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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:霧の国へようこそ

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46.異変

 周囲が状況を理解できない瞬間が続いていく。

 瑞希たちもまた、混乱して即座に対応が出来ずに居た。


 下位貴族とすり替わった刺客が、倒れた瑞希の首筋目掛けて刃を振り上げた。



 ――次の瞬間、刺客の体がユリアンによって取り押さえられていた。





「ミズキさん、傷は大丈夫?!」


 真剣な顔で尋ねてくるユリアンの声で、瑞希も我に返る。

 刺されたのは腹部の急所、刃は内臓より手前で止まっている。

 防刃魔術を施したドレスは刃を完全に防ぐことはできていないが、致命傷には程遠い。

 ご丁寧に毒も塗っていたようだが、瑞希を即死させるには至っていない。


「大丈夫、これぐらいならすぐに治癒できるよ」


 治癒術式で自分の傷を癒し、毒を中和していく。

 それと同時に刺客に≪捕縛≫の術式を施して自由を奪った。


 アルベルトも我に返り、瑞希を支えながら立ち上がるのを手伝った。


「ミズキ、何が起こったんだ?」


 瑞希の目が、床に倒れ込んで痙攣している刺客に向けられた。


「……この感じ、多分アラーニアの刺客、だね。

 でも≪捕縛≫術式がちょっと遅かったみたい。

 もう毒を飲んで死にかけてる。私の術式じゃ、命を救うのは無理かな」


「傷はもう大丈夫か?」


「うん、ドレスの防刃魔術結界のおかげで、致命傷は避けられたから。

 毒も塗ってあったけど、私には効かなかったみたい。

 ちょっと痛みは残ってるけど、それくらい。

 ――ユリアンさん、ありがとう。おかげで助かったよ」


 ユリアンは刺客が毒で事切こときれるのを確認した後、ため息をついていた。

 瑞希の言葉に反応し、微笑みながら立ち上がった。


「どういたしまして。

 大切な友達を守れてよかったわ。

 ――それにしても、あの瞬間に対応できたのが私だけだなんて不甲斐ないわね。

 身辺警護は何をしていたのかしら」


 ユリアンに睨み付けられた付近の兵士が、肩を震わせて萎縮していた。

 彼らはこの事態に即応そくおうできず、最後まで混乱し続けていた。


 わずかに怒気をはらんでいるユリアンに、優しい声がかけられる。


「まぁそう言うな。

 あの瞬間にあれだけ機敏に対応できたのは、お前だからだ。

 だから『近衛騎士団に入らないか』と誘ったんだ」


 シュトロイベル公爵がクラインたちを連れて近寄ってきていた。

 クラインが瑞希に駆け寄り肩に触れた。


「ミズキ、本当に無事?!」


「大丈夫、傷は全部治療したよ。ありがとう」


 国王たちも近衛騎士を引き連れ、血相を変えて駆け寄ってくる


「ミズキ! 無事か!」

「大丈夫?! ミズキ!」


 瑞希は微笑んで応える。


「大丈夫、心配は要らないよ国王陛下。

 このドレスのおかげで、大事おおごとにはならなかったから安心して」


 二人は瑞希の無事を確認して、ようやく安堵あんどのため息をついた。

 王妃がユリアンを見つめて告げる。


「ユリアン。あなたの仕事、確かに見せてもらったわ。

 あなたにドレスを発注してよかったと、今は心の底から痛感しているの。

 本当にいい仕事をしたわね。ありがとう」


 ユリアンは微笑んで王妃に応える。


「あら、ありがとう王妃殿下。

 仕立師の仕事で褒められるのは、私としても誇らしいわ」


 シュトロイベル公爵が刺客の刃を確認しながらユリアンに告げる。


「――この刃、防刃魔術結界対策が施されているな。

 よくもこれから命を守り切ったものだ」


 国王がユリアンを見た。


「ユリアン・フェッツナー子爵令息、だったな。

 後で褒賞を与える。

 お前の仕事がミズキの命を救ったのだ。

 刺客を取り押さえた事も含めて、大いなる貢献だ。

 ――ミズキ、ドレスが破れてしまった。着替えに戻ろう」



 そのまま瑞希はアルベルトの付き添われ、国王と共に控室へ移動していった。





****


 控室に移った国王の目が、瑞希を静かに見つめた。


「今回、ミズキは油断をしていたのか?」


 瑞希は俯いて応える。


「それは否定できないかな。

 だけど、いつも通りの対応はしていたはずだよ。

 途中で刺客が紛れ込むのを許したのは、言い訳のしようがないけど」


 アルベルトが国王に対して声を上げる。


「父上!

 ミズキを責めるようなことはなさらないでください!

 ミズキだって人間です!

 油断くらいはします!」


 国王が慌ててアルベルトを手で制した。


「いや、そんなつもりはない。

 ――すまなかったミズキ。言い方が悪かったようだ。

 気にしないでくれ」


 ミズキは苦笑を浮かべ、静かに首を振った。


「気にしてないから大丈夫。

 それより、アラーニアが私を襲う理由が分からない。

 国王陛下は、どうしてだと思う?」


 国王が俯いて思案した。


「……死んだ刺客から、何か情報は辿れないのか?」


「命を失った人の因果を辿るのは、とってもあやうい気がするんだ。

 多分、魔導の禁忌にれてしまいやすいんだと思う。

 とっても気を付ければできなくはないと思うんだけど、できればやりたくはないかな」


「では、会場にはまだ刺客が居ると思うか?」


「少なくとも、今は居ないよ。

 刺客のような危ない因果を持っている人は、見当たらなかった」


 国王が思案を続けた。


「今わかるのは、『面目をつぶされた報復』の可能性くらいか。

 アラーニアすら歯が立たぬ相手、というのはそれだけで許しがたいのかもしれん。

 着替え終わったら、今夜はフェッツナー子爵令息と共に行動をしてくれ。

 近衛騎士団も着けるが、それだけでは心許こころもとない」


 瑞希がふと気が付いて、控室を見渡した。


「あれ? ヴォルフガングさんは?

 いつもならこういう時、傍に来るよね?」


 国王がそれに気が付き、近くの兵士に声をかける。


「ヴォルフガングはどうした!」


「は、それが……報告をしようと探したのですが、見当たりません。

 自宅に戻られたのではないでしょうか」


 胸騒ぎがした瑞希が、慌てて≪現在視≫でヴォルフガングの姿を映し出した。


 画面には、血を流して倒れているヴォルフガングの姿が映し出されていた。





****


 王宮の一室でベッドに伏せるヴォルフガングが、恥ずかしそうに瑞希に告げる。


「画面越しに治癒と解毒を行えるだなんて、さすがミズキだね。

 おかげで命拾いをしたよ」


 瑞希は涙目でヴォルフガングに応える。


「ヴォルフガングさんを助けられて、本当に良かったよー!

 死の気配が漂ってたから、本当に生きた心地がしなかった!」


 ヴォルフガングが神妙な顔で思案するように俯いた。


「……ミズキ、朝食の時点で私に死の気配はあったかい?」


 瑞希がきょとんとして応える。


「え? 特に濃いって程じゃなかったかな。

 全くない訳じゃないけど、それはどの人も同じだし、いつものことだよ」


 ヴォルフガングが頷いた。


「なるほど、命を落とす可能性が常に見えてしまうんだね。

 だが今回ほどの事であれば、おそらく朝から私に濃い死の気配が見えていたのではないかな?」


「多分そうだと思う。

 なんでそれに気が付けなかったんだろう?

 何か間違った行動をとっちゃったのかな?」


 ヴォルフガングが思案しながら瑞希に応える。


「今日の行動で、それほど大きな人生の分岐点となるものはなかったように思う。

 となると、私たち以外の人間――たとえばアラーニアが急にそういった決定を下したのではないかな。

 ――ミズキ、神とはまだ会話できないのかい?」


 瑞希は頷いた。


「気配は充分強くなってるんだけど、まだ声には応えてもらえてないよ。

 休息がまだ終わってないんだと思う。

 でも、ヴォルフガングさんがアラーニアに襲われたってことなの?

 どうして?」


 ヴォルフガングが深刻な顔で応える。


「……魔導兵器のコアが盗まれたようだ。

 解体した時の記録も、同時に盗まれている」


「ちょっと?! それじゃあ魔導兵器が盗まれたって事にならない?!

 一大事じゃないの?!」


 ヴォルフガングが苦笑しながら応える。


「そこまで詳細な記録ではないよ。

 あれは魔導兵器に使われていた古代の魔導技術、その断片だ。

 あれから魔導兵器を再現するのは、私以上の魔導の天才でも簡単ではないだろう。

 だがコアが盗まれた状態を捨て置くわけにはいかない。

 ――どうだいミズキ。犯人を追えるかい?」


 瑞希が頷いた。


「やってみるね」


 瑞希が早速ヴォルフガングから刺客への因果を辿って行く――その途中で、背筋を激しい悪寒が走り、慌てて因果の糸を手放していた。


 青い顔で息を荒げている瑞希に、アルベルトが心配そうに声をかける。


「どうした? ミズキ。

 いつもやっていることだろう?

 そんなミズキは初めて見るが」


「……なんだか、追いかけちゃいけない気がしたんだ。

 とっても嫌な感じがして、因果の糸を辿れる気がしないんだよ」


 ヴォルフガングが顎に手を当てて考え込んでいた。

 その様子に気が付いた瑞希が、ヴォルフガングに尋ねる。


「ヴォルフガングさん、何か知ってるの?」


「ああ。古い口伝として伝わる伝承なのだが、かつてこの大陸には悪魔という存在が居たらしい。

 それがいつ頃の話なのか、分からないほど古い話だ。

 悪魔は神と敵対し、神は人間と共に戦った――そんな神話のような話だね。

 口伝の中で『魔導で悪魔を見てはならない』といういましめがある。

 見た者の魂がけがれてしまうそうだ。

 信じがたいが、アラーニアは、悪魔の力を借りた組織なのかもしれないね」


「ほぅ、そこまで伝承が残っていたか。

 その通り、人間のように格の低い魂が、魔族を追いかけてはいかんぞ」


 突如部屋に響いた重厚な声に、その場の全員が振り向いた。

 部屋の入り口に、真っ黒なスーツで身を固めたいかめしい貴族男性が立っていた。


 アルベルトが瑞希を腕で庇い、男性に尋ねる。


「あなたは誰だ。

 貴族のようだが、私の記憶にはない顔だ。

 衛兵たちはなぜ、あなたを止めなかった」


 ミズキとヴォルフガングが命を狙われた直後だ。

 王宮内は、普段よりも厳重な警備態勢が敷かれている。

 アルベルトが知らないほどの外部の人間を、易々やすやすと通す訳がない。


 男性が不敵な笑みで応える。


「人間の目をあざむくことぐらい、私には造作もないことだ。

 ――私はシュワルツ公爵、とでも名乗っておこう。

 私の正体は、瑞希になら、うっすらわかるんじゃないか?」


 瑞希はその言葉に驚いていた。

 ――この世界で、自分の名前を正確に発音する人間に初めて会ったのだ。


 すぐに因果を辿ろうとするのだが、その糸は、まるで強い向かい風の中に居るかのように、まっすぐ見ることが出来ない。

 シュワルツ公爵の持つ魔力も、自分とは比較にならないほど強大なものだ。


「この感じ、この人もしかして、人間じゃないの?」


 即座にアルベルトが腰の剣を抜き、瑞希を背中でかばっていた。


 シュワルツ公爵が楽しそうに不敵な笑みを浮かべている。


「その通り。私は言うなれば、瑞希の同類。

 創竜神様の眷属――竜だよ」


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