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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:霧の国へようこそ

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33.戦いに備えて

 朝になり、瑞希の目が覚める。

 静かな部屋の中で、ぼーっと昨晩の記憶を思い出していた。

 あれほど温かかった空間が嘘のように、朝の客間は静かで冷え込んでいた。


(やっぱり現実感がないや)





 着替えて王宮の内庭に行くと、ソニアが待っていた。


「姉様! おはようございます。

 ちゃんとお眠りになられましたか?」


「あ、うん。大丈夫。寝られたよ。

 ――でも、そうやって姉様って改めて言われると、『あれが夢じゃなかったんだな』って思えるね」


 ソニアがおかしそうに口元を隠して笑う。


「わかりますよ、私も『夢だったんじゃないか』って不安になりました。

 でもこれから時間が経てば、ちゃんと実感しますよ」





 ソニアと仲良く並走して早朝ランニングを開始する。

 六月も中旬となれば、さすがに早朝でもそれなりに気温が高い。


「ちゃんとしたランニングウェアを作っておきたい気がするね」


「走り込み用の服ですか? 確かに、この間に合わせの服はそろそろ卒業したいですね。

 お父様たちに相談してみましょうか」





 早朝ランニングを終えてソニアと別れ、瑞希は入浴と着替えを済ませて教養科目の自習を進めていた。

 朝食の時間になると、アルベルトやソニア、ミハエル、ヴォルフガングが食卓に姿を現す。


「おはようミズキ。お前はよく眠れたか?

 私は興奮して、中々寝付けなかったよ」


 瑞希は照れくさくてアルベルトの顔をまともに見れず、目をそらしながら応える。


「私はそれなりに疲れてたみたいで、すぐに眠れたかな。

 ――さぁ、ごはんを食べよう!」


 照れ隠しでさっさと着席し、瑞希は食事を開始した。

 そんな瑞希の姿を、アルベルトは微笑ましく見守りながら隣に腰を下ろす。


 瑞希は横を見ないように必死になりながら、ヴォルフガングに尋ねる。


「――あ、ねぇヴォルフガングさん。

 ヴォルフガングさんはいつまで一緒に居られるの?」


 ヴォルフガングは楽しそうに微笑みながら応える。


「私かね? おそらく、シュトルム王国の一件が片付いたら、家に帰ることになるね。

 もうミズキもこの世界にだいぶ慣れた。

 私が傍に居なくても、危なっかしいこともないだろう」


「じゃあ今のうちに見せおこうかな……」


 瑞希が≪過去視≫で異世界に飛ばされた日の、朝の映像を映し出した。

 早朝ランニングの途中で祖父に会い、戸惑う瑞希の姿だ。


 ヴォルフガングは興味深げに瑞希の祖父の顔を眺めていた。


「ほぅ……本当に瓜二つだね。

 もしかすると、ミズキの家系は我が家の家系と関係があったのかもしれないね。

 そう思ってしまうくらい、よく似ている。自分でも鏡を見ている気分だよ」


 その後、祖父が≪念話≫を使い、父親と会話をしている場面になる。

 ヴォルフガングはそれにも興味深そうにしていた。


「≪念話≫の術式だが、不思議なアレンジがされているね。

 ミズキの世界で少しずつ改変されたのだろう。

 ということは、ミズキが知らないだけで、他にも魔術を使える家系がある、ということになるね」


 瑞希がきょとんとして尋ねる。


「そうなの? アレンジだけなら、そんなことは決まらないんじゃない?」


「よく見てごらん。≪念話≫に独特の規則性のある魔術が混じっているのがわかるはずだ。

 それが少なくとも三種類は混じっているように見える。

 それだけの種類の魔術系譜けいふが存在していた、という事だよ」


「んー……ああ、これがそういう意味になるのか。

 やっぱり知識と経験は、まだまだヴォルフガングさんに及ばないなぁ」


 ヴォルフガングは楽しそうに笑った。


「はっはっは! これでも五十年以上魔術と共に生きてきているんだよ?

 それすら上回られたら、私の立場がないよ!」


 瑞希の袖を、ちょいちょいとソニアが引っ張った。


「――ん? なに? どうしたのソニア」


「姉様あの……そろそろ兄様に構って差しあげないと、すっかりへそをげてらっしゃいますよ?」


 瑞希が横を見ると、珍しくむくれて食事を進めているアルベルトの姿があった。


「あー……その、ごめんね? アルベルト。

 なんかその、気恥きはずかしくて顔を見られなくてさ。

 昨日、君が抱き着いてくるからだよ?」


 むくれながらアルベルトが応える。


「仕方ないだろう。瑞希がいとしい気持ちを抑えられなかったんだ。

 私だって、自分の感情を持て余す時ぐらいはある」


 瑞希は微笑ましい気分で、アルベルトの頭をでていた。


「よしよし、そんなにいじけないの。

 未来の王様でしょ?」


 頭を撫でられているアルベルトの顔が、すぐに上機嫌に変わっていく。


「こうしてれた女性にでられるというのは、得難えがたい幸福感を覚えるな。

 こんな姿、国王になったら他人には見せられん。

 今のうちに堪能たんのうしておくとしよう」


 瑞希とソニアが思わず噴き出していた。

 ソニアが笑いをこらえながらアルベルトに伝える。


「……兄様……普通、その年齢で……頭を撫でられる姿は……他人に見せるものでは……ありませんよ」


「そうか? だが今はこの幸福感に身をゆだねながら過ごすとしよう」


 瑞希はソニアと一瞬目を合わせた後、たまらず吹き出し笑い合っていた。





****


 教室に付くと、瑞希たちの姿を見たクラインがすぐさま満面の笑みに代わった。


「まぁ! ついに婚姻を決めたのね! おめでとうミズキ!」


「え?! 私たち何も言ってないけど?!」


 クラインが楽しそうに瑞希に告げる。


「ミズキ、後ろに居る男の顔を、よく見てごらんなさい?」


 くるりと振り返ると、幸せで顔がとろけているアルベルトの姿がそこにあった。


「アルベルト?! どうしたの?! 馬車の中では普通だったじゃない?!」


「いや、ずっと我慢をしていたんだが……やはり制服姿のミズキはいいものだな……」


(そんなにこの服を着てる私の姿が好きなのか)


 その後、授業が始まるまで顔をとろけさせたアルベルトは、周囲からからかわれながら過ごしていた。


 ゲルトが苦笑を浮かべて呟く。


「これが将来の国王かと思うと、一抹いちまつの不安を覚えてしまいそうだな」


 クラインが穏やかに微笑む。


「仕方ないわよ、実るか分からない、長い片思いが実ったんですもの。

 今くらいは見逃してあげましょうよ」


 瑞希がきょとんとクラインに尋ねる。


「長いってどういう事? アルベルトは『制服姿を見て自覚した』っていってたから、二か月くらいでしょう?」


「やっぱり気が付いてなかったのね……私が見た限り、私の所に来た時にはもう心かれてたわよ?」


 つまり、瑞希がこの世界に来てから二日後、今から八か月くらい前だ。


「え?! そんな前から?! 心かれるって、どのくらい?!


「そこまではさすがにわからないけど、女性としてミズキを見ていたのはわかったわよ?

 私がアルベルト殿下に、本人がなんとも思ってない女性を『伴侶にすれば?』なんて提案すると思う?」


 確かに、クラインはそんなことを早々口にする人間ではないだろう。

 瑞希が慌ててアルベルトに振り向くと、とろけた顔を恥ずかしそうに赤く染めていた。


「そうか、やはりあれはそういう気持ちだったのか。

 となると、おそらく一目惚れに近い状態だろうな」


「それも仕方ないわ。ミズキほどの美貌は滅多に見れるものじゃないもの」


 最近は自分の顔としての自覚を持っている容貌を美貌と言われ、瑞希にはその言葉がこそばゆかった。



 談笑していると教室にマウリッツが姿を現す。

 その空気が昨日までと違って見え、瑞希が思わずマウリッツに尋ねる。


「マウリッツ先生、空気が違いますわね?

 どうなさいましたの?」


 マウリッツは恥ずかしそうに照れている。


「いや、昨日の経験で私も目が覚めてね。教師の仕事に追われる日々を言い訳にして、怠けていた魔導の鍛錬を再開したんだ。

 あんな経験をさせてもらっておいて、何もしないで居るなんて私にはできなくてね」


 瑞希が微笑んだ。


「あら、そういう事でしたら、私も頑張った甲斐があると言うものです。

 クラスの皆様も、それぞれ自宅で鍛錬を積んでらっしゃったようですし、私も満足ですわ」


 マウリッツがきょとんとして瑞希に尋ねる。


「クラスのみんなが? 生徒たちが鍛錬を積んだって、分かるのかい?」


「身にまとう魔力が、昨日とはまるで変っていますわ。

 魔力制御の鍛錬に励んだのが、私には見ればわかるのです。

 自宅で鍛錬の復習をしていないのは、アルベルト殿下だけですわね」


 アルベルトが不服そうに瑞希に反論する。


「私だって、夕食後に自習をしようと思っていたさ。

 だが昨晩は、夕食の席でハプニングが起きてしまったからな。

 鍛錬を積む暇が無くなってしまっただけだ」


「あー、それはその、確かにあれは不可抗力ですわね」


 マウリッツは瑞希とアルベルトの言葉の意味がわからないまま、軽く手を叩いた。


「それでは魔導の授業を始める! 教科書を開いて!」


 瑞希は教養科目の教科書を広げ、自習を開始した。





 瑞希は自習をしながら教室内の様子を観察してみた。

 生徒たちの授業態度が明らかに昨日までと一変し、真剣にマウリッツの言葉に耳を傾けていた。

 元々マウリッツは瑞希の目から見ても、魔導の教師として優秀で、授業の内容も分かりやすい。

 生徒たちは自宅学習で既に履修した範囲だが、昨日瑞希が教えたことを踏まえて授業を聞き、術理を深く理解しようとつとめているのがわかった。


 ここに居るのは、魔導の腕を要求される職業に進む者がほとんどだ。

 そんな彼らがこれから卒業まで、魔導の腕を高め続けていくのは間違いないだろう。


(ほんと、頑張った甲斐があるってものだよね)


 改めて瑞希は満足感を覚え、楽し気に教養科目の自習をこなしていった。





****


 魔導科目、そして教養科目の授業が終わり、昼食の時間となった。

 瑞希も大きく息をつき、教科書をしまっていく。


 クラインが微笑みながら瑞希に告げる。


懸念けねんだった教養科目も、特に遅れることなく授業に付いてこれてるわね。

 魔導科目の間に自習を進めてるとはいえ、凄いことだと思うわよ?」


 アルベルトも頷いた。


「これなら、ミズキにまた講師を付けても大丈夫だろう。

 今まではほとんどの講師を外していたが、入学前と同じ数の講義を再開させられそうだ」


 教養科目に不安があった瑞希は、入学後しばらくは作法以外の講義を中断していた。

 これからは学院から帰宅後、夕食までの時間に講義が入る事になるだろう。

 休日は一日みっちり、講義が入る事になる。


 瑞希は思わず頬が引きつり、冷や汗を流した。


「また忙しい日々が再開されるのですわね。

 少し憂鬱になってしまいそうですわ」


 アルベルトが微笑んだ。


「正式に婚姻を約束した仲となった今、妃教育も入る事になる。

 詰め込み過ぎて体調を崩されると困る時期ではあるから、そこは踏まえて調整する事になる。

 すぐに以前と同じ忙しさになる訳ではないさ」


 コルネリアが告げる。


「さぁ、続きは食堂で話しましょ! 良い席を取られちゃうわよ?」





 食堂で昼食をつつきながら、瑞希は妃教育について聞いていた。


「つまり、王族としての心構えや教養を教わる講義なのですわね?」


 アルベルトが頷いた。


「だが、心構えは既に充分、作法や教養もほとんど他の講師と被るから、それも省かれるはずだ。

 講義の内容は、ほぼ外交に関する事になるだろう。

 そして近隣の言語に関することは≪意思疎通≫術式を前提にするから、これも省かれる。

 せいぜい、隣国の地理や文化、風習を教わる程度になるんじゃないかと見ている」


「軍事に関する講義はまだ受けておりませんけど、あれはどうなったのかしら?」


「戦闘術に関してはヴォルフガングが教えた内容で充分だ。ミズキは機転が利くから、基本が出来ていればいくらでも応用ができるだろう。

 軍略の講義をどうしても受けたいと言うのであれば、それはなんとかねじ込もう。

 だが軍略は戦場の知識。王妃に必須という訳でもない。無理に覚えなくてもよいものだぞ?」


 瑞希は少し俯いて思案した。

 今後を踏まえた場合、大規模戦闘や国家規模の軍事的な知識は早いうちに仕入れておいた方が良いように思えた。

 出兵には王国軍の将校たちが揃うことになるが、自分自身でも判断を下せるだけの力が欲しいと思っていた。


「……その軍略の講義、優先して割り込ませてもらっても良いかな?

 集中的に勉強して、今のうちにある程度身に着けておきたいんだ」


 低く、真剣な声で瑞希は告げた。

 瑞希の意図を理解したのか、応えるように真剣な顔でアルベルトが頷いた。


「そういうことなら、父上に話を通しておこう。すぐに対応して下さるはずだ。

 だが生兵法なまびょうほう――半端な知識は、身を滅ぼすだけだ。戦場で通用する水準となると、簡単に身に着けられるものではないぞ?

 修得が間に合わなければ、素直に周囲の本職に任せた方が良い」


「それは知ってるし、そのつもりだけど、自分にも必要だと肌で感じてるんだよ。

 咄嗟とっさに判断を下して即座に対応が求められる場面で、他人の判断を待っていたら間に合わなくなる。

 そんな場面が来なければいいけど、少しでも対応する力は身に着けておきたいんだ」


 アルベルトが優しく微笑んだ。


生兵法なまびょうほうの怖さを理解しているなら、それでいい。

 決して自分の判断を過信するなよ。

 戦場での経験を積んだ人間の判断を常にあおぐつもりでいればいい。

 それを理解しているなら、軍略の講義を受けても問題はないだろう」


 瑞希は静かに頷いた。


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