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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:霧の国へようこそ

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11.神の如き魔導士

 瑞希が炎の縄を作り出し、給仕を絡めとっていた。

 周囲が騒然となり、アルベルトは動きを止めたまま呆然と様子を眺めていた。


「アルベルト、兵士を呼んでくれないかな?

 この人、さっき私に毒入りの飲み物を渡した人なんだ。

 アルベルトの飲み物も、毒が入ってるよ」


 悔しそうに藻掻く給仕を見下ろしながら、瑞希がアルベルトに語りかけていた。

 アルベルトは未だに理解が追い付かず、動きを止めている。


「アルベルトぉ?

 もう、しょうがないなぁ。

 いつもの機転や度胸はどこにいったのさ」


「ちょっとまってくれミズキ、お前は飲み物を口にしていただろう。

 毒が入っていたなら、なぜ平然としてるんだ」


 瑞希が小首を傾げて応える。


「なぜって? なんでだろうね。

 口にした瞬間、毒が入ってるのがわかったから中和したんだよ。

 結構強い毒だと思うから、間に合ってない気がするんだけど……なぜか平気だね」


 ようやくアルベルトが我に返り、騎士たちと兵士たちを呼び、床に転がった給仕を捕縛した。


「自害されないよう気を付けろ!」


 瑞希が横から声をかける。


「その炎の縄で動きを封じてるから、自殺はできないはずだよ。

 自由に動くことを封じる魔術だからね」


 アルベルトが慌ててミズキに振り返り、戸惑う様に問いかける。


「……そんな魔術、お前は習っていないはずだ」


 瑞希はきょとんとして応える。


「魔術の基本要素、火、風、土、水の扱い方は教わったよ?

 魔術が術理を元に術式を組み立てる技術だってことも教わった。

 因果関係を積み重ねて結果を導くものだってことも、昨日と今日で理解したし。

 それなら、求める結果から逆算して術式を組み立てる事だってできるよ?」


 アルベルトは言葉の意味がわからないようで、呆然と瑞希の言葉を聞いていた。

 傍で話を聞いていたノートル伯爵が、瑞希に近寄っていった。


「ミズキ様、あなたは本当に、逆算で術式を組み立てたと、そうおっしゃったのか」


「そうだよ?

 即興の魔導術式だね。

 初めてやってみたけど、案外簡単なんだね」


 ノートル伯爵は首を横に振った。


「それは並大抵の技術ではありません。

 時間をかければ、逆算で術式を構成する事は可能です。

 新しい術式は、そうやって生まれて行くものですからね。

 ですがそうやって新しい術式を開発できるのは、極一握りの高度な魔導士だけです。

 確かな基礎力と充分な応用力が要求されます。

 それを、あの瞬間に即興でこなしたという。

 魔術の常識を大きく逸脱いつだつしたものです」


 瑞希は困ったように眉をひそめた。


「魔導士のみんな、頭が固すぎるんじゃないかなぁ?

 結果から逆算する方がずっと楽に感じるけど。

 最終的に、因果の元になる魔力に辿り着ければいいだけだよ?

 途中なんてどうとでもなるじゃない」


 ノートル伯爵が乾いた笑いを浮かべた。


「ははは、その『どうとでもなる』と言い切るだけの魔力と技術を、他の魔導士は兼ね備えていないのですよ。

 それを乗り越えるために、いくつもの補助式を組み込んでいる。

 作り上げた理論を、自分の魔力と技術で使いこなせる水準まで落とし込む。

 確かに、これが一番時間がかかります。

 それを省いてしまえるミズキ様にとっては、即興魔術も簡単なのでしょう」


 アルベルトが戸惑いながら、ノートル伯爵に尋ねる。


「すまないが、私がわかるように説明してもらえるか」


 ノートル伯爵が顎に手を当てて思案し、口を開く。


「ミズキ様は人間ですから、限界はあるでしょう。

 ですが魔法のごとき魔術を使えると言えば、少しはお分かりいただけますか。

 我々凡人からすれば、ミズキ様は神に近しい魔導士なんですよ」


 瑞希が小首を傾げた。


「魔法と魔術って、そんなに違いがあるものなの?

 術者の魔力を使うのが魔術で、神の魔力を使うのが魔法だとしか教わってないよ?」


「結果ありきで、途中の理屈を無視できるのが魔法です。

 神の奇跡ですから、なんでもありなんです」


 瑞希が眉をひそめた。


「さすがに、理屈を無視した魔術は使えないよー」


 ノートル伯爵がおかしそうに小さく笑った。


「ですから、『限界がある』と申しました。

 ですが我々からすると、その論理ロジックが飛躍して見えるので、大差ないように感じるのですよ。

 今のミズキ様なら、その刺客を雇った犯人を探り当てる魔術すら使えるのではないですか?」


 瑞希がきょとんとした後、小首を傾げて考えた。


「んー……できそうだね」


 瑞希がパチンと指を鳴らした瞬間、捕縛されていた給仕の胸から炎の小鳥が飛び立った。

 炎の小鳥は夜会の会場を横切って、一人の男を炎の縄で捕縛した。


 アルベルトが騎士たちと共に駆け寄り、男の前で愕然と叫ぶ。


「――兄上!」





****


 瑞希もアルベルトの後を追って駆け寄っていた。


「お兄さん? 第一王子?」


 アルベルトは応えない――応えられないようだった。

 呆然と、捕縛された兄の姿を見つめている。

 騎士たちも動きを止め、動揺を隠せていないようだ。


 アルベルトが呆然としたまま呟く。


「なぜ……兄上が……」


 騒然となる夜会会場で、国王がヴォルフガングを従えて瑞希たちの傍に現れた。

 瑞希が振り返ると、寂しそうな瞳の国王がアルベルトに告げる。


「王位を狙っていたようだ。先程の刺客が白状した。

 ――メイソンを捕らえよ!」


 はじけるように騎士たちが動き、第一王子を取り押さえた。

 そのまま国王に指示され、別室に連行されて行った。


 国王が瑞希の顔を見つめた。


「どうやら、アルベルトの命も救ってくれたようだな。礼を言う」


 瑞希は照れ臭そうに微笑んだ。


「あはは、たまたまだよ」


 ヴォルフガングは楽しそうに瑞希を見つめている。


「途中から見せてもらっていたよ。

 即興魔術とは恐れ入る。

 私ですら、あれほど見事には使えまい。

 だが、消耗が激しいはずだ。

 今日はそれ以上、即興魔術を使うのは控えておきなさい」


 瑞希がきょとんとして尋ねる。


「そう? 全然疲れてる感じがしないけどなぁ?

 でもヴォルフガングさんがそう言うなら、今日は控えておくね。

 ――でもどうして、私の命が狙われたのかな?」


 ヴォルフガングが顎に手を当てて考えていた。


「……君の存在を邪魔に感じたのは間違いがない。

 メイソン殿下は、陛下の命を君が救った事を知っていたからね。

 予定外のターゲットだった、ということだろう」


「んー?

 つまり最初の計画では、王様とアルベルトだけを狙っていたということ?

 途中で私を邪魔に感じたから、先に殺してしまおうとしたの?」


 ヴォルフガングが頷いた。

 瑞希が小さくため息をついた。


「肉親を殺してまで王様になりたいものなのかなぁ?

 それに、お兄さんが次の王様になるのは決まってたんじゃないの?

 理解できないや」


 ヴォルフガングが瑞希の顔を見つめて思案していた。


「……後で話がある。

 夜会が終わったら別室にきてくれないか」


 瑞希が小首を傾げた。


「それは構わないけど……

 なんだかヴォルフガングさん、性格が変わった?」


 ヴォルフガングが楽しそうに含み笑いをした。


「今の私は、魔導の講師ではないからね。

 あれは生徒を怖がらせないための演技だよ。

 こちらが本来の私だ」


 国王はアルベルトの肩を叩いた後、身を翻してヴォルフガングと共に会場から去っていった。





****


 噂話が飛び交い、騒々しい夜会が終わった。

 瑞希は兵士に呼び出され、気落ちするアルベルトと共に夜会会場から離れた一室に居た。


 部屋の中は会議室のようで、国王とヴォルフガングが椅子に座って待っていた。

 うながされるままに瑞希たちも椅子に腰を下ろし、国王たちの発言を待った。


 国王が重たい口を開く。


「ミズキ、君には今日、我が国を二度も救ってもらった。

 重ねて礼を言いたい。ありがとう」


 瑞希がきょとんとして尋ねる。


「二度? 一度目は王様が殺されるのを防いだことだよね。

 二度目はいつ?」


「アルベルトの命を救ってもらっている。

 メイソンがアルベルトを亡き者にすれば、この国は確実にメイソンの物になる。

 次の王太子に内定してはいたが、まだ私は迷いがあった――アルベルトの立太子も考えていたんだ。

 メイソンはシュトルム王国と通じていた。

 『今すぐ私を殺すか、アルベルトを亡き者にしてしまえばいい』と、敵の口車に乗せられたそうだ。

 メイソンが王位を継いだ後は、傀儡国家となるか、滅ぼされるかしていたはずだ」


(なんだか大変そうだなぁ)


 瑞希は王族の御家騒動など、実感が湧かない。

 どうしてもどこか他人事になってしまう。


 そんな瑞希を見て、国王とヴォルフガングが苦笑を浮かべた。


「想像が追い付かないかい?」


「何が起こったのかは理解できるけど、そんなことをする人間を理解するのはまだ無理かな」


「『まだ』ということは、いつか理解するつもりがある、という解釈で構わないかい?」


 瑞希が小首を傾げた。


「んー、そうだね。そういうことになるんだと思う。

 これから私は、世界を救うために出来る限り手札を多くしていかなきゃならない。

 その手札の中に、こんな――陰謀っていうんだっけ? とかにも、対応する能力があるはずだし」


 国王が、試すような視線を瑞希に寄越した。


「君は、メイソンがこれからどうなるか、予想が付くかな?」


「あんなことを考える人は、家族の中に入れておけないよね。

 情報を取り出せるだけ取り出したら、それ以上何もできない状態にするしかないんじゃない?」


「その状態は、どんな状態だと思う?」


「……命を奪う、かな」


 国王がヴォルフガングと顔を見合わせ、頷いた。


「ではミズキ、そうなった場合、この国はどうなるんだい?」


「そりゃあ、第一王子が死んじゃうんだから、第二王子のアルベルトが次の王様になるよね。

 王様ができるだけ頑張った後、アルベルトにバトンタッチしてこの国を守っていくんでしょ?」


「その妃に求められる能力は、どんなものだと思うね?」


「んー、隣国が大人しくなるまで、アルベルトを支えていける人じゃないとだめだよね。

 アリシアさんじゃ力不足だし、クラインくらいの能力は必要だね」


 国王が眉をひそめ、首を横に振った。


「クラインでは、今日のトラブルを乗り切ることはできなかっただろう。

 メイソンが狙われたように、今後アルベルトも狙われて行く。

 敵の陰謀からアルベルトを守っていける人間が必要だ」


 瑞希が小首を傾げた。


「でも、アルベルトは敵にそそのかされるような人じゃないよ?

 狙われる事がわかっていれば、騎士や兵士が守ってくれるんでしょう?」


「今日の警備でも守り切れなかったというのを忘れないでくれ。

 あのように毒殺されるのを、騎士や兵士では防ぐことはできない。

 事前に食い止める事ができたミズキのような人間が必要なんだ」


 瑞希は言葉の意味が理解できず、きょとんとしていた。


「えーっと、それはどういう意味?」


 国王の眼差しが、瑞希の瞳を射抜いていた。


「どうだろうかミズキ、アルベルトと共にこの国を守ってもらえないだろうか」


「え? それは今もそのつもりだし、今日起こったことも、この国を守ったことになるんだよね?

 それとアルベルトのお嫁さんが、どう関係するの?」


 ヴォルフガングが含み笑いを浮かべた後、口を開く。


「王や王子の最も傍に居られるのは、伴侶である妃だ。

 その妃が最も手堅い護衛を務めてくれるなら、この国も安泰だという話さ」


 瑞希が困惑しながらアルベルトの顔を見る――アルベルトも、戸惑う様に父親である国王を見つめていた。


「えっと、つまりどういうことかな?」


 国王が弱々しく微笑みながら告げる。


「ミズキ、君をアルベルトの婚約者としたい。

 引き受けてはくれないか。

 私はアルベルトまで、失いたくはないんだ」





****


 瑞希は困惑しながら言葉を返す。


「でも私は、世界を救う事を最優先で考えなきゃならないよ?

 今はこの国を救うのがそれに繋がるからいいけど、他の物を優先して守らなきゃいけなくなったら、私は両方を守り切ると言い切れないよ」


 ヴォルフガングが楽しそうに瑞希を見つめて告げる。


「世界が滅びればこの国も滅ぶ。

 ならばこの国より優先するのも致し方あるまい。

 その事に付いて思い悩む必要はない」


「アルベルトにも言ったけど、私は王子のお嫁さんを務める自信なんてないし、王様のお嫁さんとなればもっとないよ?」


 国王が弱々しい微笑みのまま、瑞希を見つめた。


「君が多くの講師を欲しているのは聞いている。

 それら全てを乗り越えたなら、王妃を務めるのも問題ない。

 君が己を克服し、戦争に身を投じる覚悟さえあるというのも聞いた。

 ミズキ、君なら必ず乗り越えられると感じている」


 瑞希は静かな心で国王の瞳を見つめ返した。


「私は異世界人だよ?

 もしかすると、突然いなくなってしまうかもしれない人間なの。

 それでも構わないの?」


 ヴォルフガングがにこやかに応える。


「神ですら方法がわからないという帰還方法だ。

 突然それが発生する事は、まずないだろう。

 もし君が元の世界に帰るとしたら、君がこの世界を見限った時だ。

 それはこの世界が至らなかったということだから、仕方ないね」


 どうやら国王とヴォルフガングは、瑞希を是が非でもアルベルトの婚約者にしたいらしい。

 瑞希は大きくため息をついた。


「わかったよ、とりあえず婚約者ぐらいは引き受けてあげる。

 でも結婚前に隣国を大人しくできたら、私がお嫁さんになる必要もなくなる。

 その時は改めて考えてもらってもいいかな?」


 国王が少し気持ちを持ち直したように、明るい笑顔になって瑞希に尋ねる。


「おやおや? アルベルトでは夫として不足があるのかね?」


 瑞希は唇を尖らせて応える。


「私は恋愛結婚してみたいんだよ。

 アルベルトに不足は感じてないけど、恋愛対象かと言われると悩むよ」


「ははは、そうかそうか。

 ――ではアルベルト、お前はなんとしてでもミズキの心を落としなさい。

 こんなに美しく頼もしい女性、この世界に二人と居ないからね」


 アルベルトは困惑したまま頷いた。


 瑞希がヴォルフガングを見て尋ねる。


「ねぇヴォルフガングさん。

 どうして即興魔術を人前で使わないように注意したの?

 『消耗するから』ってのは嘘でしょ?

 自分の消耗度合くらい、私はもうちゃんと把握できるよ?」


 ヴォルフガングが微笑みをたたえながら応える。


「あんな高等魔術を、おいそれと人前で披露するのはよろしくない。

 特に君は昨日、魔力の扱いに目覚めたばかりだ。

 悪目立ちしてしまうんだよ。

 既に遅いかもしれないが、なるだけ噂が広まるのをおさえておこうと思ってね」


 瑞希が小首を傾げて尋ねる。


「でも簡単だし、便利なんだよね。

 どういう使い方をしたらいいかな?」


「即興魔術だと思わせなければ、人前で気にせず使っても構わないさ。

 だがそれが即興魔術だと人前で公言するのは、やめておきなさい」


「はーい、じゃあそういう使い方をするよ」


「そうしてくれ。

 それと、君は予定通り魔導学院に通っておいて欲しい。

 能力を偽装することができるし、体系立てた魔導知識を覚える場にはなる。

 すぐに物足りなくなるだろうが、そこは自習で乗り切ってくれ」


 瑞希はジトっとした目でヴォルフガングを見据えた。


「……それは口実で、本音は魔導学院に居る間もアルベルトを護衛して欲しいんでしょ?」


 ヴォルフガングが楽しそうに笑いだした。


「ははは! そこまで見抜かれてしまったか!

 ――そう、その通りだ。

 シュトルム王国を打倒するまで、よろしく頼むよ」


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