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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第2章:新しい時代

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68.遠くから来たるものたち

 アルベルトが鋭く声を上げる。


「規模はどのくらいだ!」


「およそ五千! 騎兵です! 軍旗はまだ確認できません!」


 アルベルトが瑞希に尋ねる。


「……どちらだと思う?」


 瑞希が俯いて思案する。


「……どちらもあり得るよ。

 シュライヴ皇国軍が五千程度を分けて王都に差し向けてくる可能性があるし、

 王国軍が撤退して、本体でシュライヴ皇国軍を足止めしながら、先行部隊を出してる可能性もある。

 最悪、王国軍の敗残兵って可能性もあるけど、今それは考えたくないかな」


「……そうだな。今は状況を見守ろう」





 しばらく、落ち着かない時間を過ごす。

 周囲も必要最小限の言葉しか交わさず、重苦しい空気に包まれていた。



 再び遠くから兵士の声が上がる。


「北からの軍影、東に向けて進路を変えました!」


 アルベルトが瑞希に告げる。


「これもまだ、判断がつかないな。お前より先に、守備軍を叩くつもりかもしれない」


 瑞希が俯いて思考を巡らせて応える。


「……ううん、多分王国軍だよ。

 今回、敵軍は異常なほど私に執着してる。

 がらきの王都なら、まず私を狙ってくるはずだよ。

 だからこれは、第一軍か第三軍の先行部隊だと思う。

 ――アルベルト! 今すぐ出発しよう! これで北方連合軍の勢いを確実にげる!

 この時間を無駄にしないで、非戦闘員を移動させよう!」


 わずかに逡巡しゅんじゅんしたアルベルトが頷き、周囲に号令をかける。


「先頭部隊、ただちに出発するぞ!

 私兵団にもすぐに連絡を飛ばせ!

 シュトルム領への移動を開始する!」


 周囲が慌ただしく動き始め、街に向かって馬が走り去っていった。


 背後で見ていたユリアンが、楽しそうに瑞希に告げる。


「ミズキさん、あなた頼もしいわね。

 魔導が使えなくても、立派に役目をこなせているじゃない」


 瑞希が苦笑をしながら応える。


「そのために、たくさん勉強してきたからね。

 こんな状況にならないのが一番だったけど、苦労した甲斐があったよ」



 瑞希がアルベルト、そしてシュワルツ公爵と共に馬車に乗りこむと、すぐに馬車が走り出した。

 周囲を近衛騎士が固めている。





 瑞希たち先頭部隊が王都から離れる頃、王都からも私兵団に保護された王都市民たちが続々と王都の門から脱出を開始していた。

 その足並みに合わせるように、先頭部隊も速度を落としていく。


 アルベルトが馬車の窓を開け、遠くを見るユリアンに尋ねる。


「戦況はどうなってるか、わかるか」


「……守備軍が敵軍の先陣を蹂躙じゅうりんしてるわね。

 すっごいわ。さすがシュトロイベルの血筋ね。よく似てること。

 敵の側面を突くように、北からの騎兵が押し込んでる。

 これなら、敵軍の先陣は一時退却するんじゃないかしら。

 おそらく、一時間もしないうちに王国軍も撤退してくるはずよ。

 被害は小さくないでしょうけれど、戦果は上々ね」


 瑞希が窓に向かって尋ねる。


「ユリアンさん! 敵軍の動きはどう?

 速い? 遅い?」


「んー……北方同盟軍は、だいぶ練度れんどが低いわね。

 無理をして兵数をかき集めたんじゃないかしら。

 あれなら、急な展開にはついてこれないわ。

 態勢を立て直して追撃してくるまで、しばらく時間がかかると思う」


 瑞希がアルベルトに尋ねる。


「同行する非戦闘員ってどのくらいいるの?」


「一万人が希望したと聞いている。

 退却の足手まといになるような人間は、王都に残って抵抗するらしい。

 幼い子供を除いた若い世代が中心――王国を再建するための人材、ということだろうな」


「そっか……たくさんの人の命を、私たちは背負ってるんだね」


「……怖くなったか?」


 瑞希は首を横に振った。


「改めて痛感しただけ。

 王都市民の命を背負ってる自負くらい、とっくにあるよ。

 ただ、死んでいく人たちの幸福な家庭を守れなかったのが、悔しいなって思っただけ」


「そうだな……よし、我々だけ先行して、王都から早めに離れよう。

 王都からミズキが遠く離れれば、それだけ王都が無視される可能性が高まる。

 後続の私兵団や非戦闘員は、無理をせず付いてくるよう指示をしておこう」


 瑞希が頷いたのを見て、アルベルトがユリアンに指示を飛ばした。


「おっけー、伝令を出しておくわね。

 ――後続には無理せず付いてくるように伝えなさい!

 私たちは少し先行するわよ!」





 半日が立つ頃、ユリアンの元に伝令が届いていた。

 伝令の言葉に頷いたユリアンが、馬車の中に声をかける。


「ミズキさん、大当たりよ。

 第一軍から騎兵五千が援軍で到着して、守備軍と共に北方連合軍の先陣を追い返したわ。

 今は陛下の元に守備軍七千、第一軍三千、合わせて一万が戻ってる。

 一万の志願兵が足止めをしている間に、一万の正規兵が左右から襲い掛かれば、シュトルム領までは逃げ延びれるんじゃない?」


「他の第一軍と第三軍は?!」


「撤退しながら南下してるって。

 多分、敵の側面を突くようにして足止めに徹するでしょうね。

 下手に合流するより、その方があなたたちの生存の目が多くなる。

 でもシュライヴ皇国軍と挟み撃ちされる形になるから、長くは持たないわ。

 ルートヴィヒ侯爵とマイヤー辺境伯には、もう会えないのかしらね」


 瑞希の脳裏に、ルートヴィヒ侯爵とマイヤー辺境伯の優しい笑顔がよぎった。


「……だとしても、私たちが生き延びて王国を立て直せば、あの二人が無駄死にしたことにはならないよ。

 そのためにも、今はまずシュトルム領に急ごう!」


「あはは! 慌てても、民衆の足は速くならないわよ。

 先行すると言っても、彼らを置きりにはできないわ。

 我慢して、馬車に揺られていて頂戴」





****


 日が落ちて、瑞希たちは野営を張っていた。

 糧食りょうしょくを口にしながら、瑞希がアルベルトに尋ねる。


「今回は馬車の中で寝ていてもいいの?」


 アルベルトが苦笑する。


「妊婦が体を冷やすのもよくないし、軍が同行している馬車をさらう阿呆も居ない。

 斥候の情報では、敵軍は王都を迂回してまっすぐこちらを追いかけてきているようだ。

 足が鈍いのは、ユリアンの推測通り、寄せ集めの連合軍だからだろうな。

 だが明日は恐らく衝突がある。

 しっかり食べておいた方が良い」


 瑞希は頷きながら、お湯に浸して干し肉をかじっていた。


「……この味、なんだか懐かしいね。

 この世界に来て、私が最初に食べた味だ」


「そう言われればそうだな。

 ……満足な食事も出せずに、すまんな」


「食糧車を持ち出す余裕もなかったし、そもそも持ち出せる物もろくになかったんだもん。

 保存食があるだけマシだよ。

 王都に残った食料は、王都の人たちが有効活用してくれればいいと思うよ。

 ――それに、私は庶民の生まれだよ? こんな食事くらい、なんてことないよ」


 アルベルトが微笑んだ。


「ミズキはたくましいな。

 ――敵の練度れんどからいけば、夜襲はまずり得ないだろう。

 油断をするつもりはないが、ミズキは安心して寝ているといい」


「お腹の子のためにも、そうするよー」





 ――深夜、瑞希は大きな声で目を覚ました。


 急いで起き上がり、耳を澄ます。

 同様にアルベルトも窓の外を伺っていた。


「……どうやら、夜襲を仕掛けてきたらしい。

 同士討ちしかねない練度れんどで、よくやる」


 伝令の知らせを受けたユリアンが窓越しにアルベルトに告げる。


「今のうちに先に進むわよ!

 敵が無様ぶざまをさらしてる間に距離を稼いで、さらに焦らせるわ!」


「市民は付いてこれるのか?!」


「そこは私兵団に任せなさい!

 あなたたちは先行し過ぎないことだけ注意して!

 回り込まれる可能性があるからね!」


 アルベルトが頷くと同時に、馬車が走り出した。


 瑞希が深いため息をついた。


「追い返せると思うけど、どれだけの命が失われたかな……」


「今はそれを考えるな。後から追悼ついとうすればいい。

 揺れて寝辛いだろうが、今は寝ておけ」


「うん、そうする。大丈夫、これぐらいなら眠れるよ」





****


 翌朝、食事のための野営が張られた。


 ユリアンが馬車の外から告げる。


「距離を稼いだのが功をそうしたわね。

 敵襲におびえることなく、のんびり朝ご飯を食べなさい」



 のんびりとお湯と糧食りょうしょくで食事を済ませると、馬車が再び走り出した。


「あとどのくらいでシュトルム領に付くと思う?」


「このペースなら、あと七日ぐらいだろうが……敵の動きでも変わってくるからな。

 ハッキリと断言はできない」


「そっか……」



 その後も、一日一回の衝突をなんとかしのいでは距離を稼ぐ日が続いた。

 さすがにりたのか、初日以降は夜襲を仕掛けては来なかった。

 二日目には南下してきた第一軍と第三軍による牽制もあり、瑞希たちは順調にシュトルム領に向かって進んでいった。





 ――四日目の朝。

 早朝に目が覚めた瑞希が窓の外をふと見ると、けわしい顔のユリアンが目に入った。


「ユリアンさん? どうしたの?」


「……気のせいだと良いんだけどね。

 ――斥候を出して! 急いで!」


 ユリアンが指さす方向――南東方向だ。


「南東って……南方諸国の軍?!」


「まだわからないわ。

 気のせいならそれでいいんだけど、軍隊だったらシュトルム領に辿り着く前に、側面を突かれて終わるわ」


「……ユリアンさん、よくそんなに遠くが見えるね?」


「≪遠見とおみ≫の術式よ。視力を極端に上げる術式なの。

 私が使える、数少ない術式の一つよ。

 指揮をるには便利なの。斥候にも必須の技能ね。

 ――服を作るのにも便利なのよ?」



 厳しく遠くを見つめるユリアンの元に、慌てた騎士が戻ってきて告げる。


「軍影! おそらく騎兵部隊です! 軍旗は確認できず! しかし、南方国家のいずれかと思われます!」


 瑞希が驚いて窓の中から声を上げる。


「そんな?! 南方には白竜教会の私兵団と志願兵、合わせて八万の兵力があったはず!

 彼らはどうなったの?!」


「軍影の規模はおよそ二万! 私兵団と志願兵を突破してきた可能性があります!」


 ユリアンが騎士に叫ぶ。


「衝突予想時刻は?!」


「おそらく、三時間後かと!」


 ユリアンが唇をんでいた。


「市民を逃がす時間はないわね……。

 ミズキさん! あなたたちは先行してシュトルム領に急ぎなさい!

 万が一だけど、逃げ切れる可能性があるわ!」


 瑞希は覚悟を決めた瞳でユリアンを見つめ返した。


「……二万の軍隊、なんだね?

 それを追い返せば、まだみんなが生き残る可能性があるんだね?」


 アルベルトが瑞希の肩を掴んだ。


「その身体で魔術を使うつもりか?!」


「だって、万が一なら同じようなものじゃない?」


 シュワルツ公爵が、重たい口を開く。


「……瑞希、お前はもう、お前だけの命じゃない。

 それを理解してなお、魔術を使うつもりなのか?

 得意の術式すら満足に使えないことを痛感したばかりだというのに、≪火竜の息吹≫を使えると、本当にそう思うか?」


 瑞希が言葉に詰まった。

 ≪火竜の息吹≫どころか、その前提である、疑似的な≪竜の心臓≫の制御すらおそらく失敗するだろう。

 待っているのは、心臓が破裂して死ぬ自分の姿だ。


「……じゃあ、どうすればいいっていうの?!

 このままじゃ、やられるのは同じだよ?!」


「今はまだ、兵が居るだろう。

 兵を信じろ。民を信じろ。今のお前に出来るのは、信じることのみだ」


 瑞希が唇を噛んで俯いた。


「……わかった。

 ――アルベルト、お願い。みんなが後悔のないようにしてあげて」


 アルベルトが頷いた。


「もちろんだとも。

 ――ユリアン! 指揮は一任する!

 私たちは先行して敵を引き付ける! 後は任せたぞ!」


 ユリアンがウィンクで返事をした。


「オッケー! 任せといて!

 なんとか、一人でも多くの敵兵を道ずれにしてあげるわ!

 ――戦闘準備よ! 手早く朝食を済ませたら、迎え撃つ準備を整えて!

 陛下たちにも伝令を飛ばして頂戴!」


 二名の近衛騎士を従えて、瑞希を乗せた馬車が走り出した。

 瑞希はただ、みんなの無事を霧の神に祈っていた。





****


 ――三時間後。


 民衆からかなり先行した馬車の窓から、軍影が近づいてくるのが見えた。


 アルベルトが呟く。


「どうやら、こちらではなく市民たちの集団に向かっていってるようだな。

 その先頭に我々が居ると思っているのだろう。

 この分なら、シュトルム領に逃げ込むことはできそうだ」


 瑞希は暗い気持ちで応える。


「でも、横から二万も敵の援軍が来たら、守備軍だけじゃ持ちこたえられない」


 意を決した瑞希が窓に張り付いた。

 視線の先は――後方の敵の軍影だ。


「ミズキ? 何をしてるんだ?」」


「魔導が得意じゃないユリアンさんでも使える≪遠見とおみ≫の術式なら、今の私でもなんとか使えるはず。

 せめて、みんなの最期を目に焼き付けたいんだ」



 南方国家の軍影が正規兵に向かっていると同時に、北方連合軍も志願兵に向かって動き出しているようだった。

 南下してきていた第一軍と第三軍も、なんとかそれをフォローしようと北方連合軍に向かって動き出している。


(圧倒的に数が違う……お父様もお母様も、これじゃあ……)



 悔しさで唇を噛み締めて見つめる中、全ての軍が衝突する――その瞬間を、瑞希は見据えていた。


 突然、南方国家の軍が向きを変え、北方同盟軍の側面を突いていた。

 偶然か、はたまた機を見たのか、南下する王国軍との挟み撃ちになり、北方同盟軍が動揺して動きを乱しているようだった。

 王国の守備軍もわずかに動きを止めていたが、すぐに攻撃対象を南方国家軍から北方連合軍に変えていた。


 瑞希が思わず言葉をこぼす。


「何が……起こったの……?」


『ふぁ……あーあ、良く寝た!

 ――どうやら、準備はばっちりみたいね!

 それじゃあ反撃の狼煙のろし、あげちゃおうか!』


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