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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第2章:新しい時代

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54.春の風

第2章、開幕です。


 ――春。新学期の季節だ。


 今日から魔導学院に通うことになるソニアも、学院の白い制服に袖を通し、瑞希やアルベルトと同じ馬車に乗っていた。

 正式に義姉妹となったミズキとソニアは、この三か月でさらに仲を深め、会話を楽しんでいた。



「そういえば姉様、最近変な噂があるのをご存じですか?」


「変な噂って?」


「周辺国の白竜教会が、姉様を敵対視してるって話を小耳に挟んだんです。

 何か、お心当たりはありますか?」


 瑞希にはそんな心当たりなどない。

 ここは霧の神を信仰する霧の教会の勢力圏だ。

 創竜神を信仰する白竜教会の勢力はとても小さく、王都に小さな神殿がある程度だと聞いている。


 瑞希がアルベルトを見つめると、アルベルトが小さくため息をついた。


「年末の大奇跡の噂が、周辺国にも届いているらしい。

 おそらく、そのせいだろう。

 ミズキも覚えているだろう? 霧の神が創竜神をなんと呼んでいたか」


「あー、『あの子』とか『愛玩動物』とか言ってたよね」


「霧の神の言葉は、かなりの部分が噂に乗っている。

 信仰する神が愛玩動物扱いされて、怒っているのだろう。

 近いうちに、なんらかの対処をしておく必要があるかもしれん」





 ソニアとは玄関で別れ、二学年のクラス分けが掲示されている場所へ向かう。


「えーっと瑞希……瑞希……ありましたわ! 今年も一組ですわね」


「あなた、学力評価試験で満点だったんだから当たり前じゃない」


 背後から声をかけられ、瑞希は振り返った――クラインたちだ。


「クライン! みんなも! 久しぶりですわね!」


 ゲルトが瑞希に応える。


「今年は雪が多くて、冬の間は会えなかったからな。

 年末の夜会以来か?」


「そうですわね――皆様、同じクラスになれましたの?」


 コルネリアが苦笑しながら瑞希に応える。


「さすがに、私とゲルトは二組――別クラスよ。

 ちょっと寂しいわね」


 イーリスが微笑んで告げる。


「授業をご一緒できないだけですわ。

 大して違いはありませんわよ」


 アルベルトが告げる。


「昼食や放課後に集まれば、今までと変わらんからな。

 ――それより、そろそろ教室に移動しよう」





****


 昼の全校懇親会の時間になり、再び六人が集まっていた。


 ゲルトが辺りを見回し、誰かを探していた。

 瑞希がゲルトに尋ねる。


「ゲルト、どなたを探してらっしゃるの?」


「ああ、ルートヴィヒ侯爵家の次男も今年入学してるらしいんだが、それらしいのが居ないかと思ってな」


「それ『らしい』って……お会いしたことがない方ですの?」


「そうなんだが、あのルートヴィヒ侯爵の息子なんだ。父親そっくりならすぐわかるかと思ってな。

 ミズキ殿下も、アリシア様の相手をちょっと見てみたいとは思わんか?

 あのアリシア様の性格を苦にしない男だぞ?」


「確かに興味はありますが……その『殿下』って、必要ですの?

 私たちの仲なら、別に要りませんわよ?」


 ゲルトが瑞希の顔を見て肩をすくめた。


「さすがにそれは勘弁してくれ。

 王太子妃の敬称を省いていたことが知られたら一大事だ」


 アルベルトがゲルトに告げる。


「そういうことなら、同い年のソニアが顔を知ってるだろう。

 先にソニアに会いに行こう」





 瑞希たちがソニアの元へ行くと、ソニアは友人たちと固まって会話を交わしているところだった。

 ソニアの視線が瑞希に向けられる。


「姉様! やっとお会いできましたわね!」


「お話し中でしたかしら?

 お邪魔でしたら、すぐに居なくなりますわよ?」


「丁度、姉様のことをお話していたところですわ。

 皆様、未だに姉様のことを怖がってらっしゃるので、『その必要はない』とお伝えしていたところですの」


 瑞希がソニアの周囲に居る女子生徒たちを見ると、彼女たちは身を縮めて瑞希から距離をとっているようだった。


「……そこまで怖がられることなのでしょうか。

 少し寂しいですわね」


 ソニアが女子生徒たちに振り向いて告げる。


「皆様、見ての通りミズキ姉様は普通の人間ですわよ?

 ちょっと神の血を引いていて、人間離れした魔導をお使いになりますけれど、それ以外は普通の人間でしてよ?」


 女子生徒の一人がおずおずとソニアに応える。


「その『神の血を引く』時点でおそれ多くて、どのように接していいのか、わからないのですけれど……」


 瑞希が苦笑を浮かべながら告げる。


「普通に接して下さればよろしいのですわ。

 これからも社交場でお会いすることもあるはずですし、少しずつでも慣れてくださると、ありがたく思います」


 女子生徒が瑞希を上目遣いで見ながら、おずおずと応える。


「そういうことでしたら……ええ、なんとか慣れるように努力いたしますわ」


 しかし女子生徒たちはそれっきり黙ってしまい、ソニアの居るテーブルの会話が途切れていた。

 恐縮したままの女子生徒たちの緊張がほぐれる様子はなさそうだ。


「……ソニア、私はお邪魔の様ですから、私たちは移動しますわね。

 また後で会いましょう」


 ゲルトがそこに割り込んだ。


「ちょっと待った! なぁソニア殿下、ルートヴィヒ侯爵の次男はわかるか?

 今年の新入生のはずなんだが」


「ああ、それでしたら――あの方ですわ」


 ソニアが手で示す先をゲルトが追う。


「……誰のことだ? それっぽい奴はいないぞ?」


 ソニアが小さく息をついた。


「仕方ありませんわね、ご案内します」





 ソニアが先頭になって向かったテーブルには、大人しい男子生徒たちが固まっていた。


 ソニアが男子生徒の一人に声をかける。


「ロルフ様、ちょっとよろしいかしら」


 男子生徒が振り返り、ソニアに応える。


「ああ、ソニア殿下。何か御用ですか?」


 ソニアがゲルトの顔を見て告げる。


「ロルフ・フォン・ルートヴィヒ様ですわ。

 ――ゲルト様? どうなさいましたの?」


 ゲルトは呆然とロルフを見つめていた。


「……え? 本当にルートヴィヒ侯爵の息子なのか?

 全然似てないな……母親似なのか?」


 ロルフが穏やかに微笑んだ。


「ええ、そのようです。

 父上とは全く似ていないと、よく言われますし」


 瑞希がロルフを見つめながら告げる。


「……いえ、ワルター様にとてもよく似てらっしゃいますわよ?

 おそらく、父親似だと思いますわ」


 周囲が驚く中、アルベルトが頷いた。


「確かに、ミズキを前にした時のワルターの顔そっくりだ。

 母親よりも父親に似ていると、私も思う。

 お前がアリシアの婚約者か」


 ロルフが穏やかな笑顔のまま、わずかに頬を染めた。


「アリシア様ですか? 確かに両家で婚約話が進んでいるとは聞いています。

 みなさんのことも、アリシア様から少しですが伺っています」


 コルネリアがロルフに告げる。


「コルネリア・ベルゲマン子爵令嬢よ。よろしくね。

 ――ねぇあなた、『あの』アリシア様と本当に婚約するの? 大丈夫?」


 ロルフが微笑んで応える。


「アリシア様と婚約できるなら『喜んで』、といったところです。

 とても美しい方ですし、公爵令嬢として恥じるところのない方だと思いますけど……それがなにか?」


 ゲルトがロルフに告げる。


「ああ言い忘れたな、俺はゲルト・デーンホフ伯爵子息だ。

 ――確かにアリシア様は公爵令嬢として恥じるところはないが、あの性格を扱いきれるのか?」


 ロルフが首を傾げた。


「アリシア様の性格、ですか? のんびり屋だとは思いますが、私ものんびり屋なので、丁度良いのではないでしょうか」


 瑞希が微笑んでロルフに告げる。


「アリシアの性格を苦痛に感じる方ではなさそうですわね。

 いつかアリシアと一緒にお茶会にご招待いたしますわ」


 ロルフが微笑みながら頷いた。


「ミズキ殿下のご招待とあれば、喜んで参加させて頂きます」


 イーリスがロルフに告げる。


「グローサンシュタイン伯爵が息女、イーリスですわ。お見知りおきください。

 ――確かに、アリシア様の性格なんて苦になさらない方のようですわね」


 ゲルトがイーリスに尋ねる。


「そうか? どこを見てそう判断したんだ?」


「見てわかりませんか?

 今のミズキ殿下と相対あいたいして、平然と言葉を交わしていられる精神の持ち主ですわよ?

 アリシア様の性格なんて、問題になりませんわ」


 ゲルトが納得した様に頷いた。


「言われてみれば、ミズキ殿下を怖がってる様子が全くないな。

 ――なぁロルフ侯爵子息、あんたはミズキ殿下をどう感じてるんだ?

 婚姻の儀には参列してなかったのか?」


 ロルフが微笑んで応える。


「ああ、霧の神の彫像が動いた時は、本当に驚きましたよね。

 あんな経験は生まれて初めてでした。

 ミズキ殿下は、霧の神から直々に『支えて欲しい』と言われていますし、精一杯お支えしたいと思っていますよ」


 クラインがロルフに告げる。


「マイヤー辺境伯が息女、クラインですわ。

 ――信心が薄いという訳でもないみたいですし、見かけに反して、精神的に恐ろしくタフな方ですわね。

 これなら、アリシア様の伴侶としてもやっていけるんじゃないかしら。

 お茶会の席で会える日を、楽しみにしてますわね」



 瑞希たちはロルフに別れを告げ、ソニアとも別れて自分たちのテーブルに戻っていった。





 アルベルトが瑞希に尋ねる。


「なぁミズキ。今日はどうして、そうピリピリしてるんだ?」


 コルネリアがアルベルトに尋ねる。


「ピリピリなんてしてた?

 ずっと微笑んでたじゃない」


 瑞希が小さく息をついた。


「アルベルトには隠し事ができなさそうですわね。

 ――この場に、私に向かって敵意を向ける生徒が何人かいらっしゃいます。

 ですからどうしても警戒してしまうのですわ」


 アルベルトが瑞希に尋ねる。


「相手の素性は? どんな相手だ?」


「それが、ごく普通の貴族の人生を送ってらっしゃる方ですわね。

 私に敵意を持つ経歴の気配は特にしないのです。

 そんな方の因果をこれ以上詳しく追うのは、気が引けてしまってできておりません」


 クラインが呟く。


「今のこの国で、ミズキに敵意を持つ貴族なんて居るのかしら……

 社交界でも年末の大奇跡は持ちきりになっているはず。

 霧の神の信徒なら、敵意なんて持てませんわ」


 ミズキが思わず手を打った。


「ああ、なるほど。それで敵意が私だけに向いてるのですわね。

 つまりこれは、創竜神を信仰する貴族子女からの敵意、ということですわ」


 アルベルトが瑞希に尋ねる。


「数は分かるか? 学年は?」


「さすがに学年までは、この場で調べるわけにもいきませんわね。

 数は十二人ですわ」


 瑞希の魔導の詳細は軍事機密。

 理由もなく派手に使って見せることはできない。


「そうか……

 ミズキが簡単に油断するとは思わないし、周囲の霧の神の信徒たちも守ってくれるはずだ。

 その程度の人数なら、私たちが傍に居れば対処もできるだろう」


 ゲルトが瑞希に尋ねる。


「ところでミズキ殿下。新婚生活の感想はどうだ?

 アルベルト殿下は一見すると爽やかだが、根は性欲が強くて相手をするのが大変だろう?」


 瑞希が顔を真っ赤に染めて狼狽うろたえた。


「ゲルト、君は突然何を言い出すのかな?!」


「そりゃあ、お前たちはこの中で唯一の既婚者だ。

 結婚生活の感想くらいは聞いておきたいさ。

 俺たちには未知の世界だからな」


 イーリスが静かにゲルトに告げる。


「ゲルト、デリカシーという言葉くらいは知っておいた方がよろしいと思いますわよ?」


 アルベルトが苦笑を浮かべてゲルトに告げる。


「確かに新年を迎えるまではミズキも大変そうだったが、あのままだとミズキの講義に支障が出るからな。

 今は日常生活に支障が出ない範囲に留めているさ。

 これからは学院の授業もあるしな」


 コルネリアがアルベルトに尋ねる。


「日常生活に支障が出るって……そんなにアルベルト殿下ってはげしい人なの?

 あまりミズキ殿下に迷惑をかけちゃだめよ?」


 クラインが告げる。


「それも殿下の意外な一面ね。

 私はアルベルト殿下がそこまで旺盛な人だとは思っていませんでしたわ。

 伴侶として選ばなくて良かったと、改めて思っているところよ。

 体力のない私は、そんな人の相手をする自信なんてありませんもの」


 瑞希が真っ赤な顔で俯きながらクラインに告げる。


「私だって、ずっとあのままだったら倒れてたよ。

 自分が体力がない方だとは思わないけど、毎晩相手をしてたら身が持たないもん。

 騎士の奥さんって、みんなあんな大変な思いをしてるのかなぁ」


 ゲルトが瑞希に応える。


「アルベルト殿下は特に性欲旺盛なタイプだから、お前ほど大変な思いはしていないはずだ。

 早朝の走り込みを毎日しているお前が大変なんだ。普通の令嬢ならすぐにぶっ倒れてるだろうさ。

 だが自制心が強い男だから、浮気の心配は要らんと思うぞ。

 無理に相手をせず、自分の身体を大事にしておけよ?」


「言われなくてもそうしてるよ。

 それにアルベルトが浮気をする訳がないし。その心配もしてないよ」


 アルベルトが頷いた。


「私がミズキ以外の女性を求めることなどない。

 だが長く子に恵まれないようであれば、側室を考えることになるかもしれん。

 そうならないよう、早く子を授かるといいのだがな」


 瑞希がアルベルトに尋ねる。


「側室制度は勉強したから分かるけど、相手はどうするの?

 同年代でめぼしい令嬢なんて、もういないでしょ?」


「少し年の離れた若い令嬢を探すか、国外を当たることになるだろうな。

 だがその心配はしばらく不要だ。

 王太子の間に側室を設けることは、まずない。

 即位した時点で子に恵まれていなければ、話が浮上するようになるだろう」


 コルネリアが呟く。


「アルベルト殿下の即位か……通例だと、二十代中盤くらいよね。

 あと十年あるし、のんびり構えていればいいんじゃない?」


 クラインが瑞希に尋ねる。


「ミズキ殿下は異世界の人間だったし、側室制度には納得できてるのかしら」


「そりゃあ、私以外の奥さんができるのは複雑な心境だけどさ。

 それまでに子供に恵まれなかったら『仕方ない』って割り切るつもりではいるよ。

 王家を維持するためにも、子供は三人以上欲しいって言われてるし。

 私がそれだけたくさん産めるかは、まだ自分でもわからないし」


 瑞希が知る限り、日本でも三人兄弟以上となると珍しい方に入る。

 元日本人の自分がそこまで産めるかは、なんとも言えない気分だった。


 アルベルトが周囲を見渡した。


「――どうやら、挨拶に来る生徒はいなさそうだな。

 適度に腹を満たしたら、サロンに移動しよう」


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