表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:霧の国へようこそ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/93

34.異世界懇親会(1)

 ――シュトルム王国、会議室。


 不機嫌そうなシュトルム国王が、グライツラー侯爵に尋ねる。


「つまり、『なにも分からなかった』という理解で構わないな? ハーケン」


 グライツラー侯爵は何も言えず、俯いて次の言葉を待った。


 真偽不明の噂の数々を確かめるために無理を通して打った、王族誘拐という一手。

 その結果は『王族救助において、ミズキという異世界人はまったく力になれなかった』という事実が分かっただけだった。

 それまでの『魔導に秀でる』という噂を完全否定する結果だ。

 出来る限り情報を漁ったが、その事実をくつがえす情報は得られなかった。


 未だに真偽不明の噂は根強く残っているようだが、どうやらドライセン王国内部でも『ミズキという異世界人の魔導は大したことがない』という評価が大勢たいせいを占めているようだった。

 それでいて、新しく魔導に優れた逸話いつわが噂として聞こえてくる。

 掴み処のない相手と言える。


 そして無理を通した結果、諜報部の優秀な人材が大勢おおぜい敵国の手に落ち、消息を絶った。

 これでシュトルム王国の諜報部は、大きく力を落としたことになる。

 報告できる内容は何もない――大失態だ。


「……既にドライセン王国が出兵準備を整えているという情報がある。

 魔導兵器を使えない我が国を、今のうちにつぶしておきたいのだろう。

 いつ頃攻めってくるかは判断が難しいが、年内の遠くない時期だと思っている。

 ――魔導兵器の改良はどうなっている!」


 宮廷魔導士が応える。


「調査は続行し、試運転に異常は見られません。

 大規模に力を発動したときにのみ起こる不具合と予想されますが、試運転でそこまで出力を高めることはできません。

 実際に戦場に投入し、結果を見るしかないかと」


 つまり、兵士たちに『死を覚悟させて使わせる』という手段しかない。

 再び暴走するならば、その結果を分析し、改良していくことになる。


 試作型魔導兵器は一切効果を発揮しなくなり、失敗作として処分されていた。

 頼れるのは『死を振りまく』と古い文献に残された、この魔導兵器のみだった。


 シュトルム国王の目がハーケン・グライツラー侯爵を見据えた。


「では魔導兵器運用部隊をハーケン、貴様に任せる。

 汚名を返上したければ、なんとしてでも結果を残してみせよ。

 貴様の部隊の活躍が我が国の命運を分けることになる。責任は重大だ。心してかかれ」


「……はっ、かしこまりました」





****


 ――七月下旬、瑞希の部屋。


 早朝ランニングを終えた瑞希は、いつものように自習を行っていた。

 その内容を今では、教養科目から軍略に置き換えていた。

 講師からの評価も良く、順調に軍略をおさめていた。


 自習を進める瑞希の背後から、ザビーネが声をかける。


「ミズキ様、そろそろ朝食のお時間です。お切り上げください」


 瑞希は息をついてペンを置き、教科書とノートを閉じて返事をする。


「わかった、すぐ行くよ」





 食卓には国王と王妃の姿もある。


「今日はこの後、ミズキの両親に会えると聞いた。楽しみにしているよ」


 国王は楽しそうに微笑んで告げた。

 王妃は少し心配そうにしている。


「異世界の方に失礼のないよう振舞えるかしら。不安だわ」


 瑞希が明るく笑った。


「あはは、大丈夫だよ。

 礼儀作法は似たようなところが多いし、陛下も王妃殿下も一目で外国人と伝わる外見だもん。

 お父さんもお母さんも、その辺は理解してくれるはずだよ」


 ヴォルフガングが目を輝かせて瑞希に尋ねる。


「私が同席してしまって本当に構わないのかい?

 ミズキの祖父にあれほど似ているんだ。

 話がややこしくなるだろう?」


「お父さんはお爺ちゃんの実の息子だもん。

 ちょっと話せば、お爺ちゃんとは別人だってわかるはずだよ。

 それでも不安なら、その場でお爺ちゃんと≪念話≫してもらえばいいし。

 それにヴォルフガングさんも、この魔術に参加したくてうずうずしてるんでしょ?」


 ヴォルフガングがとてもいい笑顔で応える。


「もちろんだとも! またあの大魔術を目に出来るかと思うと、今から待ちきれないよ!」


「あはは、正確には、あの魔術をトレースした魔法だけどね。

 今回は長く話すつもりだから、霧の神に助けてもらうんだ」


「なに、それならなおさら参加せずにはいられないさ。

 魔法を使える人間など、現代史に一人も居なかったんだからね」


 アルベルトは緊張しているようだ。

 口数も少なく、黙って朝食を口に運んでいた。


 瑞希は思わず声をかけてしまう。


「ちょっとアルベルトぉ? なんでアルベルトがナーバスになってるのさ」


「いやしかし……事後報告とはいえ、ご息女を頂くと伝えるのだぞ?

 緊張するなと言う方が無理がある」


 どうやら王家の威光が通用しない相手で、さらに緊張が増しているようだ。

 国王や王妃も、苦笑を浮かべていた。


 瑞希も小さくため息をついてしまった。


「そりゃあ、大きな国の王子として生まれ育ったから、それが通用しない相手は緊張するかもしれないけどさー。

 言葉が通じる相手なら、いつものアルベルトになれば大丈夫だって!」


「そうだろうか……いや、ミズキの言葉だ。信じよう」


 ようやくアルベルトの顔の緊張が和らぎ、少しずつ口数が増えて行った。


 ソニアが困ったように笑っていた。


「兄様、意外なところで頼りない面がおありだったのですね。

 全く気が付きませんでしたわ」


 ミハエルはいつもの笑顔だ。


「僕は親しみがわいて、よりいっそう兄上が好きになりました!」


 王族とヴォルフガングは全員が王族の正装を身にまとっている。

 瑞希は魔導学院の制服を選んでいた。

 事前に≪異世界間念話≫の魔法で今日の日取りを決め、両親にも用意してもらっていた。

 日本では土曜日――休日の朝だ。

 こちらでも休日の朝なので、この日が選ばれた。





 食事が終わり、全員がリビングに移動した。

 さっそく瑞希が霧の神の力を借り、≪異世界間映像念話≫の魔法を起動する。

 大きな炎の画面が現れ、少しすると炎の中に瑞希の自宅のリビングが映し出された。

 そこに座って居るのは両親と祖父だ。


「あれ?! お爺ちゃんもいるの?!」


 父親が瑞希の声に反応した。


『その声、瑞希か?! 姿が変わってるって、それが今の姿なのか?』


「そうだよ、これがこっちの世界での私の姿だって、霧の神が言ってた。

 霧の神の血を色濃く受け継いでる影響なんだって。

 ところで、お爺ちゃんも来るのは聞いてなかったよ?」


 画面の向こうで、祖父が人の良い笑顔で笑った。


『私には、お前を儀式に参加させてしまった責任がある。

 事態を最後まで見届けたいと思ってね。

 無理を言って参加させてもらったんだよ』


 ヴォルフガングが感心したように声を出した。


「声質までわたしにそっくりだ……本当に鏡を見ているような気分だよ。

 ――失礼、私はヴォルフガング・ネーベルゴット。

 ミズキにこちらの魔術の指導をしている人間だ。

 もっとも、私が教えられる事など、ほとんどないがね」


 祖父が今度は楽しそうに笑った。


『ははは、まさにまさに。

 同感だよヴォルフガングさん。

 ――私は霧上きりがみ狼也ろうや、瑞希の祖父だ。

 手ほどきはしなかったが、瑞希に最初に魔術を見せた人間ではあるね。

 そちらの言語は聞き覚えがないが、名前の響きはドイツ語に近いね。

 ドイツ語だとすれば、名前も同じような意味になるはずだ。

 運命が重なっているのかもしれないな。

 ――瑞希、これは≪意思疎通≫の魔術を使っているね?』


 瑞希が驚きながら頷いた。


「そうだよ、今こっちに居る全員に私が魔術を施してる状態。

 そっちにも、≪意思疎通≫の術式が伝わってるの?

 どれくらい同じ魔術が伝わってるんだろう?」


 祖父が楽しそうに応える。


『異世界の魔術自体は、それほど多くは伝わっていないよ。

 新しく霧の神から教えられることもあるが、おそらく五十もないだろう。

 だが、そちらの世界では失われた術式も、おそらく混じっているはずだ。

 霧上家の魔術は、古い時代の術式だからね』


 ヴォルフガングが目を輝かせて尋ねる。


「ちなみに、どれくらいの歴史がある魔術の家系なのか、教えてもらっても構わないかな?」


 祖父が頷いて応える。


『文献では、一千五百年くらい前まではさかのぼれるね。

 それ以上は口伝くでんになるが、三千年以上の歴史を持つとも言われているよ。

 だからおそらく、それ以前の時代の術式だろう』


 ヴォルフガングが満足そうに頷いた。


「なるほど、こちらの術式は古くても一千年ほど前と言われている。

 同じ術式が残ってる方が珍しいかもしれないね。

 ――さて、ミズキのご両親が待ち侘びている。

 我々は席を譲って、後ろで眺めさせてもらおう」


『はっはっは! そうしましょうか!』


 ヴォルフガングが王族の後ろに、祖父が両親の後ろに移動した。

 不機嫌そうな父親がぶちぶちと文句を言い出す。


『まったく親父は! 魔術のこととなると目の色が変わるんだから――

 瑞希、今日は婚約相手を紹介すると言っていたね?

 誰が相手なんだい?』


 おずおずとアルベルトが瑞希の横から告げる。


「アルベルト・マティアス・ドライセン。

 ドライセン王国第二王子だ。

 事後報告で申し訳ないと思うが、ミズキに婚姻を頷いてもらった。

 遅くても三年後には、婚姻を果たすだろう」


 ガチガチのアルベルトをフォローするように瑞希が補足する。


「アルベルトは同い年で、今は同じ魔導の学校に通ってるんだよ。

 こっちの国では十五歳で成人だから、私も成人扱いされてるよ。

 卒業後か、在学中かはわからないけど、その……結婚、の約束をしてるの」


 真っ赤になって俯いた瑞希に、父親が複雑な顔で応える。


『結婚……中学生だった瑞希が結婚か。

 異世界なら仕方がないが、まるで実感が湧かないよ。

 だがお前が選んだ相手なら、私たちは信じる事にしよう。

 ――私は霧上信一郎、瑞希の父親です。

 王子ということですが、娘をよろしく頼みます。

 娘を泣かせれば、霧の神の権能を使ってでも思い知らせますので、覚悟しておいてください』


「お父さん……そんな過激な性格だったの?」


 少なくとも瑞希が知る父は、いつも穏やかに笑う男だ。

 娘を泣かされた報復に祟り殺す男ではない。

 初めて知る父の姿である。


 ソニアが微笑みながら瑞希に告げる。


「さすが姉様のお父様ですわね。よく似てらっしゃいますわ。

 ――失礼。私、ソニア・サラ・ドライセン第一王女です。

 アルベルト兄様の妹になりますわ。

 私も精一杯、ミズキ姉様をお支えてして差し上げますので、ご安心ください」


 続くようにミハエルが笑顔で声を上げる。


「ミハエル・ハンス・ドライセン第三王子です!

 僕もミズキ姉上を精一杯お支えしたいと思っています!」


 画面の向こうで母親が顔をほころばせた。


『あらあら、元気な坊やね。

 ――瑞希の母です。

 皆様、娘をよろしくお願いします』


 国王と王妃が名乗る。


「ハンス・フーベン・ドライセン第十三代国王だ。

 義娘ぎじょうとしてミズキに嫁いできてもらえることを、心から嬉しく思っている。

 ミズキには何度もこの国を救ってもらった。

 これからも王妃として救い、導いてもらう事になる。

 我が国を任せられる女性だと評価している」


「ハンス、異世界の方にそんな王様ムーブしたら駄目ですよ。

 ――私はカロリーネ・ルネ・ドライセン。アルベルトの母です。

 私もミズキをアルベルトのお嫁さんとして迎えられることを、心から嬉しく思ってるの。

 今から孫の顔を見るのが楽しみよ」


『瑞希の孫――本当、楽しみですね』


 母親が国王や王妃と微笑みあっていた。

 父親は、まだ気持ちの整理がついてないようだ。

 難しい顔で俯いている。


 ミズキが思わず声を出す。


「おとうさーん! お祝いしてくれないのー?!」


『ああいや、そういう訳じゃないんだが……

 お前ともう会えないかと思うと、寂しくてつい、な』


『あなた、娘が嫁ぐ先に父親がついて行ける訳が無いでしょう?

 ちょっと早い嫁入りだと思えば、普通のことよ?

 いい加減覚悟を決めてくださいよ』


 父親はそれでも納得がいかないようで、壁際を向いて悩み始めてしまった。


(おとうさん、親馬鹿っぽかったしなぁ)


 少なくとも瑞希は、愛を溢れるほど注がれてきた自覚はある。

 急に嫁入りと聞いて納得しきれないのも、仕方ないかもしれないと諦めた。


 瑞希はふと思い出して、画面に映る祖父に尋ねる。


「ねぇお爺ちゃん、そっちの世界では私の扱いはどうなってるの?

 行方不明?」


『そうなっているよ。捜索願も出しているし、国家にも協力してもらって探していた。

 だがこうしてお前の無事が確認できたから、それらは打ち切ることにしよう』


(国家に協力……どんだけ凄い家なんだろう)


 呆然としている瑞希を、祖父は神妙な顔で見つめていた。

 その視線に気が付いた瑞希が、祖父に尋ねる。


「お爺ちゃん? なんかさっきから魔術を使って私を見てない?

 うまく術式を読み取れないんだけど、何をしてるの?」


 祖父が静かに応える。


『瑞希、お前は相手の死期を知る魔術は扱えるかい?』


「え? んーと、運命を眺めて、死の気配を感じる魔術は使えるかな」


 祖父がわずかに微笑んだ。


『おおよそ、それと同じようなものだ。

 死の権能を持つ霧の神、その血族である我々が持つ力の一端だね。

 霧上家では≪死相≫の術式、と呼んでいる。

 お前は、この術式の制約を理解しているかい?』


「……うん。自分の運命を見ることが出来ないんでしょう?

 だから自分の死の気配はわからない。

 その≪死相≫の術式で私を見てたの? なんで?」


 瑞希の胸がざわついていた。



『……お前に、死相が出ていたからだよ』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ