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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:霧の国へようこそ

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44.皇国対策会議

 リーマン侯爵、ラニエロ公爵、ライツラー侯爵が驚くように目を大きく見開いていた。


 ラニエロ公爵が瑞希に告げる。


「毒を中和? ミズキ、それはどういうことだ?」


 瑞希は即座に会場に目を走らせ、自分たちや国王の周りに控えていた給仕二人を炎の縄で捕縛した。

 すぐさま国王が指示を出し、兵士たちが駆け付けてくる。


 瑞希がラニエロ公爵に応える。


「言葉の通りですわ。

 私たちに毒を手渡していた給仕が居ただけです。

 たった今、私が飲んで見せたグラスも毒入りでしたわね」


 リーマン侯爵が戸惑うように瑞希に尋ねる。


「毒を飲みながら中和していると言ったのか?

 そんな話は聞いたことがない。

 最初からどのような毒か分かっていたとしても、それほど早く中和などできるわけがない」


 瑞希がライツラー侯爵との握手を解き、床に転がる給仕に目を向けた。

 給仕の胸から炎の小鳥が生まれ、会場の上を羽ばたいて行き、壁にぶつかって掻き消えた。


「……首謀者は会場の外、ということは暗殺を請け負う組織が依頼を受けた、ということかしら。

 敵意や害意を殺して犯行に及ぶのは、それほど簡単なことではないはず。

 面倒な相手ですわね」


 近衛騎士を従えた国王が瑞希に近寄ってきて声をかけた。


「どうだミズキ。誰が差し向けた刺客か、追えるか?」


「そうですわね……やってやれなくはないと思います」


 そう告げた瑞希の背後から、別の給仕が暗器の刃を手に駆け出していた。

 ≪肉体強化≫術式で加速した給仕は、一瞬で間合いを詰め、刃が瑞希に届く――その寸前で、刃は砕け散っていた。

 刃が砕けた事に動揺している給仕が、即座に≪捕縛≫術式で自由を奪われ、床に転がった。


 驚く周囲に、冷静に瑞希が告げる。


「素性の怪しい人物が紛れているのに、油断をする訳がございませんでしょう?

 途中で給仕と入れ替わったようですが、その程度で暗殺が成功するなどと考えるのは浅はかというものですわね。

 ――陛下、向こうの給仕も連れてきていただけますか」


 新しく捕縛された給仕も含め、三人の給仕が騎士によって床に抑えつけられていた。

 その三人を見つめていた瑞希が、二つの≪過去視≫の画面を出した。

 それぞれ、フードで顔を隠した貴族男性が人相の悪い男と暗い部屋で会話をしている光景だ。


 瑞希が画面を眺めながら告げる。


「これはリーマン侯爵とライツラー侯爵ですわね。

 友好国の外交官にしては敵意が高いと思っておりましたが、まさか暗殺の依頼をしているとは思いませんでしたわ」


 リーマン侯爵が青い顔で叫ぶ。


「ふざけるな! この映像が私だと、何故断言できる!」


 瑞希が小さくため息をついて応える。


「映像の人物が誰なのかは、術者である私ならば造作もなくわかること。

 ですがそれではご納得なさらないでしょうし、音声も入れましょうか」


 それぞれの画面から、顔を隠した貴族男性が人相の悪い男と話し合っている声が響きだした。

 その貴族の声は、確かにリーマン侯爵とライツラー侯爵のものだ。

 それぞれの画面の中で、今回の夜会に関する打ち合わせが進んでいく。


「――っ! 声が同じだからと言って、私とは限らんだろうが!」


 瑞希は淡々と応える。


「では映像をそのままご覧ください。そうすれば、答えに辿り着きますわよ?」


 画面は貴族紳士が革袋を人相の悪い男に手渡した後、貴族紳士を追うように映像を映し出している。

 その貴族紳士が馬車に乗りこむと、顔を隠していたフードを下ろした――リーマン侯爵だ。

 もう一つの≪過去視≫の画面も同様に、ライツラー侯爵の顔を映し出している。


 瑞希が、青い顔で画面を見つめているリーマン侯爵とライツラー侯爵に告げる。


「暗殺者で殺せるとは思っておられなかったようですが、目的だった私の魔導をご覧になれたご感想はいかがですか?

 どちらもドライセン王国内の映像ではございませんでした。

 きっと依頼した相手は、国家をまたぐ暗殺組織なのですわね。

 王国内の映像ではないので、これ以上は陛下にお任せしますわ」


 国王も困ったように瑞希に微笑んだ。


「我が領土内の映像ではないなら、彼らを捕縛する事まではするまい。

 ――リーマン侯爵、ライツラー侯爵。

 お前たちのことは本国へ厳重に抗議をしておく。

 これ以上ミズキに手を出しても無駄だと、今日だけで充分理解できただろう。

 『アラーニア』如き、ミズキは苦も無くあしらえる。

 その情報を本国に持ち帰るがいい」


 厳しい目でにらみ付けられ、リーマン侯爵、ライツラー侯爵は居心地悪そうに夜会会場から姿を消した。

 瑞希はきょとんとして国王に尋ねる。


「陛下、『アラーニア』とは何なのでしょう?」


「この地方で昔から活動を続ける暗殺組織だ。

 見ての通り、手練てだれの暗殺者を多数抱えている。

 ミズキも油断しないで居て欲しい」


「ええ、わかっております」


 静かに微笑みをたたえるミズキに、感心したようにラニエロ公爵が尋ねる。


「すごいねミズキ、それが君の魔導か。

 嘘だと思っていた噂の魔導を実際に目の前で見られて感動しているよ。まさに魔法同然だ。

 どんな術理でそんな魔術を実現しているんだい?」


 瑞希が柔らかく微笑んで応える。


「ヴォルフガング様が通訳してくださらないと、≪意思疎通≫の術式が失敗すると思いますので、この場ではご容赦ください。

 ――陛下、リーマン侯爵が我が国に敵意を持っていたということは、シュライヴ皇国が同盟を破棄して攻めてくる可能性がある、ということになるのでしょうか」


 国王が渋い顔で応える。


「おそらく、ミズキの魔導を脅威とみなしたのだろう。

 だがそれ以前から、機会を伺い、牙をむく気があったということでもある。

 夜会が終わったら改めて話をしよう」


 ラニエロ公爵が残念そうに肩をすくめた。


「おやおや、私たちにはミズキの魔導を全て見せては下さらないのかい?

 ドライセン国王陛下、我が国とは軍事同盟を結んだ仲だ。

 私くらいには、この国のことをもう少し詳しく教えてくれても良いと、思って頂けないかな?

 シュライヴ皇国が敵対するとなれば、我が国もあわせて兵を出すことになるだろう。

 その時に備え、ミズキの能力を我が陛下にもお伝えしておきたいと思うのだが」


 国王が困ったように微笑んだ。


「ミズキの魔導の詳細は軍事機密だ。

 軽々けいけいにこの場で全てを披露するわけにはいかぬ。

 ――ミズキ、お前はラニエロ公爵をどう見る?」


 瑞希の目が、ラニエロ公爵の微笑む瞳を見据えた。


「……そうですわね、信頼できるお方だと思います。

 シュライヴ皇国の戦力を頼れなくなるとなれば、デネブ王国の戦力は貴重な助力となるでしょう。

 機密を守れるというのであれば、私の魔導をもっとお見せしても構わないのではないでしょうか」


 国王が頷いた。


「では夜会の後、ラニエロ公爵も交えて話をする事にしよう。

 それまでは夜会を楽しんでいて欲しい」


 ラニエロ公爵が国王を手で制した。


「いや、今すぐに対応に動いた方が良いだろう。

 シュライヴ皇国が我らの軍事同盟から離反するのは、我が国も想定外だ。

 早急に対応策を練り、本国に伝える必要がある。

 今は一秒でも時間が惜しい時だと私は思う」


 国王はしばらく思案した後、頷いた。


「いいだろう。

 ではラニエロ公爵、ついてきてくれ。

 ――アルベルト、ミズキ、会議室に行こう」


 その場で国王が兵士たちに指示を出した後、歩き出した。

 瑞希たちもその背を追うように会場を後にした。





****


 会議室には国王とヴォルフガング、ルートヴィヒ侯爵、シュトロイベル公爵、マイヤー辺境伯、ラニエロ公爵、アルベルト、そして瑞希の姿があった。


 国王が告げる。


「――揃ったな。では始めよう。

 ミズキ、現在のリーマン侯爵の様子を映してくれ」


「はーい」


 会議室の中央に大きな≪現在視≫の画面が現れ、けわしい顔で馬車に乗っているリーマン侯爵の姿が映し出された。

 国王が瑞希に尋ねる。


「彼が何を考えているか、わかるか」


「これから急いで本国に伝えるつもりみたいだね。

 信憑性の薄い噂だろうと、全部真実のつもりで対策を練るべきだと報告するつもりみたい。

 迅速じんそくに出兵の準備を整えるべきかもしれないって検討してるところだよ」


 国王が、やや俯いて思案を巡らせた。


「……ミズキ、お前はどうするのが良いと考える?」


 瑞希は天井を見上げて思考をめぐらせた。


「んーそうだなぁ……

 今のドライセン王国軍だけじゃ、シュライヴ皇国の攻撃は支え切るのが難しいと思う。

 間違いなくデネブ王国と協調しての軍事作戦を展開する事になるはず。

 私たちと違って、デネブ王国は連絡を取るのに時間がかかるし、今この場にデネブ国王も参加してもらって、一緒に対策を考えた方がいい気がするね」


 ラニエロ公爵が驚いて目を見開いた。


「本国におられる陛下をこの場に交えると、そう言ったのか?!

 そんな魔導があるのか?!」


 瑞希が明るく笑って応える。


「できるよー!

 ここにラニエロ公爵が居るからね。

 えーと……これでつながるかな?」


 ラニエロ公爵の目の前に≪映像通話≫の画面が映し出され、そこに私室でくつろいでいる老年の貴族の姿が映し出された。

 ミズキがラニエロ公爵に告げる。


「そのまま会話できるから、人払いをしてもらってラニエロ公爵から事情を説明してもらえる?」



 ラニエロ公爵が躊躇ためらいがちに頷き、術式に驚いているデネブ国王に、手短に事情を説明していった。

 デネブ国王は神妙な顔で頷き、即座に人払いをして居住まいを正していた。



 瑞希がラニエロ公爵に告げる。


「向こうにはこちらの映像を映す≪現在視≫の画面を別に作るから、それを見て説明を聞いていてもらえるかな?」


 ラニエロ公爵が頷き、デネブ国王に伝えるとデネブ国王の視線が横にずれた――新しい≪現在視≫の画面を見たのだろう。


 国王が改めて一同に告げる。


「ではデネブ国王も含めて尋ねたい。

 これから我が国は、どういった対応をすべきだと考えるか」


 シュトロイベル公爵がまず声を上げる。


「我ら第二軍は旧シュトルム王国領の守備に大半を回され、北部から攻め入るシュライヴ皇国に対応するのが難しいだろう。

 我が軍は第一軍と第三軍で対応する事になると思われる。

 だが第三軍は未だ壊滅的打撃から回復できては居ない。

 第一軍が主力となって対応する事になると思うが、兵数は二万を用意することも難しくなる。

 一方でシュライヴ皇国は同盟国と合わせ、最大で五万の兵力を用意できると見るべきだ。

 ミズキの言う通り、我が国だけで支え切るのは無理だろう」


 ルートヴィヒ侯爵が続く。


「兵の質はシュライヴ皇国も我が国に次いで高い。

 数で並べなければ、防衛しきるのは難しい。

 ――デネブ国王、貴国は現在、どこまで兵数を揃えられるか」


 デネブ国王が俯きがちに思案しながら応える。


『……北方の軍事同盟の総力を挙げれば、三万までは望めるはずだ。

 合わせれば最大で五万弱、兵数で並ぶことは可能となるだろう』


 国王が頷いた。


「だが、我が国の領土が戦地となることは極力避けたい。

 それについて、諸君らはどう考える」


 マイヤー辺境伯がそれに応える。


「国外に攻めるとなると守備に兵を割かねばならず、こちらが出せる兵力を落とさざるを得ません。

 軍事行動以外の方法で手を打つしかなくなりますな」


 国王が俯いて思案を巡らせた後、瑞希を見て尋ねる。


「――ミズキ、シュライヴ皇国軍の様子は映せるか」


「はーい、ちょっと待ってね」


 しばらく瑞希があれこれと術式を試していると、会議室の中央に多数の画面が映し出されて行った。

 兵舎の中でくつろぐ兵士たちや当直の兵士たち、自宅でくつろぐ騎士の姿などだ。夜会に参加している様子もある。

 瑞希が告げる。


「シュライヴ皇国の軍人は二万人くらいが帝都に居るみたいだね。

 他は各地に分散してるみたい。

 まだ戦争の準備をしてるって段階じゃないと思うよ」


 国王が頷いた後、再び瑞希に尋ねる。


「ではシュライヴ皇帝の様子と、考えていることはわかるか?」


「えっと、これでいいかな?」


 新しい画面に、地図を睨んで考え込む老年の男の姿が映し出された。


「んーと……なんだか難しいことを色々と考えてるね。

 『私の噂が本当だとすれば、勝ち目が薄い』とは思ってるみたい。

 それをどうしようか、あれこれ悩んでるところだね。

 よっぽど私の事が怖いみたい」


 シュトロイベル公爵が軽妙に笑った。


「ははは! このような魔導を使われて情報が筒抜けでは、我々人間に勝ち目はないからね!

 噂の一部で真相も漏れてしまっている。

 それがどれだけ荒唐無稽に思えようと、事実である可能性を考えてしまって無視はできない――そう考えても仕方がないさ」


 瑞希が不満げにそれに反論する。


「だーかーらー! 私だって人間なんだよ?!

 できない事だって結構あるの!

 魔導術式なんだから、理屈に合わない事は無理なんだってば」


 ラニエロ公爵が頬を引きつらせながら瑞希に応える。


「これが……この魔法にしか見えない魔導の数々が、魔導術式だと、そう言うのか。

 我々が今まで魔導術式だと思っていた物とは明らかに異質、別物の魔導にしか見えないが」


 ヴォルフガングが人の良い笑みを浮かべながら応える。


「間違いなく魔導術式だよ。

 術理があり、術式を積み重ね、魔力制御を行った結果の現象だ。

 我々凡人の手が届かぬ、魔導の極致ではあるがね。

 おそらくミズキの魔導のその先に、神々の奇跡――魔法があるのではないかと考えている」


 デネブ国王も苦笑を浮かべながら告げる。


『……信じがたいが、どうやら『敵の布陣を一瞬で見抜いてみせた』という噂は真実という事か。

 シュライヴ皇帝がミズキを恐れるのは仕方あるまい。

 ドライセン王国が牙をむいて来ればあらがすべがなく負ける――そういうことになるからな。

 シュトルム王国が保持していた魔導兵器は解体されたと公表はされたが、それを疑問視する声もある。

 現在のドライセン王国を脅威とみなす国は多いだろう』


 国王がデネブ国王に告げる。


「我が国は他国の領土をいたずらに侵略しようなどとは考えぬ。

 戦火は民衆を不幸にする。それよりは共存共栄で構わぬと我らは考えている。

 そこは安心をして欲しい。

 ――無論、殴られれば相応に殴り返す程度のことはするがね」


 デネブ国王が思案を巡らせた後、国王に告げる。


『……では、早急に首脳会談を開き、その意思とミズキの魔導を広く示し、納得させるという手はどうだろうか。

 ドライセン王国内に居る各国外交官と、我が国内に居る各国外交官を交え、今回のような会議の場を設定することは可能か?』


 国王が思案を巡らせた後、瑞希に尋ねる。


「ミズキ、それは可能か?」


 瑞希はデネブ国王の顔を見つめながら応える。


「んー、デネブ国王陛下から因果を辿るから、多分大丈夫だよ」


 国王が頷いた。


「では急いでその手筈を整えよう。

 ――デネブ国王、そちらはどの程度の時間を必要とする?」


『これほどの魔導をすぐに信用させるのは難しいだろうが、なんとか会議の場は作って見せよう。

 だがやはり一週間程度は見ておいて欲しい』


 国王が頷いた。


「では一週間後、シュライヴ皇国を除いた関連同盟国間で首脳会談を開くとしよう」


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