内を頼めないか、依頼をしてみよう。

 解説をしてくれる人間が居ないと、さすがに私でも詳しいことはわからない」


 クラインが告げる。


「――ミズキ殿下やエステル殿下の顔も見れたし、そろそろ私たちも撤収しましょうか。

 出産直後の人間の部屋に、長居をするものじゃないわ」


 瑞希が微笑んでクラインに告げる。


「ありがとうクライン。

 私も久しぶりにみんなの顔を見れて嬉しかったよ。

 またいつでも遊びに来てね」


「ええ、あなたたちの顔を見に、またお邪魔するわね。

 いつか私たちの子供と一緒に、お茶会を開ける日が待ち遠しいわ」


「え? 何か進展があったの?」


「まさか。

 みんな婚約が確定した程度で、婚姻は卒業後よ。

 子供が生まれるのは、それからしばらくしてからでしょうね」


「じゃあ、その日が来るのを楽しみにしてるね!

 みんな、いつでも遠慮なく遊びに来てよね!」


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