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オカルト部の頼み事リスト

ブラッディ・メアリーの噂話

作者: 齊藤さや

~キンダーガーデンの帰宅時間~

 幼児3人が、母親たちに見守られながら会話をしている。


「めありーさんってぇ、しってる?」

「しらない。どんな人?」

「よるにね、一人でかがみのまえに立って『ブラッディ・メアリー』ってなまえを3回よぶと、会えるんだってぇ」

「ふうん、どんな人なんだろう?」

「怒ってたりぃ、笑ってたりぃ、よんだ人によってかわるみたいだよぉ」

「ランディおねえちゃん、こんどやってみようよ」

「あんた、怖くないの?」

「へいきだよ。おねえちゃんいるし」

「ダメだよぉ、ラムジー。”一人で“よばなきゃ会えないんだからぁ」

「あっそうか。えへへ」

「ランディ、ラムジー。帰る時間よ」

「はいお母様。じゃまた来週ね、ポルケ」

「ばいばぁ〜い」


~自宅~


 車が駐車する音を聞き、ライラは作業の手を止めて玄関へ急いだ。三人におかえりなさいの挨拶をすると、母の買い物かごを受け取りキッチンへ運ぶ。

 手洗いを済ませた双子の姉達は機嫌が良いらしく、珍しくライラに話しかける。


「あんたにイイ話教えたげる。夜に一人で鏡のまえに立って、『ブラッティ・メアリー』って3回呼ぶと、メアリーさんが“願いを叶えて”くれるんだってさ」

「え、おねえちゃん、願いを」

「バートからそう聞いたもんね、ラムジー?」

「え? あ、うんそう言ってた」


 姉のランディに強く言われると、妹のラムジーは言い返せない。ランディはライラにも同じ態度をとる。


「お姉様達、素敵なお話聞かせてくれてありがとうございます」

「あんた叶えて欲しい願いがあるんだろ、やってみれば」

「よるに一人になれるならね」


 無理よね、とクスクス笑いながら姉達は自室に戻っていった。


~自宅・夜中~


 車通りも無い片田舎のしーんと静まり返った夜中、パタッパタッと足音が響く。二人ぶんなので、恐らく双子のそれだろう。洗面所に着くなり、ピタリと足音が泊まった。


「ラムジー、早く呼びなさい」


 ランディは声を殺していても語気は強い。その声が聞こえたのか、ライラは怯えた様子で目を覚ましてしまった。


「おねえちゃんが先にためしてよ」


 昼は怖くないと豪語していたラムジーだが、今は誰が見てもわかるほど震えている。


「お先にどうぞっ」


 言いながらラムジーを鏡の前に押し出す。ぼんやり映る自分の姿と目があってしまい、後戻りはできないと意を決して声を出す。


「ぶ、

ブラッディ・メアリー、

ブラッディ・メアリー、

ブラッディ・メアリー!」


 洗面台の縁をギュッと掴んでいるラムジーと、柱からこっそり覗くランディを映す鏡。一分ほど時が流れても、鏡には二人しか居ない。


「次はおねえちゃんだよ」

「ふん、何度試してもきっとムダよ。さ、お母様が起きてくる前に寝室に戻るよ」

「……はい」


 トテトテと戻る二人。間をおかず洗面所へ向かう別の足音が聞こえてきた。


「一人になれないのはお姉様達のほうじゃない」


 願いのためなら私にはできる、と呟きながら堂々と鏡の前に立つライラ。


「えっと。

ブラッディ・メアリーさん、

ブラッディ・メアリーさん、

ブラッディ・メアリーさん。いるなら天国にいるわたしのママに会わせてっ」


 目をギュッと閉じ、手を固く組んで祈る。ライラはしばらくそのままでいたが、何も変化がないようなので、恐る恐る目を開けてみた。


 鏡にはライラは映っておらず、代わりに、服も髪もなにかで濡れてぐちゃぐちゃな女性がライラを睨みつけていた。

 ライラは驚いて悲鳴をあげようと口を開けたが、声は絞り出せなかった。腰が抜けて、その場にへなへなと座り込む。

 鏡の中の女性は一連の仕草を見てか、少し悲しげな表情に変わっていた。同情しているようにも見える。

 ライラはへたりこみながらも女性をまじまじと視続けていた。ふと目をまん丸にしてかすれ声で呟く。


「ママなの?」


 女性は驚いたようだが首を縦にも横にも振らず。恐怖かはたまた喜びか、ライラは涙まじりに話を続ける。


「ママだよね、だって……。だって私とおんなじ青い目だもん。ね、会いに来てくれたんだね」

「あっ……あぁ……」


 ついに頭を抱え込んでしまった。初めての事態にかなり困惑しているようすだ。


「わたしを迎えに来てくれたんだよね、この家に連れてきてもらった時言ってたもんね。必ず迎えに来るからって。わたし、いい子でずっと待ってたんだよ」

「ちぃ……ちがぁう」

「ママ、お願いっ」


 ライラは靴を脱ぎ、洗面台によじ登った。そして鏡の、女性の手の位置にあたる箇所に手の平をくっつける。体温など感じられないただの板だとしても、少しでも“ママ”に近付けるよう。女性もライラの小さな手に自分の手を合わせた。


「ちが……うけど、メアリーが、マ……マ。ママ!」


 喉の潰れたような声でひゅうひゅうと、一音ずつゆっくりと発声する。その意味を確かめるように。女性(メアリー)はライラと手を“繋いだ”。

 そのまま引かれ、ライラの身体が前に倒れる。まるでそこに鏡なんて無いかのように。足の先まで鏡の奥に入り込んだら、回りながらかたい抱擁を受ける。


「よ……う……こそ……。す……こし、ここで、待っ……てい……てね」


 入れ替わりで鏡の外へ飛び出したメアリーは、「おぉぉ」と咆哮を漏らしながら家を歩きまわる。そしてリビングの暖炉を見つけると、薪を散らかし、箱の中身が空になるまでマッチを擦った。


 いまのいままで何も行動を起こさなかった母親は、焦げ臭さに気づき慌てて飛び起きた。だがもう遅い。ちょうど寝室の扉が燃えだしたころだった。


「ひぃっ、火事! あ、あの娘達は無事よね?」


 燃えさかる扉に体当たりし外に出た。リビングは完全に炎に包まれていたが、向かいの子供達の部屋にはまだ火の手が回っていない。


「ランディ、ラムジー、大丈夫かし……キャーー」


 中に入り、様子をうかがう言葉を皆まで言う前に悲鳴をあげた。確かにランディ、ラムジーの二人はそれぞれのベッドに入っていた。ところが、二人の間にメアリーが薪を松明のようにして立ちはだかっていた。


「あ、あなた誰よ! 大事な娘二人に何かするつもり?」

「ふた……り……?」


 震える母親に炎を向けると、怯えながらも怨めしそうな視線が返ってくる。


わたし(・・・)の娘は二人だけよ。この子達だけでも助けてちょうだい」


 その言葉を聞き終える前に、メアリーは腕を振り上げていた。ボコッと鈍い音がし、母親は床に倒れ、背中から燃え上がった。


「ユルサナイ」


 メアリーが窓のある壁を燃やしたのとほぼ同じく、廊下からも火が入り込んできた。子供二人は喚き叫ぶが、メアリーは気にもとめずに壁を通り抜けて、鏡の中へと戻っていった。


~翌朝~


『深夜の火災 一人は行方不明

母親と三人の娘が住む家で、昨夜未明に火災が発生しました。駆けつけた消防隊によって消火されましたが、母親と5歳、6歳の娘とみられる遺体が発見されました。もう一人の4歳のものと見られる靴は室内に残っていましたが、行方は分かっていません』


 そんな記事の載った新聞を読む母親は、何故かどこか嬉しそうに見える。


「おはよう、ママ」

「あらおはようポルケ。昨日は友達にちゃんとお話ししてくれたのね、偉いわね」

「うん」


 寝ぼけ眼の男の子が起きてきた。会話をよく理解できて無さそうだが、母親に褒められて嬉しそうだ。


「メアリー、怒らせると恐ろしいわね」


 母親は小さな声で独り言を呟くと、新聞を置いて朝食を作りにキッチンへ向かっていった。

ランディ:Randy

ラムジー:Ramsey

ライラ:Laila

名前からもわかるとおり、ライラは上二人と親が違います。今の母親は、死別した父親の再婚相手であり、子供は連れ子です。

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