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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第2章:新しい時代

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61.鎮静

 ――魔導学院、放課後のサロン。


 クラインが特大のため息をかましていた。


「ミズキ殿下、あなた本当に派手好きよね」


「そうかな? 派手にしてるつもりはないんだけど、結果的に派手になってるだけだよ?」


「二か月が経過して、あちこちで噂が流れてるわよ。

 『ミズキ殿下が五万人の兵士を一瞬で蒸発させた』とかいう、信じられない話もあるわ。

 ……どこまでが本当なの?」


「え゛、私は一万人の命を一瞬で奪っただけだよ。

 その気だったら五万人くらいは巻き込めたと思うけど、今回はそんなことしてないってば」


 アニエルカが静かな表情で告げる。


「ようやく殿下を怖がらない人が出始めたところで、新しい噂が国内に流れました。

 ……殿下が再び恐怖の対象になったご自覚はおありですか?」


「そんなこと言われても、あれは必要なことだったしさぁ」


 ゲルトが瑞希に尋ねる。


「それで、周辺の白竜教会はどうなったんだ?

 少しは落ち着いたのか?」


「リーゼロッテが張り切って『もう一度説得して参ります!』とか言って周辺各国を回ってた。

 それで混乱は落ち着いたって聞いたよ。

 どこの国の白竜教会も、霧の神の方が格上だってことは、事実として受け入れたみたい」


 イーリスが瑞希に尋ねる。


「よくこれほど早く事態が収束なさいましたね……

 周辺は戦争の空気に満ちていたのでしょう?

 たった二ヶ月で落ち着くとは思えないのですが。

 それに、東方に離れた地での出来事の割に、噂が出回るのが早すぎますわ。

 アルトストック王国だって、我が国とは直接国交などない国ですわよ?」


 瑞希の脳裏に閃くものがあった。


「――まさかっ?!」


 慌てて≪映像通話≫でリーゼロッテとの回線を開く。


『あら? これはミズキ? どういう魔術なの?』


「リーゼロッテ! 周辺国を改めて説得する時、あの晩のことを話したりはしてないよね?!」


 リーゼロッテの背後にレッド公爵が現れ、明るい笑顔で告げる。


『ははは! リーゼロッテの頼みだったからね!

 私がばっちり、記録していた映像を流したとも!』


『私もその映像と一緒に、信徒のみんなを頑張って説得したんだよ!』


「その映像を今すぐ私にも見せて!」


『いいとも! すぐに見せてあげよう』


 レッド公爵が画面の向こう側で、水で≪現在視≫の画面に似たものを作り出した。

 そこには、レッド公爵が目撃した一部始終が映し出されている。

 夜空を切り裂く巨大なレーザービームも、そこから降り注ぐ無数の死の雨も、全てがレッド公爵の目線でばっちりだ。

 瑞希がうっかり漏らした『アルベルトが隣に居れば、今夜は眠ることが出来る』という弱音まで残されていた。


 リーゼロッテが再び画面の向こうに現れた。


『ミズキが心を傷付けてでも創竜神様の信徒を守ってくれたことを、きちんと説明したんだよ!

 この映像を見せたら、信徒のみんなはすぐに納得してくれたよ!』


『私や黒龍が漏らしてしまった言葉も記録されているからね!

 我ら創竜神様の眷属の竜ですら及ばぬ、人間離れした魔導を駆使するということも、きち~んと伝わったはずだよ。

 ――それにしても不思議な術式だ。これも私が読み解けない術式だね。いやはや、本当に人間にしておくには惜しい子だよ、君は』


 コルネリアがぽつりと漏らす。


「つまり、噂の発生源はリーゼロッテ王女ってことなのね……」


 クラインが目をつぶり、眉間を指で押さえて呟く。


「……ミズキ殿下の非常識さには慣れていたつもりだったけど、

 あんな馬鹿げた魔導を使えるのはショックが大きいわ。

 本当に一人で軍隊を相手に出来るじゃない」


 ゲルトが頬を引きつらせて呟く。


「創竜神を裏切ると、ミズキの魔導が襲ってくると宣言してるんだ。

 そりゃあ混乱もすぐに落ち着くよな」


 アルベルトが苦笑しながらレッド公爵に告げる。


「ミズキの魔導の詳細は軍事機密なんだ。

 それを大々的に広めたということになる。

 今回は事態が事態だから大目に見るよう父上に伝えておくが、今後は控えて欲しい」


『はっはっは! 白竜教会の人間は、そう簡単に魔導の詳細を漏らしたりはしないさ!

 元々、白竜教会自体も機密が多い組織だからね!

 だがミズキが軍隊を消し飛ばしたという事実だけは、漏れるのを防げなかったようだ。

 噂の発端はそれだろうね。

 ――だがこれで、霧の神が創竜神様より格上だということも、正しく理解されたはずだよ』


 瑞希が疲れた顔で≪映像通話≫の画面を閉じた。


「……はぁ。済んだことは仕方がないし、事態が落ち着いたからそれ以上は言わないけどさ。

 赤竜さんが≪過去視≫に似た魔術を使えるのは予想してなかったな」


 クラインがようやく立ち直って顔を横に向けると、アニエルカは顔を蒼白に染めて硬直していた。

 その肩を、クラインが優しく叩く。


「……ミズキ殿下はこういう子なの。

 あなたも早く慣れておくと良いわよ?」





****


 ――王宮、講義室。


 王太子妃として国外の講義を受けていた瑞希の元へ、従者が一人やってきて告げる。


「ミズキ殿下、陛下がお呼びです。『国外から客人が来ている』とのことです」


「国外から? どこの国かしら……?

 ――すぐに参りますわ」


 思い当る節がなくはない。むしろ多すぎて絞り込めなかった。

 今回は周辺各国にも多大な影響を与えている。

 どこかの国が、瑞希の力を恐れてコンタクトを取りに来ても不思議はないのだから。





 従者に案内された先は応接室だ。従者が室内に告げる。


「ミズキ殿下をお連れしました」


 中から返事があり、瑞希が室内に足を踏み入れる――そこには、レッド公爵とリーゼロッテの姿もあった。

 リーゼロッテの隣に座るのは、二十代中盤と見られる紫紺の髪の女性。

 国王が瑞希に告げる。


「講義中にすまないね。

 とりあえず座りなさい」


 言われるがままに国王の隣に腰を下ろした。

 国王が再び告げる。


「リーゼロッテ王女の傍仕えだそうだ」


「傍仕え? 客人って傍仕えの人なの?」


 紫紺の髪の女性が瑞希に告げる。


「私はリーゼロッテ王女の傍仕え、カタリナと申します。

 今回は我が国の窮地を救って頂いたと伺っております。

 我が陛下からも『今回の恩は決して忘れない』と言付ことづけを承っております。

 同時に、我が国との友好条約をドライセン王国と結びたいという意向を伝えに参りました。

 後程、正式な者が入国する予定です」


「えっと……私がここに呼ばれた理由が分からないんだけど……」


 国王が瑞希に応える。


「実はだね、しばらくの間、リーゼロッテ王女が我が国に滞在したいと言い出した。

 ミズキの傍で過ごしたい、とね。

 既に現在、王宮に滞在してもらっている。

 そのまま滞在してもらおうと思うのだが、ミズキの意志も聞いておこうと思ってね」


「え?! だってリーゼロッテだって忙しいんでしょ?!

 各地を巡礼するんじゃないの?!」


 リーゼロッテが笑顔で瑞希に応える。


「私がミズキに直接恩を返したいんだよ!

 創竜神様も『しょうがないなー』って納得してくれたよ!」


 レッド公爵がそれに続く。


「ははは! ドライセン王国周辺の土地が、戦火でけがされるのを未然に防げたからね!

 土地がけがされると、悪魔の封印が弱まる。

 私たちは各地で悪魔の復活もあり得ると考えて準備していた。

 それを防げたことで、余裕が生まれたんだよ。

 だからリーゼロッテがここに滞在するぐらいは問題がないのさ」


 瑞希が頬を引きつらせてながら応える。


「……それって、この国周辺にはたくさん悪魔が封印されてる……ってこと?」


「そういうことになるね!

 シュトルム領にも当然、悪魔は封印されているよ?

 しばらくリーゼロッテには、その封印を維持させることになるだろうね」


「……いつまで?」


 リーゼロッテが元気に応える。


「今回の恩を返すまで、だよ!

 ――あ、王都からでもシュトルム領の封印は維持できるから、そこは安心していいよ?」


 どうやら説得しても通じない、と理解した瑞希が大きく肩を落とした。


「……わかったよ、リーゼロッテの好きにして。

 じゃあ私は、講義に戻るね」


 疲れて肩を落としたまま、瑞希は応接室を後にした。





****


 講義を終え、瑞希は夕食の席に腰を下ろした。

 瑞希の前で、傍仕えのカタリナを伴ったリーゼロッテが楽しそうに開始の時刻を待っている。

 その隣にはレッド公爵が控え、静かに微笑んでいた。


 同じテーブルにはシュワルツ公爵も静かに座って待っている。

 そして王家のアルベルト、ソニア、ミハエルも既にそろっていた。

 極めつけはヴォルフガングだ。


 瑞希がぽつりとこぼす。


「……ほんと、賑やかになったね。

 もういっそ、お父様やお母様も一緒に食べればいいのに」


 アルベルトが微笑んで応える。


「そうしたいのはやまやまだそうだが、どうしても国の運営にまつわる話が出るからな。

 私たちにそんな負担を追わせたくないという心遣いだよ」


「そうは言うけどさ……ここでの会話なんて、下手すれば世界の存亡をかけた話題になるんだよ?

 国の運営にかかわる話題だって出るし……気にし過ぎじゃないかなぁ?」


 ソニアが瑞希に応える。


「疲れた時、たまに食べに来るからさらに気分がリフレッシュする、ということかもしれませんよ?」


「あー、それなら少しは理解できるかも?」


 レッド公爵がふと思い出したように瑞希に告げる。


「ところで瑞希、せめて≪火竜の息吹≫を曲げるヒントくらいはくれないか。

 あれから色々考えてるんだが、どうやっても曲がる気がしないんだよ」


 瑞希がジトっとレッド公爵を見つめた。


「えっ、まだそんなところでつまづいてるの?

 覚えていられないほど長く生きた竜のキャリアはどうしたのさ。

 こんなの、魔術の初歩が出来ればすぐに思いつく応用だよ?」


 レッド公爵が苦笑を浮かべて瑞希に応える。


「そう言わずに! ヒントだけでいいから! 頼むよ~」


 瑞希が小さく息をついた。


「しょうがないなぁ……これなら理解できるんじゃない?」


 瑞希が両手の指先を合わせた後、手を左右に開くと指の隙間に光の糸が伸びていた。

 それをあやとりのように指を動かしていき、光のあみみ上げていく。

 レッド公爵とシュワルツ公爵は呆然と、瑞希の両手の間で光り輝くあみを眺めている。


「まさか……それも≪火竜の息吹≫だというのか?!」


「そうだよ? 言ったでしょ、『魔術の初歩の応用』だって。

 このヒントでもわからないってことは、さすがにないよね?」


 シュワルツ公爵が納得した様に頷いた。


「なるほど、光の帯を糸の概念に変換したのか。

 概念の置換――確かに、魔術の初歩の応用だ。

 つまり瑞希が曲げて見せているのは、数えきれないほどの光の糸の概念だったんだな。

 だから自在に曲げられるのか」


「――正解。分かってみれば簡単な話でしょ?

 赤竜さんも黒龍さんも、簡単に同じことが出来ると思うよ。

 このくらいもすぐに理解できないから『頭が固い』って言ったんだよ」


 赤竜が苦笑した。


「いや、その程度の細い光なら簡単だが、瑞希が放って見せたほどの巨大な光の帯は無理だよ。

 あれは一体、どれだけの糸を束ねたものだったんだい?」


「どれほど? んー、少なくとも、あの晩に見せたのは二十万本ぐらいだよ。

 疑似的な『竜の心臓』の制御が要らない赤竜さんや黒龍さんなら、私よりも楽にそれくらい制御できるでしょ?」


 シュワルツ公爵が苦笑した。


「私たちほどの竜が持つ魔力出力でそこまでの細かな制御など、いくらなんでも無理がある。

 千本くらいなら可能だが、それ以上は制御が追い付かず暴走するだろう」


「そこは鍛錬が足りないだけだと思うけど。人間の私が出来る魔力制御なんだから、できない訳が無いんだよ。

 魔力の大きさに胡坐あぐらをかいてるから、魔力制御がおろそかになるんだと思うよ?

 ――ちょっと赤竜さん、手を挙げて、手のひらを防御結界で包んでみてくれる?」


「……こうかい?」


 右手を上げたレッド公爵が、手のひらを防御結界で包んだ。

 その次の瞬間、無数の光が周囲の空間からレッド公爵の手のひらを貫いていた。


「……あ、ごめん。初めて使ったから加減を間違えちゃった。

 痛くなかった? 大丈夫?

 ――大きな口を叩いておいて魔力制御に失敗するとか、赤っ恥もいいところだね」


 瑞希が顔を赤くして俯いていた。

 レッド公爵とシュワルツ公爵、ヴォルフガングが呆然と、光に貫かれ血を流しているレッド公爵の手のひらを見つめている。


 ヴォルフガングが呆然と呟く。


「今のは……光が空間を渡っていたのか。

 結果だけは理解できるが、何をどうしたらそうなるのか、さっぱり理解できん。

 ――お二人は理解できたか?」


 レッド公爵が首を横に振った。


「これは概念の置換なんてもので済む魔術ではない。

 何をどうしたらこんな現象を起こせるんだ。我々でも理解などできない」


 瑞希がレッド公爵の手を治癒術式で癒しながら応える。


「魔力制御だって言ったでしょ。

 光の性質を利用して、空間を跳躍させただけだよ。

 術式自体は糸の概念に置換した≪火竜の息吹≫そのままだよ。

 ――ああそうか、この世界は科学が発達してないから、光の性質もよく理解されてないってことか。

 それじゃあ理解するのは難しいかもしれないね。

 もっと応用していけば時間を跳躍させる事もできるけど、そこまで行くと神の領域にれちゃうから、私には使えない術式になっちゃうね」


 ヴォルフガングが呆然としながら尋ねる。


「時間を跳躍すると何が起こるのか……聞いてもいいかな?」


「たとえば、今から≪火竜の息吹≫を発動させたとして、過去や未来の標的にそれを当てることが出来るんだよ。

 未来の標的に当てれば、結果的には因果逆転の魔術と同じことが起こるね。でも未来に干渉する魔術だから、ペナルティで命を落とすね。

 過去の標的に当ててしまうと、歴史の改変になっちゃう。これも因果逆転の魔術と結果は同じ。こっちは多分ペナルティが大きいから、世界が崩壊しちゃうかもね」


 アルベルトが頬を引きつらせて告げる。


「さらりと世界を滅亡させる魔術を解説しないでくれないか。

 その魔術を行使できる人間はこの場には居ないだろうが、物騒なんて話じゃないんだが」


 瑞希が口を尖らせて応える。


「使えないなら知らないのと同じことじゃない。

 ――こういう面白そうな魔術をもっといろいろ試したいんだけど、どうしても神の領域が邪魔をして試せないんだよ。

 おかげで魔導が伸び悩んでたんだけど、最近は竜の魔術を見せてもらうことができたから、少しは幅が広がったかな」


 レッド公爵が呆然と言葉を失い、シュワルツ公爵は楽しそうに微笑んでいた。

 リーゼロッテが叫ぶ。


「そんなことより、お腹空いたよ! 早く食べようよ!」


「はーい。じゃあ夕食を始めようか!」



 その後は他愛のない会話を交えながらの、温かい夕食の時間が過ぎていった。


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