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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:霧の国へようこそ

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38.戦勝祈願の夜会

 ――ドライセン王国の王宮、夜会会場。


 広いホールに数多くの貴族たちの姿がある。

 その中で、国王と話し合うワルター・フォン・ルートヴィヒ侯爵の姿があった。

 そばにはヴェルナー・フォン・マイヤー辺境伯の姿もある。


 いかめしく勇猛な笑みを浮かべ、ルートヴィヒ侯爵が国王に告げる。


「ミズキ殿下は、あの年齢にして実に頼もしいお方ですな。

 今回の戦いにおいて、勝利の鍵を握るに相応しい御心おこころをお持ちだ」


 国王が嬉しそうに頷いた。


「あのような娘を王家に迎えられることを、私は幸運に思っているよ。

 必ずやアルベルトを支え、この国を導いてくれる立派な王妃となるだろう」


 マイヤー辺境伯も楽しそうに頷いていた。


「我が娘、クラインが入れ込むほどの少女です。

 ミズキ様と縁を持てて、私も鼻が高いですよ」



 三人に笑顔で近づいていく貴族紳士の姿があった。


「おや、ワルター殿がそこまでめるとは、珍しいこともあるものだ。

 何か悪いことが起こらなければよいのだが」


 ルートヴィヒ侯爵が振り向いて応える。


「――シュトロイベル公爵か。

 貴公にも今回は尽力してもらう事になる。

 頼りにしているぞ」


 マティアス・フォン・シュトロイベル公爵――アリシアの父親だ。

 娘と同じマロングレーの髪を後ろになでつけた、スマートな美丈夫だった。

 王国軍第二軍の司令官であり、立派な軍人だ。


 優美な物腰に反して苛烈かれつ用兵ようへいをする騎士であり、自身も王国内で指折りの剣と魔導の腕を持つ。

 第二軍はそんなシュトロイベル公爵に鍛え上げられた、今回の攻めのかなめだ。


 シュトロイベル公爵が先陣として攻め、ルートヴィヒ侯爵率いる第一軍が後詰ごづめとして後押しするプランになっていた。


 マイヤー辺境伯は国内の第一軍から第三軍までの混成守備軍を指揮する事になっている。

 壊滅した第三軍を補填ほてんする形で、第一軍と第二軍から兵をき守備に当たるのだ。


 ――要するに、彼らは軍部の重鎮だ。


 シュトロイベル公爵が楽しそうに告げる。


「確かにミズキは頼もしい少女と言えますね。

 我が娘、アリシアの開くお茶会に参加して笑顔で会話し、元気に帰宅する令嬢など、他には居ませんから。

 並の精神力ではないでしょう」


 瑞希はこれまで数度、アリシアからお茶会に招待されていた。

 その場にシュトロイベル公爵も同席したことがあるが、興味深い光景が繰り広げられていた。


 笑顔でポンポンと本音をぶつけ合う瑞希とアリシア、そしてそれを胃を痛めながら笑顔を引きつらせて見守る令嬢たちの姿だ。

 帰る時には参加者が一様いちように疲れ切るアリシアのお茶会で、瑞希だけは最後まで元気一杯に微笑み続けていた。


 その光景を思い出し、シュトロイベル公爵も笑みをこぼした。


「彼女が今回、敵を封殺する鍵となる。

 あれだけのたくましさを持つなら、命を預ける気にもなると言うものです」



 国王と共に笑い合う男たちが、楽しそうに瑞希に関する話題を交換していた。


 今夜は出征前の、戦勝を祈願する夜会だ。

 騎士たちが多く参加し、互いに励まし合っていた。


 そんな夜会には当然、勝利の鍵を握る少女も現れる。



 会場の入り口から感嘆の声が上がりはじめ、参加者たちの視線が入り口に集まっていく。

 マイヤー辺境がいち早く気付いて周囲に告げる。


「おや、噂をすれば――」


 国王たちが一斉に目を向けると、瑞希をエスコートしたアルベルトが会場に足を踏み入れたところだった。

 燃えるような深紅のドレスに身を包んだその少女の美しさを、周囲は仲間たちとたたえていた。


 瑞希はまっすぐ国王の前まで近づき、優美なカーテシーを見せた。

 昨年までは何も知らない異世界の平民だった少女が、見事な変わり様だ。

 顔を上げた瑞希が穏やかな微笑みで告げる。


「国王陛下、ご機嫌麗しくございますか」


 国王が嬉しそうに頷いて応える。


「ああ、上機嫌だとも。

 ミズキから香り袋のお守りをもらって、すっかり健康になった。

 不健康だと、機嫌も悪くなりがちだ。

 やはり人間は健康が一番だな」


 瑞希がルートヴィヒ侯爵、マイヤー辺境伯、シュトロイベル公爵を見た。


「ワルター様、マイヤー辺境伯、シュトロイベル公爵――今回の戦いでは、よろしくお願いいたしますね。

 皆様のお力、頼りにしております。

 微力ながら、私も尽力させて頂きます」


 横に並ぶアルベルトがルートヴィヒ侯爵に告げる。


「今回、私とミズキはワルターと共に行動することになる。

 お前には迷惑をかけるだろうが、よろしく頼む」


 ルートヴィヒ侯爵が不敵な笑みを浮かべた。


「ははは、未来の王太子殿下すら守り切れず、何が王国第一軍か。

 私に任せて頂ければ、必ずやお守りいたしましょう」


 瑞希がルートヴィヒ侯爵に柔らかく微笑んだ。


「ワルター様、よろしくお願いいたします」


 途端に相好そうこうを崩したルートヴィヒ侯爵が、猫撫ねこなで声で応える。


「ミズキ殿下! あなたの御身おんみは、私が命に代えてもお守りいたしますぞ? ご安心ください」


 余りの豹変ぶりに、国王とマイヤー辺境伯、シュトロイベル公爵の顔が引きつっていた。

 彼らの知らないルートヴィヒ侯爵の姿だった。


 アルベルトが苦笑を浮かべてルートヴィヒ侯爵に告げる。


「ミズキの言う通りだったな。ワルター、お前そんな顔もできたのか」


 再びいかめしい顔を取り戻したルートヴィヒ侯爵がアルベルトに応える。


「なんのことか、私には理解できませんが……ミズキ殿下からはなんと?」


 アルベルトが小さく息を吐いて肩をすくめた。


「ミズキはお前のことを『優しくて穏やかなお爺ちゃん』と評していたぞ?

 最初は耳をうたがったくらいだ。

 何がお前をそこまで変えてしまうのだろうな」


 小さく咳払いをしたルートヴィヒ侯爵が、照れ隠しのように給仕からグラスを受け取り、飲み干した。


「これほどの美しい少女を前に、おびえさせてもいけないという配慮はいりょですよ。

 軍略の講義の間、長く共に居るのです。

 悪い印象を与えるわけにもいきますまい?」


 シュトロイベル公爵も苦笑を浮かべてルートヴィヒ侯爵に告げる。


「今はその講義の時間ではない。

 第一、ミズキはその程度でおびえるような少女ではないだろう」


 マイヤー辺境伯がそれに応える。


「いや、私が出会った頃のミズキ様は、兵の姿にすらおびえる普通の少女でした。

 ルートヴィヒ侯爵の配慮はいりょも、あながち間違ってはいないでしょう」


 瑞希が微笑んでマイヤー辺境伯に応える。


「あら、マイヤー辺境伯。それは今より未熟だった頃の私の姿です。

 そんな未熟な弱い私は、この手を汚した時に置いてまいりました。

 もう兵の姿におびえる事などありませんわよ?

 ――それより」


 瑞希が会場に素早く目を走らせた瞬間、またたく間に会場に居る給仕が三人ほど、炎の縄で縛り上げられ、床に転がっていた。


 瑞希が穏やかに微笑みながら、冷静に告げる。


「まだネズミが入り込むのですね。

 シュトルム王国の密偵ですわ。

 ≪捕縛≫の術式で自由は奪っておりますけれど、皆様の邪魔になりますから片付けて頂けませんか?」


 アルベルトが兵に指示を飛ばし、ただちに密偵たちが会場の外に連行されて行った。



 シュトロイベル公爵が唖然として瑞希に尋ねる。


「……どうやって密偵と判断をつけたのか、聞いてもいいかな?

 王宮内は魔術結界で不審者を検知できる。

 特に今日は警備が厳重で、敵意や害意を検知する術式があちこちに張り巡らされていたはずだ」


 瑞希が微笑みながら応える。


「会場に入った時に、中にいる人間全員の経歴を辿りましたの。

 彼らがシュトルム王国からやって来た密偵なのは間違いございませんわよ?

 敵意や害意は、心を操る術式を応用して隠しているのでしょうね。その痕跡がありましたから――自己暗示のたぐいですわ」


 ルートヴィヒ侯爵が呆然として瑞希に尋ねる。


「……経歴を辿る? あのわずかな時間で、この人数を? いったいミズキ殿下は、何をされたのですか?」


「あれだけの時間があれば、五千人程度の因果を過去に辿るくらいはできますわよ?

 因果を過去に辿ってしまえば、その方が歩んだ人生をおおよそ知ることが出来ますわ」


 国王は微笑んで満足そうに頷いた。


「まったく頼もしい限りだ。

 今回の戦いでも、よろしく頼むよミズキ」



 微笑む瑞希を、ルートヴィヒ侯爵とシュトロイベル公爵が呆然と見つめる中、警備兵が一人近付いてきて瑞希に告げる。


「ヴォルフガング様がミズキ様をお呼びです。『取り調べに協力して欲しい』とおっしゃられています」


 瑞希は微笑みながら頷いた。

 そのまま国王に振り向いて告げる。


「用事が出来てしまいましたわ。失礼いたしますわね」


 瑞希はアルベルトを残し、一人で兵士の後を付いていった。


 アルベルトは残念そうな顔で、瑞希の後姿を見つめている。

 シュトロイベル公爵がアルベルトに尋ねる。


「アルベルト殿下、ミズキが言ったのは、どういう意味なんです?

 人が持つ因果を過去に辿るだなんて、そんな術式は聞いたことがない。

 第一、どんな術理でそれを可能にするのですか」


 アルベルトがシュトロイベル公爵に振り向いて苦笑した。


「私にも詳しくはわからんが、あれはミズキの家に伝わる魔術だ。

 ミズキは過去はもちろん、現在も未来も見ることが出来る。

 ――もっとも、未来を見ると寿命が削れるらしいから、周りがそれを止めてるがな。

 因果を見て、その人間の死期を知ることもできるらしい。

 いつもミズキが使ってる術式だ」


 魔導の腕に自負があるシュトロイベル公爵には、信じられない話ばかりだった。

 術理の想像もつかない高度な魔術を、あのわずかな時間で五千人に施したと告げられた。


「馬鹿な……五千人を対象に高等魔術を使ったというのか。

 そんなこと、あのヴォルフガング殿でも不可能だ!」


 アルベルトが微笑んで応える。


「ミズキの魔力制御は、ヴォルフガングの遥か上だ。

 この程度はいつもやってることだし、戦いになればもっと高度な魔術を嫌でも目にする事になる。

 あいつの魔導は、私たちには魔法と区別がつかないからな」


 困惑するシュトロイベル公爵とルートヴィヒ侯爵の顔を見た国王が、小さく息をついた。


「戦いを前に、不信が生まれても仕方あるまい。

 取り調べの様子を実際に目にすれば理解するだろう。

 ――シュトロイベル公爵、ルートヴィヒ侯爵、マイヤー辺境伯、それとアルベルト。ついてこい」


 国王が取調室に向かって歩き出し、シュトロイベル公爵たちは慌てて後を付いていった。





****


 瑞希がヴォルフガングと相談をする中、国王たちが取調室に現れた。


 瑞希が振り返って告げる。


「あれ? 国王陛下? どうしたの?」


 国王が苦笑して応える。


「シュトロイベル公爵たちに、お前の魔導を先に見せておこうと思ってな。

 戦場ではお前たちの信頼関係が大前提となる。

 それをそこなう訳にもいくまい。

 ――で、取り調べはどうなってる?」


 国王の目が、転がっている三人の密偵に向かった。

 三人とも捕縛されたままの状態だ。


 瑞希がそれに応える。


「丁度良かったよー。

 ヴォルフガングさんから『国王陛下に知らせるべきだろう』って言われてたんだ」


 マイヤー辺境伯が微笑んで失笑した。


「――失礼。

 ミズキ様、あなたはあの頃とちっとも変わっておりませんな。安心しましたよ」


 瑞希が明るい笑顔で応える。


「それはそうだよ!

 私は私、何も変わらないよ!」


 国王がヴォルフガングに尋ねる。


「ヴォルフガング、どういうことか説明せよ」


 ヴォルフガングが応える。


「ああ、それなんだがね。

 ミズキがあまりにもあっさり敵の重要情報をあばいてしまうものだから、扱いに困っていたんだよ。

 ――ミズキ、もう一度やってくれるかな?」


 瑞希が頷き、≪現在視≫の画面をいくつも作り上げた。

 画面には茂みで様子を伺っている不審者の姿が映っている。


 瑞希が告げる。


「これが王宮周辺に潜んでる密偵たち。全部で十八人だね。

 夜会帰りの軍部の人間を誘拐しようと狙ってるみたい。

 それで――」


 傍にあった地図に小さい火が五か所灯る。


「これが密偵たちが三日前から使ってる新しい拠点だね。

 それと――」


 新しい≪現在視≫の画面が作られ、国内の有力貴族が映し出された。


「この人が心を操られて、密偵を国内に手引きしちゃった人。

 あとは――」


 また新しい≪現在視≫の画面が作られ、ハーケン・グライツラー侯爵の姿が映し出された。

 大型の装置を前に、部下と打ち合わせをしている最中のようだ。


「これが密偵の親玉。今回もグライツラー侯爵だね。

 そばにある装置が魔導兵器みたい。

 今度の戦いで、グライツラー侯爵が魔導兵器運用部隊を任されてるんだって密偵が自白したよ」




 シュトロイベル公爵、ルートヴィヒ侯爵、マイヤー辺境伯は、言葉もなく立ち尽くしていた。

 頭が理解を拒む――そんな現実だ。


 アルベルトがシュトロイベル公爵に向かって微笑んで告げる。


「見ての通り、魔法のような魔導を使う。

 実戦においても、この情報収集能力は強力な武器になるだろう。

 是非うまく活用して欲しい」


 一瞬遅れ、シュトロイベル公爵が我に返って瑞希に向かって叫ぶ。


「ちょっと待ってくれ!

 まず、王宮周辺の密偵などどうやって調べた?!」


「私は半径五キロで警戒魔術結界を作れるから、それで敵意を探しただけだよ?」


「――では、その目的をどうやって知った?!」


「画面越しに心を読んだだけだけど?」


「――新しい拠点の場所など、そんなものをどうやって知った!」


「密偵たちの全員の因果を辿ればすぐにわかるよ?

 同じように有力貴族も割り出しただけ。

 画面越しに心を操られてるのがわかったから、心は元に戻しておいたよ」


「……グライツラー侯爵はなぜ映像に映ってる? 国内に居るとでもいうのか?」


「これはシュトルム王国王都の映像だよ。

 因果を辿った≪現在視≫の術式なら、距離は無視できるんだ」


「……魔導兵器の運用に関する機密情報など、この短時間で聞き出せるわけが無いだろう。

 そんなことはいくらヴォルフガング殿でも無理だ」


 ヴォルフガングが横から割って入った。


「それなんだがね。

 どうやら精神同調を強烈に拒むように調整された密偵のようだ。

 私ではお手上げだったから、ミズキにやってもらったのさ。

 この子はあっさり同調して見せたよ?」


 瑞希が小さく息をついた。


「ヴォルフガングさんの取り調べは乱暴過ぎるんだよ。

 いくら密偵だからって、相手を廃人にするのはやりすぎだと思うよ?」


 シュトロイベル公爵が呆然と呟く。


「……まさか、自白させた密偵の自我がまだ、残っているというのか?」


「残ってるから、普通に受け答えできるよ?

 でも身体の自由が利くと自殺しちゃう密偵みたいだから、捕縛術式は維持してるんだ。

 私もあんまり人の心は操りたくないし、この密偵もどうしようかなって思ってたところ」


「……それらを、この短時間で全部終わらせたというのか?」


「実際にほとんど目の前でやってみせたじゃない。

 何か不思議に思うところ、あった?」



 ルートヴィヒ侯爵が微笑んで瑞希に告げる。


「ミズキ殿下、それがあなたの本当のお姿なのですな。

 そちらの方が魅力的ですぞ?」


「あはは……ありがとワルターさん!

 でも夜会でこの態度は、やっぱり悪目立ちしちゃうからねー。

 そこはしょうがないかなって諦めてる」


「今度から、講義は素の殿下のお姿で受けて頂いて結構ですよ。

 その方がお疲れにならないでしょう?」


 瑞希が明るく笑った。


「ほんと?! やったー! ありがとワルターさん!」



 シュトロイベル公爵が困惑したように瑞希に尋ねる。


「ミズキ、君が使った魔導は、全て因果を辿った魔導術式だと、そういうのか?」


「そうだよ? 霧上家の魔術はそういう魔術なんだってお爺ちゃんが言ってた。

 

「どういう術理で因果を辿るのか、教えてもらうことはできるか?」


「いいよ?

 因果を過去から現在、そして未来に繋がる糸の概念に落とし込むだけだよ。

 あとはその応用で糸を操るだけ。

 ――簡単でしょ?」


 瑞希が普段から口にする、乱暴な極論の魔術理論だ。

 再び言葉を失ったシュトロイベル公爵に、ヴォルフガングが告げる。


「ミズキの魔導理論は論理ロジックの飛躍がはげしいからね。

 すぐに理解できなくても仕方ないし、私でも全てを理解はできていないよ。

 混乱するのも仕方がないね」


「……つまり、ヴォルフガング殿以上の魔導士だと、そういうことなのか?」


 ヴォルフガングが不敵に笑った。


「私がミズキに勝てるのは、魔導の知識の幅広さと経験ぐらいだね。

 それ以外は遥かにミズキの方が上さ。比べるべきではないほどにね。

 この子は閃きだけで暴論をそのまま即興魔術で発動できてしまう子だ。

 常識で考えても仕方がないよ?」


「……即興魔術? まさか今までのは全て即興魔術だとでもいうのか?」


 瑞希がシュトロイベル公爵に振り向いて頷いた。


「≪現在視≫以外は即興魔術だよ?

 だって、その方がずっと楽だし」


 また言葉を失ったシュトロイベル公爵の横で、国王が思いついたように瑞希に告げる。


「ミズキ、今のシュトルム国王の様子は映せるかな?

 彼が今、どんな状態にあるか、知ることはできるか?」


 瑞希が顎に指を当てて思案した。


「んー、これでいいかな?」


 新しく≪現在視≫の画面が現れ、寝室で苛立たしげに酒をあおる男の姿が映し出された。

 国王は満足そうに頷いた。


「確かに、シュトルム国王だ。

 だいぶ精神的に追い詰められていると見える。

 ……奴らの軍議の様子は映せるかい?」


「えーっと……こう?」


 新しく≪過去視≫の画面が現れ、シュトルム国王が重臣たちとけわしい顔で地図を前に話し合っていた。


「これはいつ頃の映像だい?

 音声は出せないのかな?」


「これは今日の昼間の軍議の様子だね。午後二時ごろだよ。

 音声も出せるよ」


 画面からシュトルム国王たちの声が響き始めた。

 どこを防衛ラインとすべきか、検討を重ねているようだ。

 意見がまとまらず、喧嘩のようになっている。

 どうやら他国に対し、守備が薄くなったドライセン王国へ攻め入るように折衝せっしょうも進めているようだ。


 国王は満足げに頷いた。


「これができるなら、敵の手の内は全てが明らかになる。

 実戦で負けることはないだろう。

 敵の外交情報も筒抜けだな。

 ――マイヤー辺境伯、これを踏まえて対応策を練る。一緒に来てくれ」


 国王とマイヤー辺境伯が取調室を去っていった。


 シュトロイベル公爵が呆然と瑞希に尋ねる。


「……今のも、即興魔術なのか」


「そうだよ? 見ての通り。

 何か疑問に思うところ、あった?」


 ヴォルフガングが人の良い笑顔で瑞希に告げる。


「もうここはいいから、ミズキとアルベルト殿下は夜会に戻ってなさい。

 シュトロイベル公爵のことは、私に任せておきなさい」


「そう? わかったー!

 ――ワルターさんも夜会に戻ろうか!」



 取調室にはヴォルフガングとシュトロイベル公爵だけが残された。

 それから時間をかけて、ヴォルフガングは瑞希という少女のことを説明していった。


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