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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第2章:新しい時代

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59.白霧の夜会

 ――夜会当日。


 王太子が主催し、王都の貴族の多くに招待状が配られる、年末以来の大規模な夜会だ。

 霧の教会、そして白竜教会の関係者も多く出席する夜会となった。


 瑞希は今夜も白いドレス――今回は白百合をテーマにした新しいドレスだ。

 もちろん仕立てたのはユリアンである。



 瑞希の前にブラント枢機卿が姿を見せた。


「今回はお手柄だったと伺っていますよ。

 両者が和解できて本当によかった」


 瑞希が微笑みを浮かべた。


「ブラント枢機卿にも苦労をかけましたね。

 今回はシュワルツ公爵を始めとした、白竜教会の方にも協力いただいた結果。

 私の力など、些細ささいなものですわ」


 その場にデネブ王国外交官、ラニエロ公爵も姿を見せた。


「随分と謙遜をしているね。

 ミズキ殿下でなければ、伝承にある竜が動くこともなかった。

 この結果は間違いなく、ミズキ殿下の力だよ」


「ごきげんようラニエロ公爵。

 デネブ王国の状況はどうなってますの?」


 ラニエロ公爵の表情が陰る。


「あまり良い、とは言えないね。

 リーゼロッテ王女がやってきて以来、我が国の白竜教会は二つに割れて政治闘争をしているらしい。

 創竜神にくみする主流派の力が強いからなんとか抑え込んでいるが、楽観視はできないな。

 北方周辺はどこも多かれ少なかれ、そんな感じらしい」


「南方はどうなってるのかしら。ご存じですか?」


「ああそれなら――ライツラー侯爵!」


 ラニエロ公爵が離れたところに居るドルトウム王国外交官、ライツラー侯爵を見つけ、こちらに招いていた。


「……私に何か御用ですか、ミズキ殿下」


 瑞希は微笑んで応える。


「久しぶりですわねライツラー侯爵。

 ドルトウム王国は南方に位置する国。

 南方周辺の状況をお聞きしてもよろしくて?」


 ライツラー侯爵が苦笑を浮かべた。


「さすがのミズキ殿下の魔導も、こうも広範囲では力が及びませんか?」


「いくら私でも、脈略もない場所の情報を得る事などできませんわよ?

 それに、自分の主観以外の情報も得ておきたいと思っていますの。

 外交官として経験豊富な方々の意見は、充分参考になりますわ」


「そう言いつつ、その気になれば情報を得られるのでしょう?

 ――まぁいいでしょう。暗殺者を仕向けたび代わりに、お応えしましょう。

 国内はかなりきな臭い状況です。

 我が国はそれでもマシな方で、南方は国政に白竜教会が食い込んでる国家が多い。

 このままですと、南方の国家連合がドライセン王国に宣戦布告をしかねません。

 我が国はそれに巻き込まれぬように対処するのが精一杯で、この国に手を貸す余力はありませんな。

 くれぐれも注意しておいた方がよろしいでしょう」


 瑞希は思案した後に尋ねる。


「東方と西方の情報はご存じかしら?」


「西方なら――リーマン侯爵! こちらだ!」


 ラニエロ公爵に招かれ、シュライヴ皇国外交官、リーマン侯爵が瑞希の元にやってきた。

 リーマン侯爵は緊張で蒼褪あおざめているようだ。

 

「……なんでしょう? 私に何か御用ですか?」


 瑞希は柔らかく微笑んで告げる。


「それほど緊張なさらなくてもよろしいんじゃありませんこと?

 昨年の話は終わったこと。

 敵対していない相手をどうこうするつもりはございませんわよ?」


 リーマン侯爵が自嘲気味に笑った。


「ははは……あなたの噂を聞けば聞くほど、人間とは思えません。

 緊張をするなという方が無理ですよ。

 ――それで、知りたいのはなんですか?」


「皇国の状況と西方の状況をお聞かせいただきたいと思いますの」


 リーマン侯爵が納得した様に頷いた。


「ああ、そういうことですか。

 国内は元々、白竜教会の影響が薄いので問題ありませんよ。

 ですが西方諸国は危険と言えるでしょう。

 伝わってくる限りでは、白竜教会の私兵団を派兵するつもりかもしれません。

 我が国が貴国きこくに力を貸せるかは、北方周辺国家次第。

 まだなんとも言えないところです」


 瑞希が俯きながら尋ねる。


「東方の状況はどうなってるのかしら……」


 ラニエロ公爵、ライツラー侯爵、リーマン侯爵が顔を見合わせた。


 ラニエロ公爵が告げる。


「我が国の情報網では、不透明ですね。

 不気味なほど情報が入ってきません」


 ライツラー侯爵が続く。


「私の情報網でも同様だ」


 リーマン侯爵が続く。


「貴公らもか。不気味だな……」


 瑞希は俯いて思考を巡らせた。



 案の定、周辺各国がきな臭くなっている。

 北方はシュライヴ皇国が抑止力となってくれることを期待できるだろう。

 だがそれ以外の三方はどれも危ういと言える。


 南西に伸びる旧シュトルム王国領が、そんな西方と南方に挟まれている。

 現在、最も脆い状態にあるのがシュトルム領だ。

 危険な状況と判断できるだろう。


 シュトロイベル公爵率いる第二軍だけで支え切るのは、難しいかもしれない。


 情報が一切見えない東方はマイヤー辺境伯が守護する方角だ。

 私兵団程度であれば支え切れるだろうが、国家が攻めて来ればこちらも危うい。



 瑞希は顔を上げて微笑んだ。


「とても貴重な情報、ありがとうございます。

 参考になりましたわ」


 リーマン侯爵が神妙な顔で瑞希に尋ねる。


「それで、今回はどういった対策を講じる気ですか?

 話し合いの根回しが通じる相手ではない。

 今回ばかりは、あなたの魔導と言えど手に余るのでは?」


 瑞希は微笑んで応える。


「白竜教会の協力者に、頑張って頂こうかと考えておりますの。

 私が出張ったところで、話がややこしくなるだけでしょう。

 せいぜい、相手国におもむく、ぐらいしかやることはありませんわ」


 ラニエロ公爵が目を見開いた。


「敵中に姿をさらすと、そうおっしゃったか」


「近衛騎士団と、創竜神の眷属である竜の化身が傍におりますのよ?

 人間の兵力が相手なら、何も怖くありませんわ。

 それに、不要であればおもむくこともいたしません。

 今回は極力、私は手を出さない方向になるのではないでしょうか。

 ――もちろん、殴ってくる方には、相応にむくいを与えることになるでしょうけれどね?」


 静かに微笑む瑞希を、三人の外交官は呆然と見つめていた。





****


 瑞希は、会場の隅で控えている近衛騎士に声をかける。


「ハンス侯爵子息。中々、さまになってますわよ?」


 ハンス侯爵子息は応えない――職務中の私語は禁止されているので、応えられないのだ。


 瑞希は満足したように微笑んだ。


「その調子で、よろしくお願いしますわね」


 瑞希の元に、兵士の一人が駆け寄ってきた。


「ミズキ殿下、少々ご足労をよろしいでしょうか」


何事なにごとですか?」


「はっ、リーゼロッテ王女を名乗る人物が来ておりますが、身元を証明する物がなく、対応に苦慮しております」


 瑞希は微笑みながら小さく息をついた。


「仕方ありませんわね。今参ります」


 瑞希は兵士の後を追い、会場の入り口に向かった。





 入り口には、真っ赤なスーツで身を固めた貴族と真っ白なローブを着込んだ少女が居た――レッド公爵とリーゼロッテだ。


 瑞希が周囲の兵士たちに告げる。


「この方は間違いなくリーゼロッテ王女ですわ。

 それとこちらはレッド公爵。シュワルツ公爵と同じく、私の親戚のような方ですの。

 失礼のないようにしてください」


「はっ、了解いたしました!」


 瑞希はリーゼロッテたちに振り向き告げる。


「お二人とも、お疲れでしょう? こちらへどうぞ」





 瑞希は二人をテーブルに招き、グラスを渡す。


「突然やってこられるだなんて、どうなさったの?

 周辺国の説得は終えられたのですか?」


 リーゼロッテがグラスに入ったジュースを飲み干してから応える。


「――ぷは! 一応は隣接国を全部回ってきたよー。

 ほんと、忙しかったぁ。

 ――でもミズキ、そのしゃべり方は似合わないね?

 もっと普通に話せない? 肩がこっちゃうよ」


 瑞希が苦笑を浮かべて小さく息をついた。


「しょうがないなぁ。

 このテーブルだけだよ?

 これでも王太子妃だからね。

 こういう場所だと、改まって話さないといけないんだけど。

 リーゼロッテのお願いじゃ、断れないね」


 レッド公爵が上機嫌で微笑みながら尋ねる。


「国王と王太子はどうしたんだい?

 王太子妃の君をほったらかしなのかい?」


「今は各国の情報を聞きこんでいる最中のはずだよ。

 アルベルトはそのうち、ここに合流するんじゃないかな」


「じゃあ黒龍の奴はどうしたんだい?

 あいつの姿も見えないが」


「今は周辺国の様子を見に行ってもらってるよ。

 今はとにかく、情報が欲しい時だからね。

 ――だから、二人にも説得の感触を教えて欲しいかな」


 レッド公爵がニヤリと笑った。


「いいだろう。

 ――おおよそ、半数の信徒が反発するのはどこも変わらなかったね。

 創竜神様が霧の神より格下だと認められない者が暴走気味だ。

 特に南部は、貴族にそういう信徒が多かった。

 あれは放置していたら、戦争になるだろう。

 その動きが国内で留まるか、国外にまで及ぶかはわからないね」


 リーゼロッテが告げる。


「一番聞き訳が無かったのは西側の人じゃないかなぁ。

 逆に東側の人はすんなり受け入れてくれてた気がする。

 でもなんとなく、危ないのは東の国だろうなって思う」


 レッド公爵が目を細めた。


「東か。それは困ったね。

 リーゼロッテの故郷がある方角だ。

 下手をすると、そこが攻められるかもしれないね」


 瑞希が小首を傾げた。


「え? どういうこと?」


「ドライセン王国じゃなく、シュティラーヒューゲル王国が狙われる、ということだよ。

 東側は最後に回った地域。

 全て回るのに一か月半だ。

 初期に出た反発派が東方に働きかけて説得した――そんな流れも考えられる。

 例えば最初に説得をしたドライセン王国の人間がリーゼロッテを逆恨みして東方国家に働きかけた、そんな感じだね。

 元々、東進とうしんを狙っていた東方の国家が、白竜教会の反発派と手を組めば、白竜教会の私兵団を軍に組み入れて動くこともあるかもしれない。

 さて、どうしたものかねぇ」


 瑞希が手のひらに小さく≪現在視≫でヒュープナー伯爵を映し出した。

 どうやら、どこかの客間でくつろいでいる最中のようだ。


「……ここから東、位置はアルトストック王国かな」


 続いて画面の内容が切り替わり、軍人たちが会議をしてる様子が映し出された。


「……確かに、東の国家を攻め取る話し合いだね。標的にシュティラーヒューゲルも入ってるみたい」


 手のひらの画面を消した瑞希がため息をついた。


「どうしよう、アルトストック周辺もシュティラーヒューゲル周辺も、外交的なつながりがない。

 迂闊うかつに手を出せば、ドライセン王国の侵略行為になっちゃう」


 レッド公爵が目を見開いていた。


「今のは……≪水龍すいりゅう水鏡みかがみ≫と同様の術式だね。

 しかも自分とは関係がないものを映し出せるとは……

 術理はかなり異なるようだが、そんな術式を使えるのか」


 瑞希が思考を巡らせながら応える。


「私の魔術は因果を操る魔術だからね。

 切っ掛けになる最初の因果だけあれば、あとは連鎖させていけるんだ。

 ……うーん、やっぱり軍を出すってのは難しいなぁ。

 他国も外部に軍を派兵する余裕はないだろうし、ほんとにどうしよう」


 アルベルトが悩む瑞希の元へやってきて声をかける。


「どうしたんだ? 難しい顔をして」


「ああアルベルト。丁度良かった。

 アルトストック王国が白竜教会の私兵団を連れて、東進とうしんしようとしてるみたいなんだよ。

 その先にリーゼロッテの国が入ってるんだ。

 どうしたらいいと思う?」


 アルベルトが神妙な顔で応える。


「アルトストックは隣国という訳ではない。

 そのアルトストックを止める大義名分もない。

 それでも止めたければ、我々が東方国家を含めてアルトストックを征服する必要がある。

 それは以前周辺国家に通知した『我が国は他国を侵略する意思はない』という言葉を裏切る行為だ。

 我が国が表立って動ける話ではないな」


 瑞希が唇をかみしめた。


「第一、今はそんなに大規模に軍を動かせる状況でもないしね。

 ――ねぇ赤竜さん、あなたなら人間の軍隊ぐらい、吹き飛ばせるんじゃない?」


 レッド公爵の目が鋭くなり、瑞希を見つめた。


「当然、そのくらいは朝飯前だ。

 だが人間たちの営みに、我々が関わるということはない。

 戦争ならば尚更なおさらだ。

 我々を当てにしない方が良いね」


 瑞希ががっくりと肩を落とした。


「いや、可能だってのがわかればいいんだよ。ありがとう。

 ――はぁ。まーた人の命を背負うのかぁ。気が重いなぁ」


 アルベルトが怪訝けげんな顔で瑞希に尋ねる。


「なんだ? 何をする気だ?

 まさかミズキが軍隊を止めるというつもりか?」


 瑞希が顔を上げてアルベルトに応える。


「ん? そのつもりだけど?

 王国軍を派兵できないなら、私が一人で現地に行って軍隊を吹き飛ばせばいいじゃない?

 黒龍さんだって、その場所に連れて行くぐらいは手伝ってくれると思うし」


「そんなことをして、また大量の人の命を背負ってまで彼らの動きを止めたいのか?

 理由はなんだ?」


 瑞希がきょとんとして応える。


「私たちは今回リーゼロッテに、とっても助けてもらったんだよ?

 そのリーゼロッテの国が滅ぼされそうなのを、黙って見過ごすなんてできないでしょ?

 できる事があるなら、私はやるだけだよ」


 レッド公爵が見定めるような目で瑞希を見つめた。


「君にそれが可能だと言うのかね?」


「だって赤竜さんって火竜でしょう?

 なら≪火竜の息吹≫を使うんじゃない?

 黒龍さんの≪火竜の息吹≫は威力も真似できてたから、あれで対応できるんじゃないかなって。

 さっきの質問はその確認だよ。

 私はあれを、人間の軍隊に向けた事がないからさ」


「軍隊を吹き飛ばした後、君はどうするんだ?」


「どうもこうも、こっそりドライセン王国に帰ってくるだけだけど?

 でもリーゼロッテの国に手を出そうとしたら、何度でも助けるよ。

 受けた恩はきちんと返す。それだけだよ」


 瑞希は憂鬱な顔でグラスを空けた。

 その横顔を、戸惑う顔でアルベルトは見つめている。


 リーゼロッテは、静かな瞳でまっすぐ瑞希を見つめていた。


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