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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第2章:新しい時代

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56.赤の公爵

 瑞希は呆然と会議の場に現れた男性――レッド公爵を名乗る貴族を見つめていた。


「赤竜さん? 黒龍さんがいつも言ってた人?」


 シュワルツ公爵が不機嫌そうにレッド公爵に告げる。


「赤竜、なぜお前がここに来たんだ。

 我らが人間界で顔を合わせるなど、前代未聞だぞ。

 私では力不足だとでも言いたいのか」


「ははは! 実際、話し合いが全く進んでいないようじゃないか。

 黒龍は人間と触れ合う機会が極端に少なかったからね。

 人間の扱いに困るだろうと思ってはいたが、ここまで不器用だとは思わなかったよ」


 レッド公爵の背後から、一人の少女が姿を現した。

 その姿は、真っ白なローブに包まれている。


 少女が唇を尖らせてレッド公爵に告げる。


「赤竜おじさま、私の事も紹介してくれないかなぁ?

 私は忙しいんだから、早く用件を済ませたいんだけど?」


「ははは! すまないね! すぐに紹介しよう!

 ――ヒュープナー伯爵、この子はリーゼロッテ。竜の寵児ちょうじだ。

 この子の言葉なら、君も納得できるんじゃないか?」


 少女――リーゼロッテがさらに前に出て、呆然としているヒュープナー伯爵に告げる。


「私はリーゼロッテ・メイヤ・シュティラーヒューゲル。竜の寵児ちょうじだよ。

 創竜神様の言葉を伝えるから、耳の穴をかっぽじって、よーく聞いてね? ――」




『霧の神を怒らせる真似はしないでくれるかなー?

 あの神、普段は優しいけど怒ると怖いからさー。

 何を言われても、従っておいてくれる?』




「――って言ってたよ。理解できた?」


 微笑むリーゼロッテに、ヒュープナー伯爵が猛然と叫ぶ。


「創竜神様が『従え』とおっしゃったと、そうおっしゃるのですかリーゼロッテ殿下!」


「そうだよ? 『向こうが格上なんだからしょうがないじゃん』って。

 私たちは創竜神様がそう言うなら、その通りにするだけだよ。

 この国の信徒にも、きちんと伝えておいてね?」


 にこやかに告げるリーゼロッテに、瑞希がおぞおずと尋ねる。


「えっと、『殿下』ということは、あなたも王族なの?」


 リーゼロッテがニカッと笑って応える。


「そうだよー! ここから東の方にある、シュティラーヒューゲル王国の王女なんだ。

 ちょっと遠いし小さい国だから、知らなくてもしょうがないかもね」


「あまり王女様らしくないね……」


「私は王族として生きてこなかったからね!

 王族の教育も受けてないしさ!

 竜の寵児ちょうじは生まれに関係なく、竜の寵児ちょうじとして生きて行くんだよ」


「竜の寵児ちょうじってなんなの? 竜の巫女の仲間?」


「そんな理解であってるよー!

 竜の巫女の中で、特に力が強い巫女をそう呼ぶんだ!」


「えっと……さっきの創竜神の言葉、すっごいフランクだったね。

 神様の言葉を、あんな風に伝えて良かったの?」


「あはは! あれは創竜神様の言葉をそのまま伝えただけだよ!

 竜の寵児ちょうじには、創竜神様の話す言葉がああやって聞こえるんだ。

 赤竜おじさまもそうだけど、竜ってみんなすっごい親しみやすい、明るい性格をしてるよ?」


 瑞希の視線が、仏頂面のシュワルツ公爵に向かった。


「『親しみやすくて明るい性格』? 黒龍さんもそうだっていうの?」


 シュワルツ公爵が不機嫌そうに瑞希に応える。


「私は、竜としては極端に無愛想な方だろう。

 だがそれは、我ら上位四頭が似たようなものだ。

 そこの赤竜とて、寵児ちょうじの前でなければ愛想が悪くなるからな」


 瑞希がレッド公爵を見つめた――そこには、にこにこと明るい笑みを浮かべる壮年男性がいるだけだ。


 レッド公爵が微笑みながらリーゼロッテに告げる。


「リーゼロッテ、お前は神殿内に居る信徒たちに、創竜神様の意志を伝えておいで。

 この場は私が引き受けよう」


「はーい、じゃあ行ってくるねー!」


 リーゼロッテが駆け出し、部屋から出ていった。

 レッド公爵がゆっくりと会議の席に座り、静かな声で告げる。


「――さてヒュープナー伯爵。疑問があれば応えてやろう。

 思っていることを口にするがいい」


 先ほどまでと打って変わり、低く重い声が響いていた。

 微笑みは変わらないのだが、レッド公爵の目が笑っていない。

 そこに居るだけで威圧される存在感――そんなものをレッド公爵は漂わせていた。


 ヒュープナー伯爵がおずおずと尋ねる。


「あなたが伝承にある、赤き竜の化身、ということか」


 レッド公爵の目が不機嫌そうに細められた。


「リーゼロッテが私を『赤竜』と呼んでいたのも忘れてしまうほど、記憶力が衰えたのかね?

 我ら創竜神様の眷属、上位四頭の伝承すら満足に知らないとは……いやはや、よくそれで司祭が務まるね。

 それだけ、この国では白竜教会の力が弱い、ということかな。

 リーゼロッテの顔を知ってるだけ、マシな人材か」


 レッド公爵の迫力にたじろぎながら、ヒュープナー伯爵が口を開く。


「なぜこの場に、リーゼロッテ殿下がおられるのか!

 彼女は東方の地を巡礼なされていたはずだ!」


「こちらに回せる寵児ちょうじが、今はリーゼロッテしか居なかったんだよ。

 リーゼロッテだって、無理を言って来てもらっている。

 お前の頭がもう少し柔らかければ、彼女に負担をいることもなかった。

 そこは、理解しておくがいい」


 瑞希が横からおずおずとレッド公爵に尋ねる。


「あの、赤竜さんやリーゼロッテは、話し合いの仲立ちをする為にここに居る、という理解であってるかな?」


 レッド公爵が瑞希を見る――その厳しい空気が、少し和らいだ。


「ああ、そういうことだ。

 それが創竜神様のご意志だからね。

 『おそらく難航するだろうから助けてやって欲しい』と言われ、リーゼロッテをこの場所に連れて来たんだ。

 頭の固い信徒たちでも、竜の巫女の言葉を疑えはしない。寵児ちょうじの言葉であれば尚更なおさらだ。

 彼女たちが『従え』と言えば、信徒たちは大人しく従うだろう」


「でも、そんなことを神様が言ってたら、信仰心が揺らがない? 大丈夫なの?」


「確かにこれは、信徒たちに与えられた試練だ。

 創竜神様を信じることが出来なくなり、白竜教会から脱退する人間すら出るだろう。

 そういった人間が、君に害意を向ける可能性もある。

 くれぐれも注意をしておくことだ」


 ヒュープナー伯爵がレッド公爵に尋ねる。


「脱退する信者が出るとわかっていて、それでも『従え』と創竜神様はおっしゃるのか」


 再び不機嫌そうにレッド公爵がヒュープナー伯爵に応える。


「お前のように信仰心が薄い人間は、白竜教会からるだろう。

 だが代わりに、『他の神に従え』と言われても信仰心を失わない者が台頭していく。

 混乱は生まれるだろうが、結果的に信徒の質は高くなる。

 今なら瑞希も居るから、一時的に悪魔の勢力が増したとしても押し返せる――そういう判断だろう」


 瑞希が再び横から口を挟む。


「ちょっとまって?!

 『私が居るから大丈夫』って、どういうこと?!」


「たとえ悪魔が再び現れても、瑞希なら倒せるという話だよ。

 伯爵級魔族を苦も無く倒すなど、神の加護を受けた寵児ちょうじたちでも、可能な者は非常に限られる。

 それを、神の助力を持たない人間が成し遂げたのだ。

 君の協力があれば、侯爵級すら倒すことも可能だろう。

 期待しているよ」


「私自身は、そんな大きな力なんて持ってないんだけど?!

 あれはユリアンさんや騎士団の人たちが頑張ってくれて、ようやく倒したんだよ?!

 伯爵より強い悪魔が出て来ても、倒せるかなんてわからないよ?!」


 シュワルツ公爵が不敵に微笑んで告げる。


「決め手になったのは、お前の魔術だ。

 伯爵の弱点をあばいたのは、間違いなくお前だ。

 私も瑞希が居れば、侯爵級を打倒できると感じている。

 ――もちろん、相応に共に戦える人間を揃える必要はあるがな」


「黒龍さんまで?!

 私を勝手に悪魔との戦いに引きずり込むの、やめてもらえないかな?!

 私はこの国を守るので精一杯だからね?!」


 ヒュープナー伯爵が大きな声で叫ぶ。


「――いい加減にしてくれ!

 ここは悪魔だなんだと、意味の分からない会話をする場ではないだろう!

 白竜教会の沽券こけんに関わる問題を話し合う場だ!

 我が白竜教会が霧の教会程度の弱小勢力より格下など、断じてい認めるわけにはかんのだ!」


 レッド公爵が、今までよりさらに冷ややかな空気で告げる。


「お前のように不勉強な人間は知らないのだろうが、各地に封印された悪魔を封じ続け、時には滅ぼすのが白竜教会の存在意義だ。

 竜の巫女や寵児ちょうじはそのための力であり、他の信徒は彼女たちを支えるために居る。

 他の宗教団体と権力闘争をして遊びたければ、今すぐ白竜教会をれ。

 ここは、そのような下らない事に力をく団体ではない。

 創竜神様の名の下に集まった、世界の存亡を背負った団体だ。

 理解したなら今すぐ法衣を脱ぎ、立ちるがいい」


 顔を真っ赤にしたヒュープナー伯爵が、乱暴に法衣を脱ぎ捨て、部屋から退出していった。

 その背中を追いかけるように、室内の神官たちの半数が部屋を出ていくのを、瑞希は黙って見送っていた。


(また世界の存亡が関わってくるの……。

 もうその話は終わったと思ったのになぁ)


 レッド公爵がわずかに微笑んで瑞希に告げる。


「すまないね瑞希。この時代に生きる以上、悪魔が復活して人間の文明が滅ぶ可能性は常にあるんだ。

 言うまでもなく、そうならないよう我々は最大限の努力を続けているんだがね」


 瑞希がきょとんとして小首を傾げた。


「……私、言葉が漏れてた?」


 レッド公爵がニヤリと笑った。


「我ら高位の竜なら、人間の心を読むくらいは簡単だ。

 ――だがそれについては、君も同じだろう?」


「私は、誰彼だれかれ構わず心を読むことを控えてるだけだよ。

 ……でも、それだけじゃないね。

 その術式は――相手の名前を見る術式?! そんな術式あるんだ?!」


 レッド公爵が楽しそうに微笑んだ。


「ほぅ……竜の術式を、こうもあっさりと読み解くのか。

 ≪火竜の息吹≫すら見様見真似みようみまねしてみせたとも聞いている。

 恐ろしい魔導の才能だね」


 シュワルツ公爵が不敵な笑みでレッド公爵に告げる。


見様見真似みようみまねどころか、即座に改変して≪加圧≫の術式などというものを開発してもみせたぞ。

 ≪火竜の息吹≫を糸のように曲げても見せた。

 『恐ろしい才能』などという陳腐な言葉で片付く代物しろものではない。

 神の眷属の名に恥じぬ人間だ。人間にしておくがの惜しいくらいのな」


「ほぅ、黒龍がそこまで人間をめるところを初めて見たね。

 どうやら、相当瑞希に入れ込んでいるようだ。

 ≪火竜の息吹≫を曲げたというのも信じがたい。今度その術式を見せてもらいたいものだね」


 残った神官の一人が、おずおずとレッド公爵に尋ねる。


「それで、我々は何をしたらよろしいでしょうか」


 レッド公爵が神官に応える――その目は、やはりやや厳しいものだ。


「――私とヒュープナー伯爵との会話を聞いていたな?

 ならばリーゼロッテの手伝いをしてくるがいい。

 お前は司祭代行として、しばらくはこの神殿の管理をしておきなさい。

 正式な司祭は、追々おいおい白竜教会が派遣してくるだろう」



 残っていた神官たちも立ち上がり、会議室を後にした。



 残された瑞希が、レッド公爵におずおずと尋ねる。


「黒龍さんが言う通り、リーゼロッテが居ないと、ちょっと雰囲気が怖くなるんだね。

 特にヒュープナー伯爵にはとっても厳しい態度だったし。

 もしかして上位四頭の竜って、気難しい人ばっかりなの?」


 レッド公爵が微笑みながら応える――その目は、わずかに温かさを取り戻していた。


「そうだね。我ら四頭は気難しいと言えるだろう。

 黒龍はその中でも特に気難しい奴なんだが、よくもそこまで気に入られることが出来たね。

 君が霧の神の眷属だとしても、驚くべき結果だ。

 これで黒龍が今後、人間に手を貸す機会が増えるといいんだがね」


 シュワルツ公爵は「フン」と機嫌悪そうにそっぽを向いて居た。





 神殿の入り口で、瑞希はレッド公爵と向かい合っていた。


「ひとまず、国内の信徒には創竜神様の意志を伝えておこう。

 それについてはリーゼロッテに任せておいて欲しい。

 その後、周辺国へも同様に意志を伝えておこう。

 だがその後どうなるかは、我らにはわからない。

 心しておいてくれ」


「創竜神は未来のことを教えてくれないの?」


 レッド公爵が苦笑した。


「未来を見定めるなど、古き神にしかできない芸当だ。

 創竜神様には、そこまでの力はないのさ。

 だが、うっすらと未来を感じ取ることはできるそうだ。

 何かあれば、すぐに我らに指示が飛ぶはずだ」


 瑞希がレッド公爵の目を見据えて告げる。


「今回のことで、間違いなく周辺国は大きく動くよ。

 付近に居る王都市民の死の気配が少し濃くなってる。

 王都が戦火に巻き込まれる可能性が上がったんだ。

 リーゼロッテにも死の気配が漂い始めた。

 そちらも気を付けてね」


「……当然、そうなるか。

 ただ信仰を捨てればいいものを、信仰は捨てずに面目のために兵を起こすか。

 創竜神様も、そこは理解された上でリーゼロッテに言葉を伝えてるはずだ。

 この国周辺の白竜教会を叩き直すおつもりなのかもしれん。

 それに巻き込む形になる。

 すまないね」


 瑞希は目をつぶって首を横に振った。


「この問題は私たちも直面していた問題。

 どんな形にせよ、白竜教会側に霧の神のことを納得させる必要があった。

 悪いのは、あんな派手な奇跡を起こした上に、余計な発言をした霧の神だよ。

 でも未来が見える霧の神が、意味もなくあんな行動をとる訳もない。

 もしかしたら、私への神の試練はまだ続いてるってことなのかもね」



 瑞希はレッド公爵に別れを告げ、馬車に乗りこんだ。

 窓から夕暮れに染まり始める街を眺めながら、今後のことに思いを馳せていた。


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