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05:撮影終了。

「すごいね~、勇くんは!」

「そうでもないですよ」

「あれだけのものを見せられたら、その言葉は嫌味に聞こえるよ?」

「それなら、Sランク冒険者として当然です。くらいが妥当ですか?」

「それでいいと思うよ。でもエンペラーなんだからそれでも嫌味なんじゃないかな~」

「どう選んでも嫌味に聞こえると思いますが」

「そうかな~」


 勇の『炎治』のおかげで満身創痍だった智也たちは完全に回復して、全員歩いてダンジョンの入り口に向かっていた。


 そんな中で聖香が勇に一際明るい声で話しかけていた。


「ていうか、こういう事故が起こったら番組はどうなるんですか?」

「まあ普通はお蔵入りなんだろうけど……」


 聖香が視線を向けた先にはディレクターがおり、にやけた顔をしてスタッフと話していた。


「ダンジョンに入るということは、危険があるということは当たり前でしょ?」

「そうですね」

「だからそこら辺も考えて放送するんじゃないのかな? 怪我をしていた人もピンピンとしているんだから、何も問題なさそう」

「そういうものですか」

「逆に勇くんはエンペラーだとバラされてイヤとかないの?」

「いいえ、特にはありませんよ。エンペラーを隠しているつもりはありませんから」

「へぇ、そうなんだ。ていうか勇くんってあの戦いを見て思ったんだけど……一人ですべてできちゃうよね。攻撃から避難から回復。すごいよね」

「スキルを覚えていれば大抵のことはできますからね」


 勇が聖香と話していると、明日香が勇に近づいてきた。


「すごかったっす! 勇さん!」

「ありがとうございます。でも俺はSランク冒険者としての仕事を果たしただけですから」

「それでもっすよ! あんな戦いを見れるとは思いませんでした!」

「ね~? 私もファンになっちゃったな~」

「自分も今までは恩人だと思っていただけでしたけど、あの戦いはヒーローっすよ!」

「そんなに言われると照れますね」

「それを言うんだったら少しは照れた顔をすれば?」


 無表情で照れますねと言う勇。


「それよりもさ、グランドリッチを倒す時にどれくらいの力で倒したの?」

「どれくらい……」

「余裕だったのは分かったから、あまり力を出していないように感じたけど」

「まあ、大衆向けに分かりやすいように戦っていましたし、直接攻撃をしていないのでほぼ力を使っていない感じですね。よくて十%でしょう」

「Sランクモンスターを倒すのに十%って、世界最強は伊達じゃないね」

「当たり前ですよ」


 勇たち三人が仲良く話している間、勇に視線を向けている人が二人いた。


 一人はグランドリッチを相手に無様に敗北し、Sランク冒険者に格の違いを見せつけられたAランク冒険者である鬼塚智也。


(今まで順調にランクを上げてきて、Sランクになるのも時間の問題だと思っていた。……でも、あんな強さを見せつけられたら……無理だろ)


 心が折れそうになっていた。


 智也は冒険者になった時点ではEランクで、芸能ギルドに入ってから芸能活動をしながらも着実にランクを上げていき、Aランクまで成り上がった。


 だが、その努力をすべて嘲笑うようにSランクの勇が現れた。


 勇の言葉、Sランクモンスターを余裕で討伐する背中姿、それらでSランクにはなれないと証明されている気がしてならなかった。


 もう一人は智也たちAランク冒険者に守られてはいたが余波で傷を負ったものの勇の『炎治』で傷もなく回復したアイドルである桐生真澄。


(えっ、ヤバっ。あの強さチョーホレたんだけど……)


 熱い視線を勇に向けていた。


 真澄はアイドルをしており、ゴシップなどはご法度ではあるが、ホレやすい性格をしていた。


 ホレたと思っていた一人には智也がいたが、その比ではないほどに真澄の中に太陽のごとき熱が灯っていた。


 そんな二人の視線をひしひしと感じている勇は、特に反応することなく聖香と明日香との雑談に興じる。


 その後、ダンジョンから出た一行はそれぞれ撮った写真を見せ合って番組は終了した。


 聖香が撮影した写真を見た智也の心がえぐられたのを勇は知る由もなかった。


 ☆


「先日はおつかれさま。本当にありがとうね」


 社長室のソファにくつろいでスキルボードをいじっている勇に、デスクに向かって仕事をしている幸恵が感謝を伝えた。


 スキルボードをいじっている勇は、はたから見ればスキルボードが見えないため何もないところで指を動かしているようにしか見えなかった。


「そう思うのなら、もう俺にそういう仕事をやらせないでくれ」

「何か大変だったかしら? 勇にとってみれば、Sランクモンスターは余裕でしょ?」

「余裕に決まっているだろ。そういうことではなくて、ああやって芸能ギルドの冒険者として振舞うのが面倒なんだよ」

「でも明日香に聞いたら完璧だったって聞いたわよ」

「完璧でも面倒なものは面倒なんだよ」


 勇には珍しく、心底面倒くさそうな顔をしていた。


「いいじゃない、ダンジョンに入るのを週に二日って制限しているけれど、こういう時は制限にはないわよ」

「それ、入っていないのと一緒だろ」


 勇が週五で休んでいるのは、勇が決めたことではなく幸恵が決めたことだった。


 以前の勇は一ヶ月間ずっとダンジョンの中に入っていたという事件があったため、幸恵はこの時から勇に制限をかけた。


「それに今や世代ナンバーワンと言われている天宮聖香と共演できて良かったでしょ」

「俺が天宮のことを知らなかったって知っているだろ。しかもそいつが一番イヤだったんだよ」

「どうして? 彼女は美人よ」

「どちらかと言えば俺は幸恵の方が美人だと思うし、俺はそういうのはどうでもいいんだよ」

「えっ、あっ、そう……」


 親戚の年下の青年に美人だと言われ、かなり動揺する幸恵。


「天宮の性格が問題なんだよ。世界は自分を中心に回っている、みたいな考えをしている奴と共演したいと思うかよ」

「……ゴホンッ。彼女はそういう感じな子なのね。そういうことを一瞬で見抜けることがいいことなのか悪いことなのか。数多のスキルを習得したらそうなるのね」

「いいことだろ。相手の底を即座に看破できるなんてそうそうできるものじゃないんだから」

「でもね、例えばアイドルとかは偶像を売り出しているわけだから、この子清楚じゃなくてビッチかよとか思っちゃうってことでしょ? 夢がないじゃない」

「それは普通の人なら思うことだが、すべてのスキルを習得できる俺には不要なものだな」

「もう少しロマンを求めた方がいいわよ?」

「そうかー、ならここをやめてちゃんと冒険者をしようかなー。冒険はロマンの塊だからなー」

「お願いだからそれはやめてね? ウチが潰れるから」

「もう俺がいなくても潰れないくらいにはなっているだろ」


 勇の発言に幸恵はあきれた表情を浮かべた。


「あのね、勇はこの会社で武具の整備やダンジョン内で色々と採取してくれていたりと、もう勇がこの会社を回しているのよ?」

「それを俺一人でやらせないでほしいんだが」

「しょうがないじゃない。勇が何も不満もなくやってくれるし、全然疲れることを知らないもん」

「まあ実際疲れてないし、色々と楽しいからいいんだが」

「だからやめないでね?」

「分かってる。幸恵を置いて行ったりはしない」

「……そう」


 いつまで経っても勇の言葉に慣れない幸恵。


「そ、そう言えば、『バースギルド』から謝礼金が送られてきていたわよ」

「謝礼金? どうして」

「Sランクモンスターを倒した時に助けたんでしょう? それでじゃないかしら」

「助けたというか、あれは俺と鬼塚たちが倒したことになっているはずだ。だからグランドリッチの報奨金も分けているし、そうダンジョン局に報告した。だから謝礼金はいらないはずなんだが……」


 本来、クエスト以外でモンスターを倒したとしても素材買い取り以外にお金になることはない。


 だが、Sランクモンスターはその危険性によって討伐すれば報奨金が設定されている。


 Sランクモンスターに指定されるモンスターは、Aランク冒険者であろうと敵わず、Aランク冒険者以外は逃げろと示す通告だった。


 そのため一刻も早くSランクモンスターを倒してもらうために報奨金を設定している。


 ちなみに勇はディマイズドラゴンとグランドリッチの他にSランクモンスターを世界含めて二十三体討伐しており、世界で一番Sランクモンスターを討伐している冒険者として一部では知られている。


「そうだったわね。でも倒したのは勇でしょ」

「鬼塚たちがいなければグランドリッチは逃げていたかもしれない。そう考えれば鬼塚たちもグランドリッチを倒した要因だと言える。それに俺と鬼塚たちの連携で倒したと言い張った方が、鬼塚たちも惨めな思いをせずに済むだろ」

「どうかしら。そっちの方がむしろ惨めなんじゃない?」

「だから報奨金を返してきたのか?」

「でも聞いていた報奨金以上に謝礼金があったわよ」

「……まあ、受け取っておかないと失礼なのだろうからもうこれ以上何も言わないけど」

「そうね。私はバースギルドに少しは仕事をおさえてほしいと思っているところだから」

「向こうの方が芸能ギルドとして戦力は揃っているからな」

「それでも二大芸能ギルドを名乗れているのは、勇のおかげよ。ありがとうね」

「あぁ」


 幸恵のお礼の言葉にそう一言言ってスキルボードをいじり始めた勇。


 そんな勇を視界の端で見ながら微笑む幸恵であった。

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