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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:霧の国へようこそ

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30.手のひらの上

 夕食の席にはクラインたちが同席した。

 事態が解決するまでは、彼らも王宮に滞在することとなる。


 瑞希は疲れ切ってため息をついた。


「あーもう! じれったい!

 今回は私が動いちゃいけないだなんて、ひどいペナルティだよ。

 すっごいイライラする!」


 ソニアが優しく微笑んだ。


「ミズキさんはせっかちですからね。

 大丈夫、ミハエルを信じてください」


 アルベルトも優しい笑みで瑞希の背中を叩いた。


「我々はおとりということになってしまったが、父上や近衛騎士団を信じよう。

 ミハエルも王族の一人。そう簡単にを上げるほど、やわじゃない。

 ミズキは念のため、霧の神とも相談しておいてくれ。

 ミハエルの命が危なくなれば、必ず教えてくださるはずだ」


 瑞希が頷いた。


「もちろんだよ。

 そこは手を抜く気はないよ」


 イーリスが穏やかに微笑みながら瑞希に告げる。


「それにしても、本気のミズキさんは本当に信じられない魔導をお使いになるわね。

 強力な魔術結界すら回避して魔導を通すだなんて、魔法にしか見えないわ。

 この二か月で慣れたつもりでしたけれど、あれでも手を抜いてらっしゃったのね」


 瑞希が苦笑をして応える。


「危機に直面した時と日常生活じゃ、違って当然じゃない。

 ペナルティさえなければこの場にミハエルがいたかと思うと、悔しくて仕方ないよ」


 ゲルトが興味津々で瑞希に尋ねる。


「たとえば、ペナルティがなかったらどういう対応をとっていたんだ?」


 瑞希が天井を見上げて思案しながら応える。


「まず、あの魔術結界を無効化してミハエルの周囲に防御結界を張っただろうね。

 そのまま周囲に居る敵の密偵たちを≪捕縛≫術式でとらえて、それで終わりだよ。

 あとはミハエルの居る位置まで迎えに行くだけ」


 コルネリアが苦笑しながら告げる。


「……本当にあっさり解決してしまうのね。

 そりゃあじれったくてしょうがなくもなるか」


 クラインが諦観の表情で応える。


「常識外れのミズキなのよ? これぐらいは当然よ。

 今も敵だってまさか、自分たちが泳がされてるだなんて夢にも思ってないはず。

 ぜんぶミズキの手のひらの上だもの。

 ――ねぇ、今回の敵の情報は追えないの?」


 瑞希が≪現在視≫の画面をいくつも出した。

 密偵たちが潜伏先で夜を過ごしている様子が映し出されている。


「ミハエルの周囲の人間はこれで全部かな。

 でも采配をしてる人間はこの場にはいなさそう。

 ――密偵の因果を辿ってみようか」


 新しい画面を作り出すと、一人の貴族男性の姿が映し出された。

 苛立たしそうに報告書を読んでいるようだ。


「――こいつが今回の首謀者だね。

 密偵たちの親玉みたい。

 場所は……シュトルム王国の王都かな。

 多分、有力貴族の一人だと思う。

 死の気配が漂ってるから、近いうちに何かの要因で命を落としやすい運命を背負ってる。

 時期は多分……数か月以内かな。攻め込んだ時に命を落とすんだと思う」


 イーリスが感嘆のため息をついた。


「……ほんと、魔法にしか思えませんわ。

 本当にこれ、魔導術式ですの?

 とても信じられませんわね」


 アルベルトが男の顔をまじまじと見つめた。


「……ハーケン・グライツラー侯爵だな。

 諜報部を取りまとめてると言われている男だ。

 確かに、密偵たちの親玉であっている」


 瑞希が≪現在視≫の画面を全て消していった。


「ハーケン・グライツラー侯爵――顔は覚えたよ。この借りは私がこの手で必ず返す。

 死の権能を使ってでも、責任を取らせて見せる。必ずね」


 ゲルトが肩をすくめた。


「おー怖い。この世界で今、一番怒らせちゃいけない人間の逆鱗に触れたな」


 コルネリアが微笑みながらアルベルトに尋ねる。


「アルベルト殿下、婚約者がこんなに怖い女性で本当に大丈夫? 後悔してない?」


 アルベルトが微笑みながら応える。


「なにを言う。これほど頼もしいと思える女性は他に居ない。

 それに、私はミズキの逆鱗に触れるような真似はしないし、したとしてもすぐに謝罪するさ」


 ゲルトがため息をついた。


「ま、そりゃそうだな。

 勝ち目なんてちりほどもないんだ。謝るしか手がないものな」


 瑞希が不服そうに答える。


「ちょっと! それどういう意味かな?!

 私は誰彼だれかれ構わず襲い掛かる人間じゃないんだけど?!

 アルベルトが私の逆鱗に触れるだなんて、そんなことある訳がないし!」


 クラインが楽しそうに微笑んだ。


「あら、随分信頼してるのね?

 良い傾向よ? そろそろ婚姻する気になった?」


「え?! いや、それはその……んー、まだ迷ってる、かなぁ?」


 ソニアが嬉しそうに微笑んだ。


「迷ってるということは、かなり気持ちが傾いてらっしゃるという理解で構わないかしら?

 そろそろミズキ姉様とお呼びしてもよろしくて?」


 瑞希が困りながら微笑んだ。


「んー、まだ姉様って呼ばれるのは困るかな。

 十五歳で結婚なんて、まだまだ実感はわかないしさ。

 子供を産む自分だって想像が付かないし。

 ――この世界の王族って、何歳ぐらいで出産を経験するものなの?」


 ソニアが考えながら応える。


「十五歳で婚姻しているケースなら……

 だいたい、十八歳になるまでには第一子を産むことが多いですかねぇ。

 遅くても、婚姻してから五年以内に第一子を授かるのが普通だと思いますよ?」


 瑞希がため息をついた。


「そっかー……やっぱり実感が湧かないなぁ。

 魔導学院に通ってる間に婚姻する事になるのかなぁ?

 それとも、卒業まで待つの?」


 アルベルトが微笑みながら応える。


「通例では卒業を待つことが多い。

 だが在学中に婚姻してしまう王族もいたし、それをはばむ要因はない。

 お互いが納得すれば、在学中だろうと婚姻する――そんなものだと思っていい」


 瑞希が再び溜息をついて飲み物を口にする。


「――ふぅ。お互いが納得、か。

 いつか、婚姻に納得する日が来るのかなぁ」


 アルベルトが力強く微笑んだ。


「私が納得させて見せるさ。

 ミズキが心を預けられると確信できるように、努めていくだけだ」


 瑞希がアルベルトの目を見た。


「……ねぇアルベルト。

 今のアルベルトの心には、恋愛感情があるの?

 それとも、クラインの時みたいに『信頼できるなら幸福だ』っていう気持ちで言ってるの?」


 アルベルトが飲み物のグラスを見下ろしながら思案して応える。


「……これはおそらく、恋愛感情というものなのだろうと思っている。

 クラインの時とは違う、胸が熱くなる感覚がある。

 ミズキが同じように胸を熱くしてくれたなら良い――そう思っている」


「それはいつからか、聞いてもいい?」


「いつからか、か。

 そうだな。決め手はやはり、魔導学院の制服に身を包むミズキの姿を見たときだろう。

 あの時に、この気持ちを自覚した。

 だがそれ以前から、深い信頼を寄せていたと思う」


 ソニアが微笑みながら告げる。


「確かに、魔導学院の制服はミズキさんによくお似合いですからね。

 それで恋に落ちてしまっても、仕方ないかもしれません。

 ――ミズキさんは兄様にそういう感情はあるんですか?」


 瑞希が慌てて応える。


「――私?!

 私は……そうだなぁ。

 まだよくわかんないかな。胸が熱くなるってほどじゃないけど、温かくなる気持ちにはなるかな。

 いつもの食卓が、これからも続けばいいのに……って、そう思う時があるよ」


 コルネリアが楽しそうに告げる。


「それならもう、婚姻を決めてしまえばいいだけじゃない。

 それでいつもの食卓があなたのものよ?

 それはわかってるでしょうに、まだ迷うの?」


 瑞希が眉をひそめた。


「だって……子供を何人も生むの、大変そうだし。

 王族の育児の負担はほとんどないみたいだけど、生むのは本人じゃないとだめじゃない?

 自分が王妃殿下の立場だったとして、四人も子供を産めたかって言われると、できなかったんじゃないかなぁって」


 イーリスが微笑んで告げる。


「子供は天からの授かりものですもの。

 授かれば自然と生みたくなるはずですし、悩む必要はないと思いますわよ?

 魔導で苦痛を和らげてもらえますから、不安に思うほど辛くはないはずです」


 瑞希が食事を口に運びながら思案していると、ゲルトが呆れたように告げる。


「……さっきまでの緊張感、どこ行ったんだろうな?

 婚姻だ出産だ育児だって、明るい話題ばっかりだ。

 肩から力が抜けるのは良い事だが、あんまり気を抜きすぎるなよ?」


 瑞希が苦笑して応える。


「もちろん、わかってるよ。

 この苦境は必ず脱してみせる。それは約束するよ」





****


 翌日も、瑞希はアルベルトたちと二手に分かれ、街を捜索する姿を見せつけた。

 夕方になり会議室に戻ると、明るい笑顔の国王と微笑むヴォルフガングが瑞希たちを迎えた。


「あれ? いいことあった?」


 ヴォルフガングが頷いた。


「潜伏先までの目撃情報が取れた。今夜中に近衛騎士団に救出部隊を編成させ、突入させる。

 明朝までには、ミハエル殿下を救出できるだろう」


 瑞希は拍子抜けした気分で応える。


「なんか、思ったより早かったね。

 大丈夫? これで怪しまれない?」


 国王が微笑みながら応える。


「それは検討済みだ。現在まで魔導を使って辿り着いた痕跡は残していない。

 シュトルム王国の密偵がどう漁ろうと、騎士や兵士たちの活躍で救出した姿しか知ることはできないだろう。

 魔導に優れていると評判だったミズキの評価はかなり落ちてしまうが、それはそれで良いカモフラージュになる。

 ご苦労だったね。今夜は安心して眠って欲しい。

 ミハエルは明日一日静養させるが、明後日には同じ食卓を囲めるだろう」


 瑞希が微笑んで頷いた。


「それならよかった!

 じゃあ後は任せるね!」


 瑞希が振り向くと、アルベルトも明るい笑顔で頷いた。

 アルベルトがクラインたちに振り向いて告げる。


「聞いた通りだ!

 みんなご苦労だった。

 今夜は泊って行ってもらうが、ゆっくりして欲しい」



 瑞希たちがそれぞれ自分の部屋に帰っていき、着替えた後に共に明るい夕食を過ごし、就寝した。





****


 ――夜のベッド。


 瑞希は霧の神の気配を手繰り寄せ、気配に語りかける。




(霧の神、何か言えることはある?)


『おつかれさま。

 ミハエルの救出が確定したわ。

 まだ未来は揺蕩たゆたっているけど、良い兆候が増えている。

 このまま油断せずに最善を尽くして頂戴』


(そっか、確定したなら、とりあえず安心だね。

 もちろん、最善は尽くすよ!

 この世界を必ず救って見せるよ!)


『その意気よ。頼んだわね』





 瑞希は霧の神の気配を手放し、瞼を閉じてゆっくりと意識を闇の底に沈めて行った。





****


 ――二日後、魔導学院の教室。


 登校した瑞希を、周囲の生徒たちが困惑の眼差しで見ていた。

 瑞希は座席に腰を下ろし、アルベルトに尋ねる。


「皆様、なぜ困惑してるのかしら?」


 アルベルトが苦笑を浮かべた。


「ミハエル救出劇の様子や、私やお前が無力だったことが伝わったからだろう。

 同級生である彼らは、ミズキの魔導が途方もない事実を知っている。

 そんなお前が今回無力だったという情報に驚いているのだろう」


 今回の捜索と救出劇はヴォルフガングの魔術、そしてなにより近衛騎士団と王国兵士たちの献身による功績だと公表されていた。

 アルベルトや瑞希は何もできなかった、ということになっている。

 普段から知る瑞希の異常な魔導と情報の剥離はくりに、同級生は戸惑っているようだった。


 クラインが微笑みながら瑞希に告げる。


「でも、同級生以外は噂でしかミズキの魔導を知らないわ。

 そういう方々は、あなたの魔導が大したことがないと判断するはずよ。

 ――狙い通りね」


 瑞希は苦笑を浮かべて応える。


「これで、私を変な目で見る方々が減るとよろしいのですけどね。

 えて振舞って見せていたとはいえ、この二か月は辛かったですわ。

 丁度、自習内容も教養科目に移っていますし、派手な振る舞いはお終いですわね」


 コルネリアが笑顔で加わってくる。


「何を言ってるのよ。

 魔導科目の授業時間中に教養科目の自習をしてるだけでも立派に異質よ。

 まだまだ噂は根強く残るはずよ」


 イーリスもまた笑顔で加わってくる。


「情報戦という意味では大成功ですわね。

 どこの国でも、ミズキの正しい姿なんて知ることが出来なくなってると思いますわよ?

 どの噂を信じていいのか、混乱してるはずですわ」


 ゲルトが不敵な笑みを浮かべた。


「まっさか、全部ミズキの手のひらの上だ、だなんて思わないよな、普通。

 ――本番となれば、俺たち学生は留守番だ。ミズキに任せることになる。

 心苦しいが、頼んだぞ」


 瑞希は柔らかく微笑んだ。


「任せてください。今回の借り、必ず返してみせますわ」


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