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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:霧の国へようこそ

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27.全校懇親会

 げっそりとした瑞希が、アルベルトの横を歩いていた。


「クラインにあんな一面があっただなんて、意外でしたわ……

 お三方が揃うと豹変されるのですわね」


 クラインがおかしそうに口元を隠して笑う。


「私たちは悪友みたいなものなの。

 この子たちと居ると、うっかり悪ふざけに乗せられてしまうのよね。

 ――でも、二人ともいい子なのは保証してあげるわ」


「だからって、あんな嘘までついて脅さなくてもいいじゃありませんか……」


 イーリスがにこやかに告げる。


「私たち、嘘は一言も口にしておりませんわよ?」


 瑞希の顔が硬直した。


「……え? それはつまり?」


 クラインが柔らかく微笑んで告げる。


「イーリスが両性愛者なのも、キス魔で唇を奪われたら最後なのも、ミズキがロックオンされたのも、嘘ではないわ。

 私もかつて、イーリスに襲われかけた事があるの。案外何とかなるものよ?

 ミズキなら問題なく逃げきれるわよ」


「そんな人と良く友達やってられるね?!」


 クラインがころころと笑った。


「だから、この子たちはいい子なのよ。

 そのうちミズキにもわかるわよ」


 瑞希はイーリスから離れ、クラインの陰に隠れるように移動した。

 その様子を、ゲルトやコルネリアが微笑ましく眺めている。


「ミズキ、そう心配しなくても今は大丈夫だぞ?

 イーリスだって時と場所くらい選ぶ。

 学院内で人目があれば、襲い掛かることはない」


(何もかもが信じられない……)


 すっかり疑心暗鬼である。





****


 ダンスホールは、立食形式で懇親会の場が整えられていた。

 既に生徒たちが上級生下級生入り乱れて交流しているようだ。


 第二王子であるアルベルトの元には、有力貴族の子女が挨拶に来る。

 仕方なく、瑞希も適当に合わせて挨拶を交わす。


 だがその人数は思ったよりも大分少ないようだ。

 最初にちらほらと来ただけで、以降は途絶えていた。


 瑞希は疑問に思い、アルベルトに尋ねる。


「なんだか、話しかけてこられる方が随分と少なくはありませんか?」


「私たちが揃っているからな。

 特にイーリスの悪い噂は有名だ。

 『なるだけ近寄りたくない』と思わせるのに充分な程度にはな。

 ゲルトは喧嘩っ早いし、コルネリアは口が減らない。

 クラインに至っては、真正面から相手を完膚なきまでに叩き潰すタイプだ。

 要するに『近寄っても得がない』と思われてるのさ。

 下心で近づくような奴らなら、私たちが捻じ伏せる――そういう事だ。

 今のお前を守るには、充分な防壁だ」


 瑞希が顔を引きつらせて尋ねる。


「第二王子の人脈がそれで、大丈夫なのでしょうか……」


「今までは何の問題もなかったぞ?

 今後も問題ないだろう。

 こいつらが認める人間でなければ、私が相手をする価値もないしな」


 どうやらアルベルトがゲルト、イーリス、コルネリアに寄せる信頼がカンストしているらしい。

 瑞希にはクラインは理解できた。だが、他三人の良さはさっぱり理解できなかった。


 瑞希がおずおずとクラインに尋ねる。


「ねぇクライン。たとえばゲルト様の良い所って、どういったところなのでしょうか?」


 クラインが優しく微笑んで応える。


「ゲルトは弱い者を守りたがるのよ。

 相手がどれほど立場が強くても、弱い者の側に立って戦える人よ。

 口より先に手が出るタイプだから、大事おおごとになりかけることも珍しくないけどね。

 私や殿下のように立場の強い人間は、そのフォローに回ることも多かったわ。

 裏表のない性格だから、ミズキも付き合いやすいはずよ?」


「……じゃあ、コルネリア様は?」


「コルネリアは口が減らない子ね。

 立場が上の人間だろうと、遠慮なく口をはさんでいくわ。

 そうやって言葉で守ってくれる子よ。

 下位貴族では、私たちを慕ってくれる人も大勢いるわね。

 ――私たちが揃うと、下位貴族は遠慮して近寄ってこないけれどね」


「……一応聞いておくと、イーリス様は?」


「イーリスは穏やかで、相手の心に寄り添って話を聞いてくれる子よ。

 自分の外聞がいぶんが悪くなろうと、それを気にせず生きていける強い子でもあるわ。

 ちょっと癖が強いから大変だけど、悩みがあったら相談してみると良いわよ?

 きっと力になってくれるから」


 アルベルトが微笑んで告げる。


「三人に共通しているのは、『守るべきものを守れる人間だ』ということだ。

 前に立って守ってくれるゲルトやコルネリア、後ろから支えてくれるイーリス。

 それぞれに良さがある」


「……クラインは?」


「クラインは全方位で守ってくれる女性だ。

 ミズキに出会うまで、これほど頼もしい女性は他に居ないだろうと思っていたくらいだからな。

 ――だが、私たちは悪評を恐れずに行動して来た。

 婚約者を探すのは苦労するだろう。

 クラインはその中では一番マシなはずだが、本人が選り好みし過ぎている気がするな」


 瑞希がクラインに振り向いて尋ねる。


「殿下が悪評を恐れずに行動って……何をなさいましたの?」


 クラインが困ったように笑う。


「権力で叩き潰して後片付けをすることもよくあったわね。

 最後の手段、という奴ですわ。

 なるだけそうならないように動くのだけれど、相手が侯爵家以上だったりすると、揉め事が大きくなりがちなの。

 そんな時に殿下が出ていって、話を付けてしまわれるのよ。

 私たちの悪評を一緒に被ってしまわれるの」


 要するに、ここに居るのは外聞がいぶんを気にしない人間ばかり、ということになる。

 瑞希がアルベルトに振り向いて尋ねる。


「どうしてそこまでなさいましたの?」


 アルベルトが瑞希に微笑んで応える。


外聞がいぶんよりも大切なものを知っている――そんな仲間だぞ?

 彼らを守れるなら、共に悪評を浴びようが構うことはないだろう?」


「ですが、立太子が約束された今の殿下はお立場が変わられているはずです。

 国家を運営していくのに、支障が出るのではありませんか?」


「同じように悪評を恐れず、見るべきところを見る人間もちゃんと居る。

 挨拶に来た人間がいた事がその証だ。

 数が少なくとも、質が高ければ問題はない。

 ソニアやミハエルもそのうち力になってくれる。

 国家は充分、運営していけるさ」


 瑞希は呆然と目の前にいるアルベルトの顔を見ていた。

 頼もしいとは思っていたが、心強い人間だと改めて感じ入っていた。


 そもそも『異世界人と婚約する』などと言い出す人間だ。外聞がいぶんなど、気にする訳が無かった。

 今まで瑞希に寄り添って守って来てくれた男性だ。

 アルベルトの傍でなら、この世界でも幸福に生きて行けるのではないか――うっすらとそう考えていた。


 イーリスが楽しそうに微笑んで瑞希に告げる。


「あら、殿下との婚姻を考えられるようになられました?

 目の前の男性が、どれほど得難い価値を持った方か、ご理解いただけました?」


 瑞希が慌ててイーリスを見て応える。


「――え?! なんのこと?! 突然何を言い出すの?!」


「殿下の良さを、再認識されたのでしょう?

 信頼できる相手だと感じ入ってしまったのでしょう?

 それは愛の始まりとしては充分な条件ですわよ?」


「そりゃ信頼できるとは前からずっと思ってるけどさ!

 だからって愛がどうとかなんてわかんないよ?!」


「恋は落ちるもの、愛は育むものと申します。

 信頼関係を育み、相手を尊重していれば、それは次第に愛へと変わっていきます。

 突風のように心を奪われるのが恋ならば、気が付いた時には心を奪われていたのが愛、とでも申しましょうか。

 恋はままなりませんが、愛は自分の意志でどうにでもできるものですわよ?」


 瑞希が眉をひそめて抗議する。


「恋も愛も、違いがわかんないよ。

 だから経験してみたいと思ってるだけなんだけど」


「愛を育んだ相手に恋に落ちる、という話も聞いたことがございます。

 細かいことにとらわれず、ご自分が幸せになれると思う相手を選ぶのが最善だと思いますわよ?

 少なくとも、殿下は信頼に足る魅力的な男性だと痛感なさいましたわよね?

 婚姻相手として、充分な条件ですわよ?」


 瑞希が俯いて考えこんだ。


 アルベルトと結婚した自分の姿――温かい家庭になることは間違いがないだろう。

 現在まで続いている食卓が、何よりの証だった。

 時折加わる国王や王妃の温かい笑顔。

 そこに自分とアルベルトの子供が加わっていく――そんな未来をうっすらと考える。

 そこには、確かに幸福な世界が待っている気がした。


「それに――」


 イーリスの声が間近で聞こえ、ぞくりとして驚いて顔を上げた――瑞希の顔の前に、イーリスの顔が迫っていた。


「恋を知りたいだけなら、私が教えて差し上げられますわ。

 何人もの女子を骨抜きにしてみせた私に、身も心も任せて頂ければいつでも――」

「間に合ってますからああああああ!!」


 全力で横っ飛びをして逃げた瑞希は、必死の形相で肩で息をし、腰を落として両手でイーリスを牽制けんせいしていた。

 周囲は『ああ、またか』という冷めた眼差しだ。


 じりじりと間合いを詰めるイーリス、じわじわと追い詰められていく瑞希。

 突然、イーリスの背後からゲルトがその頭に手刀を落とした。


「こら、そこまでだ。

 食事中に暴れると埃が立つからやめておけ」


 涙目になったイーリスが頭を押さえ、背後を振り返って抗議の声を上げる。


「ちょっとゲルト、もう少し加減をしてくれないかしら」


「充分加減をしただろうが。

 ミズキをからかうのは、飯が終わってからにしろ」


 瑞希はきょとんとした顔でゲルトに尋ねる。


「……からかう? どういうこと? 本気じゃなかったってこと?」


 コルネリアが微笑んで告げる。


「イーリスが本気だったら、気が付いた時には唇を奪われてるわよ。

 あなたが目の前で余りに無防備だったから、警告のつもりでからかったんじゃない?」


(やっぱりよくわからない人だ……)


 瑞希も姿勢を正し、アルベルトの横で大人しく食事に戻る。

 食事をする瑞希の姿に、やはり視線が集まるのを感じていた。


(食べづらい……)


 そんな視線が突然途絶えた。

 不思議に思い周囲を見ると、ゲルト、コルネリア、イーリスが瑞希を囲み、視線を寄越す貴族子女に睨みを利かせていた。

 クラインは瑞希をはさむようにアルベルトの反対側に陣取り、周囲から瑞希を覆い隠している。


 クラインがグラスを傾けた後、穏やかな微笑みで瑞希に告げる。


「ね? いい子たちでしょう?」





****


 懇親会も一時間が経過した。

 全員がそれなりに腹を満たし終えていた。

 予定ではもう一時間あるが、既に話しかけてくる相手も居ない。


 アルベルトが周囲を見渡し、瑞希たちに告げる。


「――もう充分だろう。

 私たちはこの場を離れよう」


 瑞希が小首を傾げた。


「この場を? 学院にはまだ居るってこと?」


「またサロンに戻ろう。少し話があるんだ」





 再び小サロンに入り、瑞希はソファに腰を下ろした。

 ゲルトとイーリスが紅茶の用意をし、全員で一息ついた。


 瑞希がアルベルトの顔を見て尋ねる。


「話って、どういうこと?

 私の秘密は全部伝えたと思うんだけど」


「ミズキ、お前はいつものように、あの場で魔術を使って全校生徒を確認していたはずだ。

 注意すべき人物はいたか?」


 瑞希がきょとんとして応える。


「んーと、心を操られた人も、経歴が怪しい人も、死の気配が強く漂う人も居なかったね。

 でもそれがどうしたの?」


 アルベルトが瑞希に頷いた。


「現在のところ、この学院に不穏な影はない、ということがわかったな――」


 アルベルトがゲルトたちに告げる。


「ミズキは何気なにげない振りをして、この程度の調査を行える魔導士だ。

 今後、怪しい集会や集団の噂を見聞きしたら、私やミズキに教えてくれ。

 だが深追いは決してするな。

 兄上や重臣たちの何人かが、いつの間にか心を操られて陰謀に加担させられていた事実がある。

 お前たちも例外ではない。調査はミズキに任せ、なるだけ近寄る事のないようにしてくれ。

 私やミズキのそばに居るお前たちは、今後そういった対象となりやすいはずだ。

 充分に注意を払っていてくれ」


 ミズキが微笑んでで応える。


「今の学院は元々の厳重な警備に加えて、私の魔術結界もあるんだよ?

 下手に近づいても、今日みたいにすぐに捕まえられると思うけどなぁ?」


 アルベルトは真剣な顔で瑞希に応える。


「生徒たちの家、全てを守れるわけではない。

 王宮でもお前の魔術結界を潜り抜けた者は居た。

 自宅で心を操られてから学院に送り込まれることは充分に考えられる。

 シュトルム王国の試作型魔導兵器の件もあるし、油断はできないだろう」


 ミズキはそれにも笑顔で応える。


「だーかーらー、私の魔術結界があるから、試作型魔導兵器はもう大丈夫だよ!」


 アルベルトがきょとんとして尋ねる。


「それはどういう意味だ?

 王都市民が狙われたら、お前でも全員を守り切ることはできないだろう?」


「もう王都全域に、私の魔術結界を敷いて守ってるよ?」


「「「「「は?!」」」」」


 見事な五重奏だった。


 イーリスが戸惑いながら瑞希に尋ねる。


「王都全域を覆う魔術結界なんて、人間に可能なんですか?!」


 瑞希がにこやかに応える。


「普通にやったら無理だけど、そこもやり方次第でどうとでもなったよ」


 ゲルトが疲れた顔で瑞希に尋ねる。


「一応、どういう魔術か聞いてもいいか?」


「王都のミニチュアを作って、それに死の気配を遠ざける刻印魔術の結界を張ったんだよ。

 ミニチュアに魔術的因果を持たせて、王都そのものに見立てたんだ。

 概念的に死の気配を遠ざける刻印魔術が王都に施されて、実際に効果を発揮してるよ?

 ヴォルフガングさんは『それは類感魔術だね』って言ってた。

 その結界はヴォルフガングさんに預けて、厳重に保管してもらってるよ。

 うっかりミニチュアを壊したりすると、危ないからね」


 クラインが諦めきった顔で呟く。


「やっぱりヴォルフガング様が居てくださらないとさっぱりですわね」


 アルベルトは苦笑を浮かべて告げる。


「ともかく、それなら懸案事項が一つ片付いたことになるな。

 あとは心を操られないように注意するだけだ。

 ――これには対策はまだないんだろう?」


 瑞希が悔しそうに眉をひそめた。


「そうだね。今は事後対応しか手がないかな。

 心を操られた人は見つけ次第、治していく事になると思う」


 アルベルトが頷いた。


「既に敵がミズキに目を付けた。

 今後のシュトルム王国の動向は読めないが、これからも気は抜けないだろう。

 極力ミズキの能力を隠す手伝いをして欲しい。

 そして、みんなも自分の身を守ってくれ」


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