02:初現場開始前。
テレビ局が企画したダンジョンでいい光景を取れるのはどちらかという単発企画。
主な出演タレントは二人で、そのどちらかに出演冒険者たちがつくというものであった。
顔合わせはつつがなく行われ、無表情であるから誰にも気づかれないがもう帰りたいと思っている勇がいた。
「勇くんはいつから冒険者をしているの?」
「六歳からです」
「もう十一年も冒険者をしているんだ! さすがはSランク冒険者だね!」
「天宮さんはこの業界に子役の時からいるんですよね? それには敵いませんよ」
銀髪を肩まで伸ばし、絶世の美女、純真無垢、清廉潔白などの言葉が似合いそうな勇と同い年の女性、天宮聖香は勇に興味津々に話しかけていた。
「もう、私たちは同い年なんだから敬語じゃなくていいんだよ?」
「いえ、仕事ですから」
「つれないんだから~」
勇の頬をツンツンとしている聖香。
(うざい……)
そう思っている勇だがその感情を見せることはない。
「Sランク冒険者ってすごいよね~。私はLv19だからSランクとか雲の上の存在、銀河を通り越してるよ」
「女優が冒険者と張り合うのは間違っていますよ。そんなことを言ったら、俺も天宮さんに演技とかで敵いませんよ」
「えー? 私のことを知らなかった人が私の演技を知っているのかな~?」
意地悪な笑みを浮かべた聖香に、少しだけ視線をそらす勇。
天宮聖香は幼い頃から天賦の才を発揮して芸能界で活躍する芸能事務所『サクラ』に所属する女優である。
賞味期限など知らないというくらいに長く芸能界で活躍している彼女であるが、勇は全く聖香のことを知らなかった。
今も勇のために動いてくれている明日香によって、天宮聖香が有名女優だということを知った。
勇は全くテレビを見ず、ネット関連のものも一切見ないため知らないのは当然だった。
「すみません、知りません。でも、天宮さんがすごいというのはオーラで分かります」
「オーラ? 逃げるために適当なこと言ってる~?」
「まさか。スキルですよ。スキル『色眼』は人のことを色で見ることができるんですよ。それはオーラのように人の周りを覆っていますが、オーラは人によって大きさが違います。オーラが大きければ大きいほど影響が大きい人になります」
「へぇ、私はどんな色で、どれくらい大きいの?」
「色は、紫色で、オーラはAランク冒険者くらいの大きさですね」
「やった! 私のオーラそんなに大きいんだ! 色はどういう意味があるの?」
「紫色は多彩な人に良く見られますね」
「へぇ、それなら勇くんは初対面の人から色々な情報を得られるんだね」
「そういうことになりますね」
「さすがはSランク冒険者だね!」
勇と聖香が話している間、もう一人の出演タレントは出演冒険者の一人と話していた。
「智也さんとまた共演できて嬉しいです!」
「そうかな? それなら僕も嬉しいよ」
嬉しそうに目の前の男性に話しかけている金髪をツインテールにした可愛い系な女性、桐生真澄。
真澄に笑顔を向けられている赤銅色の髪のイケメンで優しそうな感じな男性、鬼塚智也。
(やっぱり顔面偏差値が高いなぁ……俺って場違いじゃないか?)
聖香のことを見て、二人のことをチラリと見た勇がそう思っていた。
「あっちの冒険者にも話しかけなくていいんですか?」
「鬼塚くんのこと? それなら大丈夫、興味がないから」
「俺には興味があると」
「それはそうでしょ! Sランク冒険者なんてそうそう会えるものじゃないんだから!」
「何だかそう言われると珍獣を見ていると言われている気がしますね」
「イヤだった?」
「いいえ、特に何も感じませんね」
「ドライだな~。でもそういうところは嫌いじゃないよ?」
「ははっ、それは良かったです」
「うわ、表情筋が死んでる? 笑える?」
「問題なく」
勇と聖香が話しているところに智也と真澄が近づいてきた。
「やぁ、聖香さん。今日はよろしく」
「ええ、今日はよろしくね」
勇と話している時よりもわずかだが声のトーンを下げて智也に返答する聖香。
それに気付けるのは聴覚に関するスキルもとっている勇だけであった。
「キミはゾディアックギルド所属の最上くんだったね」
「はい。あなたはバースギルド所属の鬼塚さんですね」
「あぁ。キミのことはゾディアックギルドの人たちからよく聞いていたから是非とも会いたいと思っていたところだ」
「そうですか。それはどうも」
笑顔で話している智也に対して、勇は無表情で貫いているがその内心は腐ったものを見る目をしていた。
「ゾディアックギルドの方は最上くんと明日香さんだけ?」
「そうです。俺に仕事の依頼が来ていましたが、こういう仕事は初めてなので瀬戸さんについて来てもらいました」
「それは大変だな。どうかな、二人だと大変だろうからそちらに手を貸そうか? ゾディアックギルドもCランク冒険者が大半を占めているから、やりにくいだろう」
(こいつ……天宮よりもうざいな)
勇の内心はダンジョンに潜っていた方がいいと思っていたが、ここで逃げればゾディアックギルドの評価に関わると思っていた。
「気にしないでください。俺だけで十分ですから」
「Sランク冒険者だから無理をしないようにね。僕はAランク冒険者だからキミの力にはなれると思うよ。バースギルドとゾディアックギルドは芸能ギルドで双璧を成す存在、キミが無理をして良きライバルがいなくなるのは寂しいからね」
「無理なんてしていないですよ」
「そうかな? 僕たちバースギルドはAランク冒険者を二十三人有してBランク冒険者もそれなりにいる。それに対してゾディアックギルドはSランク冒険者のキミ一人で、他はBランク冒険者の明日香さん一人に他はCランク冒険者。普通のギルドとしても、芸能ギルドとしても、キミを除けばゾディアックギルドがバースギルドに勝つことはないからね。Sランク冒険者と言えど、無理をするべきではないよ」
勇と智也を見ている聖香は興味深そうに勇の反応を見て、真澄は智也の言っていることに同意している感じだった。
「無理、ですか。あなたは何か勘違いしていませんか?」
「何をかな?」
「Sランク冒険者とAランク冒険者にそれほど差がないということをです」
「実際そうじゃないのかな? 僕はもうすぐSランク冒険者になるつもりだからね」
「それが勘違いなんですよ。EランクとDランクの冒険者は初心者や才能がない人。CランクとBランクの冒険者は中堅や玄人。Aランク冒険者になれば才能がなければなれない存在ですけど、Sランク冒険者は違うんですよ? Sランク冒険者は才能とか陳腐なものでは言い表せない天賦の才がなければなれません。Sランク冒険者になれる人は、もうAランク冒険者にならずになっています。それくらいにAランクとSランクは差があるんですよ?」
暗にお前ではSランク冒険者になれないと言っていることに、智也は少しだけ顔を歪ませたが元に戻して勇に言葉を返す。
「なら、キミはいつSランク冒険者になったのかな?」
「六歳ですよ。冒険者を始めた時には、もうSランク冒険者になっていましたから。あなたのその言い方だと、頑張ってAランク冒険者になったのでしょう。ですがSランク冒険者を目指すのはおススメしません。時間の無駄ですから」
キッパリと勇にそう言われて何も返せなかった智也。
さらに勇は言葉を続ける。
「それに、俺は冒険者稼業を週に五日休んでいますから、無理をしているわけではありませんよ」
「ぷふっ!」
勇の言葉に反応したのは聖香だった。
「週五で休みって、ぷぷっ……! 休み過ぎだって……ぷっ!」
「そうですか」
笑いながら勇にそう言った聖香。
「本番行きまーす!」
丁度そこで製作陣から声がかかり、四人は各々様々なことを思いながら現場に向かった。