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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第2章:新しい時代

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57.王太子妃のお茶会

 ――魔導学院のサロン。


 ゲルトが瑞希に尋ねる。


「一か月経って、そっちのクラスの雰囲気はどんな感じになった?

 昨年と違って、今年のミズキ殿下の授業態度は大人しいんだろう?」


「半数は一年一組だった生徒だから、大して変わってないかな。

 そんな人たちから私の昨年の授業態度や特別授業の話を改めて聞いた人が、私の事を観察するように見てるみたい。

 割れ物にれる扱いなのは、変わってないかなぁ」


 コルネリアが瑞希に尋ねる。


「白竜教会の問題は片付きそうなの?」


「少なくとも国内の白竜教会は納得してくれたみたい。

 今はリーゼロッテが周辺国を回ってる頃のはずだよ。

 ――ソニア、一年生の様子はどう?」


「変化はありませんわね。

 なんとか私に近づきたいと、話しかけてくる方が多い印象です。

 さすがに、放課後のこのサロンに参加したいと言ってくる方はおりませんけどね。

 今年の一年生には、創竜神の信徒が少なかったんじゃありませんか?」


 ロルフが穏やかに微笑みながら告げる。


「私などが皆様に混じっていて、構わないのでしょうか。

 私は次男。ルートヴィヒ侯爵家を継ぐ訳ではありませんよ?

 国政に関わるような話題を、聞いてよい身分だとは思えないのですが」


 アルベルトが微笑んでロルフに応える。


「家督を継がせる気がない者に、公爵家の令嬢などを嫁がせる訳がないだろう。

 婚約もまとまったのだから、ワルターは侯爵家をお前に継がせる気なのだと思う。

 お前の兄は勇猛な騎士だが、思慮に欠ける点が多い。

 人を率いるには向かない男だろう」


 イーリスも微笑んでロルフに告げる。


「ロルフ様は既に、アリシア様も交えてのお茶会にも参加されています。

 今では立派な私たちの仲間ですわよ?

 私たちよりもアリシア様と触れ合う機会も多いでしょうし、情報共有の意味でもこの場に居てくださると助かりますわね」


 クラインが紅茶を口に含んだ後に告げる。


「できればソニア殿下以外にも、女子の仲間を増やしていきたいものですわね。

 社交界は女性の力が強い世界。

 ミズキ殿下の力になれる女子を仲間に加えたいと思っているのだけれど……

 今の殿下に怯えない方が、私の周囲には見当たらないのよね」


 コルネリアがクラインに応える。


「そっちも? 私の周りもそんな感じね。

 特に私のコネクションは下位貴族中心だから、尚更なおさらよ。

 ロルフ侯爵子息みたいに肝が据わった人間は、珍しいってことでしょうね」


 瑞希が微笑んで告げる。


「それについては、今度大きなお茶会を開こうと思ってるんだよ。

 そこにみんなが信頼してる人たちを招待して、私に慣れてもらおうと思うんだ。

 他にも大勢参加者を招くから、その中には肝が据わった人も居るかもしれない。

 気は進まないけど、私とれ合う機会を増やしてもらって、周りの貴族たちに少しずつ慣れていってもらわないと」


 イーリスが瑞希に尋ねる。


「あなたが社交場を開くの?

 ――その必要がある、と感じているのかしら。

 ということは近々、大きな動きがあると読んでいる訳ね。

 そのために国内をまとめたいと、そういうことかしら?」


 瑞希が頷いた。


「今は陛下や伝手つてのある他国の外交官にもお願いして、周辺国の動向を見張ってる状態なんだ。

 リーゼロッテが言葉を伝えた後、必ず大きな動きになる。

 その前に、国内の落ち着かない空気を、何とかしておきたいと思ってさ」


 アルベルトが告げる。


「同時期に、白竜教会との和解を祝して大規模な夜会を開く準備も進めている。

 今後は夜会もなるだけ主催していき、年配の貴族たちにミズキに慣れてもらおうと考えている。

 みんなにも招待状は出しておくから、都合がつくのであれば参加して欲しい」





****


 ――王宮のサロン。


 そこでは若い貴族子女を中心とした、百人規模のお茶会が開かれていた。

 瑞希が複数あるテーブルを回っていき、参加者たちに言葉を投げかけていく。

 だがなごやかに会話していたテーブルも、瑞希が現れた途端に会話が途絶え、緊張してしまう様子が続いていた。



 自分のテーブルに戻った瑞希が扇子で口元を隠しながら小さく息をついた。

 そのテーブルには、瑞希だけがぽつんと居る――関わってこようとする貴族が居ないのだ。


(やっぱり現実は厳しいなぁ。

 クラインたちの友達も、全然緊張がほぐれてないし。

 特にコルネリアの友達なんか蒼褪あおざめるくらい緊張してたしなぁ)


 そのテーブルに、アリシアが率いる一団が現れ、席に腰を下ろした。


「ミズキ殿下、お顔が暗いですわよ?

 そんな様子が知られたら、参加者たちの貴族生命が危うくなってしまいます。

 もっといつものように、明るく微笑まれませんと」


「それもそうですわね……

 ところで、アリシアの連れてきた方々は大丈夫なのかしら。

 お顔が緊張で蒼褪あおざめてらっしゃるようですけれど」


 アリシアが楽しそうに微笑んだ。


「先ほどの皆様のお顔が面白かったので、ついもう一度見たくなってしまって。

 私が『ミズキ殿下の元へ行ってまいります』と告げたら、付いてこられたのですわ。

 中々、ガッツのある方々だと思いますわよ?」


 アリシアの嫁ぎ先はルートヴィヒ侯爵家がほぼ確定したが、それはつまり夫が将来の王国軍第一軍司令官を有力視されたということでもある。

 少なくとも、軍部重鎮の座は固い。

 引き続き公爵令嬢の腰ぎんちゃくで居続けるなら、嫌でも付いていかざるを得ない。

 おそらくアリシアの背中に隠れながら、瑞希をやり過ごすつもりなのだろう。


 瑞希が微笑みながら小さく息をついた。


「本当にアリシアは良い性格をしてますわね。

 ちなみにアリシアは、ロルフ侯爵子息の将来をどう見てらっしゃるの?」


「一見すると草食系男子ですが、騎士として立派に身体を鍛えてらっしゃるようですわよ?

 案外、アルベルト殿下と同じようにロールキャベツ系男子かもしれませんわね。

 戦場で動じる性格ではございませんし、経験を積めば充分、司令官を務め上げられますわ。

 おそらく次の次あたりで、第一軍を任されるようになるのではないでしょうか」


「ワルター様のご長男は、どう思ってらっしゃるの?」


「ハンス様ですか?

 あの方は私の性格を嫌って避けてしまわれるので、人柄を把握しきれておりませんが……

 乱暴な方に見えますし、器も小さそうですわね。

 戦場で暴れまわるには向いている方ですが、要職ようしょくに辿り着ける方ではありませんわ」


 アルベルトが下したのと同じ評価、となる。

 王太子がそう見ているのだから、ハンス侯爵子息の将来は、閉ざされたも同然だろう。

 精々、戦場の下士官が限界の男、ということだ。

 ルートヴィヒ侯爵が我が子でも厳しい目で見るとするなら、後援する事もないだろう。


 だが器が小さい男が、弟に侯爵家の家督を奪われる――そこに火種の匂いがした。

 今後、気を付けておく必要があるだろう。



 その後もいくつかの会話を交えた後、アリシアの一団がっていった。

 アリシアと入れ替わるように、クラインが一人の令嬢を連れて現れた。


「少しお邪魔するわね。紹介しておきたい子がいるの。

 アニエルカ様よ。魔導学院二年生、つまり同い年ね」


 緊張した面持ちの銀髪の少女が、固くなりながら瑞希に告げる。


「ザクセン伯爵が息女、アニエルカと申します。

 お初にお目にかかります、ミズキ殿下。

 以後、お見知りおきください」


 瑞希は微笑みながら応える。


「瑞希・ニーア・ドライセンよ。よろしくお願いするわ。

 先ほどは緊張して一言も言葉を交わして頂けなかったのに、よくここに来る勇気を持てましたわね。

 その気持ちを、私は嬉しく思っていますわ」


「いえ、その……アリシア様と楽しく会話なさってるお姿を見て、私もこのままではいけないと思いまして。

 クライン様を始めとした、親しいご友人ばかりと会話をしているようでは、ミズキ殿下の風聞も悪くなってしまいます。

 私もクライン様の友人として、そのような状況を見過ごす訳には参りません。

 霧の神からも『殿下を支えて欲しい』というお言葉を頂いております。

 ですので死を覚悟し、意を決して、この場に参りました」


「死を覚悟するって……そんな大げさなことなのかしら。

 私は心を狭く持った覚えもありませんし、もっとリラックスして頂いて構いませんのよ?」


 クラインが苦笑を浮かべた。


「ですから、お伝えしたでしょう?

 ミズキ殿下の態度一つで人が動くのよ?

 それは最悪の場合、社交界での死を意味するわ。

 アニエルカ様は、その社交界での死を覚悟してこの場に来てくださったのよ?

 この場でなければ、あなたの素顔をさらけ出しても問題のない子でもあるの。

 そのうち、放課後のサロンに招けると良いわね」


 瑞希はまじまじとアニエルカを見つめた後、立ち上がって彼女に歩み寄っていき、その手を取った。


「アニエルカ、あなたのお気持ち、確かに受け止めました。

 私はあなたを信頼できる方だと認めますわ。

 お心が決まったら是非、放課後のサロンにも顔を見せてくださいね」


「――はい、是非伺わせてください!」


 立ち上がり、瑞希と手を握り合うアニエルカを見た周囲から、小さなどよめきが上がった。

 アニエルカは涙をこらえ切れないようで、瑞希がハンカチで涙をぬぐってあげている。


 クラインが満足そうに微笑んだ。


「今のでアニエルカ様は、社交界で発言力を持つ人間の一人となったわ。

 父親であるザクセン伯爵の存在感と発言力も、これで増したことになる。

 私たちの心強い味方の一人となられたのよ。

 ――ミズキ殿下、あなたも社交界での振る舞い方、少しはわかってきたみたいね。上出来よ」


 瑞希が微笑みながら、小さい声で応える。


「……巧く行った? 大丈夫? こっちもおっかなびっくりだから、ドキドキしてるよ」


 ここで対応を間違えれば、相手の社会的な死につながるのだ。

 言葉一つ、態度一つを吟味ぎんみしながら相手に投げかけることになる。


(社交界、きっついなぁ……)


 疲労感を微笑みの裏に隠しながらアニエルカを椅子に座らせ、瑞希も席に戻った。


「クラインに聞いておきたいのだけれど、あなたの婚約相手はどのような手応えなのかしら」


「マルティン様のことをお知りになりたいの?

 シュトロイベル公爵家のご長男ですし、父親に似て文武に優れた方ね。

 穏やかに見えて激しいご気性が見え隠れするのも、父親似だと思うわ。

 今のままなら、順当にシュトロイベル公爵家の家督を受け継ぐのではないかしら」


「そこが少し意外なのですわ。

 クラインは『のんびり気楽に生きて行きたい』と以前、言われていたではありませんか。

 マルティンがシュトロイベル公爵家を継ぐのであれば、のんびりとも気楽とも言えないのではなくて?」


「少なくとも、マイヤー辺境伯家の力を必要とする方ではないわ。

 私に対しても、穏やかな好意を寄せてくださる方でもある。

 公爵夫人は大変でしょうけれど、王妃を背負うよりはずっと楽だと思っても居るの。

 それにミズキ殿下を支えるなら、シュトロイベル公爵夫人の立場は有効な力となるわ。

 私たちは交友関係が狭い分、一人一人の力を強くしていかなければならないと考えているの。ただそれだけですわ」


 アニエルカがおずおずと告げる。


「ミズキ殿下と直接言葉を交わすだけでも、発言力が増しますもの。

 放課後サロンの参加者ともなれば、すでに学院でも有数の発言力を持ちますわ。

 それは若い世代のみならず、年配の貴族へも強い影響力を持ちますの。

 現在のサロン参加者の父兄も、既に強い発言力を持っていますのよ?

 今後はお父様方がその仲間に加わることになりますわね」


 瑞希が二人に尋ねる。


「では、ルートヴィヒ侯爵家のハンス侯爵子息についてはどうなっていますの?

 ロルフがサロンに参加している現在、ワルターの一族が力を持ったということですわよね?

 アリシアからは『乱暴で器が小さい人物だ』という話は聞いています」


 クラインが応える。


「良くない噂ばかりを耳にしますわね。

 ロルフ様がサロンに参加されて以降、狼藉ろうぜきが目に余るそうですわ。

 彼の場合、家督を継ぐ目が絶望視され、発言力も大きく落ち込んでいますの。

 ですが仮にも侯爵家子息、逆らえない下位貴族を従えて、あちこちで暴れているという噂ですわ」


 アニエルカが続く。


「私の耳にも、そのような噂ばかりが届きますわね。

 もうじき婚姻すると言われていた婚約も、破談寸前という噂まであります。

 あの方自身は、本来そこまで悪い方でもないはずなのですが、すっかり荒れてしまわれてますわね」


 瑞希がアニエルカに尋ねる。


「アニエルカはハンス侯爵子息と直接会ったことがある、ということかしら」


 アニエルカが頷いた。


「以前、夜会でご一緒になった事がありますわ。

 乱暴な方ですが、率先して悪事を働く方にも見えませんでした。

 おそらく、家督をロルフ様に奪われる事が、余程許せないのではないでしょうか」


 瑞希が思考を巡らせてから、再び尋ねる。


「ハンス侯爵子息は、霧の神をどう思っている方なのかしら」


 アニエルカが応える。


「信仰心はあつい方だと聞いています。

 以前は礼拝堂にも毎週通うほどだったとか。

 最近は、さっぱり姿を見せなくなったらしいですけれど」


「……良い情報をありがとう。

 早いうちに手を打っておいた方が良さそうな気配ですわね」


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