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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:霧の国へようこそ

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17.魔導学院入学試験(1)

 十二月下旬――雪が降りそうなほど冷え込んだ朝。

 早朝ランニングをする瑞希の横には、今日もソニアの姿があった。

 ブランクを克服した瑞希は、会話しながら走り込む事にも慣れ、走り切っても息が上がらないようになっていた。


「――ふぅ。やっぱり朝の空気は美味しい!」


 瑞希は侍女からタオルを受け取り、顔の汗を拭きとっていく。

 同じように汗を拭いているソニアが瑞希に尋ねる。


「それで、入試対策の手応えはいかがですか?」


「ガイザー先生からも太鼓判を貰ったし、明日の入試はばっちりだと思うよ」


 瑞希はガイザー夫人の講義を最後まで受け切り、無事に入試範囲の教養科目を修めていた。

 あのハードな講義直後の試験であれば、覚えた事を忘れることもないだろう。



 仲良く並んで屋内に戻り、途中でソニアと別れた瑞希は、入浴後に部屋着に着替え、毎朝の日課になった教養科目の復習を進めた。


 朝食の時間になると、いつものメンバーが食卓に揃う。

 アルベルト、ヴォルフガングに加え、ミハエルやソニアも朝食を共にするようになっていた。


 瑞希は朝食を口にしながら、賑やかになった朝の風景を眺めていた。

 そんな瑞希に、アルベルトが優しい微笑みで尋ねる。


「どうしたんだミズキ、ぼーっとみんなを眺めたりして」


「あーうん、ちょっと元居た世界の朝食風景を思い出してただけ。

 私はひとりっ子だったから、お父さんとお母さんと私、三人だけの食卓だったんだよね。

 こんな賑やかな食卓に自分が居るのが、なんか不思議だなぁと思って。

 ――みんなは、陛下や王妃殿下と一緒に食事をしなくてもいいの?」


「父上は母上と二人で食事をとる。

 私たちは子供だけで食事をとっていた。

 時折、家族そろって食卓を囲う――そんな感じだったんだ」


 ミハエルが元気よく口を開く。


「アルベルト兄上がミズキさんにつきっきりになってからは、僕とソニア姉上だけの食卓で寂しかったんですよ!

 ですからこうして食卓にお邪魔させて頂いて、僕らも楽しいです!」


 ソニアが微笑みながら告げる。


「静かな朝食も良いですけど、賑やかな食卓も良いものですからね」


 瑞希は、ずっと気になっていたことをおずおずと口にする。


「えーっと、メイソン殿下はその食卓には参加してなかったの?

 私が来るまでは、兄弟四人で食べていたんじゃないの?」


 今日まで、禁句のようになっていた第一王子の名を瑞希は告げた。

 アルベルト、ソニア、ミハエルの笑顔が陰り、わずかな沈黙が訪れる。


 アルベルトが苦笑を浮かべて応える。


「もちろん、メイソン兄上も食卓にはいた。

 私が最後に共に食事をしたのは、ミズキを迎えに行く前だ」

 

 瑞希が申し訳ない気持ちで尋ねる。


「ごめんね、辛いことを思い出させて。

 シュトルム王国にそそのかされちゃった人が、どんな人だったのか知っておきたくてさ。

 そんな簡単にそそのかされるような人だったの?

 次の王太子が内定してたんでしょう?」


 そんな人間が親族の命を狙ってまで王位を欲しがる――そこに、瑞希は違和感を持っていた。


 アルベルトが考え込むように俯いて瑞希に応える。


「私や父上と同じく、実直な方だった。

 私たちや臣下たちも、兄上の立太子に反対するつもりはなかった。

 父上は充分に王の器があると判断されていたようだし、簡単にそそのかされるような人ではなかったのも確かだ。

 ――ヴォルフガング、お前は何か気が付いたか?」


 ヴォルフガングが微笑みを消して頷いた。


「私が魔導で取り調べをした結果わかったことだが、メイソン殿下には精神操作の痕跡があったよ。

 メイソン殿下は防衛戦に参加していたからね。その時に王位を狙う様に心を操られたんだろう。

 前線で護衛を潜り抜けてメイソン殿下の心を操り、陰謀を吹き込んでくるような相手だ。

 アルベルト殿下も、くれぐれも注意をして欲しい。もちろんソニア殿下やミハエル殿下もだ。

 ――ミズキ、君には期待しているよ」


 瑞希はようやく納得して頷いた。


「陛下たちやヴォルフガングさんが私をアルベルトの傍におきたがる理由、本当はそれだったんだね。

 私はそんな刺客からアルベルトを守り切らなきゃいけないってことになるね」


 ヴォルフガングが笑みを戻して瑞希に告げる。


「陛下たちが君に王妃の資質があると認めたのも事実だ。

 君自身も、身の安全にはくれぐれも注意していてくれ。

 未来の王妃を失うのも、この国にとっては損失だからね。

 ――明日の魔導学院入試は、多くの人間が試験会場にやってくる。

 刺客が紛れ込む可能性が高い日とも言える。

 ミズキにとって、最初の試練になるかもしれないね」


 アルベルトが微笑みながら瑞希に告げる。


「警備体制は例年よりも強化している。

 易々とは入り込めないはずだが、最終防衛線はミズキということになる。

 私も頼りにしているが、敵がミズキの命を狙う可能性も忘れないで欲しい」


 瑞希が微笑んで頷いた。


「もっちろん! 死ぬつもりはないし、守り切っても見せるよ!

 それで相談なんだけど、今日はその試験会場の下見をしても良いかな?

 連れてってもらってもいい?」





****


 王立ケルバー魔導学院――王侯貴族のエリートが通う名門校だ。

 広い敷地には多数の設備を備え、周辺は厳重な警備体制が常に敷かれている。

 入試を控えた現在、強化された警備体制が物々しい空気を醸し出していた。


 瑞希は馬車の中からその様子を見て、驚いて呟く。


「すっごい兵士の数だね……

 まるで戦場みたい」


 アルベルトが瑞希に応える。


「現在は二千人の兵士と百人の騎士や魔導士が警備に当たっている。

 小さい戦場規模に見えてしまうのは、仕方ないな」


 瑞希の目には、学園の敷地に張り巡らされた魔力の光が見えている。

 多様な色の魔力は、複数の警戒魔術を幾重にも重ねたものだと理解した。


「警戒魔術の数も物凄いね。

 これを潜り抜けられる刺客なんているのかな?」


 同乗しているヴォルフガングがそれに応える。


「これだけの種類の警戒魔術だ、簡単には突破できないさ。

 だが普通の魔導士は、術式をずっと張り続けることはできないからね。

 交代するときに、どうしても警戒が途切れる瞬間がある。

 そこを狙われたら、万が一はあり得るだろう」



 馬車が魔導学院の敷地に入り、馬車乗り場で停車した。


 ロータリーのようになっている馬車乗り場から、瑞希は改めて敷地を眺めていく。


「……警戒魔術に、ちょっと隙間があるね。

 あの辺、重なり具合が甘いよ。

 あれじゃあ抜けられる人が出るかも」


 瑞希はその場で警戒網の穴を指摘していき、アルベルトとヴォルフガングに伝えて行った。

 二人はそれを受け、兵士や魔導士に指示を飛ばしていく。


 瑞希の見ている前で警戒魔術が張り直され、隙間が次々と塞がっていった。


「――これなら大丈夫、均一になってるよ」


 ヴォルフガングが楽しそうに瑞希に告げる。


「私でも分からないほどのわずかな隙間、よく気が付いたね」


「私は魔力を目で見ることが出来るからね。

 ヴォルフガングさんでも気が付けない隙間なら、敵も分からないとは思うんだけどさ。

 穴があるなら塞いでおいた方が良いよね」



 そのまま試験会場である各教室や、そこに至る廊下も見て行く。

 どうやら瑞希の知る、日本の学校と大差ない設備のようだ。


 生徒一人に一つの机と椅子が割り当てられ、教室の前後には黒板がある。

 前方の黒板の前には教壇があり、ここに教師が立つのだろう。

 建築様式は西洋風だが、どことなく馴染みのある雰囲気を感じていた。


「……うん、魔術的な穴はないね。

 あとは警備の人たちに頑張ってもらうだけだよ」


 アルベルトとヴォルフガングが頷いた。


「そこは警備隊長とも何度も打ち合わせをしてある。

 彼らを信頼しよう。

 ――それで、異世界の学校をじかに目で見た感想はどうだ?」


「私の国の学校によく似てるね。

 なんだか親しみがわくかも」


「そうか、それならよかった。

 入試を突破すれば三年間通うことになる学校、お前の母校の一つになる場所だからな」


「そう言われればそうだね。

 ――ねぇ、体育館や校庭はないの?」


「ん? よく聞き取れなかったな。ということは我々の概念にはない単語ということか」


 瑞希は少し考えて、改めて尋ねる。


「運動をする場所とか、入学式や卒業式を行う――セレモニーをする場所、って言えばいいのかな?」


 アルベルトが頷いた。


「今度は聞き取れた。

 魔導学院のカリキュラムは教養科目と魔導科目だけだ。

 運動部の活動場所はあるが、個別に施設が用意されている。

 セレモニーはホールを使う。

 学校行事は大ホール、生徒主催の小さいイベントは小ホールを使う」


「ついでだし、そこも見て行っていいかな?」





****


 まず案内された先は大ホール――学校行事を行う場所だ。


 劇場のように等間隔で敷き詰められた椅子が何列にもなっている。

 奥には広いステージがあり、壁には白い布が垂れ下がっていた。


「なるほどねぇ……ここの作りも、親しみを感じやすいかも」


「椅子のないダンスホールもあるぞ。

 夜会が開かれるのはそちらだな」



 ダンスホールは大ホールと同じ程度の広さの空間だった。

 こちらにもステージがあり、体育館に作りが近い。


「ねぇアルベルト、学校主催の夜会ってどういうこと?

 夜に学校に集まるの?」


「王侯貴族の通う学校だから、社交場が用意されているんだ。

 式典の後は夜会に移行することが多いと聞いた。

 学校が主催する夜会もあれば、生徒が主催する夜会もある。

 昼間はダンス部が使っているはずだ」


「社交場があるってことは、お茶会を開く場所もあるのかな?」


「もちろんだ。

 食堂にパーティスペースがあって、大きなものはそちらで開く。

 小さなものはいくつかあるサロンを借りる」


 お茶会は瑞希には馴染みのない文化だ。

 サロンは王宮で何度か利用しているので理解できた。

 だが食堂のパーティスペースというのがよくわからない。

 単語はわかるし、ぼんやりと概念は伝わるのだが、どう利用されるのかは想像が付かなかった。


「食堂のパーティースペースっていうのも見せてもらっていいかな?」





****


 魔導学院の食堂は数百人を収容できる設備だった。

 瑞希が社会科見学で見た事のある、企業の食堂に近いものだ。

 大小様々な多数の丸机が点在し、そこに生徒たちが座って食事をとるのだろう。

 広いカウンターの奥には無人の調理場が見えている。


 メニューが書き出してあるが、瑞希には読めない物だらけだ。

 料理の固有名詞までは、アレンジした≪意思疎通≫の魔術でも翻訳に失敗しているのだろう。

 なんとかサンドイッチやケーキという単語だけは読めていた。

 どんな料理が出てくるかは、その時になるまでわからなそうだ。


 瑞希は苦笑を浮かべて呟く。


「ガイザー先生の講義に、料理の名前までは入ってなかったからなぁ。

 まぁそのうち理解できるようになるかな?」


「ん? 料理名がわからないのか。

 最初の内は、私やクラインと同じものを頼んでおけばいいさ」





 少し離れて、数十人が入れそうな部屋があった。

 こちらは同サイズの丸机が等間隔に点在している。


「ここがパーティスペースかな?」


 アルベルトが頷いた。


「料理や紅茶は調理場で作って給仕が持ってくる。

 昼間のパーティや大人数でのお茶会が開かれるのがここだ。

 参加人数以外は、サロンと変わらん」



 黙って付いてきて、瑞希の様子を観察していたヴォルフガングが尋ねる。


「――それで、ミズキは満足したかね?」


 振り返った瑞希が微笑んで応える。


「うん! 魔術的な穴はなかったよ!」


 アルベルトが驚いて瑞希に尋ねる。


「まさか、ここまでのも全部、警備体制の点検だったのか?」


 瑞希がきょとんとした顔で応える。


「もちろんだよ?

 人が多く集まる場所は、一度見ておきたかったんだ。

 サロンや小ホールはしばらく縁がないだろうから、次の機会にでも見ておくよ。

 王族が参加するイベントの前には、改めて点検することになると思う」


 アルベルトが戸惑いながら瑞希に尋ねる。


「自分だって明日が試験本番だって言うのに、そこまで警備に心を砕いてたのか?!」


 瑞希が静かに決意に燃える瞳で応える。


「だからこそだよ。

 自分の命も、アルベルトの命も、クラインの命や他の生徒の命だって、この学院内で一つたりとも失わせたりするもんか!」


 圧倒されたように、アルベルトはそれ以上の言葉を瑞希に告げられないようだった。

 ヴォルフガングは満足そうに微笑みを浮かべていた。





****


 帰路の馬車の中で、瑞希はいくつもの≪現在視≫の画面を浮かべて学院内の様子を眺めていた。


 第一王子が陰謀に巻き込まれて命を落とした直後だ。

 強化された警備体制に参加する兵士たちも、緊張感に満ちている。

 魔導士たちが交代する様子も確認しながら、瑞希は静かに画面を睨んでいる。


 アルベルトは圧倒されたまま、言葉もなく瑞希を見守っていた。

 ヴォルフガングが人の良い微笑みを浮かべながら告げる。


「なるほど、そうやって≪現在視≫で確認できる場所を増やしておきたかったんだね。

 だが肩に力が入り過ぎだよ。もう少しリラックスしても大丈夫だ。

 今はミズキ自身の入試の方に力を入れておきなさい」


 ヴォルフガングの言葉で、瑞希の目から力が抜けて行った。

 ≪現在視≫の画面を消し、小さく息をつく。


「……そうだね、私が入試に失敗したら、元も子もないもんね。

 アルベルトの傍に居る為にも、今は入試を突破する方に専念するよ」


 アルベルトが大きく息をついた。


「――はぁ、よかった。

 ミズキがいつものミズキに戻ったな。

 お前の緊張感がこっちにも伝わって、落ち着かなかったぞ」


 瑞希が困ったように微笑みながら応える。


「ごめんごめん、お互い明日のために頑張ろうね。

 ――クラインは今、どこに居るの?」


「貴族街の別邸に来ているはずだ。

 在学中はそこに滞在すると聞いている」


 貴族街――貴族の別邸が集合している区画らしい。

 低層の家が立ち並び、遠方の貴族やその子女が王都に滞在するときに使われる。

 貴族街もまた、学院ほどではないがしっかりとした警備態勢が敷かれているという話だった。


「そっちもそのうち下見をしておかないとね。

 クラインも狙われる可能性が高い令嬢だから、気を付けておかないと」


 アリシアは自宅の警備体制に任せるしかないが、公爵家の警備なので信頼できるだろう。

 さすがの瑞希も、手を広げ過ぎたら失敗する可能性が高まる自覚くらいはある。


 自分がフォローするのはクラインまでが限界だと思っていた。

 来年ソニアが入学して来れば、彼女もフォローしなければならない。

 学院に通わないアリシアまでフォローする余力はない。



 馬車は一路、王宮に向けて駆けていった。


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