表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:霧の国へようこそ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/93

53.そして彼女は決意する

 ――婚姻を祝う夜会。


 人々は昼間の大奇跡を口々に語り合い、楽しそうに言葉を交わしては時折、瑞希を盗み見ているようだった。


 瑞希はアルベルトと共に、テーブルで二人、静かに食事を進めていた。


「……ねぇアルベルト。どうして今夜は誰も私たちに近寄ってこないのかな?」


 アルベルトが苦笑を浮かべた。


「信仰する神が、彫像の姿を借りて顕現けんげんし、直接言葉を残したんだぞ?

 貴族の多くは、お前が霧の神の血を引くことを信じていなかった。

 異世界人であるということすら、信じない者も居た。

 それを、あれほど強烈に見せつけられたんだ。

 信仰心が薄くても、おそれ多くて近寄る事すらできないんじゃないか?」


 確かに、神ほどの偉大な存在から『瑞希のことをよろしくね』と直接頼まれてしまえば、瑞希への対応をおろそかにすることはできない。

 かといって、なんと言葉をかけていいのかも分からない。

 下心を持って近付けば、自分の身に何が起こるかも分かりはしない。

 結果として、皆が遠巻きに眺めることしかできないのだろう。


 瑞希は小さくため息をついた。


「まぁ、私は楽でいいけどね。

 クラインやアリシアたちですら、なんだか近寄ってくる気配がないのは納得がいかないな。

 特にクラインは私のことを、よく知ってるはずでしょ?」


「クラインはあれで、霧の神の敬虔けいけんな信徒だ。

 今日の出来事が衝撃的過ぎて、全て飲み込めていないのだろう。

 父上や母上、ソニアやミハエルも、どうやら同じようだ。

 霧の神がおっしゃったように、少し派手過ぎたな」



 従者たちもあれ以来、まるで割れ物をさわるかのように、恐る恐る瑞希に接してきていた。

 礼拝堂に居なかった者たちにもまたたに噂が伝わり、現場を見ていなかった者ほど、瑞希を畏怖いふしているようだ。


 ザビーネだけがただ一人、現場に居たにもかかわらず、以前と変わらぬ態度で接してきていた。

 やはりタフな女性――いや、『己の仕事が、確かに瑞希を支えている』という強烈な自負の表れかもしれない。

 彼女からすれば『神に言われるまでもない』、といったところだろうか。



 瑞希が苦笑を浮かべてグラスを空けていると、ヴォルフガングが近寄ってきた。


「おやおや、主役の周りが随分と寂しいね。

 私が少し混ぜてもらっても構わないかい?」


 瑞希が微笑んで頷いた。


「丁度、人が近寄ってこないなーって話してたとこだよ。

 でもヴォルフガングさん、無爵なんでしょ? ここに出てきても大丈夫なの?」


 ヴォルフガングが人の良い笑みを浮かべた。


「国王陛下が『それでは不便だろう』と先日、男爵位をくれたからね。

 とがめられることはないよ。

 ――それより、コアの破壊を確認してきた。

 粉々になって、魔力もすべて消失していたよ」


 つまり、石板と同じ道を辿った、ということだろう。


「そっか、これで魔導兵器を再現することが不可能になったはずだね」


 ヴォルフガングが頷いた。


「そういうことになるね。

 あんな古き神の力を宿す物は、まず見つかることはないはずだ。

 霧の神の力を宿す物ともなれば、おそらく存在しないだろう。

 もう心配は要らないね」


 入口の方が少し騒がしくなり、瑞希が目を向けた――シュワルツ公爵だ。

 どうやら、中に入れろと押し問答をしているようだった。

 慌てて瑞希が入り口に駆け寄っていった。


「――黒龍さん! どうしたの?」


 シュワルツ公爵が仏頂面で応える。


「お前たちが夜会で放置されているのを見過ごす訳にもいかん。

 だが私が傍に行こうとしたら、兵士たちに止められてな。

 公爵だと言っても伝わらんし、困っていたところだ」


 国家という背景を持たぬ自称公爵など、当然このような場所に立ち入らせる訳が無い。

 魔術を使って入り込めば容易たやすく抜けられたものを、『それでは自分が居ない事になって意味がない』と、魔術を控えたのだろう。

 瑞希は苦笑を浮かべて兵士たちに告げる。


「この方の素性は私が保証いたします。親戚のようなものですわ。

 以後、公爵同然として扱うようにお願いしますね」


 兵士たちが緊張で蒼褪あおざめながら、直立不動で敬礼をした。


「はっ! ミズキ様がそうおっしゃるのであれば、その様に!」


(あー、この人たちも信心深いのかな)


 仕方なく兵士は放置して、シュワルツ公爵をテーブルに招いた。

 ヴォルフガングが楽しそうにシュワルツ公爵に告げる。


「シュワルツ公爵、君が人前で跪く姿を見られるとは思わなかったよ」


 先ほどの仏頂面をさらにはげしくして、シュワルツ公爵が応える。


「霧の神は創竜神様より上位の神だ。

 私ごときが言葉を交わす事すらおそれ多いお方なんだ。

 跪くぐらいは当然する」


 瑞希が霧の神の言葉を思い出しながら呟く。


「そういえば、『創竜神は愛玩動物だ』って言ってたね。

 そのぐらい神格に差がある神ってことかー」


 飼い主の親しい友人にあたる霧の神と、ペットの子孫にあたるシュワルツ公爵――力の差が、なんとなくわかろうというものだ。


「ねぇ黒龍さん。霧の神は『もう創竜神の相手をするのは自分くらいしか居ない』って言ってたけど、どういう意味?」


 黒龍が仏頂面を崩して応える。


「ああ、それなら簡単な話だ。

 古き神は、もう既にほとんど神の世界に残っていないそうだ。

 より上位の世界に行くか、滅んでしまうかしたらしい。

 今もまだ強い力を持つ神は残っているが、地上に干渉することを良しとしない神ばかりだ。

 現在の地上――つまり人間界を支えているのは、ほとんど創竜神様ということになる」


「創世の神は、その残った神の中に含まれていないってこと?」


 シュワルツ公爵が頷いた。


「そう聞いている。

 だが人間の魂が死後、創世の神の元へ召されるのは今も変わっていないらしい。

 昼間、霧の神が言っていたが、瑞希の魂をこの世界に残すかどうか、その判定を下したのも創世の神だ。

 創世の神は、この世界のシステムの根幹こんかんになう神なんだ。

 だから異物である瑞希の魂の受け入れを判定したのだろう」


 瑞希が小首を傾げて尋ねる。


「この世界のシステムの根幹こんかん

 名前が創世の神ってことは、世界を作った神様?

 どういうシステムになってるの?」


 シュワルツ公爵が不敵な笑みで応える。


「瑞希もいつか、正式に神の仲間入りをするかもしれない――そういうシステムだ。

 生まれ変わりで魂を磨いた末に、創世の神が認めた魂が新しい神となるらしい。

 創竜神様も、そうやって神に昇格したと聞いている。

 その魂を磨くための儀式が『神の試練』だ」


 瑞希が感心してため息をついた。

 自分が神になるための儀式を経過した――そんな自覚がなかったからだ。

 この世界は、どうやら随分ずいぶんと独特のルールで回っているらしい。


 瑞希の心を読んだようにシュワルツ公爵が告げる。


「今回の神の試練が魂を磨くものだったかはわからんぞ?

 霧の神が『今回は受け入れ判定だ』と言っていたからな」


 となると、瑞希はゼロからスタートということになるのだろうか。

 瑞希は、自分が神になるイメージが湧かなかった。

 そもそも神の血を引くことが、この世界でどんな意味を持つかもよくわからない。

 そんな自分の魂が今、人と神の間のどこに位置するのか――さっぱり見当がつかなかった。


「なんか難しそうだねぇ」


 シュワルツ公爵が微笑んだ。


「なに、お前たち人間は、そんな先のことなど考える必要はない。

 『気が付いたら神に生まれ変わっていた』くらいの感覚だろう。

 生まれ変われば、前世の記憶もなくなるらしいしな」


 一部始終を頷いて聞いていたヴォルフガングが、シュワルツ公爵に告げる。


「実に興味深い話だが……私やアルベルト殿下がこれを聞いても良かったのかい?」


 シュワルツ公爵が「フン」と笑った。


「他人に語る事も、形に残すこともできぬように魂を縛ってある。

 それはお前たちが死ぬまでける事のない呪縛だ。

 安心して聞いて居るがいい」


 アルベルトが頬をひきつらせた。


「いや、呪縛って……呪いを受けて安心しろと言われても、難しいのだが」


「では、目が覚めたら忘却する術式に変更しておいてやろう。

 それなら異存はあるまい?

 だが、この場で瑞希が口にした言葉や、笑顔の記憶もなくなる。それでよければ、だがな」


 アルベルトが顔を引き締めて告げる。


「呪縛で構わない、続けてくれ」


 瑞希が思わず笑い出し、アルベルトもつられて笑い出していた。

 その姿で緊張がほぐれたかのように、王族たちや親しい仲間たちがぽつぽつと近づいてきては、祝福の言葉を述べていった。



 こうして霧上瑞希は『瑞希・ニーア・ドライセン』として、正式に王家に迎え入れられた。





****


 ――王太子の寝室。


 瑞希はベッドの上で真っ赤になりながらうつむき、正座で座り込んでいた。

 その身を包むのは、薄手の絹のネグリジェだ。下着がうっすら透けて見えるほど薄い生地は、随分ずいぶんな季節外れと言える。


 かたわらでは、ガウンを羽織ったアルベルトが優しく微笑んでベッドに座り込み、瑞希の顔を見つめている。


「怖ければ、無理強むりじいはしない。

 今日は大人しく寝てしまっても構わないが、背中から抱きしめるぐらいは許してほしい」


「いや……興味はあるし……怖いけど、覚悟したからこの服を着てるんだし……だからその……」


 しどろもどろで頭から蒸気を立ちのぼらせる瑞希の頬を、アルベルトの手が優しく包んだ。


「では、昼間のように目をつぶって、身を任せていてくれ」


 言われるがままに、瑞希はゆっくりと目を閉じた。





 ――翌朝。朝の光と言うにはやや強い光が顔に差し込み、瑞希は目を覚ました。


 壁時計に目を走らせる――すでに昼が近い時間だ。


(こんな時間に目を覚ますなんて、久しぶりだなぁ)


 ゆっくりと、疲れが抜けずに重たい身体を動かし、隣で眠るアルベルトの顔を見る。

 昨晩、身も心も夫婦となった愛しい男の顔だ。

 自分が一人の女として生まれ変わったような気分で、瑞希はそっとベッドから足を下ろした。


 下着を探し出し、ネグリジェを着込んでからようやく一息をついた。

 再びベッドにそっと潜り込み、アルベルトに身を寄せて体温を味わっていた。


 さすがに肌をさらし続けるのは、まだまだ恥ずかしかったのだ。

 そのままアルベルトの匂いと体温に包まれながら、幸せな時間を味わい続けた。





****


 昼食の時間となり、アルベルトと共に瑞希は食卓へ姿を現した。

 既にいつもの面々は、昼食を先に食べ始めていた。


 ソニアが瑞希の顔を見て、ぽつりと呟く。


「やっぱり女性の顔って、前後で変わるものなんですわね……」


 瑞希がはにかんで応える。


「そ、そうかな? 鏡は見たけど、自分じゃわからないよ。そんなこと」


 ヴォルフガングが人の良い笑みを浮かべて告げる。


「私には顔つきまでは分からないが、雰囲気が変わったのはわかるよ?」


「え?! 男性にもわかっちゃうの?!」


 ミハエルは小首を傾げていた。


「みなさん何を言ってるのですか?

 僕には、いつもの姉上にしか見えませんよ?」


 瑞希は、ほぅと胸を撫で下ろした。


「よかった……そんなにわかりやすいものじゃないんだね……」


 ヴォルフガングが楽しそうに笑った。


「ははは! それなりの人生経験を積んでいなければ、大抵の男は気づかないだろうさ!

 少なくとも、学校の同級生で察知できる者は多くないだろう。安心しておきなさい」


 ソニアが淡々と告げる。


「ですが、夫婦となったら当然するべき行為です。

 恥ずべきことでもありませんし、しているものだと普通は考えますわよ?」


 シュワルツ公爵が止めを刺しに行く。


「今後、お前は経験済みだと見做みなされる。

 今さら恥ずかしがっても仕方あるまい。諦めておけ」


 瑞希は真っ赤になって、黙々と昼食を口に運んでいた。




 ミズキ以外が会話を交わす中、ソニアが唐突にザビーネに尋ねる。


「ねぇザビーネ、姉様がこんな遅い起床になるだなんて、昨晩はどれほど励んでらしたのか知ってる?」


 ザビーネが淡々と応える。


「国王陛下にはご報告済みですが、他言は無用とのおおせです。

 仔細しさいはご容赦ください」


「何で知ってるの?!」


 瑞希が真っ赤な顔でザビーネに振り返り叫んでいた。


 ザビーネが静かな表情で、淡々と瑞希を追い詰めていく。


「王族を増やす事はミズキ殿下の責務でございます。

 従者には部屋の外で待機し、陛下へご報告する義務がございますので、そちらもご容赦ください。

 ミズキ殿下をおもんばかり、私一人が部屋の外で待機しておりました。

 陛下と私以外は存じ上げない事実ですので、そちらはご安心ください」


 真っ赤な顔で呆然と聞いていた瑞希の頭を、アルベルトが優しく撫でた。


「すまないなミズキ。王族の責務だから、これは逃れられないんだ。

 きちんと王族を増やす努力をしているか、確認をしないといけないからな。

 だが、お前がどうしても受け入れられないというなら、父上には私からめてもらうよう伝えておこう」


「……そうしてくれると、助かるかな」


 瑞希はなんとか声を絞り出した後、真っ赤な顔で俯いて、黙々と昼食を再開した。


(思っていた以上に王族って大変なんだなぁ)


 王族の責任の重さを改めて痛感しつつ、瑞希の新婚二日目は過ぎていった。





****


 夜になり、夕食と入浴を終えた瑞希は一人、リビングのソファに身を預けていた。

 アルベルトは一人で入浴している最中だ。

 部屋は人払いが済み、従者は誰も居ない。


 瑞希は今夜も薄手のネグリジェに身を包みながら、昨晩のことを思い出していた。

 顔が茹で上がるのを自覚して、頭を振って両頬を叩いた。


(お爺ちゃんにひまごを見せるんだから、私も頑張らないとね!)


 学院を休学するのは惜しい気がするが、祖父にひまごを見せたい思いが勝っていた。

 父親や母親にも、きちんと孫の顔を見せたい。

 いつ授かるのかは分からないが、良い母となり、良い家庭を築く決意を新たにしていた。


 アルベルトが浴場から上がる気配がして、瑞希は立ち上がった。

 今夜も長い戦いになる――そんな予感を覚えつつ、瑞希はアルベルトの元へ歩いていった。







 これにて第1章が完結です。

 第2章は新婚生活的な外伝風味になっています。

 と言っても、それなりに事件は発生するんですけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ