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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:霧の国へようこそ

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23.早春のお茶会

 入学を控えた三月下旬――瑞希はクラインに呼ばれ、マイヤー辺境伯の別邸に来ていた。


 クラインが出迎え、穏やかに微笑む。


「いらっしゃいミズキ。

 勉強は順調かしら?」


 瑞希も上品に柔らかく微笑み返す。


「順調よ? クライン。

 少なくとも作法は、講師のヴォーゲル侯爵夫人から太鼓判を頂いていますわ」


 そのすっかり変わった様子に、クラインが目を丸くした。


「……あなた、本当にミズキ?

 雰囲気がまるで変ってしまってるわね。

 言葉遣いもすっかり整ってるし、ちょっと目と耳を疑いそうよ」


 瑞希が苦笑を浮かべた。


「ヴォーゲル侯爵夫人が、優しそうで厳しい方なんですもの。

 ガイザー先生ほど過酷な講義ではないけれど、みっちり仕込まれたらこのくらいはできますわよ」


「あの方は王族の作法も教えてらっしゃる方だから、質は確かよ。

 ――さぁ、中に入って話しましょう」



 応接間に移動し、向かい合ってソファに腰を下ろした。


 瑞希は懐から香り袋を取り出し、テーブルの上に置く。


「カモミールの香り袋よ。

 ちょっとしたお守りだから、身の回りに置いておいて欲しいの」


 クラインが香り袋を手に取り、見つめていた。


「……ただの香り袋、という訳ではないのね。

 魔導の気配がするもの。

 でも術式が見えるわけでもない――どういうものなの?」


「カモミールの香り袋そのものに、魔術的な因果を持たせただけよ。

 術式を感じ取れないのは、クラインが未熟なせいね。

 あなたが習得している魔導より、数段上の概念の術式よ。

 ――でも術式を見ようとしたということは、もう魔導を勉強しているということかしら?」


「私がこの別邸に滞在している間、何もせずに社交にうつつを抜かす人間だとでも思って?」


 瑞希が楽しそうに口元を隠しながら微笑んだ。


「確かに、クラインはそういう人だったわね。

 私もそろそろ社交界に出ても良いと許可を頂いているから、ご一緒できる日が来るといいわね。

 アリシア様にも香り袋を渡しておきたいですし」


 クラインが頬をひきつらせた。


「私、アリシア様とは会いたくないわよ?

 彼女のお茶会に参加するだなんて、拷問でしかないわ。

 ――それより、そろそろ素のミズキに戻っても良いんじゃないかしら。

 なんだか今のあなたと話していると、落ち着かない気分よ」


 瑞希がふぅ、と小さく息を吐いた。


「じゃーお言葉に甘えて、素で振舞わせてもらうね。

 上流階級の作法って肩がこるよねぇ。

 これから少なくとも、学院に居る間はあんな感じでいなきゃいけないんだもん。

 ちょっと憂鬱かなぁ」


 途端に態度が砕けた瑞希を見て、クラインが嬉しそうに微笑んだ。


「やっと私が知ってるミズキに会えたわね。

 ようやくあなたと会っている実感が湧いたわ。

 さっきまで、誰と話しているのか分からなくて不安で仕方なかったわよ?」


「そこまで言うー?!

 私の苦労の結晶なんだけどなぁ」


 唇を尖らせてぶちぶちと文句を言う瑞希を、クラインが優しく見つめていた。


「たった三ヶ月でそれだけ身に着けるのは大変だったでしょう。

 よく頑張ったわね。凄いことだと思うわよ?」


「ありがと。クラインにそう言ってもらえると自信が湧くね。

 ――あーあ、本当なら今頃、元の世界で高校入学に備えてるはずだったんだけどなぁ。

 女子高生にはなれずに終わっちゃったなぁ」


 クラインが眉をひそめた。


「えっと、よく聞き取れなかったのだけれど、それはなんなのかしら」


 瑞希が小首を傾げて応える。


「ああ、日本の女子高生の概念がこっちの世界にはないからだね。

 単なる高等学校の女子生徒って訳じゃなくて、色々と付加価値が付く概念だからかな。

 学校そのものの在り方も、こっちの世界とは結構違うし、≪意思疎通≫に失敗するのは仕方ないかも。

 前に『勉強が嫌なのに高校に入ろうとする心理が理解できない』って言ってたもんね」


「ふと疑問に思ったのだけれど、ミズキはそういう≪意思疎通≫に失敗して困惑する様子がないわね。

 それはどういうことなのかしら。

 全ての言葉を理解できているの?」


「んー、私の国には漫画やアニメみたいな文化が盛んだったからね。

 異世界に飛ばされる物語も多かったんだよ。

 だから理解できるんじゃないかな」


「……異世界に飛ばされる物語?

 そんなものが盛んだったの?

 不思議な世界ね」


「不思議と言えば、不思議な国だったのは確かかもね。

 二千年以上の歴史を持つと言われる島国だったからなぁ。

 神話で神様の血を引くって言われてる皇家が居る国だよ。

 神話の世界から現代まで続いてる国なんだって。

 千年以上前の文献までしか公表されてないから、どこまでが真実かは皇家じゃないとわからないんじゃないかな。

 教科書的には、千三百年から千八百年くらい前に成立した国じゃないかって言われてたりもするね」


「……なんだか、とんでもない国ね。

 ミズキが神の血を引いていても不思議じゃないのね……

 少なくとも、千年も続いている国なのね?」


「千年以上前の文化も現代で生きてる国だよ。

 そういう文化に親しむ人も珍しくないし。

 その割に現代の最新技術もそれなりに持ってる国だったかな。

 私の世界でも、他にそんな国はないんじゃないかってくらい、変な国だよ」


「まず、千年も国を維持してるのが信じられないわね。

 この大陸で最も古い国家だって、五百年の歴史を誇るシュライヴ皇国が最古よ。

 一千年以上前の史料だって、古代遺跡に残るものしかないわよ?」


「島国だったからだって言われてたね。

 地理的に、他国に攻め落とされにくい条件が揃ってたんだよ。

 この大陸みたいに、戦乱が続く場所はやっぱり歴史が短い国が多かったよ。

 私の国の古代遺跡は、古墳とかがそうなのかなぁ? あれも、千年以上前のものだし。

 他の国にも、古い時代の遺跡は結構あったね。ピラミッドとかは数千年前じゃなかったっけ。

 でもこの世界の古代遺跡みたいに、超常的な力を持つ遺跡は見つかってないよ。魔導もない世界だし。

 お爺ちゃんは『我が家は歴史の裏で魔術を使ってきた家だ』って言ってたから、ひっそりと魔導を使う家系は居るかもね」


「魔導のない世界がどんなものか、想像もつかないわね。

 私たちの生活に密接な関係を持つのが魔導よ。

 その根底がないんですもの」


 瑞希が驚いて目を見開いた。


「え、でも庶民で魔導術式を使える人は稀なんでしょ?

 日常生活のインフラとして魔導があるわけでもないし。

 一般庶民の生活は、私の世界の中世ヨーロッパぐらいの生活と変わらないんじゃないかなぁ」


 クラインが苦笑した。


「一般庶民は魔導とは縁遠いわね。

 でも私たち貴族は、大抵の人が魔導術式を身に着けるわ。

 国を動かすのも、私たち貴族よ。

 庶民だって兵士になれば≪肉体強化≫術式ぐらいは覚えるし、警戒魔術を覚えることもある。

 戦争になれば、魔導の応酬になるわ。魔導に劣る国はすぐに滅ぼされてしまう。

 国家を維持するのに、魔導は不可欠よ」


「はぁ~、戦乱が続く大陸ならではの感覚だね。

 私は平和な国で生まれ育った庶民だから、『生活に密接』って言われるともっと身近なものを想像しちゃうかな」


「そこは、貴族として生まれ育った私と、庶民として生まれ育ったあなたとの違いね。

 私は小さい頃から周囲に魔導があったから、それがない世界を想像できないのでしょうね。

 きっとこの世界の庶民なら、あなたの世界を想像しやすいんじゃないかしら」


 瑞希が小首を傾げた。


「それはどうだろう?

 科学の発展度合いがまるで違うから、私の世界の姿は魔導で満ちた世界にしか見えないかもよ?

 遠い人と会話をすることも、顔を見ることも、簡単にできる世界だったし」


 今度はクラインが目を丸くした。


「≪念話≫の術式や、ミズキの使う≪現在視≫の術式みたいなものが簡単にできたの?

 どちらも高度な術式のはずだけれど」


「普通の人でも簡単に便利な技術を扱える世界だったんだよ。

 生活を豊かにすることを目指して、技術が開発される世界だったからさ。

 この世界は魔導が身近過ぎて、科学が発展できないんだね。

 科学を使うより、身近な魔導を使う方が手っ取り早く感じるからだろうけど。

 物理法則自体は似通ってるけど、神の影響が残ってるのか、どこか違うところもあるみたいだし」


「やっぱり不思議な世界ね。

 ――ねぇ、今日はゆっくりしていけるの?」


「んー、そうしたいのはやまやまだけど、ちょっと忙しくなるかも。

 ――兵士を呼んでくれるかな? 裏手に密偵が潜んでたから捕縛しておいたよ。

 捕まえて王宮に連れて行かないと」


 慌てたクラインがすぐに立ち上がり、従者たちに指示を飛ばした。

 炎の縄で捕縛された密偵を連れ、瑞希は随行騎士や兵士たちと共に王宮へ戻っていった。





****


 瑞希の部屋へ、取り調べを終えたヴォルフガングが姿を現した。


「どうやらシュトルム王国がミズキに目を付けたようだね。

 今後も気を付けておいて欲しい」


「密偵の根城とかはわかったの?」


 ヴォルフガングが頷いた。


「部隊を編成して向かわせている。

 間に合えば、敵の拠点の一つを潰せるはずだ」


 瑞希が天井を見上げて思案した後、ヴォルフガングに尋ねる。


「その密偵、私にも調べさせてもらえるかな?

 まだ生きてる?」


「私にも知ることが出来ないような情報を隠し持っていると、そういうのかね?

 処刑は急げば止められると思うが、何をするつもりだい?」


 瑞希が苦笑した。


「因果を辿るだけだよ。

 じゃあ急いで処刑を止めてもらって、私を取り調べの場所に連れて行ってもらえる?

 ――あ、あと王都の地図も欲しいかな」



 ヴォルフガングが兵士に告げ、兵士が駆けて行った。

 その後を追うように、ヴォルフガングと瑞希が取調室に向かっていった。





 取調室――椅子の上でぐったりとしている密偵の前に、瑞希は立った。


「なんか、意識がないね。

 ……ヴォルフガングさん、こんな乱暴に心を操ったの?

 これじゃあもう、まともな人間として受け答えなんてできないよ?」


 ヴォルフガングが苦笑を浮かべた。


「私の魔力制御を『乱暴』と言えるのは、君くらいだろうね。

 だが多少強引でもこのくらいしなければ、重要機密を聞き出せない。

 廃人になってしまっているが、ミズキの魔術ならさらなる情報を得られると、そういう理解で構わないかい?」


 瑞希が頷いた。


「言葉はいらないからね。

 本人の意志も関係ない。

 多分、死んでしまっていても成功する魔術だけど、私は死体に魔術を施したくないからさ。

 ――地図は持ってきてもらえた?」


 ヴォルフガングが兵士から受け取った地図を瑞希に渡した。


 瑞希が広げた地図の上に小さな火が次々と灯り、場所を示していく。


「この火の位置が、この密偵と因果がある場所――拠点だろうね。

 随分たくさんの場所にあるんだなぁ。

 だいぶ入り込まれてるね」


 それぞれの火の中に映像が映し出されて行く。


「……どこもまだ、勘付いてはいないみたいだね。

 ん? あれ?

 なんで貴族の邸が映ってるんだろう?

 この人、この国の貴族でしょ?」


 ヴォルフガングが貴族の顔を見つめて応える。


「この男が密偵を手助けしていた、という事だね。

 だが警戒魔術で検知できないのは、どういうことだろうか。

 ……自覚なく、手助けしていたということかな。

 本人は密偵と知らずに手を貸していたのだろう。

 話を聞いておく必要があるね」


 ヴォルフガングが兵士に指示を飛ばし、兵士は緊張して駆け出していった。

 そのままヴォルフガングが別の地図にペンを走らせ、瑞希が灯した火の位置にしるしを付けていく。

 それをまた手近な兵士に手渡し、指示を飛ばした。


「このまましばらく、その地図の様子を見せてもらっていても構わないかい?

 隣の部屋に椅子がある。そちらへ移動したいんだが」


「いいけど、場所がわかればヴォルフガングさんだって現地の映像くらい見れるでしょ?」


「私には、それほどの数の正確な座標を捉えることなどできないさ。

 それに、自白させられなかった拠点の位置を、どうやって調べたのか聞いておきたくてね」


「ん? それは簡単だよ。

 因果の先の因果を辿って行っただけ。

 その密偵は拠点を一つしか知らなくても、その拠点と因果を持つ場所はわかるからね。

 その拠点に今居る密偵たちの因果も辿ったり。

 あとは芋づる式に連鎖させて、位置を探り当てただけだよ」


 ヴォルフガングが楽しそうに笑った。


「ははは! あの一瞬で、そこまで辿ったというのかい?

 なんとも恐ろしい子だよ、君は。

 つまり王都の拠点はこれで全て、ということかな」


「そのはずだね。

 この術式から逃げられるような人間が居れば別だけど、そうでなければこれで全部だよ」


「……君の因果を辿る術式から逃れられる人間が、居ると思うかね?」


「ヴォルフガングさんでもそれは無理だろうから、居ないと思うんだけどね。

 油断はできないから、頭の片隅には入れておかないと」



 別室に移動した瑞希たちが見ている前で、地図の中の映像が捕り物を映し出していった。

 瑞希は兵士に出された紅茶に口を付けつつ、静かに映像を見つめていた。


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