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03:撮影開始。

「「ダンジョンいーこーけい!」」


 勇と智也のイザコザ? があったものの番組の撮影は問題なく始まり、メインである聖香と真澄が企画の説明を行った。


 聖香と真澄がそれぞれ第一ダンジョンで分かれ、ダンジョンの綺麗な光景を撮影するというものであった。


 そしてどちらにどちらの冒険者が付くかという問題は、自然と聖香の方には勇、真澄の方には智也たちという風に決まった。


「はいオッケー! 早速ダンジョンに入ろうか!」


 カットが入り、聖香と真澄の二手に分かれてダンジョンに入ろうとしたその時、智也が勇に声をかけた。


「最上くん、先ほどの話の続きではないけれど、Sランク冒険者の力を見せてもらうよ」


 そう言い放ち勇から離れた。


(メンド……)


 自分がまいた種とは言え、あの時に勇が言い返さないほどのプライドがないわけではない。


「何だか面白いことになってきたね」

「どこがですか」

「だって、鬼塚くんって勝てもしない勝負をしようとしているよね」

「どうしてそう思うんですか?」

「Sランク冒険者は日本に六人、世界にも百人はいないのに、Aランク冒険者だからSランク冒険者になれると思っているわけでしょ? 彼。滑稽じゃない?」

「鬼塚さんにもプライドというものがあるんでしょう。Sランク冒険者になれたとしても、たかがしれてますが」

「思ったんだけど、少し怒ってる?」

「いいえ。怒ってませんよ。どうしてそう思いましたか?」

「こういう業界にいるから色んな人を見てきたから、としか言えないかな~。で、どうなの?」


 聖香に再度そう問われ、少しだけ考えた勇。


「怒っていません。でも気に入らなかっただけです」

「そっか。それなら私も彼が気に入らないからフルボッコにしちゃおっか!」

「そんなに気合を入れても番組側からストップがかかるんじゃないですか?」

「そこは勇くんの腕の見せ所だよ。安心して進めると思わせれば余裕だね」

「ま、やってみますよ。仕事ですから」


 そんな勇の言葉に楽しそうな顔をする聖香。


 ジャンケンの結果により先に真澄たちがダンジョンに入り、五分後に聖香たちが入ることになった。


 真澄一行は智也含めて六人のAランク冒険者がいる一方、聖香たちはSランク冒険者である勇とBランク冒険者である明日香の二人。


 最初こそダンジョンに入るのにゾディアックギルドの人数は少なく危険だという声が上がったが、ディレクターによって一蹴された。


 ただ万が一の保険もかけ、他の冒険者を密かに雇っているほどに、慎重な姿勢を見せていないとダンジョンでタレントが死んだということになりかねないのだ。


 だがディレクターはその心配をしていなかった。


(Sランク冒険者にして、世界最強。その冒険者を撮れるとは思わなかった! プロデューサーに感謝だな!)


 ダンジョンに入ってカメラが回り始め、歩きながら聖香が勇に話しかける。


「Sランク冒険者の最上くんなら、どこか秘境を知っているんじゃないの?」

「一応冒険者を名乗っていますから、多少は知っていますよ。それを天宮さんがお気に召すかは分かりませんが」

「大丈夫ですよ。ぜひ案内してほしいですね!」

「一階層だと限られているんですけど、制限時間を見る限りおりられて三階層までですか」

「そんなに行って大丈夫? 第一ダンジョンって第五ダンジョンよりも強いモンスターが現れるんだよね?」

「はい。第五ダンジョンの五階層相当が第一ダンジョンの一階層相当だと言われています。要は第一ダンジョンの階層を五でかけた数字が第五ダンジョンの階層相当になるわけです」

「第一ダンジョンで二十階層までおりれる実力があれば、第五ダンジョンでは百階層まで行ける実力があるってことなのかな?」

「大体そうですね。百階層までおりるのには時間がかかりますし、様々な階層がありますから一概にそうは言えませんけど。そこでストップです」


 勇の制止の言葉に聖香は不思議そうに勇の方を見る。


「どうしたの?」

「来ますよ、モンスター」


 聖香が周りを見ようとした時、壁や地面からモンスターが現れた。


「ゴブリンにシャドウドッグですね」


 集団行動をするゴブリンとシャドウドッグがうようよと現れた。


 ゴブリンとシャドウドッグ自体は第五ダンジョンの一階層でも現れるが、第一ダンジョンでは出現する数が圧倒的に違う。


「余裕だよね?」

「余裕、という言葉ではお釣りが来ますよ」


 その数に聖香は特に不安な表情を浮かべることなく、むしろ面白そうに勇の方を見て聞くと満点な答えが返ってきた。


(ディレクターには『好きにやれ』って言われたけど、まあ派手な方がいいだろうな)


 撮影が始まる前、ディレクターに確認をしたが具体的な答えは返ってこなかったため、当初の想像通りにやることにした勇。


「『炎神』」


 勇からあり得ないほどの火力が吹き荒れ、勇の体にまるで太陽のような炎が纏っていた。


 吹き荒れた炎で、出現したモンスターたちは一瞬で灰になり、魔石のみをその場に残った。


 炎神は前方だけではなく周りにも向かったが、一番近くにいた聖香もカメラマンたちも一切熱を感じることはなかった。


 炎はすぐに消え、勇は聖香の方を向く。


「どうですか? 迫力満点でしたか?」

「バッチリだね! 何だか不思議な感じだったかな。あれはスキルのおかげ?」

「他のスキルというよりも『炎神』のスキルで対象の物しか燃やさないように指定できるんです」

「炎神って、火の上級魔法だったよね。それを覚えているって、さすがSランク冒険者だね」

「それだけではないですけど、そんなことはどうでもいいんですよ。一階層でいいところを知っているのでそこに行きましょう」

「案内よろしくね!」


 いつもの勇ならこんなに無駄な倒し方をしないが、無駄な倒し方をしても問題ないくらいのステータスを持っている。


 いつもの倒し方をすれば、地味な画になると分かっている勇はいつもの癖が出ないように注意する。


「最上くんはどれくらい魔法を覚えているの?」

「全部覚えていますよ」

「全部って、あれだけの量を覚えれたの?」

「はい。何なら次にモンスターが出てくればお望みの魔法をお見せしますよ」

「へぇ、それは楽しみだね~。期待していいのかな?」

「もちろんですよ」


 勇が見せた火の上級魔法『炎神』は聖香を含めてその場の人すべてを魅了した。


 そもそも『炎神』自体を覚えている人が稀なため、その火力を見るのも初めてだからだろう。


 勇の案内のもと、一階層の端の端に入っていく。


「こんな入り組んでいるところ、誰も入らないんじゃない?」

「そうだと思いますよ。二階層に行く道とは全く別なので、気づいていない人もいると思います」

「もしかして、ダンジョンのすべての道を覚えてる?」

「大体は覚えていますけど、さすがにすべては覚えられませんよ」

「何%くらい?」

「九十五%くらいですかね」

「それ大体じゃなくてほぼ百%だよ?」

「まあ冒険者をしていたら自然と覚えるんですよ。来ますよ」

「おっ、ついに来たね」


 待ってましたと言わんばかりの声をあげる聖香。


(ここ、ダンジョンなのに楽しんでいるな……俺もそうだったけど、彼女にはそういう素質があるな)


 少しだけ聖香を感心しながら、前を見る勇。


 地面からボコボコと現れたのはネズミの形をしているが、ネズミというには大きすぎるネズミ、ビッグネズミが地面を埋め尽くすくらいに数多現れた。


「うわ~、集合体恐怖症の人は見れないんじゃない?」

「何か要望はありますか?」

「うーん、そうだな~。じゃあ氷漬け?」

「了解です」

「えっ、できるの?」

「できますよ」


 何となく言い放った聖香の注文に、一歩前に出た勇。


「『氷界』」


 勇の足元から氷が生み出され、地面をつたってビッグネズミをすべて氷漬けにして一面氷の世界にした。


「うわぁ……すごいね。Sランク冒険者は人智を超越した存在ってことは聞いていたけど、実感した。これも写真撮るね」

「こんなもの序の口ですよ」


 通る部分だけ氷漬けになっているビッグネズミたちが砕け、道になったところを通って行く聖香たち一行。


 カメラは氷漬けになっているビッグネズミを撮っていた。


「何だか私も戦いたくなってきたな~」

「Lv19でしたっけ。戦った経験はあるんですか?」

「それはもちろん! この剣も使ったことがあるものだよ」


 第一ダンジョンに入る時、護衛がいるとは言え、聖香であろうと撮影陣であろうとしっかりと装備を付けていた。


 聖香は腰に剣を携えており、勇も戦うこと自体は特に何も思わなかった。だが製作陣がどうなのかと思った勇は、そちらに顔を向けた。


 それについては想定済みなのか、すぐに頷いて「大丈夫」とカメラマンが答えたため、勇は頷いた。


「はい、次からは少し残しておきますね」

「お願いね」

「でも、いい光景を撮影するという企画から外れると思うんですが」

「そんな難しいことを考えなくて大丈夫だって! そもそもダンジョン撮影の時の条件が、Lv15以上でダンジョンに一度でも入ったことがあるみたいな感じだから、そういうのも織り込み済みだと思うよ」

「それなら、これ以上俺が何か言うのは野暮ですね」

(てか、これって守りながら戦うよりも面倒じゃないか? まあ、いいけど)


 若干面倒なことになったなと思いながらも、勇にとっては精神的に面倒であって余裕でそれらをこなせるからどうということはなかった。


 ただ、聖香が戦う前に勇の案内した先にたどり着いた。


「これ、本当にダンジョン?」

「そうですよ。ダンジョンの中でもモンスターが生み出されず、入ってこないセーフティエリアです」


 勇が案内した先には、秘境を体現したかのような綺麗な水に木々が生い茂っている場所だった。


「ここで一枚とろ」


 聖香は番組側から支給されているカメラでその場所の写真を撮った。


 カメラマンもその場所をまんべんなく映し始める。


「こういうところは他の階層でもあるの?」

「そういうわけではないです。俺が見てきた感じ、五階層に一つあるくらいですね」

「へえ~、他のところも見てみたいな~」

「それは時間的に無理だと思いますよ」

「それもそっか。でもこんなところを最初に持ってこられたら他のところなんて見劣りしちゃうよ?」

「こんなところは地上でも見れますから、ダンジョンでいい光景となれば、やっぱりモンスターが映っていないと意味がないと思ったので最初に持ってきました」

「お~、よく分かってるね! それじゃあ次に行こっか!」


 秘境を十分に撮影したところで、聖香たちは秘境から離れて新たないい光景を見つけるために歩き始めた。

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