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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:霧の国へようこそ

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12.再会

 瑞希は部屋に戻り、部屋着に着替え終わるとソファに体を沈めた。


「あーつかれた!

 ザビーネ、お茶をもらえる?」


 給仕されたお茶を、瑞希は静かに飲み込んだ。


「――ふぅ。

 毒の入ってない飲み物はやっぱり美味しいね。

 私まで命を狙われるとは思わなかったよ」


 ザビーネが驚いたように尋ね返す。


「それは……一体どういうことでしょうか」



 瑞希は『秘密にしてくれ』と言われた部分を隠しつつ、夜会の様子を伝えた。



「――ってことがあったわけ。

 なぜか王様から、アルベルトの婚約者になってくれとか言われるし、疲れる一日だったよ」


 これにもザビーネは目を丸くして驚いた。


「殿下の婚約者、ですか?

 アルベルト殿下はかたくなに婚約者を作ろうとして来られなかった方です。

 よく殿下が頷かれましたね」


「夜会の時に、アルベルトからも『婚約者になってみないか』って言われたから、本人も不満はなかったんじゃない?」


「……ミズキ様は、それで構わないのですか?」


 瑞希はむすっと唇を尖らせて応える。


「応じてあげないと帰してもらえない空気だったから、仕方なくだよ。

 アルベルトは立派な王子だと思うけど、結婚相手にしたいかと言われても、私にはまだわからないよ。

 私は恋愛結婚をしてみたいんだから」


 ザビーネが微笑みながら尋ねる。


「ミズキ様は、恋愛のご経験がおありですか?」


「ないよ?

 初恋もないんじゃないかな。

 親が引っ越しばかりで、一年間同じところに住んだこともない人生だったからね。

 お爺ちゃんから逃げていたせいらしいけど、おかげで友達すら満足に作ってこれなかったんだから。

 私にとって、アルベルトとクラインが初めての友達みたいなものだよ」


「今夜の夜会で、アリシア様とも親しくなれたのではありませんか?」


「アリシアさんねぇ……お茶飲み友達にはなれるだろうけど、それ止まりじゃないかな。

 ――そうだ、貴族は子供が多いって話だったけど、アルベルトの兄弟は他に居ないの?」


「第三王子のミハエル殿下と、第一王女のソニア殿下がおられます。

 未成年ですので、本日の夜会には不参加でしたが、そのうちお会いになる機会もあるでしょう」


「弟と妹かぁ。

 ――そうだ、ヴォルフガングさんって変じゃない?

 魔導の講師をしてる時、なんであんな性格を演技してたんだろう?」


 ザビーネがおかしそうに含み笑いを手で隠しながら応える。


「以前、ヴォルフガング様の講義で泣き出した生徒が続出するという事件がございました。

 それで反省したヴォルフガング様は、講義の時には優しく下手に出る演技をされるようになったと伺っております。

 元々、何を考えているか分からない、掴み処のない方でした。

 独特の感性をお持ちなのでしょう」


 瑞希は納得するように頷きながら紅茶を飲み干した。


「――そうだ、軽食って用意できる?

 夜会が大騒ぎだったし、コルセットで締め付けられてたから、ほとんど食べられなかったんだよね。

 このままじゃ明日のランニングで倒れちゃうよ」


「かしこまりました。ただいまご用意いたします」



 夜食を胃に納めた瑞希は、入浴を済ませるとベッドに潜り込んでいった。





****


 月明かりのみが差し込む真っ暗な部屋で、瑞希は心を落ち着けて神の気配を探った。


(んー、霧の神の気配はなんとなく感じ取れるんだけど、手繰たぐり寄せるってどうやるんだろう?)


 しばらく苦戦しながら試行錯誤していると、ふと閃きが脳裏をよぎった。


(あー、魔力同調を応用してみようか)


 霧の神の魔力に同調するように自分の魔力を変化させると、気配が近づいてくる気がした。

 ついに『掴んだ』感覚を得た瑞希が、気配に向かって呼び掛ける。




(霧の神、聞こえるー?)


『聞こえてるわよ。

 あなた、私の声がなくても随分ずいぶん頑張ったわね。

 ずっと見守ってたわよ』


 声は石板を通した時よりだいぶ遠く感じた。


(なんで声が遠いの?)


『本来、神の声は祭壇でなければ聞き取ることが出来ないの。

 あの石板は祭壇の欠片。

 だから触れているだけで会話することが出来たのよ』


(じゃあ、今はどうして声が聞こえるの?)


『自覚がないでしょうけど、あなたは私の血を引く”神の眷属”。

 簡単に言うと、神様の仲間みたいなもの。だからよ』


(自覚、自覚かー。

 この二日間で、自分が異質な存在だってのはよくわかったよ)


 霧の声の笑い声が、瑞希の頭に響き渡った。


『そうでしょうね。未来視なんて魔術、もう使っちゃだめよ?

 あれは神の領域。

 本来は私たち神にのみ許された力だもの。

 ペナルティであなたの魂が削れてしまったのは、教えられた通りよ』


(魔術は、ってことは、魔法なら使っていいんだね?)


『その通りよ。魔法は神が現象を起こす魔導。

 あなたの魔力も少しだけ使われるけど、力を行使するのは私たち神だからペナルティはないわ』


(他に気を付けておいた方が良いことってある?)


『こうして会話するのも、人前では避けた方が良いわね。

 魔力を感じ取れる人間なら、あなたの魔力に神の魔力が混じっているのがわかってしまう。

 古き神の力をつけ狙う勢力がいる場所で、迂闊うかつに取っていい行動ではないわ』


(ってことは、魔法も同じだね。迂闊うかつに使えないのか。

 便利そうなんだけどなぁ)


『魔法に近い魔術を使えるくせに、贅沢を言い過ぎよ。

 今は魔法の力が必要な場面でもない。

 どうしても必要な時にだけ使いなさい』


(はーい。

 ――ねぇ霧の神。あの石板が砕けた時、どんな力を使ったの?)


『私の死の権能を隣国の兵士に振りまいたわ。

 その力を浴びるだけで命が奪われる、恐ろしいものよ』


(予想通りってことかー。

 それで? 未来は収束してきたの?)


『滅亡の未来がかなり減ってきたわね。

 この調子で頑張って頂戴』


(あなたのやらかした不手際ってなんなの?

 それを私が知らないと、世界を救うのに遠回りしそうなんだけど)


『隣国が使う魔導兵器、あれも私の死の権能を振りまく物なのよ。

 私が古い時代に残したものを、隣国が発掘してしまったの。

 今までなんとか処分しようと頑張ってみたんだけど、間に合わずに人間の手に渡ってしまった。

 私の意志と関係なく、私の死の権能を振りまいてしまう魔導兵器だから、気を付けてね』


(とんでもなく厄介な代物じゃない……

 もしかして世界滅亡の原因って、その魔導兵器?)


『実はそうなのよ。

 だからあなたには、その魔導兵器を破壊してもらいたいの。

 隣国は今、自国の兵士も大量に死んだことで”魔導兵器は未完成じゃないか”って疑っている最中よ。

 しばらくは再び使われることはないわ。

 実際に未完成の兵器で、暴走すれば世界中の生物が死に絶えるわ』


(頭が痛いわね……

 そんなものを隣国が握ってるのね。

 ああ、その兵器の完成度を上げようとして、この国が狙われてる訳ね。

 どうにか、その死の権能を防ぐ方法はないわけ?)


『私の権能そのものを防ぐ力は、私にはないわね。

 ただし魔導兵器が扱えるのは、私本来の力と比べればとても小さいものよ。

 暴走させなければ、防御結界の魔法である程度は耐えることが出来るはず』


(ある程度ってどのくらい?)


『鍛えた人間なら、一時間くらいは耐えられるはずよ。

 あなたは私の眷属だから、簡単に私の権能で死ぬ事もない。

 人間を殺す毒でも、あなたを殺す事は簡単には出来ないわね』


(ああ、それで毒を飲まされても死ななかったんだね。

 中和しなくても死なずに済んだのかな)


『今回の毒ならそうね。

 でも体調は崩すから、できれば中和はしておいた方が良いわね』


(ふぅ。本当に今日はたくさんありすぎて疲れたよ。

 最後の情報が一番きつかったけど)


『ごめんなさいね、迷惑をかけて。

 あなたほど強い力を持つ眷属が他に居なかったのよ』


(元の世界に帰る方法はみつかりそう?)


『難航してるわね。

 期待しないで待っていて。

 ――でも、あなたはその世界で生きる覚悟が決まったのでしょう?』


(……そうだね。

 あなたの魔法を願ってしまった私は、もう元の霧上瑞希には戻れない。

 ただの中学生に戻れないなら、戻っても意味がない気がしてるのは確かだよ。

 私が元の中学生として帰る方法ってあるのかな?)


『あなたの記憶を消してしまえば、望みは叶うかもしれないわ。

 でも、そんな自分にあなたは納得できるの?』


(……できないね。

 ねぇ、こちらの時間と元の世界の時間は同じ流れなの?

 こちらで過ごした時間の分だけ元の世界の時間も進んでるの?)


『あなたという因子は、時間を飛び越えることが出来ない。

 だからあなたの想像通り、そちらで一年を過ごせば、元の世界でも一年が経過してるわね』


(やっぱり、帰る意義を見失う話だね……

 それでも、帰る方法は探しておいてね。

 選択肢がないより、あった方がいいし)


『わかってるわよ。

 そろそろ眠っておきなさい。

 あなたが自覚している以上に疲労しているわ。

 早朝ランニング、するんでしょう?』


(はいはい、おやすみ!)




 霧の神の気配を手放し、瑞希は小さくため息をついた。

 どうやら、こちらの世界で人生を送ることになりそうだという予感を覚えつつ、瑞希は目を閉じた。





****


 早朝ランニングの後、入浴を終えて部屋着に着替えた瑞希は、静かにソファに腰を下ろしていた。


 時刻は六時前――早番の侍女が三人、壁際に控えている。

 ザビーネがやってくるのは七時を回ってからだ。


(退屈だし、魔力同調のおさらいしておくか)


 瑞希はそっと魔力を侍女たちに同調させた。

 三人同時、個別に同調させる。

 初めての経験だが、巧く行ったようだ。


 そのまま今度は、閃きのまま精神への同調を試みていく。

 侍女たちの心の声が聞こえてきて、思わず瑞希は苦笑を漏らした。


 三人とも、早朝ランニングをする瑞希に呆れ、早番を退屈そうに過ごしていた。

 横目で表情を確認すると、侍女たちは静かに無表情で床を見つめている。

 ある者はこのあとの食事を考え、ある者は次の仕事の事を考え、ある者は無心で佇んでいた。


(んー、このまま魔力みたいに相手の心も操作できそうだけど、なんとなくやっちゃいけない気がするな)


 他人の心を操ることに抵抗感を覚え、瑞希はそこで同調をそっと打ち切った。


 時計を見る――まだ六時を少し回ったところだ。

 仕方なく、自分の魔力を練る鍛錬を行い、時間を潰すことにした。





****


 朝食の時間になると、瑞希の部屋をアルベルトとヴォルフガングが訪れた。


「え……?

 ヴォルフガングさんが、なんで?」


 ヴォルフガングは人の良い笑顔で応える。


「君の魔導が危なっかしいからね。

 しばらく、私が傍に付くことになった。

 朝食から夕食の時間まで、共に過ごさせてもらおう」



 食卓を三人で囲みつつ、瑞希はそっとアルベルトの様子を見る。

 やはり気落ちしているようで、元気がない。


(適当に話題を振って空気を変えるか)


「ねぇアルベルト、ミハエルくんとソニアさんって、いつ頃会えるのかな?」


「ん? あいつらと会いたいのか?

 どちらも学校に通ってるから、会えるとしたら夕方だな」


「二人はどんな子なの?」


「ミハエルは十歳で、屈託くったくのない元気な奴だ。

 ソニアは十四歳、明るい年相応の令嬢だ」


「そっかー」


 話題が途切れ、気まずい沈黙が食卓を支配した。

 どこか楽しそうに含み笑いするヴォルフガングを見て、瑞希が尋ねる。


「そうだヴォルフガングさん。

 魔力同調で心や身体を操れたりする?」


「ん? 急にどうしたんだい?

 なぜ、そんな事を思うんだい?」


「えっと……出来そうな気がしたから?」


 ヴォルフガングの表情が神妙になり、さとすように瑞希に告げる。


「それは邪法と呼ばれ、忌み嫌われるものだ。

 たとえ使えても、使ってはいけないよ?」


(あー、やっぱりやっちゃいけない系の魔術か)


「……でもヴォルフガングさん、昨晩は使ってるよね?」


 ヴォルフガングが、また少し楽しそうな笑みを浮かべた。


「ほう? なぜそう思ったんだい?」


「だって王族を殺しに来るような人を、あんな短時間で白状させられる訳がないし。

 取り調べにわざわざヴォルフガングさんの協力を頼んでたし。

 こっそり裏で犯罪者相手に、白状するように操ったんでしょ?」


 ヴォルフガングは人の良い笑みを浮かべ、瑞希に応える。


「それを私はこの場で肯定できない。

 だが君は魔導に関して、恐ろしく頭が回転する子だね」


 瑞希がため息をついた。


「魔導以外も、これくらい頭が回るといいんだけどねぇ。どうなるんだろうなぁ」


 アルベルトが瑞希に告げる。


「他の講師も、急いで手配中だ。

 この時期、探すのに苦労しているから少し時間がかかるかもしれない」


「どうして時間が?

 ――ああ、他の子の魔導学院入試対策で雇われちゃってるのか」


 アルベルトがニヤリと笑った。


「そういうことだ。

 せっかく時間が空いてるんだ、今のうちに野盗退治を経験しておこう。

 今日はヴォルフガングから攻撃魔術を教わっておくといい。

 明日、兵士たちを連れて陳情のあった地域に向かおう」


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