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霧の国へようこそ~普通の中学生ですがどうやら魔導の天才らしいです~  作者: みつまめ つぼみ
第1章:霧の国へようこそ

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10.婚約者

 瑞希はアルベルトにエスコートされて、夜会会場に足を踏み入れた。

 参加者は百人足らず、貴族たちの視線が瑞希に注がれていた。

 瑞希の背筋を、冷たい汗がつたっていく。


(うーん、居心地悪い)


 アルベルトは瑞希を連れ、真っ直ぐ国王に向かっていく。


「父上、ミズキをご紹介します」


 鷹揚おうように頷いた国王の姿を、瑞希はじっくりと眺めていた。


 白髪交じりの金髪で、顔立ちはアルベルトによく似ていた。

 やや疲れた様子の国王に、瑞希が名乗る。


「霧上瑞希です。

 王様、元気がないね。どうしたの?」


 国王が疲れた笑みを浮かべて応える。


「そんなに疲れて見えるかね?

 戦争の気疲れ、といったところだ。

 君の尽力じんりょくで我が国は救われたと聞いている。

 この場で礼を言わせてくれ」


 瑞希は明るい笑顔で微笑み返す。


「どういたしまして。

 あれは世界を救うために必要なことをしただけ。

 お礼を言われるような事じゃないよ」


 国王が真贋しんがんを見極めるように瑞希の目を見つめていた。


「……君は魔導学院への入学を希望していると聞いた。

 他にも多数の講師を希望しているそうだね。

 自分がそれに耐える自信はあるかね?」


 瑞希が明るく笑った。


「あはは! そんな自信なんてないよ。

 それでも、乗り越えなきゃいけないと感じてる。

 だから私は、前に進まなきゃいけないんだ」


「自分が耐えられなかった時のことは、考えないのかね?」


「その時は、この世界と一緒に私が死んでしまうだけだし。

 後ろ向きなことを考えるより、私は前を向いて歩いて居たいだけだよ」


 国王が何かを納得する様に頷いていた。


「……よくわかった。

 私も君への協力は惜しまないつもりだ。

 希望があれば、アルベルトに気兼ねなく伝えて欲しい」


 そう告げた国王は、その場から立ち去っていった。


 瑞希がきょとんとした顔でアルベルトに尋ねる。


「王様、何がわかったのかなぁ?」


 アルベルトが嬉しそうな微笑みで国王の背中を見つめていた。


「国王ともなれば、短い時間でも相手の資質を見極める目を持つ。

 父上はミズキを信頼できる人間だと、そう判断したんだ」


 周囲の貴族たちも、国王と瑞希の話を受けて、隣の人間と会話を交わしていた。

 その視線は瑞希を品定めするようなものだった。


「……ねぇアルベルト。

 どうして私はこんな視線にさらされてるんだろう?」


「お前の噂は既に、社交界中を駆け巡っている。

 大方おおかた、子供の婚姻相手として考えているんだろう」


「婚姻?! お嫁さんってこと?!

 私は異世界人で、貴族じゃないよ?!

 貴族は血筋を大事にするって言ってたじゃないか!」


 アルベルトがおかしそうに微笑んでいた。


「それは貴族が強い魔力を持つからだ。

 お前は強大な魔力を持っている。

 それだけでもう、立派な資格があるんだ」


(こんな状況は考えてなかったなぁ)


 自分が争奪戦の対象となる事態は、瑞希の想定外だ。

 困惑する瑞希の傍へ、一人の令嬢が近づいて行った。


「――ミズキ様、ですわね?」


 瑞希が振り返ると、そこにはマロングレーの髪色をした令嬢がたたずんでいた。

 柔らかく優し気な顔立ちの、美しい令嬢だ。

 令嬢は瑞希と目が合うと、ゆったりとカーテシーを見せた。


「シュトロイベル公爵が息女、アリシアと申します」


「ああ、あなたがアリシアさん?

 話は聞いてるよ」


 顔を上げたアリシアが、柔らかく微笑んだ。


「おそらく殿下から、色々と悪い評価をお聞きになっているかと思います。

 私はその通りの人間ですので、それ自体は否定致しません。

 それでもよろしければ、仲良くしてくださいね」


 極端にのんびりとした口調で語りかけてくるアリシアに、瑞希は妙な圧を感じていた。


「あっと……こちらこそよろしく」


 アリシアが小さくため息をついた。


「この場にクライン様がおられないのが残念ですわね。

 朝まではこちらにおられたと伺っています。

 久しぶりに、お会いしたかったのに」


 瑞希は頬を伝う冷や汗を感じながら応える。


「えっと、クラインとは仲がいいの?」


「いいえ、あまり良くはありませんわね。

 私と会うと、最低限の会話だけで済ませて逃げられてしまうの。

 私の周囲にいる方は、皆様がそんな感じですわね」


(この場の時間が、アリシアさんに支配されてる気がする……)


 アリシアがゆったりとした空気で場を支配し、それに自分が巻き込まれて行く。

 自分のペースを崩され、アリシアののんびりとしたペースを強制される感覚だ。

 妙な疲労感を覚えながら、瑞希は応える。


「アリシアさんは、魔導学院に通うのかな?」


 アリシアが柔らかく微笑んだ。


「いいえ? 私は魔導が得意ではありませんから。

 社交界に出ながら、婚姻先を探して嫁ぐことになると思いますわよ?」


「よかったー! 三年間アリシアさんと一緒だったら、すっごい疲れそうだなって考えて、憂鬱になりそうだったんだ!」


 瑞希が改心の笑顔で爆弾発言を叩きつけた。

 アルベルトの顔が引きつり、周囲の空気が凍り付いた。


 アリシアが柔らかい微笑みのまま応える。


「うふふ、ミズキ様は正直な方なのね。

 私、正直な方は好きよ?」


 瑞希は笑顔で尋ね返す。


「ちなみに、アリシアさんはアルベルトと結婚しようとかは考えてるの?」


 アリシアが小首を傾げて応える。


「嫁ぎ先として不服がない相手だと思っていますが、殿下が私を嫌がっておいでですからねぇ。

 親が決めれば、そういう未来もあるんじゃないかとは思っておりますが」


「そっかー、良い嫁ぎ先が見つかるといいね!」


「ありがとうございます。

 ミズキ様、何かお困りの事がありましたら、いつでも仰ってくださいね。

 私の出来る範囲でしたら応じてさしあげますので。

 ――もっとも、その範囲はとっても狭くて小さいのですけれどね?」


 微笑みながら立ち去るアリシアの背中を、瑞希はニコニコと見送った。


「アリシアさん、いい人だね!」


 アルベルトが冷や汗を流しながら応える。


「ミズキ、お前……とんでもない奴だな」


 瑞希がきょとんとして応える。


「それはどういう意味?」


「いや……ある意味、アリシア以上のマイペース振りだ」


「ああ! ああいう相手に合わせてたら、こっちが疲れちゃうからね!

 だから遠慮するのを止めただけだよ?」


 アルベルトが興味深そうな微笑みを浮かべて応える。


「ふむ……そう言われれば、その通りなんだがな。

 どうやらお前は、アリシアに気に入られたようだ。

 あいつがあんなことを他人に言う場面を初めて見た」


「あんなことって?」


「あいつは自分のペースが崩されるのを嫌う。

 だから『自分を頼れ』と誰かに告げたことがない。

 出来る事が少なく、やるつもりがないとしても、お前には『頼れ』と告げた。

 相当な珍事だろう」


「ふーん? 社交界に出たら、一緒にお茶を飲むことがあるかもしれないね。

 多分アリシアさんに出来る事は、私をお茶会に招待するぐらいだろうし」


「あー、まぁそのうちそういう機会もあるだろうな。

 確かに、アリシアを頼っても招待状を用意するぐらいしか出来る事はないだろう。

 お前はよく理解しているな」


「そうかな? 自分じゃよくわからないや。

 ――それより、周りの貴族の視線がさらに面白いことになってるね」


 瑞希が周囲を見渡すと、貴族たちは目をそらしていった。

 アルベルトが含み笑いをした後、応える。


「お前のアリシアへの対応は、貴族の常識から逸脱いつだつしたものだからな。

 お前の評価をどうしたものかと、悩んでいるのだろう」


 瑞希たちの元へ、一人の男性貴族が近寄っていった。

 それに気付いた瑞希が先に声をかける。


「あ、ノートルさん!」


「ミズキ様、こんばんわ。

 楽しんでおられますか?」


 瑞希は指を顎に置いて考えた。


「んー、始まったばかりだから、まだよくわからないかな?」


「ヴォルフガング様の魔導講義はいかがでしたか?」


 瑞希がとても良い笑顔で頷いた。


「とっても楽しいよ!

 でも『魔導技術ではもう教えられることがない』って言われちゃった。

 ヴォルフガングさんより凄い人って、他にいるのかな?

 練習相手が居なくなっちゃうよ」


 ノートル伯爵の顔が引きつった。


「老齢で引退されたとはいえ、ヴォルフガング様は国内屈指の魔導士。

 魔導技術では近隣諸国でも並ぶ者が居ないとさえ言われるお方ですよ。

 あの方が『教えられることがない』なんて、何をしたんですか?」


「魔力同調してただけだよ?

 午前中で逃げ回るヴォルフガングさんを逃がさないように出来たんだけど、そこで降参されちゃった。

 『あとは自己研鑽してくれ』って言われたけど、何をすればもっと精度を上げられるのかなぁ」


 ノートル伯爵の顎が外れた。

 すぐに気を取り直すように取り繕い、咳払いをしてから瑞希に応える。


「あのヴォルフガング様と、魔力同調し続けたのですか。

 半世紀にわたり魔術を研鑽して来られたヴォルフガング様が降参するなど、通常なら考えられませんが……

 常識外れのミズキ様ですから、そういうこともあるでしょう。

 それ以上の自己研鑽など、我々には想像もできない世界。

 助言したくても、できないのが口惜しいですね」


 瑞希が残念そうに微笑んだ。


「それならしょうがないかー。

 なんとか、もっと精度を上げる方法を考えてみるよ」


 ノートル伯爵は苦笑を浮かべて応える。


「あまり度が過ぎると、身体を壊しますよ?

 少しは加減を覚えた方がよいかと。

 ――ではまた」


 瑞希はノートル伯爵の去り行く背中を見つめながら呟く。


「やっぱりノートルさんでも思いつかないか。

 どうやったらこれ以上、上達するのかなぁ」


 瑞希が横目で周囲に視線を走らせた。

 周囲の貴族たちは、今の会話でさらに頭を悩ませているようだった。


「……みんな、何を悩んでるんだろう?」


 アルベルトが苦笑を浮かべながら周囲を観察していた。


「お前が魔力を扱う技術すらなかったのは噂で知られている。

 ノートル伯爵が公言していたから、昨日だけでも既にお前が恐ろしい才能を見せた事も噂になっている。

 それに加えて、たった一日でヴォルフガングを凌ぐ魔導技術を身に着けたと判明した。

 是非近づきたいが、さっきのアリシアへの対応がある。

 お前に近づく危険性を考えてしまい、二の足を踏んでいるんだろう」


 瑞希は興味なさそうに、給仕が差し出す飲み物を受け取り、口にしていた。


「ふーん、貴族って大変そうだね。

 アルベルトはこんな貴族たちの中から、お嫁さんを探さないといけないんだね」


 アルベルトの目が、ミズキの顔を見つめた。


「……そうとも限らんぞ?

 お前が私の妃となる可能性だってあるんだ」


 瑞希がきょとんとしてアルベルトを見つめ返した。


「ん? 私? なんで私が?

 私をお嫁さんにしても、苦労するだけだと思うけど」


「私はお前がこの世界に居る間は、可能な限りお前の人生を支援するつもりだ。

 防衛戦の借りに加え、今日はさらに大きな借りも増えた。

 今後、増えていく一方だろう。

 そんなお前には、恩を返しきれないからな。

 それならクラインが言う通り、婚姻してしまえば手間が省ける。

 私は妃を得て、支える女性を一人に絞れる」


 瑞希が小首を傾げた。


「私は、第二王子のお嫁さんなんて務まらないと思うけど?」


 アルベルトは楽しそうに瑞希を見つめている。


「お前が今日望んだ講師の数々、あれは王族教育に匹敵するものだ。

 その全てを乗り越えたなら、お前は立派に王族としてやっていける。

 おそらく父上も、その可能性を考えておられるはずだ。

 ――ミズキ。この世界で生きて行っても構わないと決めたお前は、私をどう思う」


 瑞希の目が、アルベルトの目を見据えた。


「ああそうか、アルベルトが夫になる将来も一つの道かぁ。

 そうだなぁ……私の夫として、不足がある人ではないと思うよ。

 でもできれば私は、恋愛結婚をしてみたいかな。

 お見合いで結婚するくらいなら、独り身のまま生きて行く方が気楽かなって」


「愛は婚姻した後に育む事もできる。

 貴族の多くはそうやって愛のある家庭を作るからな。

 だから信頼し合える関係を作れたら、そのまま婚姻してしまうんだ。

 ――どうだミズキ、私と婚約を結んで、そんな関係を作ってみないか?」


 瑞希が飲み物を口にしながら、思案して応える。


「婚約か……十五歳の私が婚約や結婚だなんて、まだ実感が湧かないかな。

 私の国では、十八歳で結婚が認められてたから。

 婚約はもっと早く結ぶ人も、稀に居るらしいんだけどね。

 ――それに、今の私は王子様の婚約者すら務まらないよ。

 見ての通り、足りないものだらけだもん」


 アルベルトは、そんな瑞希を見つめながら楽しそうに微笑んだ。


「それも今日のように、すぐに乗り越えてしまえるさ。

 ――正直に白状すれば、私は他の男がお前に近づくのを牽制けんせいしたい。

 王子の婚約者に手を出す奴など、まず居ないからな」


 瑞希が小さく息を吐いた。


「唾を付けておきたいってこと?

 案外、嫉妬深い人なのかな?

 意外な一面だね。

 私は教養が全く足りないんだよ? それは気が早いと思うけど」


 アルベルトも小さく息を吐いた。


「そうか、気が早いか。

 だが考えておいて欲しい。

 私は、お前なら充分に務まると信じているからな」


 アルベルトが給仕が差し出した飲み物を受け取り、それを口にしようとした。

 その手を瑞希が取り、アルベルトの動きを止めた。


「ああ、飲んじゃだめだよアルベルト。

 毒が入ってるからね」


「は?」


 アルベルトは言葉の意味がわからず、硬直していた。


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