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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:霧の国へようこそ

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18.魔導学院入学試験(2)

 魔導学院入学試験当日――今日も早朝ランニングを行う瑞希の姿があった。


 並走するソニアが、呆れたように告げる。


「入試当日も走り込むんですね」


「大事な日だからこそ、日課を怠らないんだよ。

 いつもと同じ力を出せるように、いつもと同じことをするんだって聞いたよ?」


 



 和やかな朝食が終わり、部屋着から外出用の服に着替えた瑞希とアルベルト、そしてヴォルフガングが試験会場に向かった。


 馬車の中でも、瑞希はいつもの空気で和やかにアルベルトと言葉を交わす。


「アルベルトはちゃんと眠れた?」


「ミズキこそ、ちゃんと眠れたのか?」


 会心の笑顔で瑞希が微笑んだ。


「もっちろん! きっちり眠ったよ!」


 その笑顔を見たアルベルトが、満足そうに頷いた。


「今のミズキなら、必ず入試を突破できるはずだ。

 私が保証しよう」


「ありがとう!

 そのために今日まで頑張ってきたんだし、大丈夫! 任せておいて!」


 ヴォルフガングが二人に告げる。


「君らが試験を受けている間は、私も全力で警備をバックアップする。

 安心して入試に専念して欲しい」


 アルベルトが苦笑を浮かべて応える。


「老齢で引退したヴォルフガングに、そこまでさせてしまってすまないな」


 ヴォルフガングが微笑んで応える。


「ミズキという、見ているだけで飽きない人材に巡り合えたからね。

 老骨に鞭を打ってでも、出来る限りのことはしよう。

 だが学院に入学してしまえば、私に出来る事はなくなる。

 そこから先は、ミズキに任せることになる。

 重ねて言うが、期待しているよ」


 瑞希が苦笑で応える。


「入試当日にプレッシャーかけ過ぎじゃない?!

 これで入試に失敗したら、ヴォルフガングさんのせいだからね?!」


 笑い声で満ちた馬車は、一路学院へと向かっていった。





*****


 入試は午前中に教養科目、午後に魔力制御の実技というスケジュールで行われた。

 警備の都合上、瑞希は常にアルベルトと同じ会場に割り振られているようだった。

 不正対策で、受験生が学院内で魔術を使う事は禁止されていた。

 特例で瑞希の≪意思疎通≫だけは免除してもらう事になっている。

 瑞希がそれ以外の魔術を使うのは、身の危険が迫った時になるだろう。


「クラインは一緒に割り振られてないんだね」


「固まり過ぎても危ないという判断かもしれないな。

 昼食では合流する予定だ」


 試験会場である教室に入ると、受験生たちの視線が瑞希に集まった。

 同時に友人間で、小声で会話を交わしているようだ。


「なに? なんで注目されてるの?」


「社交界はミズキの噂で持ちきりだからな。

 私の婚約者として内定していることも、当然知られている。

 魔導の天才で将来の王妃――それがお前の立場だ」


「だ! か! ら!

 私は婚姻までは頷いてない!」





 無事試験が開始され、滞りなく午前の教養科目が終わった。

 昼食をとりに食堂へ向かう生徒の流れに乗って、瑞希もアルベルトと共に歩いていく。


 アルベルトが微笑んで瑞希に尋ねる。


「懸念事項だった教養科目、手ごたえはどうだった?」


 瑞希は会心の笑みで応える。


「ばっちり! クラインはどこ?」


 アルベルトが辺りを見回しながら応える。


「食堂の入り口付近に居ると言う話だったが――居た」


 瑞希も、アルベルトが向かう先で佇んでいるクラインの姿を見つけていた。

 アルベルトが手を挙げ、応えるようにクラインは微笑んでいた。





 三人が同じメニューを頼み、食堂の席に着く。


 瑞希が嬉しそうに告げる。


「クラインとこうして一緒に食事をとるのも久しぶりだね!」


 クラインは以前と変わらない、穏やかな微笑みで応える。


「そうね。ミズキも元気そうで良かったわ。

 ガイザー先生の講義を良く乗り切ったわね」


「いやー、何度も心が折れかけたよー。

 でもおかげで、午前の試験は手ごたえ充分だよ!」


 クラインは楽しそうに口元を隠して笑った。


「ガイザー先生の講義を乗り切っただけでも凄いことよ?

 脱落率は八割を超えるとも言われてるんですもの」


 瑞希の脳裏に、この二週間の記憶がよみがえった。

 脳がフル回転して真っ白に燃え尽きる毎日だ。


「あー、あれは仕方ない気もするね……

 ところで――」


 食堂でも、周囲の視線が瑞希たちに注がれていた。

 瑞希が周囲に目を走らせると目をそらされる――周囲の受験生ほとんどがそんな感じだ。


「この視線、いつまで続くのかな?」


 アルベルトがおかしそうに含み笑いを漏らした。


「フッ、言っただろう?

 ミズキは私の事実上の婚約者だ。入学してもしばらくは耳目じもくを集めるさ。

 さらに魔導の天才としても噂されている。

 午後の魔力制御の試験がどうなるか、期待されてるんだろう」


「試験なんだから、課題通りのことをこなすだけだよ?

 余計なことをすると不正扱いされかねないし、やらないよ」


 クラインが穏やかに微笑みながら告げる。


「それでもミズキなら、珍事を起こすかもって思われてるのよ。

 ――それより、よくアルベルトとの婚約に頷いたわね。

 おかげで私は気兼ねなく嫁ぎ先探しが出来るわ。ありがとうね」


「婚姻までは頷いてないからね?!

 ――で、クラインの嫁ぎ先、候補は見つかりそう?」


 クラインが小さく息をついた。


「それはこれからの課題ね。

 在学中に見つかれば御の字かしら」


 瑞希が小首を傾げて尋ねる。


「クラインなら言い寄ってくる男性には困らないでしょ?

 どうして難航してるの?」


「私はのんびりとした気楽な人生を歩んでいきたいの。

 我が家の家格目当てで言い寄ってくる男は眼中にないわ」


 辺境伯ともなれば侯爵と並び、公爵に次ぐ爵位だ。

 マイヤー辺境伯は国境を守る家として充分な力を持っている。

 成り上がろうとする男性たちも多いということだろう。


「クライン自身を見て言い寄ってくる人も多いでしょ?」


「今のところ、その中に目ぼしい人が居ないのよ。

 目を血走らせて近寄ってくるような人も、遠慮したいところね。

 そんな相手と信頼関係を結べるとは思えないもの」


「……ねぇクライン、やっぱり素直にアルベルトと婚姻した方が手堅いんじゃない?」


 クラインがにこりと微笑んだ。


「のしを付けてお返しするわ」


 アルベルトが頬を引きつらせながら告げる。


「なぁお前ら、私の気持ちも少しは考えてくれないか。

 立つ瀬がないにも程があるんだが」


 笑顔でアルベルトを押し付け合う姿に、さすがに本人から苦情が飛び出ていた。





****


 午後になり、魔導技術の試験の時間となった。

 少人数が試験会場で課題をこなすというものだ。

 大勢の受験者を少人数に分けるので、時間別となる。


 課題は水風船の中の水に魔力を通し、言われた通りに動かすと言うもの。

 破裂させたらおそらく落第だろう。


 机と椅子を撤去した広い教室の中で、四人の受験生が水風船の前に居た。

 ここでも瑞希はアルベルトと同室だ。


 課題の説明を受け、瑞希は言われた通りに水風船を操った。

 瑞希が横目で見ると、アルベルトや他の子も難なく課題をこなしているようだ。

 魔導技術を習得するために求められる精度の魔力制御――その程度の試験なのだろう。





 課題をこなし終わった瑞希が、アルベルトと共に試験会場を出た。

 クラインは別の時間なので、まだ試験は終わっていない。


「これからどうする? アルベルト。

 クラインが終わるのを待つ?

 それとも王宮に戻る?」


「クラインが試験を終えるのはだいぶ後になる。

 ここに居ても仕方あるまい、王宮に戻ろう」


 二人で校舎から出て、ヴォルフガングを探す。

 手近な兵士に居場所を聞き出し、そこへ向かった。


 ヴォルフガングはやや疲れた顔で瑞希たちを迎えた。


「無事試験が終わったんだね。

 だがまだクラインが残っている。

 私はクラインが帰宅するまで残ることにするよ」


 瑞希がにこやかにそれに応える。


「その心配は要らないよ?

 ヴォルフガングさんも一緒に帰ろう!」


 困惑するヴォルフガングの背中を押し、瑞希たちは馬車に乗りこんだ。





 帰路の車内、瑞希は上機嫌で窓の外を見ていた。


 ヴォルフガングが不思議そうに瑞希に尋ねる。


「ミズキ、昨日はあれほどピリピリしていたのに、今日はどうしたんだい?

 てっきり試験が終わったら警備に参加するんじゃないかと思っていたくらいなんだが」


 瑞希は笑顔でヴォルフガングに振り返って応える。


「昨日の夜、霧の神に『今日は何も起こらない未来が確定した』って言質げんちをもらったからね!

 だから警備をこれ以上強化する必要はないんだよ!」


 驚いたアルベルトが瑞希に尋ねる。


「いつのまに霧の神と再び会話できるようになったんだ?!」


 瑞希は顎に指を置いて記憶を掘り返す。


「えーっと、野盗退治より前だから、三週間くらい前だね。

 でも『未来のことを知り過ぎると未来が収束しない』って言われたから、必要最低限のことしか教えてもらってないよ」


 アルベルトは困惑するように眉をひそめた。

 おそらくまだアルベルトには理解できない概念で、≪意思疎通≫に失敗しているのだろう。


 ヴォルフガングは納得するように微笑んで頷いた。


「なるほど、それで今日の瑞希はリラックスしていたんだね」


「おかげで入試に全力を出せたし、これなら合格間違いなしだね!」


 アルベルトは困惑しつつも、嬉しそうな瑞希を見て微笑みを浮かべていた。

 ヴォルフガングも、いつもの人の良い笑みを浮かべている。


 瑞希は窓の外を見ながら告げる。


「――できれば、王都に潜り込んだ刺客の情報も教えてもらえると良かったんだけどね」


 アルベルトとヴォルフガングの笑顔が凍り付いた。


 アルベルトが慌てて瑞希に尋ねる。


「どういう意味だ?!」


 瑞希はきょとんとして小首を傾げた。


「どうもこうも、『自明じめい』ってやつだよ?

 一昨日の夜まで、今日無事に入試が終わる未来が確定しなかった。

 昨日の夜になって、ようやく未来が確定した。

 その間にやった事は、試験会場の下見だけ。

 ――つまり、下見をしていなければ、何かが起こる可能性があったんだよ。

 となると、王都の中にシュトルム王国の密偵や刺客が潜んでるって事になるでしょ?」


 もちろん、瑞希以外の要因が未来を決定づけた可能性もある。

 だが瑞希は、『既に敵が王都内に居る』と感じていた。

 少なくとも、そう考えてこれから行動するのが安全に思えた。


 ヴォルフガングが固い表情で瑞希に尋ねる。


「今日が無事でも、クラインが襲われる可能性はあるんじゃないか?」


「それはもちろんあるよ。

 でも霧の神に『みんなに危険が迫った時は教えて欲しい』ってお願いしてあるから。

 何も言われないってことは、しばらくは大丈夫だよ」


 アルベルトも硬い表情で瑞希に尋ねる。


「よく理解が出来ないんだが、どのくらい先のことまで教えてもらえるんだ?」


「あまり遠い未来のことは教えてもらえないよ。

 今はまだ、『世界が滅亡する未来』と『それを回避した未来』が、せめぎ合ってるらしいんだ。

 下手に私が未来を知って行動すると、未来が大きくぶれちゃうんだって。

 『入学前に世界が滅亡する未来すら可能性が残ってる』って言われたよ。

 『今はとにかく最善を尽くして居て欲しい』って言われたから、私はその通りにするだけだよ」


 ヴォルフガングが珍しく、大きなため息をついた。


「因果の果ての未来か。

 水面に小石を投げ込む程度の影響でも、大きく未来が揺らぐのだろうな。

 なぜ世界が滅亡するのか、それがわかれば対策も立てられるかもわからんが……」


「ああ、世界が滅ぶ原因も教わってるよ。

 シュトルム王国の魔導兵器が原因なんだって。

 だから私は、それを破壊しないといけないんだ。

 でもこの事は、まだここに居る三人だけの秘密にしておいてね。

 世界を滅ぼすのがシュトルム王国だと決まってる訳じゃないみたいだし、この情報を知る人間は少ない方が良いと思うんだ。

 国王陛下にも、今はまだ伝えないで居ておいて。

 あまり陛下に心労を与えると、良くない事が起こる気がする」


 ヴォルフガングの目が険しくなり、ゆっくりと瑞希に尋ねる。


「それはどういう意味か、説明してもらっても構わないかい?」


「陛下の『運命』が危ういんだ。

 ちょっとしたことで命が途絶えてしまいかねない、そんな空気を感じる。

 三週間前の夜会でもお疲れだったけど、生命力が弱ってる。

 シュトルム王国をなんとかしようと、色々と動いてるんだろうね。

 だから精神的な負担も、今はなるだけ負わせたくないんだ。

 ――ヴォルフガングさんの運命はまだ、ぴんぴんしてる。

 だから教えたんだ」


「運命が見える魔術を使える、そういう解釈で構わないかい?」


 瑞希は静かに頷いた。


「私が魔力を見ることができるのを利用した、ちょっとした占いみたいなものだよ。

 ≪未来視≫はペナルティがあるけど、運命の様子を伺うのはペナルティがないみたい。

 不確かで不明瞭な情報しか得られない魔術だからだろうね」


「いつの間にそんな魔術を開発していたんだい?

 君はこの二週間、ガイザー夫人の講義で忙しかったはずだろう?」


「魔術理論を考える余裕くらいはあったよ。

 ≪余命≫の術式、とでも名付ければいいかな?

 精神力や体力や魔力、そういった今持っている力から、未来に繋がる因果の糸の太さを見る魔術だよ。

 その糸の先を見てしまうと、多分ペナルティが襲ってくるはず。

 糸が太いほど、その先の因果に強く結びついてるんだと思う。

 霧の神の眷属である私には、その因果の糸から死の気配を感じ取る事もできるみたい。

 事故や暗殺みたいな、外的要因に繋がる因果の糸を見るのは、ペナルティが怖いからまだ試せてないかな」


 ヴォルフガングは、瑞希の言葉を噛み締めるように頷きながら話を聞いていた。

 聞き終わると、納得した様に大きく頷き、疲れたように背もたれに背中を預けた。


「やはりミズキは頼もしいね。

 その調子で、これからも頼むよ」


 瑞希は明るく微笑み、「任せておいて!」と応えた。


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